檻の中の君

       足取も軽く、少年------009-------は階段を登って行く。その表情は、今からどこかへ遊びに行く
       かのように、嬉しげだった。
       右手に持った鍵の束を、時々くるくると廻しながら。

       最上階には、扉が1つだけあった。つまり、部屋は1つしかない。鍵束から、慣れた手つきで1つの鍵を
       選び出し鍵穴へ入れた。

       ガチャリ

       鍵は、何の抵抗もなく扉の封印を解いた。009は扉を開けて、中を覗き込む。
       ----------まるで、宝物を手に入れた子供のように無邪気な顔で----------
       「元気かい?」
       声をかけると、窓から1番遠い壁に(つまり窓と向かい合わせの壁)に”仰向けに”蹲っていた人物が身
       じろいだ。
       「・・・・・・・・・・元気じゃない。」
       返事は、不機嫌そのものだった。009は気にせず、笑う。扉を閉めて、その人物の正面に進んだ。
       今は、まだ昼間。まるで、陽の光を遮るように立って009は”彼”を見つめた。
       床の拘束具によって、両手・両足はがっちり固定されている。背中は、なんとか壁に寄りかかれるが、
       それだけだ。頭には、ネットが被せられている人物。
       サイボーグ004。
       アルベルト・ハインリヒ。
       009の愛する唯一の存在。
       「不機嫌だね。まあ、いつものことだけどさ。」
       「こんな目に遭わされて、機嫌が良いと思っているのか?お前は。」
       「はは、まあね。」
       009は笑うと、しゃがみこみ004の顔を覗き込んだ。004が逃れるように、顔を引く。だが、す
       ぐに壁に逃げ場を絶たれる。009は両手で004の顔を包み込んだ。004の顔に”恐怖”が浮かぶ。
       それに構わずグイッと顔を自分に近づける。
       「怯えているの?」
       「べ、別に・・・・。」
       顔を動かせない為、瞳だけを009から逸らして答える。それだけで、004の感じている”恐怖”が
       009には分かった。くすくすと笑って004の額に、自分の額をコツンと当てる。
       「そんなに、怯えなくたって良いじゃないか。せっかく遊びに来たのにさ。」
       本当に、すぐそこに004の青白い瞳がある。本来、強い意志を持って輝いていたその瞳は、今は見る
       影もない。あるのは、恐怖に揺らいだ光だけ。それでも、009はその瞳に映っているのが自分だけな
       のに、満足していた。だから、004の額に軽くキスをする。だが、004は青ざめた。その行為は、
       ある事の始まりを意味していたからだ。009から逃れようと、004は暴れだした。
       ・・・・だが、両手・両足の拘束具が004の行動を許さない。頭にかけられたネットには、脳波通信
       と、001のテレパシーを無効にする性能があった。つまり、助けも呼べない。大声を上げれば、外に
       届くかもしれないが、助けが来る前に009に知られる可能性の方が高い。004に出来るのは、此処
       でおとなしく拘束されていることだけ。
       「気、済んだかい?」
       009がおもしろそうに、訊いてくる。004は、ゼイゼイと息を切らしながらぐったりとなった。
       無理もない。009が1日ぎりぎり過ごせるエネルギーしか与えていない為、サイボーグといえども衰
       弱しかかっているのだ。それ故か、004は1人の時はうとうとしていることが多い。009は、ぐっ
       たりと動かなくなった004を確認すると、鍵の束から先程とは違う鍵を取り出した。そして、004
       を束縛している拘束具を外す。両手足に自由が戻っても、004は動かなかった。今ので、わずかに残
       っていたエネルギーを使い果たしてしまったらしい。009が上半身を抱き起こしても、されるがまま
       だ。いつものことなので、009は気にせず愛しそうに、004の頭を自分の胸に引き寄せる。そのま
       ま、強く抱き締めた。顎を掴んで、上を向かせてキスをする。
       「良い子だね、アルベルト。」
       唇を離して、溢れた唾液を舐め取ってやりながら009は囁く。004は、何かを覚悟したような諦め
       のような表情をして、目を閉じた。


       004の身体は、右の上半身部分の機械が丸出しになっている。普通なら、絶対にありえない体の色の
       コントラスト。それが009には、堪らなく官能を刺激される。防護服をはぎ取られても、009が覆
       い被さってきても、004は目を閉じたまま動かない。これから何が起こるのか、何をされるのか分か
       っているからだろう。
       何度も繰り返される行為。
       何度も繰り返される狂気。
       何度も繰り返される絶望。
       最初の頃は、さんざん抵抗された。普通は当たり前だろう。だが、009の方が力が強い。004のマ
       シンガンとレーザーナイフ等の武器を封じてしまえば、力づくで押さえ込める。押さえ込まれてしまえ
       ば、004に逃れる術はない。それでも最後の抵抗とばかりに声を抑えたりしていたが、最近はしなく
       なってしまった。そんな気力が最早004には残っていないのだろう。
       壁にもたれかかる感じで座った009に背を向けて、座らされる格好で貫かれても弱々しい呻き声しか
       出ない。虚ろな瞳からは生理的にだろう、涙がとめどなく零れている。009は容赦なく004の腰に
       腕を廻して、突き上げた。その度に、悲鳴になりそこねた弱々しい声が上がる。両足を更に広げられて
       も、抵抗など一切なかった。12歳も年上で、孤高な存在であった彼が自分によって喘ぐサマは009
       にとって夢のようだった。004にとっては悪夢だろうが。
       片手で004の腰を固定させ、もう片方の手で004自身を刺激する。004の限界が近くなっていた。
       開放を促しながら、耐え切れず悲鳴をあげようとする004の口をキスで塞ぐ。004の喉で、悲鳴が
       くぐもって潰れる。
       
       ・・・・・それが終わりの合図。

       004が開放されると同時に、009は004の中に、放っていた。


       004は、いつもこの行為の後は気を失う。ただでさえエネルギー不足なのだ、無理も無い。009は
       慣れた手付きで後始末をした。004の身体も綺麗に拭いてやって、防護服を着せる。そのまま、再び
       拘束具に004を繋いだ。
       「良い子だったね、アルベルト。じゃあ”食事”を持ってきてあげるね。ふふっ随分と疲れたみたいだ
        ねえ。」
       くすくすと、本当に無邪気に笑う。004の顔を覗き込んで、銀色の前髪をさらっとかきあげる。
       「ふふ、君は僕のものだよ。誰にも渡さない、誰にもね。例え、相手が死者であろうとも。」
       004が聞いていないことを承知で、009は言葉を重ねる。
       「そうそう君が行方知れずになったって、フランソワーズから連絡が来たよ。知らないって答えたけど
        ね。大丈夫。ちゃんと見付からないようにしてるから、安心してね。」
       ピクッと004が反応したような気がしたが、気にせず009は言った。
       「大好き、本当に大好きだよアルベルト。君と世界のどっちを取るって訊かれたら、迷わず君を取るよ。
        君の為になるんなら、世界が滅んじゃっても構わないんだよ。・・・・・分かってる、本当は分かっ
        ているんだ。こんな想い、おかしいってことぐらい。でも止まらないんだ、君が欲しいんだ。君だけ
        が・・・・・。でも、君はこうやって捕まえておかないとすぐ逃げるから・・・・。」
        苦しげに009は告白する。004に意識がないから、吐き出される本音。009は切なそうに004
        の額にキスをした。
       「じゃあ、すぐ戻ってくるから待っててね。アルベルト。」
       009はそう言ってドアを閉めた。

       だから、009は知らないのだ。ドアが閉まった瞬間、004が虚ろで悲しげな瞳をうっすらと開けた
       ことを。その瞳から、先程とは違う意味の涙が静かに頬に伝った。
       「・・・・・・・ジョー・・・・・・。」


君が逃げるなら、僕は君を捕まえて離さない。
今は檻の中の僕だけの君。

       ★お疲れ様でした!本当に久々の裏更新ですね(苦笑)裏の009は決まって、004のことに固執し過         ぎて自分でも感情や行動のコントロールができてません。だから痛い系(私にとっては)になってしま         うんですね。004はもちろん、009もこういう行動ができる力があるということが不幸なのかも         しれません。        戻る