TREASURE
ハリーはふと目を覚ました。 「?」 周りは真っ暗、しかもふわふわと身体が頼りない。 「ええと・・・・・・僕は・・・???」 確か消灯時間になったから、ロンや他の同室者におやすみを言ってベットに入った。入ったハズなのだ が・・・・・?周りを見回してみる。でもそこにあるのは、黒だけ。魔法使い達が好んで身に纏う、そ の色だけ。音もない、世界。耳に聞こえるのは沈黙だけ。 不意に、身体がふわりと動いた。 「わ!?」 慌てるが、自分の意思ではどうにもならなかった。しかし、身体はどこへ行くのかまるで知っているよ うにふわふわと動いていく。丁度、川の流れに身体を浮かせたような感じで。 「・・・・ドコ行くんだ?」 我ながら間抜けだとは思ったが、ハリーは身体に訊いてみた。だが答えはない。ないまま自分の身体は 流されていく。 「とと。」 急に横向きだった身体が、縦になった。そのまま足を縮めて暗闇の中で90度回転する。 そして 足が伸ばされると、何かが足の裏に当った。硬くてしっかりした、何かに。 「?」 足元を見ると、そこにあるのは銀色に輝く地面だった。そこで初めて身体の自由が残った。トントンと 足裏でその地面を叩くと、確かに地面がある。 銀に輝く大地。 「一体、此処はどこなんだろう?ハーマイオニーに訊けば知ってるかな?」 銀と対の色とされる、艶やかな金色の髪を持つ少女を思い浮かべる。彼女はハリーの親友であり、知恵 袋なのだ。持っている知識が半端ではない。その知識に、幾度となく助けられた。 反対に、銀の色は不愉快な誰かを思い浮かばせる。ウィーズリー一家に異常なほど関心を寄せる、純血 の家系の少年。いつも意地の悪い顔をして、ハリーの大事な存在にちょっかいをかけてくる。だが最近 はちょっと彼らに同情もしているのだ。彼らは自らが望んだとはいえ、血に縛られているのだから。そ して縛られている事を認めたくなくて、自分の拠所にしてしまう。限られた世界の中でしか、生きられ ない生き方をしているのだから・・・。そう思うと、銀色の光は少し物悲しく見えてしまう。別にハリ ーは彼らに好意を抱いているわけではない。むしろ逆だ。それでも、籠の中の鳥のような存在と思える 時がある。 ふとハリーは上を向いた。 「あれ?」 さっきまでは、本当に何もなかったはずの頭上に何かある。 それは青く淡く光る光球。 ふわふわと揺れることもなく、そこに存在している。その色はハリーの大切な人の瞳の色に似ている。 しかし彼の人の瞳の色より、濃い青だった。暫くぼーっとして見ていたハリーだったが、徐に手を伸ば してその光球に触れてみようとした。 すかっ 伸ばした手は、その光球に触れることもなくハリーの身体に戻った。どうやら思った以上に遠くにある らしい。触ることを諦めて、ハリーは銀の大地に腰を下ろした。そのまま青く淡く光る青き光球を眺め る。不思議な感覚だった。いくら見つめても、飽きない。そしてどこか懐かしいその存在。 ハリーは銀と青に挟まれて、飽きることなく漆黒の中に存在していた。 「・・・・リー!・・ハ・・・・リ・・−!!ハリー!!」 ハリーははっと気がついた。どうやらベットの中にいるらしい自分を確認する。そして目の前には(正 確には覆いかぶさっている)ロンの顔があった。 「あ・・・・・・ロン・・。」 「あ、ロン。じゃないよ、いつまで寝てるんだよ。早く起きないと、朝食に間に合わないよ。」 頭が急速に動き出す。ここはホグワーツの自分達の部屋。そして続く授業。ハリーはのそのそと起き上 がって、眼鏡を取った。途端に生き生きし始める、周囲。 「まったく良く寝てたね、ハリー?」 少し呆れたように、ロンが言う。 「ごめん、僕起こすのに手間取った?」 「いいや、そうでもないけど。でもいつもより起きなかったよ。あんまり良く寝てたから、ほっとこう  とも思ったんだけど朝食食べはぐれると辛いし、何より授業があるからね。」 「うん、有難うロン。」 ロンと会話をしながら、ハリーはそそくさと制服を纏う。その色はあの夢の中の世界の色。 「でもさ、良い夢みてたんだ?」 ロンが言う。 「なんで?」 「だってさ、凄い幸せそうな顔してたよ君。」 「そうかなあ、まあ寝てる時の顔なんて自分じゃ見れないからね。」 「あはは、確かに・・て早くしないと朝食に遅れちゃうよ!」 「わ、それは大変だ!」 どちらも食べ盛りな子供である、美味しい朝食を食いっぱぐれたら大変とばかりに2人は慌てて走り出 した。 ふと目を開けると、そこには黒があった。 「・・・・・またこの夢か。」 しかし昨日と違うのは、自分が存在しているのは銀の大地の上であることだった。 (じゃあ・・・・) 目を動かすと、昨日と同じ場所にあの光球はあった。思わずハリーはほっと息をついた。そしてやおら しゃがんで、立てた膝に顎を乗せる。少々行儀が悪いが、そう咎めるものは誰もいない。 そして ハリーは飽きることなく、漆黒に抱かれて銀に守られながら青く淡い光球を見つめていた。 「よう、ロニー坊や。」 聞きなれた声に、ロンは振り返った。やはり、というべきかそこには相変わらず左右対称の笑顔を浮か べる双子の兄がいた。 「なんか用?」 「ああ、つれないぞロニー!」 「まったくだ、僕達そんな風にお前を育てた覚えはないぞ!」 2人同時にハンカチを出して、口に銜える。 「育ててもらったっていうの、ちょっぴり当ってるんだろうけど。で?」 再度尋ねると、あっさりハンカチをしまってうんうんと頷く。 「最近、ハリーの奴。」 「みょーにおちついてないか?」 ロンはこくんと頷いた。自分も感じていたことなので。確かにちょっと前のハリーは、なんというかど こかイライラしていた。八つ当たりはされないけれど(されたのはドラコだった)端から見てて大分ハラ ハラしたものだ。それが此処最近憑き物が落ちたかのように、落ち着いている。緑の瞳から憔悴の光が 消え去り、深い賢者のような光を湛えている。 「なにがあったのか、全然分かんないんだよね。別に隠しているわけではないらしいんだけど。」 本人にまさか落ち着いてるけどなにかあった?なんて、訊けるほどロンは図太くはなかった。ふーんと 双子が相槌をうつ。 「で?なんか悪いことでもあった?」 「いいや」 「別にないんだけど、ちょっと気になってさ。」 「サンキュー、ロニー坊や。」 「お礼にカエルチョコを上げよう。」 「・・・・・何かのトラップが仕込んであるんじゃないの?」 ロンは差し出されたチョコから1歩引いた。双子の悪戯に良く巻き込まれたからこその、行動であった。 双子はバーンと青ざめて、背後に稲妻が走った。 「ひどいやロニー!」 「兄達は傷ついた!ああ、この悲しみを誰に伝えたら良いのか・・・。」 何故かしっかりとポーズをとりつつ、双子の兄は騒いでいる。 「ああもう、分かったよ!貰うよ、有難う!」 人目をひきつけまくった兄達に付き合って、注目を浴びるのは勘弁して欲しいロンであった。 「分かればいいんだ!」 「じゃあな!」 ぽい、とカエルチョコを渡して双子は又してもあっさりと、ロンに手を振るととっとと去って行った。 「なんなんだか・・・・。」 溜息をつきつつ、ロンは手の中のカエルチョコを見つめた。 だけど ちゃんと分かってる。 兄達も、イラついているハリーを心配していたのだということを。 毎夜現れる漆黒の世界。 銀の大地。 青く淡く光る光球。 そしてハリーは気がついた。 銀の大地は日に日に漆黒に飲み込まれている。 青い光球は、光が薄くなり少しずつ輪郭がはっきりとしてきた。 そして 「そうか、そういうことだったんだ!」 ハリーは叫んだ。 「ねえハーマイオニー、他人に自分の夢に入れるようにしてもらう魔法ってないかなあ?」 ハリーに言われて、ハーマイオニーは目をぱちくりとさせた。 「あるはずよ・・・・・・って何に使うの?”あの人”絡み?」 「いいや、違うよ。・・・・・ただ・・・。」 「ロンに自分の夢の中に来て欲しいのね?」 ずばりと言われて、ハリーは苦笑した。まったく敵わない、この金髪の少女には。 「うん。あ、でも君にも来てもらって構わないけど?」 ハーマイオニーは肩を竦めた。 「男の子の夢に興味はないわ。現実でもね。」 そう言って悪戯っぽく笑う。 「わかったわ、調べてあげる。その代り、今度買い物に付き合ってねv」 「OK、恩に着るよ。」 ハリーはにこりと笑って、礼を言った。ハーマイオニーはじゃあ、早速図書館へ行かなきゃ!と叫んで とととと走って言った。 ロンは戸惑った。だって普通、他の人の夢に入ってこいだなんて言われないだろう。しかしだ、ロンは ハリーのお願いに弱かった。ハリーがロンのお願いに弱いのは、皆知っているのだけれど。まあ多少は ハリーの押しに弱い、ということなのだろうけど・・・。 例外になく今回も押しに流されて、未知に流されたロンは不安げにハリーのベットにそっと入ってきた。 「大丈夫だって、ハーマイオニーが調べてくれた方法だからさ。」 「そりゃそーだけど・・・・。彼女、時々凄まじいやり方をするから心配だよ。」 「別に喧嘩しに行こうってわけじゃないんだから、そんなに凄まじいやり方はない・・・・と・・・思  う・・・・けど・・・・。」 言いながら、段々ハリーは心配になってきた。実はハーマイオニーに、これを飲めば良いと薬を渡され ただけなのだった。薬の成分は教えてもらえなかったのが、更に不安だった。 が 「ハーマイオニーを信じよう、ロン!ほら!」 ハリーはぽかんと口を空けているロンの口の中に、錠剤をほおりこんだ。ロンが思わずむせる。そして ハリーも薬を飲み込んだ。 いやはや凄まじかった。 何がって? ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・味が。 「ロン、ロン。」 ハリーの声がして、ロンは目を開けた。目の前にはハリーの心配そうな顔がある。ロンはむくりと起き 上がった。 「ここは・・・・?」 「僕の夢の中だよ。やっぱりハーマイオニーは頼りになるね。」 「でもあの薬・・・・うええ〜まだ舌に残っているみたいだよ。」 「それは確かに。だからハーマイオニーは成分を言わなかったんだな。」 「多分言えなかったんじゃないのかな。」 「それ同感。」 ハリーの手を借りて、ロンは立ち上がった。周りをきょろきょろと見回す。 「これが、ハリーの夢?」 「そうだよ、ロンに見て欲しかった僕の夢だよ。」 周りは真っ暗だった。真っ暗だったのだが、足の裏にはしっかりと大地の感触がする。ハリーも暗闇の 中で立っている。 「僕が初めてこの夢を見た時はこの大地は銀色に輝いていたんだけど、日を重ねるごとにこの暗闇に飲  まれていっちゃったんだ。ま、その原因も分かってるんだけど。」 「原因って?」 「それはまた後で。で、本当に見せたかったのはアレだよ。」 ハリーが指を指した方を向くと、そこにあるのは深い青に包まれた大きい球であった。所々に白い線が なびいており、それが更にその球の青を美しく引き立たせている。どこか懐かしい、目を離せない。音 もない世界が、この光景を余計に神秘的に見せているのかもしれない。 「ハリーあれは・・・・なに?」 「やっぱり目が離せない?」 「うん。」 「だろうね。」 「ね、なんなのアレ?」 ロンの度重なる質問に、ハリーは優しく笑って頷く。 「地球だよ。」 「地球?・・・・僕が、僕達が生きている?」 「そうさ、だから懐かしさがあるだろう?当たり前だよ、だって自分の故郷がある星だもの。・・・と  は言ってもそのことに気がついたのは、昨日だったんだけど。」 「なんで?」 「初めはね、この大地が銀色に輝いていて、地球は淡く青く光る光球でしかなかった。」 「あ、ごめん。その銀の大地ってドコのこと?」 「ああ、月だよ。月は銀の光を注ぐからさ。で、さっきも言ったけど日を追うごとにこの銀は暗闇に飲  まれていく度に、地球は段々輪郭を現しだしてね。それで気がついた。僕がこの夢を見てから丁度十  五夜経っている。つまり僕が初めて来た時、月は満月だったんだ。だから月が輝いて、その輝きの反  射を受けて地球はぼんやりと光る程度だったんだよ。」 「つまり今日は朔月ってこと?」 「そう、これからまた光を増していくんだ。だから今日のうちにロンに見て欲しかったんだよ、この地  球をね。夢なんだろうけど、こうやって見れる経験滅多にないからさ。」 「あはは、確かにね。有難うハリー。」 「あ・・・・いや。僕が勝手に連れてきちゃっただけだから。」 ハリーは照れくさそうに頭を掻いて、ひょいと座った。ロンもそれに習う。 2人しかいない世界。 夢の中の暗き月に座って、命を育む地球を見つめる。 それは、まさに宝物。
★お疲れ様でした!いつもお世話になっている(なりっぱなし)の美緋紗さまからのリクエストを強引に  頂いたものです。お題は「ハリーが自分から見て、宝物のようなものを見つけてロンにそれを見せる」  でした。果たしてお気に召したかどうか、とても不安ですが・・・どうでしょう?  ハリーはあんまり物欲がないように見えるんですよね、だから大変。何がハリーの心を動かすのか、  初めは見当もつかず考え込んでしまいました。しかし地球はどうだろう、と思い立ってからはとんと  ん拍子に話が進んで行きました。とはいえ、夢の中の月と地球なので本物とは違うので、お間違えの  ないよう(笑)  地球の姿が好きなのは、やっぱり自分が生きてきた故郷があるからなんでしょう。だから宇宙飛行士  の人達は皆口をそろえて「美しい」と表現するんですね。 戻る