温もりが嬉しくも切ない




 


















抱擁

ユーフェミア副総督の突然の豹変に始まった、イレブン虐殺と黒の騎士団の攻勢。ほとんどのブリタニ
ア人が、怯えていた。シャーリーもその一人だった。

居てもたってもいられず、思わず生徒会室のあるクラブハウスに向かっていた。何かあったら、せめて
ナナリーだけでも一緒に避難しなければと思いつつ、急ぐ。というのも彼女の兄であるルルーシュが外
出しているらしく、当てにならないから。人気のない道を急ぐ彼女は、ふと人の気配を感じて振り返っ
た。そこにいたのは・・・・
「ル・・・・ルルーシュ・・・?」
外出していて、連絡が取れないとナナリーが心配していたルルーシュが驚いた顔をして、シャーリーを
見つめていた。何かが頭に引っかかりあまり近づかない方が良いと自らを戒めてはいたが、この緊急時
にそうは言っていられない。ずかずかとルルーシュに詰め寄り、口を開きかけたその瞬間。

「え?」

シャーリーにかかる重さと暖かさ。気を取り直してみれば、ルルーシュによって抱きしめられていた。
「え?え?・・・え・・・・???」
動転のあまり、思わず離れようとするとわずかにルルーシュの腕の力が増した。シャーリーには何が何
だかさっぱり分からない。だがこのまま突き放しても良いものかどうか、迷ってしまう。ルルーシュの
方は飽きもせず、シャーリーを抱きしめている。
(なんだか・・・・良くわからないけれど)
意を決してシャーリーはルルーシュの背中にそっと腕を回した。その瞬間、予想もしていなかったのか
ルルーシュの体が大げさなまでにビクン、とはねた。その勢いに驚いて、慌てて腕を離す。しかしそれ
でもシャーリーを捕らえているルルーシュの腕は離れなかった。少し考えて、シャーリーはもう一度ル
ルーシュの背中に腕を回した。今度は心構えができたのか、ルルーシュは反応を見せなかった。そのま
まルルーシュを抱きしめる。
(なにやってんだろ、私・・・)
外では黒の騎士団を中心としたテロリスト達がここ、租界を目指して侵攻している。呑気に抱き合って
いる場合ではない。事態はブリタニア人にとって悪い方に転がっているのだ。

ルルーシュからの温もりは、何故か懐かしい気がする。どこかで、こうやって抱きしめられた事でもあ
るのだろうか?と思う。
(そんなはずない)
シャーリーにとって、ルルーシュはある日突然自分の前に現れた謎の人物だ。クラスも一緒、生徒会メ
ンバーでもあるし、何より周りが早く仲直りしろと言う。仲直りも何も喧嘩した覚えもなければ、存在
すら知らなかったのに。スザクがいつも何か言いたげにしていたが、彼と話をしようとすると周りが割
って入ってきてしまうので、その内諦めてしまったらしい。
(でも・・・彼はお父さんを殺したゼロ)
そう、かけがえのない優しい父親を事故と言う形ではあったが殺したのは黒の騎士団であり、その作戦
を指示し実行させたのはゼロなのだ。あの自分が書いたらしい手紙には、確かにそう書かれていた。仇
なのだ、彼は。それでも手紙の自分は動揺していた。父を殺した、でもゼロ・・・ルルーシュを憎む事
ができないと。
(アナタは・・・・・本当は誰?)
心の中で呟く。その呟きが聞こえたかのようなタイミングで、ルルーシュがす・・・と自分から離れて
いった。
「ルルーシュ・・・?」
顔色が酷く悪い。憔悴しきった顔。こんな顔は見たことがなかった。
「どうしたの・・・?体の調子が悪いの?」
「いや・・・・・なんでもない。大丈夫だ。」
そう言って、悲しげに目を細めてルルーシュはシャーリーを見る。
「ル・・」
「ここももう安全でなくなるかもしれないから、早く避難した方が良いぞ、シャーリー」
「だったらルルーシュも一緒に。」
「俺はちょっと用事があるから、後から行くよ。悪いけどナナリーを頼めるかい?」
「それは別に平気よ。・・・・ちゃんと後から来るんでしょうね。」
少しふざけた調子で言うと、ルルーシュはくすっと小さく笑って頷いた。
「分かったわ、ルルーシュを信用してあげる。」
「それはどうも、光栄だな。さ、早く行け。」
「うん、また後でねルルーシュ!」
「ああ・・・・・また・・・・後で。」
シャーリーはルルーシュに背を向けて走り出した。

ルルーシュが彼女の背中に言った、呟きは届く事はなかった。

       

★カップルで1番好きなシチュエーションは、抱擁です。あはは。あはんうふんの世界よりも好きな私。  ので大好きなルルシャリで書いてみました。ルルーシュ視点の話も考えているので、この次の次ぐら  いにアップしたいですね。本当はギャグでルルーシュとシャーリーに抱擁かますスザクも思いついた  のですが、流石のスザクもユフィとの別れのすぐ後ではしないだろーなーと考え直しました。 戻る