14, 「君ってヤツは」 

どんより。
空はあんなに晴れているのに、この部屋の中の嫌になるくらいの重さはなんだろう。大佐は書類の影に
顔を隠して、ため息をついた。チラリと横を見ると、自分の優秀な部下達が同じ表情である一点を見つ
めている。その原因とは、15では珍しい背の低さを誇る最年少国家錬金術師。下を向いてボケーっと
している。どんよりオーラを最強レベルで放出しながら。
「鋼の。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「鋼の。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「聞いているのか!鋼の!!」
やっと兄はのろのろと顔を上げた。おお、目つきが最凶だ。
「なんだよ、俺の書類が不満だっつーんか・・・・・。」
どんよりオーラが気になって、全然書類なんか読めない。大佐は心の中で愚痴った。
「そういえば、アルフォンス君はどうした?」
ビックーーン
面白いくらいに兄はその言葉に反応を示した。ケンカでもしたか、そう思って大佐は口を開きかけたの
だが・・・・・。
「ケンカでもしたの?エドワード君。」
中尉が絶妙のタイミングで口を挟んできた。流石、サボリ魔を手に取る有能な大佐自慢の部下である。
大佐がこんなこと言おうものなら、兄は無駄に反発して大喧嘩になるところだ。そうなると書類の進行
が遅れてしまう、という素晴らしい理論を持つ中尉である。そして兄は中尉に弱かった。年上の女性に
対して、兄の年齢なら憧れを持っても不思議ではない。
「実はさ、ちょっと俺が暴れてたらアルが止めにきたんだよ。」
相変わらず苦労してんな、こいつの弟も。その場にいた全員がそう思った。
「んで、そうしてたらどっかのおやじがさ、アルに向かって”子供が我侭で苦労すんな、親父”って言
 ったんだ。」
そりゃ弟は大ダメージだな、とは思ったもののケンカに発展するにはちょっと足りない気がする軍部の
方々だった。
「そんでさ・・・俺もつい調子に乗って”ごめんな親父”って言っちゃったんだ。そしたらアルの奴、
 宿にダッシュで帰っちまって部屋に閉じこもったんだよ。そりゃ俺も謝ったさ・・・・・。」
ああ、その場面が目に浮かぶようだと大佐は思う。ドアを必死で叩いて、許しを請うている兄。当然必
死なので大声。そして近所迷惑という見事なコンボが成立することまで、想像できる。
「大将、んで結局入れてもらえなかったのか?部屋。」
ハボック少尉が思わず、と言う感じで訊いてくる。
「いや・・・・。暫くしたらドアが開いてたから中に入ったら、ア・アルがいなくて・・・・。」
がっくりと肩を落としてさらにどんよりオーラを放出する兄。
「それは大変ね、エドワード君。あめ玉あげましょう。」
本当に慰める気があるのか、中尉。しかも大玉なあめ玉を兄に向かって、差し出している。反発するの
かと思いきや、項垂れたまま兄は中尉からあめ玉を取ってポイ、と口にほおりこんだ。なんともフォロ
ーする気にもなれず、それぞれの仕事に戻って行った。中尉は外に出たようだったが。



ガチャ
ちっとも書類に目がいかない大佐は、ドアが開いたのでいつもの癖でそちらに目をやる。
ガシャン
聞きなれた鎧の動く音。その音にやはり誰よりも、兄が反応した。がばちょと顔を上げる途端、パアア
アと顔が明るくなる。さっきまでの死人仕様がウソのようだった。鎧の弟の隣には、済ました顔をした
中尉が立っている。どうも彼女が弟を呼んだらしい。
「アルッ!!心配したぞ!!」
そーだろーなーと思う軍部の方々。兄のブラコン振りは普通じゃない、ということは異常か。いやそー
ではなくて、あんなに弟思いの兄である。しかし当の弟はキョトンという感じで、首を傾げた。犬や小
鳥がよくやって飼い主を悩殺する小首かしげアタック(無自覚)が炸裂。
「?なんでさ、ボクちゃんと置手紙してったじゃない。兄さんが頼んでた本が届いたって、図書館から
 連絡きたから取りに行ってきますって。それから兄さんに謝る文書いてったよ。」
なんですとーーーーー!!!聞いてねぇぞ、そんな話!!!軍部の方々は心の中で叫んだ。それこそ心
意気では世界の中心で、不条理を叫ぶという感じだ。大佐はガックリと肩を落とした。
「そりゃ、分かってたけどさ!心配じゃん、大事なアルが一人で出かけるなんて。」
こ、このブラコン馬鹿!!!過保護にも程がある!!と更に軍部の方々。そんな軍部の方々の殺気すら
伴った暖かい視線を受けても、兄弟はビクともしなかった。流石天才錬金術師コンビだ。天才というも
のは、どっかしら非常識なものだったりする。
「ところで兄さん、終わったの?」
「ん〜、良いんだよ。さ、帰ろう弟よ!」
即答してくる兄に、弟は問いかけるように大佐を見た。大佐としてもこれ以上、仕事のやる気を削がれ
るのはゴメンこうむりたいので、かなりいい加減に頷いた。ちょっと不思議そうに大佐を見ていた弟は
兄に背中を押されて、ドアの外に出て行く。
「ち、ちょっと兄さん、押さないでよ!」
「軍の施設なんかにいたら、アルが穢れちまうからな。早く帰ろうぜ!!」
・・・・・俺達汚物っすか、国民の平和を守っているつもりなのにこの台詞。貴様、サヨクだな?と嫌
んな気持ちになる、悲しい軍部の方々であった。
「鋼の。」
弟と共に、今まさにドアを出ようとしている兄に、大佐が声をかけた。うん臭そうに振り返る兄。弟に
対する態度とは、正反対のこの態度。
「まったく、君ってやつは・・・・・・・。」
苦笑する大佐に、兄はにやりと笑った。
「知ってんだろ、オレはアルさえいてくれれば良いんだよ。」


その子供丸出しの思考に、苦笑するしかない大人達だった。



★大佐や軍部の方々の、運の無い日。兄さんは特にアニメでは弟に逃げられた後が、カモン鬱病状態に  なってしまうのを見て、今の所本当に弟以外どうでも(正確にはそうでもないんでしょうが)良いんだ  なあと思いましたね。これについては兄さん至上主義の友人も同意してくれました。弟にも友人はい  ないけど、兄さんにもおらんよとアナタ本当に兄さん至上主義ですかというような感想も言ってまし  た。 戻る