逃げる事は許さない 6.歪んだ顔

「離せよ!」
綺麗な顔を歪めてライルが自分に押さえつけられて喚いている。


此処はライルの部屋。


ライルのテリトリー。


そんな事もお構いなしに刹那はライルの両手首を自分の掌で、自分よりも大きいその身体を自分の身体
で押さえつける。そのままライルが力尽きるのを待つ。絶対に殴る等の暴力は使わない。その理由は傷
つけたくないというお綺麗な感情ではなく、逃げ場を潰す為だ。殴りつけて抵抗できないような状態に
してしまえば、もっと楽にライルの事を貪れるだろう。だがそんな事をすればライルが『暴力を受けた
から』という理由をつけて、刹那に抱かれるという事実から逃げてしまうからだ。


そんな逃げは許さない。


そんな逃げる理由など与えない。


こうやって力尽きてから、快楽に喘がされる事実を受け止めろ。


俺から齎される快楽に素直になれば良い。


下手にその事実に抵抗すようとするから、苦しいのだ。今も刹那の下で、なんとか逃れようと必死で身
体を揺すっている。何度押さえつけても慣れる事も無く、逃れようと足掻くライル。刹那から見れば滑
稽とも、哀れとも、愛おしいとも思う。仲間のトレミークルーはこうして刹那がライルを押さえつけて
抱いている事を知らない。ライルが言わないし、刹那も言わない。仲間内での彼らの交流は普通に行わ
れているからだ。ライルが言わないのは、男としてのプライドもあるだろう。8歳も年下の青年に良い
ように身体を貪られて、快楽を教え込まれているなんて言えるわけがない。そして刹那も言う気はない。
当たり前だ、こんな事がバレればあの聡明な戦術予報士によってライルを奪われてしまう。彼女がライ
ルと恋仲になるわけではない。彼女がライルを保護してしまうだろう。そうなれば流石に刹那といえど
もライルに手が届かなくなる。言葉を交わすのは勿論、ライルに手を出す事など永遠に出来なくなる。
悔しいがこういう場合、彼女の方が刹那よりも1枚も2枚も上なのだから。


(そろそろか)
暴れていた身体が段々と大人しくなっていく。流石にカタロンのエージェントの肩書を持つだけあって
ライルは非常に長い時間、毎度毎度抵抗してくれる。だが上から圧し掛かってしまえば、状況としては
刹那の方が有利だ。後は体重をかけて押さえこみ、ライルが力尽きるのを待っていればいいのだから。
そろそろ素直になって欲しいと思う反面、こうして押さえこむ事が無くなるのはつまらない。この後に
行われる行為で、ライルは男としてのプライドを砕かれる。その時の歪んだ顔が、否応なしに刹那の興
奮と征服欲を満たしてくれる。いつもすましているか、軽い笑みを浮かべるぐらいしかしないライルの
こんな表情は誰も見ていない。見せるつもりもない。これは刹那のみに許された顔なのだ。


ふとライルの身体から完全に力が抜けた。


目に涙を湛えながら荒い息をしてぐったりとしたライルに、刹那は笑いかけた。
「どうした。もう、お終いか?」
その言葉にライルが悔しそうに顔を歪める。その表情を観た途端、刹那の背筋を興奮が駆けあがった。
「!!!」
興奮のまま、刹那はライルの唇に自分のそれを重ねる。顔を背けようとするのを、右手でがっちりと顎
を固定して、左手を額に当ててライルを仰け反らせる。こうすればなんの抵抗も無くライルの口内に刹
那の舌が侵入できる。体力に続き呼吸すら奪われて、悔しいのだろう。ライルが呻いている。
(本当に可愛い)
刹那はライルを愛している。そうでなければこうやって手を伸ばそうとは思わない。最初は自分の気持
ちをライルに告げていたが、彼が兄であるニール・ディランディを知る刹那を受け入れる事は無かった。
頑なに拒まれて、とうとう刹那の方が切れてしまったと言って良い。ニール・ディランディが刹那にと
って譲れない大事な兄貴分であるという事実を否定する気はない。だが刹那がこうまでして欲するのは
ライルだけなのだ。


だから告げる。


楽な諦めの道を選ばせないように、ニールの代わりであるという逃避を許さないように。


「俺が抱きたいのはお前だけだ。他の誰も抱いたりはしない。それが例えお前の兄であったとしてもだ」
聞きたくない、そんな顔でライルはやっと解放された唇を震わせる。


「俺はライル・ディランディだからこそ、欲しいんだ」
絶望した表情で自分を見上げる彼に微笑みながら、刹那はその身体に纏った服に手を伸ばした。



★相変わらずの黒い刹那。ただ私の書く刹那はどのパターンでもライルを求めるのに貪欲です。基本で  すね(笑) 戻る