最終決戦






 
世界の終わりの音を聴く8


イノベイターとの決戦に向かっている時、トレミー内ではそれぞれの覚悟を口にした。ロックオンはそ
れを無言で聞いていたが、やがて口を開いた。
「イノベイター達は潰す。そしてライルを取り戻す」
クルー全員が複雑な表情を浮かべたが、ロックオンは敢えて無視した。あの強襲劇の後、ロックオンは
刹那と揉めた。敵である以上、攻撃してくるならこちらも戦わなければならないと刹那は言った。他の
クルー達も刹那と同意見であるらしく、口こそ出さないがその雰囲気は伝わってくる。それは1度失い
かけたロックオンをまた失うかもしれないという、彼らの恐れでもある。だがロックオンも譲れない。
たった1人の弟を死なせる事など、許せるわけがない。そうなれば自分の戦う理由は無くなってしまう。
守るものもない、空虚な戦いなどまっぴらごめんだった。
「なら、ルイス・ハレヴィを撃たないのは何故だ?」
沙慈がこの場に偶然いなかったからこそ、言える言葉。刹那が流石に言葉に詰まった。彼女もライルと
同じだ。こちらを潰すつもりで戦いの場に出てきている事は、ロックオンとて良く分かっている。
「ルイス・ハレヴィとライル・ディランディとの境目はなんだ、刹那?お前こそ敵を・・・落とす敵を
 選んでいる」
「それはルイス・ハレヴィが元は平和な世界にいて」
「ライルもそうだ。あいつは俺が平和な世界に縛り付けてきた。どこが違う?」
刹那は反論できなかったのだろう、黙り込んだ。
「言っておくが、俺は死ぬ気はない。ライルも死なせない。それだけだ」
誰もロックオンに異議を唱える者はいなかった。


激闘という言葉がこれほど相応しい戦場も、珍しいとロックオンは思う。MSはそのほとんどが特攻兵
器だった。敵MSはトランザムも使用しているらしい。ティエリアの苦戦は分かっていたが、ロックオ
ンも彼を助ける余裕はない。スメラギに指示されたポイントに向かうので精一杯。やっとそのポイント
にたどり着いた時、その先に1機のMSが立っていた。
「テッキハッケン、テッキハッケン」
ハロが耳をぱたぱたと動かし、目をちかちかさせてロックオンに伝える。そのMSは薄い緑と水色に彩
られていた。
(ライルの・・・・・機体)
ガッデス、とライルは言っていたな、とロックオンはぼんやりと思った。リボンズ・アルマークは分か
っていたのだろう、スメラギがロックオンにこのポイントから侵入するよう指示を出したのを。だから
こそ此処にライルを寄こした。
(何処まで姑息なんだ、お前らは)
ガッデスにゆっくりとケルディムを近づける。キ・・・・ンと場の緊張感が増す。ライルは仕掛けるタ
イミングを計っているのだろう。
ふらり、とMSが動いた。かなりの早さでファングがガッデスから飛び出していく。
「ハロ!ビットで応戦だ!」
「リョーカイ、リョーカイ」
名前は違えど、ファングとビットは同種の武器だ。しかもケルディムの方は制御をハロに丸投げできる。
だが相手はそうはいかない。ファングの制御に気がいってしまう為、MSは動きを止めてしまう。今も
ガッデスの機体は構えたまま、動かない。動けないのだ。ハロは優秀な相棒ではあるが、この時ばかり
はライルの方が勝ったようだ。あっという間にビットをファングが撃破していく。流石に驚いて動きを
止めた一瞬、ガッデスが実体剣を翳して襲いかかって来た。ミドルレンジからロングレンジを得意とす
るロックオンにとって、ショートレンジの戦いは不利だ。ケルディムも結局は接近戦用の武器を所持す
る事はなかった。ピストルの銃身に施されたビームコートでなんとかその猛攻を凌ぐが、いつまでも受
身になっていてはまずい。距離をとろうとしてケルディムを操作した途端、横から酷い衝撃がはしり、
更なる衝撃に息を詰まらせた。一瞬だけ気がガッデスから逸れたのを気づかれ、がら空きになってしま
った横腹にガッデス渾身の蹴りが当たったのだ。ケルディムは成す術もなく壁に激突した、というわけ
だ。
「げほ、げほ」
思わず噎せる。だがそうのんびりとはしていられなかった。ガッデスがファングを展開しながら、突撃
をしてくる。だが本体も動いている為にファングに細かい指示は出せない。ファングの動きが途端に乱
雑なものになる。それを見逃すロックオンではない。噎せながらでもピストルを構え、ファングを次々
に落としていく。そのまま銃身を回し、ビームコートの部分で剣を受ける。
「殺してやる・・・・・」
弟の声が聞こえる。どこか狂気を孕んでいた。
「死ねよ、死んじまえよ!父さんと母さんとエイミーの仇を取らせろ!!」

え?

ロックオンはこんな時だというのに、目を丸くした。なんだそれ、殺したのは俺達じゃない。あいつだ
アリー・アル・サーシェスが子供に自爆させて殺したんだ。犯人を知らないとはいえ、それを実行した
組織の名前はライルだって知っているはずだ。
「違うっ!」
ガッデスをケルディムで力任せに跳ね飛ばす。接触が無くなってしまった為、通信は出来ない。ガッデ
スのカメラアイがライルの怒りを表すかのように、赤く赤く光る。そして又こちらに向かって来る。
「ライル!ライル、聞いてくれ!」
通信できないと知っていても、ロックオンは叫ばずにはいられなかった。その時だ。自分達の周りに、
GN粒子が漂ってきたのは。ロックオンはこの時知る由もなかったが、刹那がトランザムバーストを起
こしていたのだ。
「ガンダムなんて、CBなんて消えちまえば良いんだーーっ!!」
ライルの絶叫が聞こえる。錯乱していると言っても良い。
「ライル、違う!父さん達を殺したのはCBじゃない!」
「嘘だ!お前らが4年前にモラリアの戦闘で、死なせたんだ!」
「なんでそうなるんだ!?父さん達が死んだのは15年前だぞ?」
「お前の言葉など、信用できるか!また俺を騙そうっていうんだろう!?」
「騙してない、そんな事していない!」
「詐欺師は皆、そう言うんだ。騙してないってな。仇だけじゃない!リボンズに恩を返す為にも、お前
 は此処で死んじまえよーーっ!!」
ライルの気迫が、ロックオンに勝った。壁に再び激突したケルディムに、ガッデスが歩いて近づいてく
る。
(リボンズ・アルマーク。お前はライルに・・・・・ライルを・・・・)
怒りと悲しみがロックオンの心を交差する。
「俺の弟になにしやがったんだーー!!!」
ケルディムを起こそうとした時、ガッデスが途端に動きを止める。
「?」
「なんだ、どうしたガッデス?」
ライルの困惑した声が聞こえてくる。どうしたんだろう?ロックオンは首を傾げた。この時にティエリ
アがヴェーダの奪還を成功させ、ヴェーダのバックアップを強制的にカットしたのだ。思わずほっとし
たロックオンの目に、コクピットから飛び出して中に入って行くライルの姿が映った。
「待て、ライル!」
銃とある薬品の入ったシリンダーを持って、ロックオンはその後を追った。
「ガンバレ、ガンバレ」
ハロが分かっているのかいないのか、エールをコクピット内から送っていた。


案外早くライルを見つけた。
「動くな!」
銃を構えて見せれば、後ろ姿のまま利き手とは反対の左側の頭の辺りに銃を浮かせた。ライルの表情は
分からないが、ロックオンは慎重に銃を構えたままライルに近づいて行った。すぐ傍まで来た事で少し
気を緩めた時だった。ライルの左手がさっと左側に浮かんでいた自身の銃を取ったのだ。撃たれるのか
と構えたロックオンは、思考が止まった。ライルは己の頭に銃を押し付けたのだ。その指が引き金を引
こうとする瞬間。


ガ・・・・・ン


頭で考えたわけではない。ただ咄嗟に、本能的にロックオンはライルの銃を撃ち弾き飛ばしたのだ。慌
てたらしいライルが、弾き飛ばされた銃を追おうとする。その手が再び銃を取ろうとした矢先、ロック
オンはその銃を再び撃って弾き飛ばした。そして銃を放り投げてライルの身体を捕まえる。
「ライル!」
「離せ!触るな!」
ライルがロックオンの腕の中でもがく。興奮しているライルはロックオンの言葉を聞く余裕がない。仕
方なく保険の為と持ってきていたシリンダーをライルの腕に押し付けて、ボタンを押す。
プシュ
短い音についで身体を一瞬硬直させたライルは、次の瞬間ぐったりと力が抜けた。そっと仰向けにさせ
ると目に涙を残したまま眠っている顔がロックオンの目にうつる。



やっと、捕まえた。



漸くこの腕に戻ったライルの身体を抱きしめたまま、ロックオンは肩を震わせた。



★ライルはリボンズによって狂気に変わったわけではありません。ライル自身心身ともに追い詰められ  て、錯乱してしまったのです。リボンズはなにもせずに見ていただけ。見てただけ〜(おい!)アリ  ーはどっかで落されたという事でお願いします。 戻る