嫉妬爆発




ジェラシー・ファイアー!


それは久々の休暇で、地上に降りてきた時に起こった。

前は刹那に付き合ってアザディスタンに行ったので、今度はディランディ兄弟に合わせてアイルランド
へ向かう。現地で墓参りに行く兄弟と、刹那は別行動をとることになった。久々に行ったケルト十字で
できた家族の眠る墓は、いつもと変わらない静けさを湛えたまま兄弟を出迎えた。其々の趣味が丸出し
になった花束を置き、ケルト十字に語りかける。ニールの復活がそれなりに遅かった為、彼の名前も記
載されているのはご愛嬌。彫ってしまった為に、修正は効かなかった。ライルが土下座に近い事をして
ニールに謝ってはいたが、完全に死んだものと思われていたので無理はないとニールは取り繕った。正
直墓に名前が記載されている事を、ライルに感謝する気持ちはあるもののやっぱり顔が引き攣るのも無
理はない。
墓参りを無事に済ませた兄弟は、刹那との待ち合わせ場所に急いだ。というのも墓場でうっかり呟きす
ぎて、予定時間を大幅に過ぎていたからだ。
「刹那の奴、イライラしながら待ってんぞきっと」
「分かっているよ、兄さん。急ごうぜ」
「おう」
建物の角を曲がったところで、後ろを早足していたライルがぴたりと足を止めた。
「ん?どしたライル」
ライルの視線の先には刹那がいた。・・・・・が1人ではなかったのだ。知らない女性2人と話をして
いるようだった。正確には刹那が女性2人にナンパされているようだ。刹那は軽い気持ちでナンパする
ような性格ではないし、ライルという苦労の末に射止めた恋人がいるのだから自分から女性に声をかけ
る事はない。そしてどうやら彼女達の勢いを止められず、押され気味になって困っているように見受け
られた。
「ははは、刹那の奴モテるんだなぁライル?」
振り返ったニールは「きゃああああああああ!!」という絹を裂くような悲鳴を上げかけて、寸でのと
ころで堪えることに大成功した。きっと振り返ったタイミングが最悪だったのだろう、ライルの全身を
覆う激しい嫉妬の炎を目の当たりにしてしまったのである。それはライルを激愛するニールですら怖い
と思わせるお、おっとろしい光景だったのだ。
「ちょ・・・・落ち着いてくださいね、弟さん」
ニールはそう宣ったのだがライルの耳には届いていないらしく、炎こそ一瞬で消えたが鋭い目線を恋人
である刹那に注いでいた。普段、そういう気配に敏感なはずの刹那は女性との攻防戦で劣勢であるため
まったく気がついていない。
(それにしても、刹那に声をかけるなんて勇気ある女性だこと)
刹那は女性だけでなく、人類全体が声をかけにくい雰囲気を纏っている。本人も何かを見つめていたら
ガンつけられたと勘違いされて、怯えられたことがあるとぼやいていた。確かに顔はそれなりに良いと
は思うが、よくもまぁナンパできたもんだとニールは感心した。

その時、れきし・・・いやライルが動いた。

小走りで刹那に向かって走ってく弟の姿を見て、なんと微笑ましい刹那が女性達に押されているのを助
けようとしているのだとニールは思ったのだが、彼の弟はそんな健気な男ではなかった。
「刹那、悪い遅れた」
如何にも此処まで走ってきたというような演技をしながら、ライルは言った。本来そのわざとらしさに
気がつくはずの刹那は気が動転していたのか、全く気が付いていないようだった。
「ライル!」
「っと、なんだデートの交渉でもしてたのか。悪い、邪魔したな」
「え?」
「先に行ってるぜ。そのお嬢さん達と楽しんでこいよ〜」
「ちょ、ちょっと待て、何故そうなる!?」
助けてもらえると思っていたのに(ライルは女性のあしらい方は上手いのだ)いきなり突き放されるよ
うなこの展開に、刹那は慌てふためいていた。・・・・傍からは全くそう見えないのだが、とにかく慌
てていた。そんな間にもライルは「じゃぁ、こいつの事は宜しく〜」等と女性達に言って、彼女達を喜
ばせていた。「貴方も一緒に行かない?」と誘われたが「俺、用事があるから残念だけど遠慮しとくよ」
とか愛想を振りまいていた。無論、刹那の事はガン無視している。
「じゃぁ、俺はこれで」
薄情な刹那の恋人は愛想よく笑って手を振り、さっさと背を向けて歩き出した。
「じゃぁ、行きましょうよ」
「ね?」
両側から女性達に腕を取られて、刹那の困惑は頂点に達した。傍から見たら「リア厨爆発せい!」とい
う状況だったが、それどころではない。苦労に苦労を重ねた挙句、ニールを卒倒回数ギネス最有力記録
保持者に追い込む事までして(刹那もライルもそれは悪い事をしたと思っている)ようやく願いが叶っ
たというのに、これでは元の木阿弥だ。
「済まない、他の者を誘ってやってくれ」
一応乱暴にならないように彼女達の手から逃れ、刹那は一目散にライルの後を追い出した。
「・・・なにあれ、私達よりも彼が良いのかしら?」
「ホモじゃないの、あの人たち」
「まっさかぁ」
「そうよね」
と残された女性達は言っていたが、それが大正解だという事は知らぬが仏である。仏様は情け深いです
な。


一方刹那は混乱のどん底にいた。傍から見るとそうは見えないのだが、とにかくどん底だった。妙に馴
なれしく押してくる知らん女性2人組に絡まれて困っていたところに来たライルに助けてもらえるかと
思えば薄情なセリフを吐いて、さっさと背を向けてしまう始末。
更に刹那が驚いたのはこういう時、ライルを諌めたりしてくれるニールがライルと同じく自分に背を向
けた事だった。しかしライルの横には行かず、刹那とライルの間というなんとも妙な位置をキープして
いる。少し歩いた時にニールがスススと近寄ってきて、刹那に笑いかけた。
「良かったなぁ、喜べ刹那」
意味がわからない。
「なにが良いんだ。最悪の状況だろう」
むっとしながらそう言うと、ニールはチチチ・・・と人差し指を振った。
「ライルの奴、女の子と話すお前に嫉妬してんだぞ?だからわざとらしい演技でお前をこっちに振り向
 かせる、なんて事もしてんだからさ」
「・・・・・・・・」
刹那は黙り込んだが、ニールには見えた。刹那の頭にぽむん、と漫画に出てくるような簡単なお花が咲
いたのを。どうやら思い当たる節があったようだ。それを見てから、ニールは今度こそライルの横に並
んだ。それを刹那が追いかけるのだがもうさっきのような焦りはなくなっていた。余裕が出てきた今と
なっては、ライルがちゃんと刹那が自分を追いかけてきてくれているかチラチラと気にしているのも分
かる。刹那の口端は自然と上がった。


ホテルへ戻ってきてから暫くは3人で酒とかを飲んでいたのだが、ニールが「お開きだ」と言って部屋
から出て行った。ベットにうつ伏せで寝っころがり端末をいじっているライルに刹那が話しかけた。
「昼の行動はお前らしくなかったな。嫉妬していたのか?」
ライルがばっと刹那の方へ向く。その顔が真っ赤になっていた。「違ぇよ!」とでも言うのかと思えば
「・・・・そうだよ、悪かったな」
と素直に認め、ベットに突っ伏した。
「そうか」
刹那はライルに近づき、顔を覗き込む。
「俺は嬉しい」
そう言ってライルに覆い被されば、赤い顔のまま仰向けになり刹那の背に甘えるように手を回した。

そんな話。


★うちの刹ライにとって兄さんは恋のキューピットみたいなものですね。彼が取り持って仲直りしたり。  無論、兄さんは実弟と弟分がホモップルなのは複雑なのだけれど、ほっとけないみたいな感じです。  さて甘い話を書きました!(当サイト比)皆様も心おきなく沖縄銘菓「ちんすこう」をお吐きになら  れて下さいね。あ、題名は「ジェラシー」で溜めて「ファイヤー!」でイヤッホゥのポーズを取って  下さい、宜しく!(えっ!?) 戻る