02,すべてを擲つ 


俺の弟は、大きな鎧の姿をしている。
馬鹿にすんな、元からこうじゃねえ。
だけど今のこの現状ではそう思われても仕方が無いがな。
だから、決めてんだ。
すべてを擲ってでも、弟を元に戻すんだって。


エルリック兄弟は、心理的危機に陥っていた。
「兄さん・・・・・。」
「なんだ、弟よ。」
「凄いことになってるね。」
「正しくな。」
彼らの前には、酒に酔っ払ったらしい連中が、騒々しい音を醸し出していた。
「なんでこんなことになったんだっけ。」
「クソ大佐に売り言葉に買い言葉で、日々のお仕事お疲れ様癒し大会に出席するハメに陥ったんだよな。」
「そーだったねぇ。」
まさか、こんなすんごい状態の中に放りこまれるとは思ってもみなかった。当の本人はちゃっかりホー
クアイ中尉の隣をキープしたまま、ちょっと離れたお嬢さんに話しかけている。
「アハハハハハハハハ!!!暗いねえ、青少年!!!。」
兄の背中をさっきからバンバンと連打している女性が、笑った。
あんた誰だ。
多分他所の部署も混ざっている。この女性を兄弟は知らなかった。いい加減、背中も痛くなってくる。
大体目立たぬように、すみっこのはじっこに座っている兄弟に突撃してから、この女性は終始この調子
だった。叩かれるので、兄は飲み物すら満足に飲めない。一応子供なので、ノンアルコールにしてはい
るのだが。
「ばっちゃんって静かに飲んでいるんだな。」
「本当に。」
相槌をうってくる鎧の弟の横には、早々と潰されたらしいフュリー軍曹が弟に寄りかかって寝ている。
兄はそれも気に入らない。さらにのーてんきな女性が、バンバンと背中を叩いているのだ。これも気に
入らない。酒場というものに慣れていない兄弟にとって、これは大変な試練だった。
「ほんと、もっと元気出しなさいって!!」
「ぐぼぁ!?」
「に、兄さーーーーん!!」
半目で騒ぎを見つめていた兄の口に、これまたこの女性はウイスキーの瓶の口を突っ込んだ。慌てて兄
はその瓶を口から放したのだが・・・・・・・・下を向いて動かなくなった。
「兄さん!?」
「なーんだ、もう潰れちゃった。弱いわね〜。」
「コレ結構強いお酒でしょう?兄さん、お酒なんて飲んだことないんだから、潰れ・・・・て・・・。」
抗議した弟は違和感に気がついた。女性がニンマリと笑って立ち上がり、スススと弟の背中にやってくる。
嫌な予感・・・・・。
バァン!!!
予感は的中。その女性はまたしても上機嫌に、今度は弟の背中を連打し始めた。いやに空洞感ある音に
酔っ払いご一行様は振り向いたが、細かいことは気にしなくてもいいという大佐のフォローにより、再
び無法地帯に返る。
バァン!バァン!バアン!
そりゃ叩かれたところで痛みも何も感じないが、太鼓よろしく叩かれては、いい気はしない。そして振
動によって横で寄りかかっていたフュリー軍曹が、ずるずると滑り落ち・・・・・・・。
ゴイ〜ン
止める暇もあればこそ、いい音をたてて後頭部を弟のふとももに強打した。下手すれば弟が過失致死で
囚われるかもしれない。弟は慌てたが、別段変わったところはなさそうだ。元凶は、まだ叩いていた。
ほんとにあんた誰だ。
しょーがないなー、弟は早くも酔っ払いに対する扱いを覚えた。無視するに限る。そう思ったのだが。
「ああああああ!!!こ、この眼鏡童顔め!!!」
突然の大声。見ればさっきまでおとなしかった兄が、座った目で仁王立ちしている。
「ちょっと、兄さん。五月蝿いよ?」
「だまっとれるか、こん畜生!!」
兄、握りこぶし。
「お、俺だってまだしてもらったことないんだぞ、膝枕!!」
兄、滂沱。
「良いもんね!アルは俺の全てを擲ってでも、元に戻す!!そんでいっぱい膝枕とかピーーーな事とか
 ポーーーーな事とかするんだからな!!!」
兄、地団駄。ついでに放送禁止用語連発。
「なに言ってるの、兄さん!!」
弟は大変だ。フュリー軍曹が起きないか気を使い、後ろの女性に牽制をし(叩かれないように)、兄の錯
乱した言葉に対処しなければならない。
「アーーーーーハハハッ!!青春だね少年!!」
「アルは俺のモンなんだから、手ぇ出す奴は許さん!!!」
「ちょっといい加減にしてよね!?ボクはモノじゃないよーーー!!!」



ワーワーと大騒ぎしている彼らに、大佐は満足そうに頷いた。
「良いぞ、鋼の。正に王道な酔っ払いだ。なるほど、そういう意味でベッタリひっついているわけだ。
 これは素敵なことを発見。・・・・・・おお、弟が鋼のにチョップを食らわせたぞ。」
「大佐、手刀で良いのでは。」
真顔で突っ込むのはそこか、ホークアイ中尉。大佐も慣れているのかそうだね、とか言っている。そん
な彼らの目の前で、兄にチョップを食らわした弟はフュリー軍曹を寝かせ、女性の興味をはぐらかし、
兄をひきづって、失礼しますと挨拶をした。大佐はヒラリとそんな兄弟に手を振り、弟のなかなか小さ
くならない背中をニヤニヤとして見送った。
「ははは、明日からが楽しみだな。アルフォンス君にちょっかいをかけるのが、面白くなってきた。そ
 れこそすべてを擲ってでも、弟を守って見せたまえ。」
「大佐。」
「人間、なにか楽しいことが無い限りやっていけんよ中尉?」
実に楽しそうに言う大佐に、肩を竦めて中尉はため息をついた。


色んな意味で弟のためにすべてを擲て、兄!頑張れ兄!!



★エドアルっぽくないかもしれませんが、書いてる本人はヤマトが波動砲を撃つぐらいファラオな道の  エドアルだと思っております。兄さんは、弟を元に戻すという目的までは純粋な思いでございます。  問題はそのあとですな。そりゃもう、色々と・・・・・ねぇ? 戻る