どうすれば良いんだ!?




恋愛相談


「ニール相談がある」
きっと一生聞くことがないと思っていたセリフを投げかけられて、ニールは死ぬ程驚いた。「あの」刹
那が自分に相談事を持ってくる日が来ようとは、生きてて良かった公文式とちょっとニールは感慨深く
思った。
「いいぜ、なんの相談だ?」
そう聞けば、刹那は動揺もせずあっさりと口走った。
「恋愛について」

ニールは失神して、椅子から滑り落ちた。

なんとか失神から立ち直り、そういう相談なら個室で聞こうという事になった。取り敢えず自分の部屋
に刹那を招き入れる。刹那をベットに座らせて、自分は椅子に座った。
「恋愛・・・・相談だったな?」
「ああ、その通りだ」
「相手は俺の知ってる奴?」
「ああ」
「・・・・・ひょっとしてトレミークルー?」
「ああ」
刹那の答えに淀みがないところが凄い。普通はもう少し照れが入ったりするもんじゃね?とニールは真
剣に思ったが、その思考は脇に置いておく。そして考え出した、刹那の恋の相手を。

ミレイナ・・・・やっぱり少し幼すぎるし、おやっさんがこわい。
スメラギ・・・・大人過ぎてどうにもならない。
フェルト・・・・年頃も近いしフェルトは良い子だ。

(んーフェルトかな)
そう考えを巡らせていたのをぶった切ったのは、刹那の恐ろしい発言だった。
「俺なりに一生懸命『好き好き大好きチャイコフスキー、ニジンスキー』と告白しているのだが、さっ
 ぱり手応えがない」
「いやその口説き文句で落ちる女の方が嫌だぞ」
流石電波な刹那。こんな時まで全開だとは思わなんだわ、とニールはちょっと自分の教育に自信が無く
なっていた。しかし真の驚きはこの後直ぐに訪れた。
「女・・・?」
刹那が実に不思議そうに首をかしげるのを見て、ニールはまたしても戦慄した。
「え・・・?女の子じゃなかったのか?相手」
「いいや」
やっぱり淀みない返事が返って来た。最早電波を超えて、前人未到へと旅立ってしまったらしい刹那の
感性に、ニールはもうこの相談事を放り投げたくなった。しかし頭が良いのが災いして、ニールの脳内
ではフル回転で刹那の恋のお相手を探し出した。

ラッセ・・・・こわい、想像もしたくない。
アレルヤ・・・彼女いるしな。
沙慈・・・・・こっちも彼女持ちだし、妙な友情が流れてはいるようだが、多分違う。
ティエリア・・犬猿の仲だったが、最近は微妙に仲が良い。

この検索に自分ともう1人が入っていないのは無意識に、巻き込まれたくないアーンド巻き込みたくな
いと思っていたからだ。しかし現実は過酷であり残酷であった。
「ライル・ディランディだ、俺のターゲットは」
「き・さ・ま!!!よりにも寄ってライルに這い寄っているのか!」
「ああ、だから誰よりもライルに詳しいお前のアドバイスが欲しい」
「あげません!つか俺もライルとジュニアスクール以降会ってないんだから、分からないよ!」
「そうか、ならばやはり最終手段でクラウス・グラードに聞くしかないか」
「一考する」
弟をほもの餌食にはしたくないが、ライル関連でクラウス・グラードに頼られるのは面白くない複雑な
ニールの兄心だった。無論、刹那の口車に乗せられたわけだがニールの優秀な脳みそも、混乱に次ぐ混
乱で気がつくことはなかった。
「だけど・・・マイナス補正からの出発だな、刹那」
ライルはニールの代わりに連れて来られたようなものだから、あまり刹那に良い感情を持ってはいない。
ニール相手でも再会してから仲良くはしているが、妙な距離感がある。色々とこじらせてるっぽい弟は
とにもかくにも、難しい相手だ。刹那に告白されていても、上記のような口説き文句だったら本気にし
ないのは当たり前だ。本気にしてもらっても困るのだが。
「分かっている。だが憎しみを超えると愛になるそうなので、俺は頑張ろうと思っている」
「・・・・・・誰だよ、そんなすっとぼけた事言ってんのは。ああ、言わなくても良い。興味ねーし」
刹那にそんな事吹き込んだ変態の事など、知りたくもない。ニールとしても刹那が本気なのは良く分か
ったし力になりたいのはやまやまだが、相手が実弟ではそうはいかない。ニールは将来ライルの子供を
愛でるという明るい未来を設定しているだけに、ライルの子供以前の問題があるほもっぷるにはなって
欲しくないのである。
「参ったね、こりゃ・・・」
途方に暮れて呟いたニールに
「?どこの寺に参ったんだ?」
と刹那が真顔で聞き返して、出家したくなったニールだった。




「ライル、ちょっと良いか?」
「うん、良いけど・・・なに?」
ライルを自室に呼んで、ニールは切り出した。
「最近刹那がお前に妙なちょっかいをかけているという噂を聞いてな。本当なのか?」
「うん、よく知ってたね。流石兄さんだな。つかアレルヤかティエリアにでも聞いたのか?」
いいえ、刹那本人そのものです、とは言えずにニールは曖昧に笑った。
「ああ、うん。そんな感じ。でも大丈夫なんだろ?」
そう問えば、ライルは真っ青な顔をして俯いた。
「なんつーかこう・・・刹那の手の中に落ちそうな感じで」
「ええええええ!?まさかの脈あり!?いやああああ!落ないでマドンナ!」
「誰がマドンナだ。違うって!兄さんの思っているような落ち方じゃないんだって!」
「あ、そうなの?」
「ほら刹那って、電波だろ?兄さんの教育の賜物で」
「前者は同意するが、後者はゴルゴ13が魔法のステッキ振り回しているくらい間違ってますよ、弟よ」
例えの割には本気で真剣に言ったのだが、なんだかガンジスの流れに流されてしまったようだった。
「なんか刹那の話聞いてたら頭がぼんやりしてきてさ。うっかり頷きそうで・・・しかも致命的なタイ
 ミングで」
「ああああ〜〜分かる気がする」
自分が面倒見ていた頃、刹那は自分からアピールする奴ではなかった。それでも「俺がガンダムだ」な
どビックリ発言に振り回されたものだ。いつも付きまとわれて、容赦なく電波を浴び続ければそりゃ正
気を失ってもおかしくはない。
「つかさ、兄さん刹那に突っ込むか突っ込まれるかしてくんねぇ?」
「嫌です」
「俺のためだったらできる限りの事はするって言ってたくせに」
「良いですか、弟よ。兄ちゃんにも出来る事と出来ない事があるし、出来る事にも限界というものがあ
 るんですよ?」
「出来るじゃん」
「俺は刹那に突っ込みたくもないし、突っ込まれたくない。それに俺は巨乳のお姉ちゃんが好きなんだ!」
何が悲しくて刹那相手に突っ込む突っ込まない事をしなければならんのか、とニールは虚しくなった。
俺は前世でなんつーか、酷い事でもしてきたんかい。呪われすぎとるわ、とも。
「そっか・・・。じゃあ仕方ない、なんとか頑張るか」
「物凄く不服そうに言ってはなりませんよ。大人なんだから自分でなんとかなさい」
「でも出発点は兄さんの死んだ死んだ詐欺だと思うんだ」
「詐欺じゃありません、本編では完璧に死んでます」
「そりゃそうだけどさ・・。本命は兄さんだと分かってるんだし」
なら刹那は本命に他人を落とす方法を聞きに来る、単なる馬鹿ではないか。思わず刹那の不憫さを思っ
て心の汗をかきたくなったニールではあった。しかしこの事はライルには言えないのだ。刹那の秘密を
バラすことになりかねないからだ。ひょっとしたら此処でニールがライルに伝えてもあの刹那のこと。
割と平気でいるかもしれないが、それはその時になってみないと分からない。少なくともニールの目に
は、刹那の本命はライルにしか見えないのだ。
「・・・・・・」
まだ何かブツブツ言ってる弟をぼんやりと見つめながら、ニールは決心した。

この問題には絶対に係わらない、と。

実弟と弟分のホモップルが爆誕するかもしれないが、その時はその時だとなんだか良く分からない方向
にて悟ったのだった。


後日、トレミーにホモップルが爆誕したのは言うまでもない。


★久々の更新でした。刹ライに振り回される兄さん、といつも通りの展開となりました。家のライルは  わりとちゃっかりやさんなので、やりたくないことに関してはニールに投げたがる習性があります。  しかし本人も言っている通り、出来る事と出来ない事がありますからね。あ、それから刹那にすっと  ぼけた事を言った変態の正体がクラハムだとは知りません。ただ単にそんなアホ言う奴は変態に違い  あるまい、という判断からです。 戻る