16, 髪結い


弟はベッドに腰掛て本を読み、兄は同じベッドに寝転んで本を読んでいた。兄の頭の場所にちょうど弟
が腰掛けていた為、鎧の頭の飾り毛(?)が兄の横でふらふらしていることが多い。兄は無意識にだろう
その飾り毛を右手で握り締め、クイクイと引っ張る。弟は感覚というものがないので、全く気がつかな
かった。しかし兄がグイッと飾り毛を引っ張った為、頭がコロリと後ろに落ちた。
「なにするの、兄さん。」
「ん?ああごめん。」
そう言いながら、兄はゴロンと仰向けになって笑った。
「なあアル?」
「ん?」
「本当の身体が戻ったらさ、髪を伸ばしてみねぇ?」
「?なんでさ。」
弟はそこで初めて本を閉じて、身体を斜めにして兄を見る。もちろん頭の部分は外れたままだが、兄に
視線を移したことは分かる。
「そしたらさ、俺と同じみつあみにしてさ!立派なペアルックだぜ!」
ずる
弟は斜めのまま、ベットからずり落ちた。
「ペアルックって・・・・服だけじゃないの?」
突っ込みはそこか、弟よ。
「なに言ってんだ弟よ!ペアは良いとして(何が?)ルックは見るって意味だからな。髪型でもお揃いな
 ら立派なペアルックだ。うん、そうしよう。」
いきなり結論にたどり着いて、満足そうに頷く兄。弟は兄の詭弁やらには慣れてはいるが、押し返す方
法には未だに見つけられずにいた。だから適当に
「あ、そ。」
と答えたのだった。



と答えた自分をここまで呪うことになろうとは思ってもみなかった弟であった。目の前には手をわきわ
きさせる当時より成長した(当たり前だ)兄がいる。しかも笑顔全開。弟は冷や汗をたらしながら、1歩
後ずさった。しかし兄は2歩進んでくる。その差1歩。ちりも積もれば山となる、なんて呑気に構えて
いる場合じゃないと弟は必死で己を叱咤した。甘かった、言い出したのが幼馴染の少女だった為、油断
してうっかり髪を伸ばしてみたのだった。兄とグルだったのかもしれないし、そうでなかったかもしれ
ない。真相は今の所闇の中であった。しかし今優先されるべきは、いかにこの状況から逃げ出すかとい
う一点に尽きる。
トン
後に下がるのも部屋の中では限界がある。とうとう背中に壁がつく。
「ふっふっふっ〜、もう逃げられないぞ。弟よ。」
笑顔。
「やっと俺の念願が叶う時が来た・・・・。」
いや念願だったのは、弟が元に戻ることとだったのでは・・・?
「長かったぜ・・・・・。」
いやそこでしみじみされても、困るんだけど。
「さっ、俺と色違いのリボンを付けて村へGo!」
兄の手には可愛らしいおピンクのリボン。兄の背後にあるテーブルには、同じタイプの青いリボン。こ
んなリボンを付けたくないというのも大有りだが、旧友が(他に比べて)多いこのリゼンブール村で闊歩
したくはない。人としてなにか大切なことを失うような気がする。
「に、兄さん・・・。」
「なんだ?弟よ。言っとくけど今度はふいをつかれないぞぅv」
鎧の時もそうだったが、我侭言う兄を持て余し(口では勝てない)ふいをついて手刀をかます、空しい人
生を歩んできた。しかしちょっとこの方法を多く使いすぎたようだ。弟はがっくりと肩を落とした。
「・・・・分かったよ・・・・・・。」
「おお分かってくれたか、弟よ!」
「その代わり!!」
ビシィっと兄を指差す。その剣幕に兄が少しびびった。
「リボンはしない!絶対に!!」
「ええ〜〜〜!!??」
途端に情けない声を出して、兄は仰け反った。その姿に思わずグーでパンチキックをしたくなった弟で
はあったが、寸前で思い止まる。さっきまでの押されていた姿もなんのその、弟はふんぞり返って更に
腕組みをした。その前ではおピンクのリボンを咥えて「くっ」とかほざいている兄。その頬に流れる涙
は本物か偽者か。
「どーするの、兄さん?ボクはどっちでも良いよ・・・?」
ふふんと鼻で笑う弟であった。人間優位に立つと自然に笑顔が錬成されるらしい、弟は般若のよーな笑
顔(どんなだ)で兄に言った。決して他の人には見せない、弟大将軍の降臨である。
「・・・・・・分かった・・・。リボンは諦める。」
可哀相なぐらい肩を落として兄は答えた。リボンも彼にとっては必須事項であったらしいが、背に腹は
変えられない、ということであろう。しょんぼりとリボンを机に置く兄の背には哀愁が漂っていたが、
クルリと振り向くともう満面の笑みだった。切り替えの早い奴。
「じゃ、ここの椅子に座れアルv兄ちゃんが髪を結ってしんぜよう。」
「自分でできるよ。みつあみだろ?」
「兄ちゃんがアルの髪を結ってあげるから。」
「いやだから、自分で出来るってば!」
「・・・・・兄ちゃんにアルの髪を結わせて下さい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
いきなり下手に出る兄であった。根負けした弟は、溜息と共に兄の指す椅子に座る。なんだかんだ言っ
て、兄に甘い弟である。兄が嬉しそうにいそいそと、弟の髪を手に取る。
「兄さん、一応牽制のつもりで言っとくけど。」
「なんだ?」
「みつあみ作成は1本だけだからね。両端に2本のみつあみはするなよ。」
「えっ。」
思わず、といった感じで漏らされた兄の言葉に弟は自分の勘が当った事を悟る。兄は自分とお揃いとい
うのであれば、ニーナのような髪型にしてても平気であろう。最近益々視野が狭まったよーな気がして
心配な弟であった。しかし自分が巻き込まれるのは、ゴメンこうむりたい冷静な弟。
「し・な・い・で・ね・?」
声を低くして呟けば、力なく「はぁい」という返事が返ってきた。自分の髪を編む兄の指使いに気を配
りながら(どこか警戒心を解けない)、弟は溜息をついた。きっと幼馴染の少女に笑われるだろーなーと。
良かった、まだこんな姿見られたら憤死しそうな彼女とかいなくて。
弟はふつーに女の子好きなのでそー思ったのだが、兄はふつーに弟好きなので(すでにふつーじゃない)
そう思ったことは秘密にしようと思う弟であった。



★髪結いといえば、みつあみ。みつあみといえば髪結い。と言うかどうかは知りませんが、とにかくこ  のお題を見た時に思い浮かんだのはお揃いのみつあみをして、お手てつないでスキップする彼らでし  た。もちろん兄はねじが抜けるどころか、どこか遠い所にぶん投げる勢いで笑っており、弟は顔面蒼  白。ふんころがしも、ふんを転がす暖かな午後。・・・・・なんだか一気に生暖かさが無くなった気  もしますが、気にしません。 戻る