過ぎし去り日々                              Xmas2012

        ELSとの戦い終わって日が暮れて、量子ジャンプしているクアンタのコクピットで刹那は重い溜息を
        ついた。
        「どうした、刹那」    
        不思議に思ってティエリアが訊ねると、刹那は又しても溜息をついた。
        「今頃、地球ではクリスマス一色なのだろうな」
        言われてみて初めてティエリアも、今日がクリスマス・イブだったのを思い出した。
        「そういえば君は毎年ディランディ兄弟と地上に降りて、パーティをしていたんだったな」
        「ああ。最初の頃、スメラギの脅威に怯える事も無く酒が飲める事にライルがはしゃいで、そのとばっ
         ちりを食らってニールが地に沈んだ楽しいパーティだった」
        「約1名、楽しくなかった人がいるようだが」
        「とばっちりを食らうまではあいつも楽しく飲んでいたんだから、問題ない」
        「そうか。・・・・・ニールが地に沈んだという事は、ライルはパターンBだったのか」
        「その通りだ」
        ライルは酔っ払うと2つの行動パターンがあるのだが、どちらにも共通点がある。それは刹那への甘え
        だ。普段ライルは8歳年上だの同性だのという事を気にしていて、刹那に対してそっけない態度を取る
        事も多い。クルーはもっと素直になったら良いのにと思ってはいるのだが、この2人に1番近いニール
        曰く
        「しょーがねーよ。あいつ結構頑固だかんな」
        と言ってのほほんと構えているので他人はそれ以上突っ込む事が出来ない。それが酒が入る事によって
        タガが外れてしまうのである。刹那にしてみれば、美味しい事ではあったのだが。

        パターンA
        とにかく刹那にべたべたひっつきたがる。たまに刹那を押し倒す事もある。そして行為の最中に煽って
        煽って煽りまくるので、刹那もうっかりテンションを上げてしまうのだ。そして次の日、気だるいを通
        り越して倒れそうな感じの『刹那』がトレミー内を闊歩しているのだった。無論、ライルは刹那の部屋
        で心身ともに撃沈している。

        パターンB
        甘えから発生するパンチ&キックが炸裂する。やたらと朗らかにはしゃいで、えげつない攻撃をしてく
        るのが特徴だ。無論、刹那がそれを食らうことはない。刹那は電波は出していても、酔っ払う事はない
        からだ。やけに高度な技を出されても、黙々とそれを捌いている。しかし刹那にしても楽しいらしく、
        延々とやらかしている事も珍しくない。ライルにしても刹那相手にどんなえげつない技だしても大丈夫
        という甘えがあるのだ。なのでこのパターンの時、ニールは近寄りもしない。

        この時はニールもスメラギの脅威が無かった事で存分にはしゃいでいたらしく、普段は近寄りもしない
        この状況で
        「こらこら、止めとけってライル」
        と仲裁に入ってしまったのである。不幸な事にその瞬間、ライルから繰り出された裏拳を刹那が綺麗に
        捌いたのだ。勢いの止まらないライルの裏拳は見事にニールの顔面にヒット。ニールがもんどりうって
        地に沈んだのだった。勿論、刹那はニールを救おうとしたのだが、ニールの存在にすら気づいていない
        ライルが容赦ない攻撃を食らわせて来るので、どうにも出来なかったのだ。流石にライルの攻撃を捌き
        ながらニールの介抱はできない。

        しかし真の騒動は翌朝だった。
        「なーんか顔面が痛いんだよな・・・・」
        と起きて来たニールの顔を見てライルは赤くなっている自分の手の甲を見つめた。立ち上がってニール
        の顔面に出来た痕と自分の拳を比べてみれば、ぴったりと合うではないか。
        「ごめん!兄さん!」
        「え?何が?」
        実は地に沈んだ時、相当酔っ払っていたニールはこの悲劇を覚えていなかったのである。それはライル
        も同じ事。しかし過酷な現実はしっかりとそこに横たわっていた。気にしてないから!と言うニールと
        必死で謝るライルで朝から大騒動。結局刹那が
        「いい加減にしろ。朝飯が食えんではないか!」
        と切れたので、そこで終焉したのだった。刹那にしてみれば、朝飯の方が重要だった模様。

        「それなのに、今年はおかっぱメガネと過ごそうとはな・・・・」
        「その言葉、そっくり返させてもらおう」
        怒りマークを貼りつかせたティエリアだった。
        「だがライルと話したかったら、できん事は無いぞ?」
        「なに?」
        驚いて自分を見つめて来る刹那に、ティエリアは意味ありげに笑った。



        一方その頃トレミーではクリスマスパーティーが開催されていた。いつもは地上に降りる為、不参加な
        ディランディ兄弟も参加している。1人喧騒から外れてハロッズを引き連れてぼんやりと外を見ている
        弟にニールは声をかけた。
        「ライル。刹那の事は・・・その・・・残念だったな」
        「何言ってんだよ、兄さん。刹那は死んでねーって」
        ライルがニコニコと笑って、ボトルに入った酒を啜る。
        「いやだけどさ・・・・」
        刹那が地球に帰ってくるのは、きっと自分達が死んだ後。そう言った意味では刹那は『死んで』いると
        いってもあながち間違いではない。そう思うとニールはライルが不憫でならなかった。だが表面上かも
        しれないが、ライルに落ち込んだ様子は無い。寧ろ刹那は自分の道を選んだだけ、だから俺も自分の道
        を進むだけだとケロリとした顔で言ってクルーを驚かせた。
        「大丈夫だって。それに刹那と話だけなら出来ない事もないんだ」
        「なに?」
        意外な言葉にニールは目をぱちくりとさせた。広大な宇宙のドコにいるかも分からない刹那と、どう連
        絡を付けるというのだ。ライルは背後に語りかけた。
        「ほら、出てこいよ」
        「へ?」
        ライルの声がかかった途端、左後ろからおずおずと顔を覗かせたのは・・・・・
        「え・・・え・・・ELS!?」
        そうハロサイズのELSがとんがった形状のまま、出て来たのだ。
        「いや・・・なんか良く分かんねーけど、凄く懐かれちまってさ。こいつの脳量子波で刹那と連絡が取
         れるらしいんだ。凄いんだな、脳量子波ってさ」
        「そ、そうなんだ」
        全くの予想不可能な展開だった。誰がELSに懐かれると思うだろう。そういえば弟は昔から、変な生
        き物に懐かれる傾向があった。ニールはちょっと眩暈を起こして、ふらりとよろめいた。
        「大丈夫?兄さん、ほら声かけてやってくれよ」
        そうは言ってもどう声をかけたら良いのか、見当もつかない。取りあえず真っ青な笑顔で
        「よ・・よう、初めましてだな」
        と声をかければ、途端にピンクのオーラを放出して上下に振れ始めた。
        「喜んでるな」
        「そうなの・・・・・・」
        良く見れば可愛いかもしれない、とニールは思った。なんだか仕草が可愛いのだ。
        「ハロッズとELSと弟。いかん、俺のα波が止まらねぇ!」
        「人を部屋とYシャツと私みたいな言い方すんな」
        とはいえ、可愛いハロッズに妙に可愛げがあるELS溺愛の弟のトリオだ。α波を出すなという方が無
        理だろう。鼻血が出ないだけ、まだニールには余裕があったようだ。
        「因みに名前はポン助」
        「思いもしないすげーネーム来たーっ!!」
        「兄さん!しっ!」
        ライルが慌てて黙らそうとするが、時すでに遅し。
        
        「あぁらニール。私のネーミングセンスになにか御不満でも?」
        
        ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・

        ニールは背筋をシャキーン!と伸ばし、硬直したが、頭の中ではどうやってこの事態を免れるか必死で
        探っていた。あちゃ〜という顔のライルの後ろにハロッズとELSがスススス・・・と隠れて行くのが
        分かった。手に持ったボトルからは恐怖の為、ちゃぷちゃぷという音が聞こえてくる。
        (助けて!カティ・マネキン准将!!)
        この世でスメラギが唯一頭が上がらない奇跡の存在それがカティ・マネキンだが、生憎彼女がこの場に
        いてもテロリストを救う事はしないだろう。

        ニールは覚悟を決めた。

        くるりとスメラギの方に向き
        「いいえ!!α波どころかβ波までドバドバ出そうな、素晴らしい名前だと思います!!」
        と叫んで90度会釈をした(やり過ぎ)ここで異を唱えようもんならスメラギにしょっ引かれて、酔い
        潰されるのは火を見るより明らかだ。誰もがニールの選択を称賛するであろう。スメラギによって酔い
        潰される事程、ディランディ兄弟にとって恐ろしい事は無い。プライドなんざ、糞食らえといった処で
        あり、死活問題なのだ。
        「ふ〜ん、なら良いわ。今回は見逃してあげる」
        幸いスメラギは機嫌が良かったらしく、ニールは事なきを得たのだった。


        ★私にとってELSは所謂『萌キャラ』です(断言)ケルちゃんよりもシールドビットたんやアンフた          んを愛でる私の感性がおかしいと思った人、正解(親指たてながら)だって可愛いやん、ELSたん。          ライルに懐く変な生き物の中に、刹那も入っています(笑) 戻る