バレンタイン

       今年は009からバレンタインに日本に来い、というお達しがなかったのでバレンタインから大分過ぎ
       てから、004は実に爽やかな気持ちでギルモア邸に向かった。良かった良かった、と喜びを噛締めな
       がら・・・・。しかし人生とは過酷である。004に今、違う意味での試練が待ち構えていた。


       「アルvこれ受け取ってねv」
       可愛い笑顔と一緒に渡されたのは、実に不器用にラッピングされたものだった。
       「?なんだ、これ。」
       とりあえず受け取ってから、004はその箱をしみじみと眺めた。
       「うん!バレンタインのチョコレート!」
       009は元気に答えた。やっぱりなんか企んでやがったのかと004は肩を落とす。
       「フランソワーズに叱られたんだよ。いっつも要求ばっかりしてないで、たまには貴方が作って渡した
        らどうなのってね。」
       「・・・・・・・じゃあ・・・・・これは・・・・・。」
       「そうさ、僕がアルの為に一生懸命作ったんだよ!」
       004にとって(いや00ナンバーにとって)致命的な発言が、飛び出した。009は究極の料理オンチ
       である。その料理オンチが作ったというチョコレート。青ざめた004ではあったが、ちょっと気がつ
       いた。
       「あれ?でも台所はどこも壊れていなかったと思うが。」
       そこにいく思考も凄いが、そういう言われ方をする009も凄い。
       「外で作ったんだよ。あの砂浜で、カセットコンロ持ち出してさ。」
       「まった寒いことしてるな、お前は。まあ風邪はひかないから良いかもしれんが。」
       「フランソワーズに追い出されただけだよ。でも砂浜に蟻地獄みたいな穴ができちゃったんだよねえ。
        誰かが落っこちなければ良いんだけどさ。」
       そういえば、今話題になっている003が見当たらない。今更ながらに気がついて、004はキョロキ
       ョロと辺りを見回した。
       「フランソワーズなら浮気してないか確認のためにも、どっきりカメラ的にアメリカに行ったよ。」
       けろりとして009が答える。
       「そんなことしなくたって、ジェットのやつは不器用なんだから浮気なんてしないだろ。」
       「ん〜僕もそう言ったんだけどね、美人にあったら鼻の下が伸びるんだから信用ならんとか言ってた。」
       男が美人に弱いのは本能であろうに、やたらめったらな言い方だと004は思う。まあ今頃はアメリカ
       で仲良くやっているだろう・・・・。そして004は現実に意識を戻した。009が作ったチョコレー
       ト。仲間を守るためだったら命は惜しくないものの、チョコを食べて昇天するには命が惜しい。まるで
       クレヨンの箱なのか?と思われるほどの厚みとでかさがあるこの箱。厚みが気になるトコロである。
       「さあさ、僕が愛を込めて作ったこのチョコをがっつりと食べてねv」
       どうやら逃げられないらしい。覚悟を決めたものの震える手で包みを解き、ふたを開けてチョコの実物
       を見た004は眩暈を起こした。箱と同じ形をした(でもちょっと歪んでる)チョコが鎮座ましていたの
       だ。思っていたより厚みのあるチョコだ。009が嬉しそうに目を輝かせている。どう?とその輝く目
       が004を捕らえていた。引きつった笑顔で、礼を言うのが精一杯な004であった。
       「ほらほら、早く食べて食べてvvv」
       004にとって死刑宣告のような009の台詞が、届く。ここで食べなければ、一生コバンザメのよう
       に背中にでも引っ付かれるような気がする。004は人生最大の覚悟を決めて、チョコに齧り付いた。
       「どう?美味しい??」
       目をさらに輝かせ、009が訊く。対する004はよせば良いのに、大口で齧り付いたチョコを噛み千
       切って黙した。
       「・・・・?どうしたのアル?」
       004は黙ったまま。心なしか体が小刻みに震えている。
       「アル?」
       もう1度009が名前を呼ぶと、004は無表情のままで009を見た。
       「おい・・・・コレはチョコなんだろ・・・?」
       「?そりゃそーさ。」
       「あのな・・・・・個人的にチョコに鮭の塩焼きは合わないと思うのだが。」
       チョコの中身。それは鮭の塩焼きだった。ほぐしてあるとか、可愛いことはしていない。塩鮭の切り身
       を焼いたもの、そのものが入っていたのである。
       「僕ねえ!アルに変わったチョコを食べて貰いたかったんだー!」
       「チョコに齧り付いて、骨が口に刺さったなんて初めての経験だよ。」
       「良かった、喜んでもらえてvvv」
       「断じて喜んどらん。・・・・お前の料理オンチは救いようがないな。」



       なぜか大喜びで、004にチョコを喜んでもらえたと踊る009。004は目頭が熱くなってきた。
       ーーーーーおかしい、こいつは最初はマトモに見えたのに・・・・。



       そんな甘酸っぱい(?)バレンタインを大分過ぎた、午後のひと時であった。





       ★久しぶりの009でございます。ずっと0083に浮気していたから・・・・。今回はバレンタイン         をとっくに過ぎた、バレンタインです。個人的に私もチョコに塩鮭は合わないと思います。今回は0         09がチョコをあげてみました。でもやっぱり反対に比べると、ロクなことにはならなかったよーで         す。相変わらず苦労性の004(笑)          戻る