11, 光の庭  


弟は立ち尽くした。
人生何年かは知らないが、こんなに立ち尽くす場面なんて普通の人生を送っていればお目にかかれない
と思う。
原因はやっぱり兄。
頭が良いはずの兄。
立ち尽くす弟の目の前で輝く笑顔を浮かべながら、おいでこの胸へ状態。しかし自分が兄の腕の中に飛
び込んだら、きっと兄を潰してしまうという確信があった。結構強暴な鎧である。


弟は目を閉じた。
立派な現実逃避である。思い出すのは母が聞かせてくれた話だった・・・・。雪が降った次の日に晴れ
ていれば雪は太陽の光を存分に浴びて光り輝き、まさしく光の庭という形容が相応しいという話であっ
たという。
「でもね、実はそうなったら雪はちょっと溶けた状態になってすっ転びやすいのよv」
と夢見心地から現実に引き戻りしてくれた事も忘れていない。兄のどっかロマンがない所は母譲りかと
思う。そうは言われてもやはりあまり見た事のない雪を見たくてたまらない弟の気持ちを察知して、兄
は何処からか大きいタライを持ってきて水をはり、自分とて見たこともない雪を錬成してくれたものだ。
あの頃は「まだ」まっとうな兄だったとは思う。結局雪というよりみぞれに近いものではあったが、大
はしゃぎしてうっかりおパンツまでがぐっしょり濡れるまで遊んだ為、しっかり母に見つかって叱られ
た。兄は自分が無理に誘ったんだから、弟は悪くないと必死で訴えていたのを覚えている。結局2人し
て季節外れの風邪を引いて、幼馴染の少女にからかわれたものだ。・・・・・もっとも本人がその事を
覚えているかどうかは分からないが。


弟は目を開けた。
しかし事態は好転していなかった。当たり前だ、とどこかで冷静な自分が呟く。ただ目を閉じて開けた
だけでこの事態が好転していたら、人生楽なもんだと思う。
目の前には兄。
笑顔がうそ臭いまでに輝く兄。
弟は意を決するというより、思わず思っていたことを正直に言ってしまった。
「兄さん・・・電気代がもったいないよ。」
途端、兄の肩がガックリと落ちた。少しずつ小さくなっていき、最後にはしゃがみこむ。
「兄さん、どうしたの?お腹でも痛くなった?」
わざととぼける弟様であった。くすんくすんと兄がしゃがみこんだまま、落ち込んでいる。
「せっかく・・・はりきって、光の庭を演出したのに・・・。」
「その心意気はありがたいんだけどねえ・・・。」
弟は辺りを見回した。幼馴染の少女の家の庭に溢れる光・光・光。確かに光の庭ではあるが、その光の
源が問題である。光の源、それはステージなどに使う大きなライトだったのだ。モチロン、兄が錬成し
たものであった。そのライトのコンセントの先は幼馴染の少女の家に伸びている。これだけのライトを
総動員しているのだから、消費される電気量もバカにならない。幼馴染の少女の怒りは地の怒りでもあ
る為、大層おっかないのである。弟としては兄が幼馴染の少女に叱られる前に、なんとかしてあげたい
と思う。たとえ電気量がごまかせなくても。
「うっかり思い出してしまった若き日の甘酸っぱい想い出を、再現してみようと思ったのに。この季節、
 この国では全然雪がないからせめて光で溢れた庭を演出して喜んでもらおうと思ったのに・・・。」
兄はくすんくすん拗ねながら、そう言う。アンタ一体いくつだよ?という突っ込みはすんでのところで
思いとどまる弟。取りあえず、兄の機嫌を直してさっさと撤収させた方がいいと判断する。
「うん、有難う兄さん。その思いやりはとても嬉しいよ。」
ぴょこ、と兄が顔を上げる。もちろん鼻水の跡はない、嘘泣きなのは百も承知である。しれっとして弟
は続ける。
「でもさ、やっぱり光の庭は雪で見たいな。兄さんと2人だけでね。」
ぱああああ・・・・っと現金な兄の顔が輝く。ここまでくれば、もう安心だ(何が?)恐るべしというべ
きなのか、弟の機転は。
「さ、兄さん。とても嬉しかったから(棒読み)ちゃんと片付けようね。」
「おう!」
さっきとは一転して、いきいきぴちぴちとスタンドを片付け始める兄を手伝いながら、弟はこっそりと
溜息をついた。



★光の庭という題材は、他所様のところでは大変心温まる話が多いというのにこの体たらく。お題を見  た時、思いついたのはライトにジリジリと照らされながら微笑む兄でした。どーしてこうお笑いしか  書けないのか、私の大好きなヨーダ様(スターウォーズ)のフォースに訊いてみたい気もします。 戻る