大騒ぎ




 










お正月


          今年のお正月はライが日本人の血を引いていると言う事で、サヨコさんに頼んで純日本風にしてみた。
          ライは初めて見るだろう「おせち」に目を輝かせ、美味しいとパクついていた。そのライの喜ぶ姿にル
          ルーシュとナナリーは、嬉しくなった。こんなにも無防備に喜びを表すライは珍しい。


          食事も一段落し美味しい日本茶を啜り終えサヨコさんが新しいお茶の用意の為、湯飲みを片付けたその
          時だった。

          ガシャーーーーン!

          正月早々、窓が割られて黒い物体が飛び込んできた。
          「ごぶっ!」
          その黒い物体はルルーシュの後ろ頭を思いっきり踏んずけ(ルルーシュは窓に背を向けていた)その勢
          いを更に増してライとナナリーに飛び掛っていく。ライがナナリーを庇うように抱きしめる。しかし
          「とぉ!」
          「うわっ!」
          人類最強のくのいちであるサヨコさんが、その挙動を許さない。黒い物体はサヨコさんにキックをかま
          され、壁に激突した。
          「いたたたたぁ〜」
          ぼりぼりと頭をかいて、苦笑するその人物は・・・・
          「スザク!」
          「スザクさん!」
          ライとナナリーが同時に侵入者の名前を叫んだ。ルルーシュはまだ後頭部にはっきりと足跡がついてい
          る状態で、テーブルにつっぷしている。どうも顔を激突させたらしい。時々かすかに唸る声が聞こえて
          きた。
          「やあv二人とも、あけましてめでとうv」
          あまりにもにこやかに言うので、ライとナナリーは呑気に「おめでとう」と挨拶をしていた。するとル
          ルーシュが、がばぁと跳ね上がった。
          「スザク!新年早々、器物破損で侵入した挙句、こともあろうに俺を踏み台にするとは何事だっ!目か
           ら火花が散ったわ!」
          顔をぶつけた為に真っ赤にさせて、ルルーシュは怒鳴った。しかし流石幼馴染、スザクはびくともしな
          かった。
          「おや、いたのかいルルーシュ。ア・ハッピー・ニュー・イヤーv」
          「ええい、いけしゃあしゃあとこの男・・・・・」
          ぎりぎりと歯軋りをして、ルルーシュはスザクを睨みつける。
          「そういえば」
          突然サヨコさんが口を挟んできた。
          「今日はスザクさんは、警備の仕事があるとおしゃってませんでしたか?」
          そう言うと、スザクはみるみると顔色を悪くしていく。さっきまで怒髪天だったルルーシュでさえ驚く
          ほどに。
          「お前・・・・・何したんだ・・?」
          訊ねるルルーシュの声が震えている。
          「何もしてないよ。ただ僕の人生の終焉が来そうだったから、逃げただけ。ちゃんとロイドさんの許可
           も貰ってる。・・・・・・きっとロイドさん、今頃天に召されているかも」
          「どんなヘヴンズドアだ、それ。・・・・ところでライ、いつまでナナリー抱きしめているんだ?」
          ルルーシュの突っ込みにハッとした2人が、慌てて離れる。と

          ぴんぽーん

          チャイムが鳴った。
          「僕は此処にはいない!いないからね!!」
          珍しく本気で主張するスザクに違和感を覚えたものの、ライとルルーシュで玄関のドアを開けた。
          「あけましておめでとうございます」
          「あ・・・・貴女は・・・軍服のお姉ちゃん」
          「え、何その親近感溢れる言い方?ってスザクの上司の方ですよね」
          ニッコリ、とその軍服のお姉ちゃんことセシルさんが箱を持って立っていた。
          「スザク君、いません?」
          「ええと・・・窓破ってきたんですけど・・」
          言いよどむライの後を、ルルーシュはすまし顔で続けた。
          「ええ、破ってきましたが、そのまま部屋を走り去ってしまいました」
          「あら、じゃあどこへ行ったかはわからないんですね?」
          「申し訳ありません」
          ルルーシュはペコリ、と頭を下げた。
          「いいえ、じゃあせっかくだからコレ皆さんで召し上がって下さい」
          パカ、と箱を開けた中には2人の想像を絶するものが入っていた。心なしか、生命の危機に匹敵する香
          りまで漂ってくる。
          「あの・・・・なんですか、これ」
          流石にライの声が震えている。
          「オスシというイレブン独特のお料理なんです。自信作なんですよ?ロイドさんも口から泡を吐くほど
           喜んで食べてくれたんです」
          「いやそれ、絶命しかけていたのでは・・・」
          ルルーシュの声も震える。しかしセシルさんは動じなかった。流石にスザクの上司だけはある、とライ
          とルルーシュは妙な感心の仕方をした。引きつる2人に気がつかず、セシルさんはニコニコと笑って、
          箱を中身ごと押し付けて帰って行った。
          「お休みで寛いでいるところ、ごめんなさいね」
          と言いながら。だったらこの箱を中身ごと持って帰ってくれれば良いのに、と顔を見合わせて溜息をつ
          いた。


          「スザク、お前は本当に新年早々、いきなり大凶を齎しやがって・・・・」
          箱を机に置きながらルルーシュは愚痴った。ライも気の毒そうな顔をしたものの
          「うん、ちょっと新年早々に命がけっていうのは僕もちょっと・・・」
          とルルーシュに同意した。ナナリーから離れた所に蓋をして箱を置いたのだが、気の毒にも鼻が利くナ
          ナリーは顔色が悪くなってきていた。
          「それについては僕に責任はない・・・と言いたいところだけど素直に謝っとくよ。ごめんね、ライ・
           ナナリー・サヨコさん」
          「って、今俺の名前をわざとカミングアウトしやがったな!」
          「あ、ルルーシュはなにがあっても意外と大丈夫だから、心配してないよ」
          「貴様・・・・俺をなんだと思っているんだ!」
          地団駄を踏むルルーシュの援護射撃したのは、ナナリーだった。
          「スザクさん、お兄様は確かに悪知恵が働きますが身体能力はスザクさんと比べても著しく劣っている
           んです。なにがあっても大丈夫、というわけではありませんよ?」
          「ナナリー・・・・それは援護してくれているのか、それともトドメをさしているのか?お兄ちゃんは
           涙で前が見えなくなってきました」
          ルルーシュは気の毒にも床に蹲ってしまった。そこへナナリーが近づいて囁く。
          「元気を出してください、お兄様」
          「うん・・・・明日には元気になるよ」
          ナナリーは顔を上げた。
          「サヨコさん、ちょっと外の空気を吸いたくなったので連れて行ってもらえますか?」
          「え?あ、はい」
          「後スザクさんともゆっくりお話したいので、一緒に行きませんか?」
          「え、あ、僕はライに襲いかかりたくて・・・いやゲホンゲホン」
          スザクが断りを入れると、途端にナナリーが悲しそうな顔をする。
          「そうですか、残念です。スザクさんとも久しぶりにお話したかったのですが・・・」
          こういう時のナナリーに弱いのはルルーシュしかりライしかり、そして流石のスザクしかり。
          「あ、じゃあせっかくだから一緒に寒風吹きすさぶ中、行こうかな」
          実際には外は寒いが、晴天である。
          「じゃあ、行きましょう」
          そう言ってから、ナナリーは再度兄の耳に口を近づける。
          「邪魔者はみーんな私が引き受けますから、お兄様はライさんと色々深めてくださいね」
          「ナナリーっ!」
          にっこりと微笑むと、ナナリーはサヨコさんとスザクを引き連れて出て行った。ライが少し寂しそうに
          一行を見送る。

          「どうした、ライ?」
          妹からの気の利いた計らいに、すっかり立ち直ったルルーシュが訊く。うん、と曖昧にライは頷く。
          「大人気ないけどさ、ナナリーのお誘いに僕は入ってなかったから・・・」
          ナナリーを可愛がっているライの事だ、ルルーシュもお誘いに入ってない事にも気がつかず、ちょっと
          落ち込んでいたに違いない。そんなライの腰に腕を絡めると、ルルーシュはゆるく抱きしめた。
          「サヨコさんとスザクを遠ざけてくれたんだ。2人でゆっくり、だとさ」
          スザクはライに下心満載で接している。ライもそれは気づいているのだが、なんやかんや言って無理強
          いをする人物ではないので、警戒はしていない。サヨコさんは「アッー」の人なので、なにをやらかすか
          分からないのでそっちの方が怖い。実際ライやルルーシュの部屋に盗聴器やら隠しビデオ等がさり気な
          く設置してあった。ので最近はお互いの部屋の中で家捜ししてから、色々している。そう色々と。
          「そっか、でも昨日も色々したから別に良いのにな」
          朗らかに恐ろしい事をサラッと言えるライは大物なのだと思う。
          「きっと俺達にちょっかいをかけようとしても、サヨコさんが動けばスザクが、スザクが動けばサヨコ
           さんが相手を牽制してくれるはずだ」
          サヨコさんは立派なルル/ライ派だった。覗き見しようとしない限りは、ルルーシュにとって実害が無
          い。スザクは自分/ライ派だ当然。なのでカップリング相違の為に、しばしば激突しているらしい。ナ
          ナリーは其処まで読んで、2人を連れ出した。兄に似て頭の良い妹だ。
          「でもやっぱり家捜しは必要だよね」
          「ああ、昨日全て外しまくったがこの短時間でも、サヨコさんなら設置できるだろうしな」
          どこの戦場ですか、それは。
          「じゃ、せっかくだから姫初めするか」
          「・・・・まだ陽が高いよ」
          とか言いながら、ライはちゃっかりとルルーシュに抱きつく。
          「ナナリーの気遣いを無駄にしない為にもな」
          ルルーシュはそう言って、ライの顔を覗き込んだ。



          おまけ
          「あああ〜今頃ルルーシュとライは仲良くしているのか〜。僕も混ざりたいな」
          「あら、それはルル/ライ派の私が許しませんよ?」
          「サヨコさん相手だと、突破が難しそうだなぁ。たまには僕の味方をしてくれません?」
          「お断りいたします」
          「わ、つれない・・・」
          「当然です。私はルル/ライ派なのですから」
          笑顔で朗らかに会話しているが、体勢は正に一発触発状態。それを遠くから敏感に察知して、ナナリー
          は溜息をついた。
          (お兄様とライさんはきっと仲良くしているのでしょうね)
          一心に愛してくれた兄が他人を愛するのを見て少々寂しいが、兄が幸せならそれで良いとナナリーは思
          う。自分の為に全てを犠牲にしてきたのだ、そんな兄に幸せがあってもいい。相手が同性というのはさ
          すがに意外ではあった。ライに対するほのかな恋心もあった。でもライも幸せならそれで良いと。
          (優しい世界になりますように、お兄様、ライさん)
          ギャグ話なのに朗らかに終わるナナリーはやはり良い子なのだと、痛感する管理人であった。



          ★というわけで、お正月感動巨編でした。・・・・・・すいません、嘘です。読めば分かりますわな。            R2でいたくナナリーに同情したのが、こういう形で出てこようとは。でもゲームのナナリーはかわ            いいよ、ナナリー。 戻る