18, 枯れた花 



エルリック兄弟がいつものごとくいきなりやって来て機械鎧の調整などで大騒ぎした後、幼馴染の少女
はぼんやりとリビングで暖かいコーヒーを飲んでいた。
「まったく、ほんといつも突然来て突然どっか行っちゃうんだから困ったものよね。」
ブツブツと文句を言いながら幼馴染はふと壁に目をやった。壁にかかっているものを見て、思わず笑み
がこぼれる。
「どーした、ニヤニヤして。脳みそが機械鎧にでも変化したか?」
「そうね、でもあんたの脳みそが弟に向かって溶けてるよりはマシよ。」
からかいには毒舌で返すのが信条の幼馴染であった。見れば騒ぎの張本人の兄が、手持ち無沙汰で立っ
ていた。
「あら、アルは?」
「デンと散歩だ。オレも行きたかったが、たまにはデンと2人(?)っきりで散歩したいと・・・・。」
「振られたわけね。」
幼馴染は容赦がなかった。兄はほっとけよと口を尖らせる。
「んで?何をニヤニヤしていたんだ?」
「アルの事に関する、アンタの知らないことよv」
「教えてくださいませ、ウィンリィ様。」
いきなり低姿勢になる兄である。どーも自分の知らない弟に関する記憶というものが気になるらしい。
「ん〜どっしよっかな?」
わざと迷ってみせる幼馴染であった。弟の話題を出せば、兄まっしぐらである。しかし肝心の弟といえ
ば、そこまで自分の知らない兄というものは関心がないらしい。話題を振るほうにしたって、リアクシ
ョンが返ってこなければ面白くもないし。というわけで兄が幼馴染に振り回される、愛しき日々(?)が
展開されることが多い。案の定、兄はそわそわして幼馴染の表情を伺っている。やれやれ、兄弟ってこ
んなに密着しているものなのかしら、と幼馴染は思った。もちろん兄の弟への密着度は普通ではない。
「じゃ、今度帰って来た時にちゃ〜んと機械鎧のお手入れがしてあったら教えてあげる。」
「おせーよ、それじゃ。」
「なによーせっかくの交換条件だったのにー。」
口を尖らす幼馴染。彼女の気持ちも分からないではない。一生懸命造った最高級機械鎧をあっさりとぶ
っ壊していたり、お手入れが全然されていないと一目で分かる状況になっていたりと結構散々である。
兄の方も心当たりが多すぎて、なんとも言えなくなってしまう。
「じゃあさ、今度セントラル寄った時に土産買ってくるから。」
食い物で釣る気満々。しかし幼馴染にも悪い話ではない。セントラルはことのほか、スイーツが美味し
いのである。女の子は一概にスイーツが大好きだ。
「じゃあね、この前行ったケーキ屋さんのクッキー詰め合わせが良いなv」
「OK,商談成立だな?」
いつの間に商談になったんだ、兄。しかし幼馴染は突っ込むこともなく、ふと壁に目をやる。つられて
兄も壁を見る。そこにあるのはドライフラワーで作ったリースだった。
「まだアンタ達がふつーだった頃の話よ・・・・。」




「ねえウィンリィ、なんでこんなもの飾ってあるの?」
幼い声に振り返った幼馴染は、弟が指差しているものを見た。そこにあるのはついこの前貰った、ドラ
イフラワーで作ったリースだ。
「こんなものって失礼ね、アル?これ貰ったものなのよ、綺麗じゃない。」
幼馴染の少し拗ねたような言い方に、弟は慌てて掌を振った。
「ええと、ごめん。でもさ・・・・。」
なにか言いたげにモジモジする弟。ウジウジ君が嫌いな幼馴染は、更に機嫌が悪くなった。
「なによ、言いたいことがあるなら言ったらどうなの?」
「うん、あのさ・・・・可哀相だなって思って。」
「?なにがよ。」
「あれ、あのリース。」
「なんで可哀相なの?」
うん、と弟は頷いて口を開く。
「だってあれは、花の死体でしょ?」
「・・・・・はあ?」
「花のミイラだよね。」
「・・・・取り合えず言葉のニュアンスは分かったけど・・・。」
「死体を飾るのって、可哀相だなぁって思ったんだ。」
そう言って、弟は左手を頭の後ろに持っていってえへへと笑った。
「ふ〜ん、花の死体ね。それってうちが悪趣味って事なわけ?」
わざとさらに機嫌を損ねたように言うと、弟は更に慌てた。
「あ、いやそういうことじゃなくってさ。うん、ただそう思ったんだ。」
「優しいんだ、アル。」
「?別に優しいかどうかなんて関係ないと思うよ。」
予想していなかった言葉が返ってきたからか、目をパチクリとしている。幼馴染はなんだか楽しくなっ
た。
「分かったわ、じゃコレは外してもらうようにお願いしておくね。」
そう言って弟に微笑むと、弟も釣られたように嬉しそうに笑った。




「とまあ、こんなわけよ。」
ずずっとコーヒーを飲みながら兄の様子を伺うと、なんともはや言葉にするとデレーとした感じで笑っ
ている。鼻の下が完全に伸びていた。
「わ、気持ち悪い。」
棒読み風に言ってやると、慌てて表情を引き締める。
「んだよ、いいじゃんか。心温まる話を聞いてリラックスしてたって。」
「あんたのは常識を超えてんのよ。自覚あるんだろうけどね。」
「ほっとけって。それにしても流石アルは優しいなあ。」
ほけーっとした表情に戻って、満足そうに笑う兄。幼馴染はとっくに慣れっこになっていた為、動じる
こともない。
「あれ?じゃなんでここにコレが飾ってあるんだ?」
「この前ばっちゃんが倉庫から見つけてきたのよ。せっかくだしね、飾ってたわ。」
「ふ〜ん、アルの奴この事覚えてんのかな?」
「さあ?なんたってマンモスが歩いていた頃の話だもの。」
「・・・・・・・いくらなんでも昔過ぎねー?」
「そうかしら。」
「生まれるどころか、遺伝子の1つもない時代だぞ。」
「そう。・・・・・ねえ賭けてみない?」
「完全無視かよ・・・・って何を?」
「アルがコレに気がついて、このことを覚えているか。」
「・・・・・・良いぜ。じゃ俺覚えてる方にデンを賭ける。」
「ちょっと!なんでデンなのよ!?じゃああたしは覚えていない方にアルを賭けるわ!」
「アルは俺のモンだぞ!?なんで賭けの対象になるんだ!」
「デンだってあたしんちの犬よ!?悪い!!」
「何だと!?」
「何よ!?」
「・・・・・まったく、目を離すといつもこれだね。止めなよ2人共。」
突然可愛らしい声が割って入ってきたので、2人はその方向に向く。そこにいたのは4本の内1本だけ
を機械鎧にしているらしい黒犬と、大きな鎧。さっきまで鼻息荒く争っていた2人は、さっきまでの険
悪さもなんのその。ニヤリと笑って鎧の弟ににじり寄る。
「・・・・な、なに兄さんもウィンリィもどうかしたの・・・・?」
心なしか後ずさり、声も震えている鎧に2人はにじり寄った。





★弟の運命や如何に!タコに!フグに!しょっぱなから失礼致しました。ドライフラワーって言ってみ  れば魚の一夜干しみたいなものよねvという私の中のロマンが欠片もない発想から生まれた話でござ  いました。え、どっちが勝利したかですか?さあ弟も記憶力良さそーでも、なんだかぽっくり忘れて  いる気がします。ということは弟は幼馴染のものですか。うん、それも良し!(ええっ!?) 戻る