19, 銀時計 



兄が東方司令部に出かけていった。理由は国家錬金術師に受かった為、その証である銀時計を受け取る
為である。
「ほんじゃ行って来る。アル、良い子にしてろよ。」
まるで近くの店に行くような感じで言うのね、とは幼馴染の少女の感想だった。実際国家錬金術師はか
なりの難関で有名だ。その合格率は目を覆わんばかりに低い。まあそんな莫大な研究費をポンポン出し
ていられない、という事情もあるのだろうが。


「アル〜ただいま〜。」
ついさっき旅立ったはずの兄は、済ました顔をしてもう帰ってきた。
「アンタ、ここはアタシん家なのに、最初に声をかけるのはアルなわけ?」
ジト目で睨む幼馴染に、兄ははっはっはとわざとらしい声で笑う。
「あったりまえじゃん、アルは俺の大事な弟なんだから。」
「ふ〜ん。」
「な、なんだよ、その意味ありげな目は!」
「弟・・・・ってだけじゃないでしょ?ん?」
「・・・・・・ウィンリィさまにお土産、ちゃんと買ってきました。」
「あらありがとv悪いわね〜v」
まるで悪代官と越後屋の会話のようだった。兄は弟に兄弟以上の大いなる愛情をたっぷりと注いでいる
のだが、幼馴染にバレてからはこのネタでなんやかんやと強請られていた(笑)しかも弟にアプローチを
かけようとすると、どこからともなくやって来て弟を掻っ攫ってしまうのだった。弟はそんな兄の大い
なる愛情にまったく気がつかず、幼馴染による弟擁護の行動にもまったく気がつかない。いっそ清々し
いほどである。兄が幼馴染にスパナを持って追いかけられているのも、兄が弟に不埒なことをしようと
して幼馴染に発見されどつきまわされているなんて考えもしない。兄さんったらま〜た機械鎧を粗末に
扱って追いかけられてるなとしか思っていない、兄には辛い状況であった。
「銀時計貰えたの?」
「・・・・・一体俺が何の為に、東方司令部くんだりまで行ったと思ってるんだ・・・?」
「ふ〜ん、見せてv」
「俺の話、聞いてねーだろ、お前。」
「い〜じゃない、見せて。」
「だ〜め、最初にアルに見せるんだから。アルは?」
「ケチ。いつものように、2階にいるわよ。」
「そっか、サンキュ。」
兄はあの小さい身体のどこから出すのかと疑問に思うほどの騒々しい足音を響かせて、階段を上ってい
った。


ばった〜ん
別に意味もなく大きな音をたてて、兄は扉を開けた。その音に外を見ていたらしい弟は振り返る。
「あ、兄さんおかえり。」
「おう、ただいま。」
スタスタと弟に近づく兄。
「アル、お帰りのちゅ〜は?」
「はっはっは、その冗談面白くないよ?兄さん。」
まったくそーいう意味で相手にしていない、本能的に賢い弟であった。というか慣れっこになってしま
った、ということかもしれない。
「ほら、アルこれを見ろよ。」
ポケットからゴソゴソと銀時計を見せる。
「あ、本当に銀時計だ。兄さん、良かったね・・・・というべきなのかな・・・?」
「ん、まあこの時点ではな。でも凄いぜ、コレ。」
「うん、凄いね。コレについている特権が、でしょ?」
「ああ、それもあるけどさ・・・。」
得意げに兄はその銀時計をパカ、と開けて弟に中を見せた。そこには別に変わったこともなく、ただた
だ時計の針が時を刻んでいる。弟は首を傾げた。どこが凄いのだかさっぱり分からないし、見当もつか
ない。
「・・・・ゴメン兄さん、どこら辺が凄いの?」
「何言ってんだ、特権も凄いけどコレ時間が分かるんだぜ!!」
弟は・・・・・・弟は言葉に詰まった。銀「時計」なのだから時を刻むのは当たり前だ。なのに何をこ
んなに得意げになっているのだろう、この人は。なにか勘違いしているのではなかろうか、この兄は。
しかし何を根拠に勘違いしているのか分からない。天才となんとやらは紙一重と言った人がいたらしい
が、その人は本当に頭が良いんだなあと痛感する弟だった。
「どーした、アル。凄いだろう?」
一瞬頷く楽な道と、過ちを正す苦な道を取るか迷う弟。
「うん、そうだね。兄さん。」
一瞬の迷いの後、楽な道を取った弟であった。しかし楽な道を選んだ弟を責める人はいないだろう。誰
もがこんな状況なら弟に同情する。
「そうだろ?ヘッヘッヘ。」
得意げに鼻をこする兄は、弟の葛藤に気がついているのかも定かではない。きっと弟が生身だったら遠
い目をすることで、この状況の不自然さを感じ取れたのかもしれないが。
「さて、これで当面の資金は確保できたからな。色々と元の身体に戻る方法を探しに行こうぜ!!」
「うん、一緒に元の身体に戻れると良いね。」
「何言ってんだ、絶対元に戻れるってば!!」
上機嫌ではしゃぐ兄を見て、弟は頼もしさと不安を混ぜこねたよーな心境を味わうのだった。


兄さんが絶対人前で銀時計を「時間が分かる」と自慢しないように、気をつけなくちゃ・・・・・。




★兄さんがバカっぽくってすみません。え、いつものことですか?暖かいお言葉有難うございました。  私の頭の中の幼馴染トライアングルは兄→弟←幼馴染のようです。まあエドアル者ですから、弟が中  心にくるのは至極当然なので気にしません。ただし幼馴染は弟に恋愛感情は持ってませんが。兄の弱  点をついてからかうのが楽しいのです。 戻る