クレヨン

       004は、ギルモア邸にメンテナンスに来ていた。最低2ヶ月に1回はメンテナンスを受けなければな
       らないのは、正直しんどい事だったが背に腹は変えられない。そして交通費も馬鹿にならない。給料の
       半分はこの日本との行き来に消えている。それも悩みのタネだったのだが、それもしょうがないのだろ
       うと預金通帳の残高を見て溜息をついていた。

       その日のメンテナンスを終えて、004は外の空気でも吸ってこようと思いドアを開けた。浜辺へ降り
       る階段に、009が座ってなにやら一心不乱にやっている。
       「?」
       近づくと、なんとスケッチブックにこの正面の風景を描いているのが分かった。
       「なにやってんだ、ジョー?」
       声を掛けると、009は振り返り嬉しそうに笑った。
       「やあアル。メンテナンス終ったの?」
       「ああ、今日の分はな。」
       「あはは、お疲れさん!」
       004は009の横に、同じように腰を降ろした。
       「で、なにやってんだお前さん。」
       004の問いに009はキョトンと目を丸くした後、ああと相槌をうった。
       「見てわかんない?絵を描いてるんだよ。」
       「そりゃそれくらいわかるんだがな・・・・・。俺が言いたいのは、なんで今描いてんだってことだよ。
        お前、そんなことしたことなかっただろ?」
       「まあね。」
       そう言って009は嬉しそうに、自分の横に置いてあるものを指した。
       「これこれv」
       なにがそんなに嬉しいんだか・・・・と覗き込んだ004の見たものは、24色の新品のクレヨンだっ
       た。懐かしい想い出が脳裏を掠めた。
       「クレヨンか・・・・・。懐かしいな。」
       「でしょ!」
       「で、張り切って描いてるわけか。」
       分かりやすいな、とコメントされても009のご機嫌はハイテンションのまんまだった。
       「だって、僕は今まで”自分のもの”っていうの持っていなかったからさ。本当に憧れてたんだ、こん
        な風にクレヨンを1人じめできるっていうのにさ。」
       「そっか、お前さんは孤児院の出だったな。そういえばあんまり”自分のもの”を持ってないよなあ。」
       004のコメントに009は頷きを返した。
       「さっきフランソワーズの買い物に付き合ってたらさ、偶然見つけて・・・・。本当はアルと一緒に行
        きたいって駄々捏ねてたんだけど、しょーがないよね。アル、メンテナンス中だったしさあ。なんと
        か説得して僕がお供をしたんだけど。」
       「ははは、そりゃ災難だったな。俺はホッとしたけど。」
       004の軽口に、009がおかしそうに笑う。
       「まあねえ、フランソワーズには悪いけど女の子の買い物に付き合うっていうのも大変だしね。」
       「いずこも同じ、秋の夕暮れってやつだな。」
       「えっ、なにそれ?」
       「ん〜?なんかそんな台詞があるって聞いたから、使ってみただけだよ。」
       「あ、そう。」
       009はアッサリと頷くと、前を向いた。そしてクレヨンを取り出して、なにやらゴソゴソとやり始める。な
       んとなく邪魔をするのも悪いので、004は黙って009を見つめていた。そして暫く迷った後で、ぽ
       つりとこう言った。



       「それにしても・・・・絵が下手だな・・・。お前。」



       ★100のお題の第1番、クレヨンでございました。ぱっと速攻で思いついたので、文が短めですが結         構面白かったです。・・・・あ、009が絵が下手かどうかっていうのは知りませんよ?        戻る