08, 一は全 全は一 



「さあ訊こうか、一は全 全は一とは?」
修行というか、崖っぷちな一ヶ月を過ごした自分達に、師匠と仰ぐ予定の女性はそう尋ねた。
「全は世界!」
自分が答える。
「一はオレ!」
兄が答える。自分かよと兄を見ると鼻の穴を大きくして、更に鼻息荒くふんぞり返っている。その態度
を見て女性が笑い出した。
「合格だ!」
と。


思わずその時のことを思い出しクスクスと笑うと、兄が目ざとく気がつく。
「どーしたアル?えらく楽しそうだな。」
弟の喜びは兄の喜び(確定)兄の喜びは弟の喜び(一部除く)が信条である。兄はさっそく弟が楽しそうに
笑った事に関して、興味深々になっていた。
「大したことじゃないよ。」
「大したことなくても、お兄ちゃんに教えなさい。」
大通りを歩いているというのに、兄は弟に擦り寄った。ただでさえ弟の鎧の図体が目立つ兄弟だ、ちっ
こい少年(兄)が甘えるように擦り寄って行く姿も、やっぱり目立つ。その視線に気がついた弟は、兄が
次の行動に出る前に先手をうった。
「兄さんさ、修行したあの一ヶ月覚えてる?」
「当たり前だろ、あの体験は棺おけの中まで持ってくつもりだぞ。」
「・・・・・ええと、その時に師匠に尋ねられたよね。全は何か一は何かって。」
「おう。」
「ボクは真面目に全は世界って言ったのに、兄さんときたら一はオレ!って大イバリしてたなあって。」
「ほう、その時兄ちゃんに惚れたか。」
「惚れない(キッパリ)。」
弟の愛溢れない返答に、兄はわざとらしいまでにガックリと肩を落とした。まあ、いつものことなので
弟も兄も大して気にしない気にしない、一休み一休み。
「でもな、今はもうちょっと違う全と一があるぞ。」
「へーそーなんだ、それなんなの?」
弟は素直に感動して、兄に問うた。兄さんって本当に頭良いよね〜という軽い気持ちで。しかしその軽
い気持ちの後で、何回後悔したかわからない。
「全をオレに仮定するとだな・・・。」
「随分とちいさ・・・いやいや限定されている全だね。」
「なんか引っかかるがまあいい。一はアルなんだよ!」
「はあ!?」
早速弟は後悔をし始めた。後悔先立たずとは昔の人はいい事を言っている。
「なにそれ?ボクが兄さんより劣っているってこと?そりゃボクじゃ12歳で国家錬金術師にはなれな
 いけど。」
「なにを混乱しているんだ、弟よ。お前は滅法頭良いんだぞ?国家錬金術師だって余裕で受かるぞ?た
 だオレがさせないだけだからな。そんだけのことだ・・・・ってオレが言いたかったのは違う!」
「ならなんなのさ、身長なら絶対ボクの方が高いよ。」
「背のことは言うなー!違うって、オレはアルでできてるんだってば。」
一応兄の言いたい事は分かったが、なにかそうなんだーで済ましたら生き物としてなにか自分にとって
大切なものが失われるような気がする弟。それについうっかり兄の中で蠢いている無数の小さい自分(何
故か鎧姿)を想像してしまい、怖くなってしまった。
「兄さん、そこって感動する場面なのかな・・・・?」
恐る恐る訊くと、兄はふんぞり返った。
「当たり前だ!」
自信満々で答えてくる辺り、兄の神経を疑う。
「じゃあさ、兄さんが全で一が大佐だったりしたらどう?」
「ヤだ。」
即答か、兄。
「ついでに言うと、全がアルで一がクソ大佐だったりしたら真理君トコへクソ大佐を捧げてやるから、
 安心しろ。」
何を、どう安心するのか全く分からない弟ではあったが、言外に全が弟だった場合一は自分であると主
張したいらしい兄の思考は分かった。認められないことだが・・・・。黙り込んで首を捻る弟に、流石
の妄想の旅人である兄も旅から帰ってきたらしい。
「い、いやはや全と一の関係とは奥が深くて難しいなあ、弟よ!」
先ほどまでの勢いもどこへやら、一転して弱気になる兄。心なしか声もちょっと震えている気がする。
自業自得と言えば、自業自得なわけなのだが。弟はこの弱気な発言に突っ込むかどうするか迷ったが、
明日の自分のためにも華麗にスルーすることに決めた。
「そうだね、兄さん。」
不毛な会話はもうお終いとばかりに背を向ける弟に、ちょっと残念な気もしたが兄は素直にその後をつ
いていった。


★たった半年で終了する修行期間ってなにかしら?と原作を読んだ時に思ったものです。しかし生死の  境を彷徨った彼らだったからこそ、技術的なことは飛躍的に成長したんでしょうね。心は成長できな  かったようですが。今の所、兄の生きる目的の全てが弟に直結しておりますので、全が兄なら一は弟  だなーと考えた結果いつものように頭の悪い話ができました(笑) 戻る