綱吉くんとヒバリさん5 

       手を繋ぐ

       バレンタインデー。
       それは洋菓子会社の企みにより、チョコを贈ったり押し付けたりするうかれおぽんち的な日であった。
       ツナは当然のように貰ったチョコの数は0。多分ハルはなにか用意しているとは思うが、背後にビアン
       キがいた場合はなにもしてくれない方が良い。それはかの京子でも同じ事。ある意味ボクシングをパン
       ツ一丁でなべつかみで殴りあうスポーツだと思い込んでいる少女は、これまたどこかで抜けていた。

       ぼ〜と考えながら帰っていると、視界に「風紀」と書かれた腕章を着けた学生服が映った。ツナが知る
       限り、こんなファッションで歩いているのはただ1人だけ。
       「ヒバリさん!」
       嬉しくて、声も弾む。その声に呼ばれた方も、ツナに気づいて振り返る。
       「やあ」
       その両手にはいつものトンファーの替わりに、大きな紙袋。
       「どうしたんですか、それ?」
       ヒョイ、と覗き込むとそこにはキレイにラッピングしてある大量のチョコが入っていた。
       「僕の靴箱に押し込んであったんだよ。衛生上問題があると思うんだけどね」
       案の定、ぶすっとしてヒバリは答えてきた。聞けば靴箱から取っても取っても、気がつくとこれ以上は
       入らないんじゃないかと思うほど入っていたんだそうだ。その一種のいたちごっこに疲れて、機嫌が悪
       いらしい。しかしそんなことでツナは退場する気は更々なかった。
       「モテますね、ヒバリさん」
       「下らないよ、興味ないし」
       それぞれのチョコに込められているはずの想いを、ヒバリはざっくりと切って捨てる。ツナは見つから
       ないようにしたとはいえ、チョコを押し込み続けた女子達に素直に尊敬の念を持った。そんなところを
       見つかったら、最悪トンファーの餌食になりかねない。
       「で、なんか僕に用?」
       「いいえ、でも帰り道にヒバリさんを見つけてラッキーです」
       「ふうん、なに君、僕にチョコをくれようっていうんじゃないだろうね」
       「チョコ自体持ってません」
       「じゃ、僕が君に用意してるって思ってる?」
       「いいえ」
       ヒバリとはあ〜んな関係ではあるが、そういうイベントに男は疎いものだ。ヒバリからチョコなど贈ら
       れたら、次の日には地球は滅亡しているかもしれない。
       「ヒバリさん」
       「なに?」
       「紙袋、一つ持ちますよ」
       「いいよ、別に」
       誰かに何もしない代わりに、ヒバリは何かしてもらう事も意外と嫌う。それはツナ相手でも変わらない。
       「じゃ、お願いがあるんですけど・・・」
       「ん?」
       「紙袋、一つ俺に持たせて下さい。そのかわり、手、繋いで良いですか?」
       ヒバリは黒い瞳を丸くして、こちらをまじまじと見つめた。が、
       「いいよ、じゃ、コレ持って」
       あっさりとヒバリとツナの間にあった紙袋を渡してくる。ツナは受け取って右手で持った。そしておず
       おずとではあるが、左手でヒバリの右手を握った。握り返してくれる事は期待しなかった。だがヒバリ
       はツナの手を握り返してきた。
       「ヒバリさん・・・?」
       珍しい事もあるもんだ、とツナは改めてヒバリを見る。ヒバリもこちらを向いて、ツナを皮肉気に見て
       笑っていた。
       「手、繋いでるだけで良いの?」
       ああもう、この人は・・・!ツナ心の中で叫んだ。せっかく清らか(爆笑)な気持ちで手を握っていたと
       いうのに、そういう気持ちをわかってて仕掛けてくる。
       「じゃあ、ヒバリさんの家に行って良いですか?」
       それは既にそういう行為をしたい、という意思表示になっていた。ヒバリの笑みは崩れない。
       「良いよ、じゃあ僕からも交換条件だそうかな?」
       「ええ!?」
       「嫌なら良いよ、君は自分の家に帰りなよ」
       「いいえ、ここまできたらガッツリいただかせていただきます!交換条件ってなんですか?」
       ヒバリは自分が持っていた紙袋を、持ち上げた。
       「?」
       「じゃ、この紙袋の分のチョコは君が始末してね」
       「はあ!?こ、こんなに沢山・・・・ですか?」
       「嫌なら・・・」
       「持って帰っていいでしょ、ヒバリさん。俺がアナタの部屋で黙々と食べていたら、部屋がチョコ臭く
        なってしまいますよ」
       「流石にチョコ臭い部屋は嫌だな。君の部屋じゃあるまいし」
       「俺の部屋はチョコ臭くなんてありませんよ!?」
       「スナックの匂いは凄いけどね」
       「うう・・・・」
       「部屋も驚くぐらい汚いし、よくもまああんな部屋で生息できるもんだよ。君も、あの赤ん坊も」
       「人の部屋をアマゾンの秘境みたいに言わないでくださいよ!一応言っておきますが、俺がどんなに片
        付けてもチビ達がすぐ散らかすんですよ!」
       特に牛の方がな、と心で付け加える。するとヒバリがプーッと噴出した。
       「ヒバリさん!」
       「ほんと、面白いね綱吉。まあ持って帰って良いよ」
       からかわれていると知っていても、すぐムキなってしまうのでヒバリは面白いらしい。そんな彼もあの
       ディーノにはからかわれていっぱなしらしいが。余程腹が立つのか、ツナにあの金髪はどうにかならな
       いの?と散々ぼやいていた。
       「あ、そうそう泊まるならちゃんと家に連絡しときなよ?」
       自分はそんなことをすることもないのに、人にはいけしゃあしゃあと言う。でも、こんな日にヒバリか
       らモーションかけられて逃がす手は無い。
       「はーい」
       「本当に分かってるの、君?」


       手を繋ぎながら歩いていく、ダメツナと最凶のヒバリは周囲の困惑にも気がつかないまま、ヒバリの家
       に。

       後日、チョコを食べ過ぎたツナと自分から巻き込まれていたランボさんが鼻血を出して、入院寸前まで
       いったという。




       ★甘くもないバレンタインデー話だとお思いでしょう。しかし私にとっては奇跡的に甘いお話でした。         そうか、受けが積極的ならこうなるんだーと感心しております。そーいや逃げ回っている受けばっか         書いてますね。94といいエドアルといいスザルルといい。        戻る