15, ケンカのあと


「うわ〜ん、兄さんのかばーーーーー!!!」
「なんだと兄ちゃん、両生類か!」
「かばは哺乳類だよ〜〜〜〜!!!」
走り去っていく弟の背中を、兄は大分ずれた認識で見送った。これがケンカのあとの始まりだった。



「で、あんたアルになにしたの?」
溜息と共に、幼馴染は兄に訊いた。弟とケンカした後は、必ず幼馴染の家に転がり込んでぶつくさ言う
のが兄のいつもの行動だったので幼馴染はうんざりした。やっとこさっとこ2人して元に戻り、リゼン
ブールへ帰って来たのは嬉しかったがこう毎回ケンカの後の愚痴聞きをするのもしんどいものだ。
「アルがさ、この前できたっていう彼女とデートに行ったんだよ。」
「へえ、また?もてるわねえアルは。」
「で、俺はアルがキチンとデートできているか心配で心配でたまらなかったから、ついて行ったんだ。」
「よくアルが許したわね。」
「何を言う、あいつには内緒でだ。待ち合わせしているところを暖かく見守ったり、映画に行けば1つ
 後ろの席で微笑ましく見守ったり、カフェに入ればちょっと離れたところから優しく見守ったり。」
「・・・・・・・・素顔で?」
「ちゃんと便利アイテムを用意しているぞ!」
兄が鼻息荒くごそごそとポケットから取り出したのは、つけ鼻(メガネ・ヒゲ完備)であった。どうもこ
れを装着して行ったらしい。まさしくお巡りさんにしょっぴかれても、文句が言えないほどの立派な変
態ぶりであった。幼馴染はめでたく頭痛を覚えた。
「んで、アルにみつかったの?」
「そんなドジ踏むか。アルには見えないようにしたさ、アルにはな。」
つまり弟とデートしていた少女にはばっちり見せていたわけだ、自分の変態振りを。しかも確信的に、
である。そりゃどこへ行ってもつけ鼻(メガネ・ヒゲ完備)を装備したチビが視界に映るのだ。どんな少
女でもうすら気味悪く思うに違いない。
「俺はただ、アルのことを思って行動しただけなのにっ!!」
「エド・・・・・」
「んだよ。」
「あんた、本当に自分にウソつくのが上手くなったわね。」
幼馴染はクールかつさらに容赦がなかった。真実を言われて、兄は心持しょんぼりしてしまった。弟を
激愛する兄にとって、自分から弟を取っていく女性は天敵だ。しかしあからさまに動けば弟にも叱られ
るし、自分にも流石に罪悪感がある。そこで兄は弟を心配するよき兄貴を演出するべく、自分の本音に
一見優しげな意思をオブラートに包んでいるのであった。そうすれば周囲は弟の心配をするあまりの行
動と判断し、兄に同情的になっていく。兄が狙っているのは、正にこういうことなのだ。ちなみに兄が
弟のデートを潰したのは今回が初めてではない。自分の身体を取り返し、やっと青春を謳歌できるよう
になった弟は、女の子にもてた。顔は良い、性格も兄以外になら結構優しい(兄には厳しめ)、頭は実は
兄の方がいいのだがそれでも弟は頭の良い方に余裕ではいる。そんな男の子を女の子がほっておくこと
はない。かくして、弟はモテモテになってしまい兄は気が気ではなくなった。で、最初は嫉妬丸出しで
邪魔をしていたが、その度に弟に激怒されてしまう為作戦変更。上記のような理由をつけるようになっ
てしまったのだ。
「可哀相・・・。」
「俺がか。」
「アルがよ。」
「そうか。」
「あんたに限って言えば、頭がってところかしら?」
「・・・俺これでも最年少国家錬金術師ですけど。」
「お勉強ができても、馬鹿な子っているのよね。」
流石に反論できなくなったらしい兄が、黙り込む。しかし幼馴染には分かっている。もう兄の頭の中に
自分はいない。そろそろ弟が走り去ってから3時間ほど経っている。兄はなんとか弟の機嫌を直しても
らおうと画策中なのだ。弟は兄の企みを見抜くのが上手い。下手に機嫌をとろうとすれば、反対に激怒
してしまう可能性が高いのだ。幼馴染は呻く兄をさっさと置いて、どこかへ消えていった。しかし自分
が考え出すと周りが見えなくなってしまう兄は、そんな変化にもとんと気がつかない。集中力が凄いと
いう褒め言葉にはなるのだろうが・・・・・。

部屋に戻ってきた幼馴染は、手になにかを持っている。
「エド。」
「あ?」
兄が見るとそこにはアップルパイがあった。今は亡き親バカさんの奥様から習ったという、アップルパ
イ。弟の大好物の1つだ。
「これ持って帰りなさい。仲直りのキッカケにはなるでしょ。」
そう助言すると、パッと兄の顔が輝いた。幼馴染は慣れた手つきでパイを2人分切ると、包んで兄に渡
す。
「ちゃ〜んとアルに謝るのよ?」
「おう!サンキュー、ウィンリィ!!」
さっきまでの口を尖らせていたのもどこへやら、まったくの上機嫌でいそいそと兄は帰って行く。
「ほんと、バカよねえ。」
そのあっという間に小さくなる背中を見つめながら、幼馴染は苦笑した。ケンカしてもなにしても、弟
は律儀に兄の下へ帰ってくる。本当に嫌いなら、帰ってなんてこないはず。たとえ彼女ができたとして
も、最終的に弟は兄の元に帰ることを選択するのは火を見るよりあきらかだ。
「愛されてんのよ、あんたは。」
もう全く見えない背中に向けて、幼馴染は呟いた。


★そしてまた弟のデートに同じ事を繰り返す兄。怒る弟。呆れる幼馴染。という二等辺三角形みたいな  ナバーエンディングストーレー(ちゃんとストーリーと書かんか)素敵ですねv正気かというつっこみ  は断固として受信拒否させていただきます。アップルペーは私も食べてみたいですね、幼馴染特製の。  運がよければスパナを賞味できる特権つき!入れ歯の準備をいたさねば・・・・(いそいそ) 戻る