超人と変人は紙一重
跳躍
ある朝、ルルーシュは大変な決意をしていた。手には学生鞄、纏っているのは制服。アッシュフォード
学園にこれほどまでに、警戒警報を打ち鳴らしながら歩いている人間はいない。別にゼロとバレたとか
そういうことでもない。全ては這いよる混沌、枢木スザクのせいである。
シャーリー事件の時、失った銃を探していた時にスザクにブリタニア軍の動向を探ろうとしたのが、そ
もそも失敗だったのだ。変化はあるか?という問いに、奴は恐るべき答えを寄越したのである。
「君がいない」
「こんなに会えないんじゃ、学校に来ている意味ないよ」
「シャーリーも来てないし」
別に他人が聞いてもおかしなところは無い。しかしルルーシュには分かってしまったのだ。スザクが自
らの「萌え」であるルルーシュに会えない、とストレスが溜まっていることを示唆している事を。更に
はタイミング悪く、そんなストレスを癒すシャーリーという存在すら会えなくなっている。1番はルル
ーシュだよとのーてんきに告白するスザクではあるが、下手すればユフィよりもシャーリーが好きなの
だ。何故か自分には鬼畜ルートを用意しているらしいスザクではあるが、シャーリーには常に優しさを
もって接している。個人的にはその常人としての優しさをこちらにも振って欲しいと思う。常識という
名の優しさを。
そんな相手がストレスが溜まっている状態で会えば、何されるか分からない。一応ルルーシュの本命は
シャーリーなので、彼女の前でスザクとのっぴきならない状況になったら憤死ものだ。そんなこんなで
ルルーシュは傍目から観ても一目で分かるぐらい、カチコチになって歩いていた。
タッタッタ
来た・・・・・軽快な足音と共に奴が来た。
タタタタタ
どうもスピードを上げたらしい。警戒警報が脳内で激しく灯る。ルルーシュは覚悟を決めて、後ろを振
り返った。
「ルルーシュ〜〜〜〜〜!!!!!」
グオオオオオという効果音と共に、ルルーシュの目に写ったのは笑顔全開でこちらに跳躍しているスザ
クであった。相変わらず恐ろしいまでの、運動神経だ。
ルルーシュはすぐにでも鞄を放り投げて逃げたくなるのを我慢する。這い寄る混沌である奴は、空中で
方向転換ができるという無駄に高度な技を習得しているのであった。逃げるタイミングが早いと、確実
に方向転換されて自分の上に落ちてくる。そして公衆の面前で大恥をかくのだ、ルルーシュが。
(冗談じゃない、恥をかくならお前が一人でかけ!スザク!!)
それは正論だ。そんなルルーシュの葛藤中に最高高度を極めたスザクが、世界の掟に従ってゆっくりと
落ちてくる。
(まだだっ・・・・!)
足がガクガクするが、敢えてルルーシュは踏ん張った。段々スザクの笑顔が近づいてくる。近づいてく
る、近づいてくる。
(今だ!)
本当にあと少しでルルーシュの上に落下する、というタイミングでルルーシュは思いっきり左にずれた。
当然スザクはルルーシュの上にではなく、地面に激突する・・・・・はずだった。
くき
(え?)
曲がった。
曲がったのだ、90度。
(ええ・・・!?)
左に、ルルーシュが避けた方向へ思いっきり。
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「ルルーシュ〜〜〜!会いたかったよ、嬉しいよ〜〜〜!!」
ルルーシュを巻き込んで、スザクはまんまと彼の上に落っこちた。ジタバタするルルーシュにスリスリ
する。
「うぎゃ〜〜!気持ち悪い!助けてぇ!ナナリー!ナナリー!」
「ああ〜久しぶりにルル補給ができて、僕は満足だよ。シャーリーにも会えなかったしv」
「俺は満足してない!つーかどけ!公衆の面前で、なにやってんだ!」
ルルーシュは焦るのだが、スザクはどかない。そしてルルーシュは知らない。もはや2人の交流は生徒
達にとって「またやってら」というレベルでしかない事を。
「わ〜い、ちゅーしちゃお〜vvv」
「しちゃお〜vじゃないーー!!ぎゃあああああ!」
恐ろしいまでに笑顔のスザクの顔が、ルルーシュの顔に迫ってくる。BGMに「ジョーズ」のテーマが
流れていた。ところが。
スザクが唐突に消えた。
ルルーシュの目には、覚えのあるクリーム色の物体とテールランプが映った。なにはともあれ、這いよ
る混沌からは一時的に逃れられたようだ。
(スザク?)
物体と正反対の方を向けば、世界の法則に従って放物線を綺麗に描きながら飛んでいくスザクの姿。
(!!!!!)
驚いたものの、ルルーシュはあっさりと見捨てた。体を起こして見れば、真っ青な顔のリヴァルと彼の
バイクがある。タイヤ跡を見る限り、自分達がひっくり返っている所の直前にブレーキをかけたものの
勢いは消せず、180度回転してサイドカーのお尻でスザクを偶然跳ね飛ばしたらしい。のろのろと立
ち上がるのを待っていたのかごとく、リヴァルがバイクから飛び降りてルルーシュにしがみつく。
「ルルーシュ!今日、会長がお見合いって本当か!?なんで教えてくれなかったんだ!!」
「言ったら泣くだろ?」
「・・・!笑ってみせるさ!」
と言った端から泣きそうになっているリヴァル。自分もシャーリーがお見合いと聞いたら動揺するであ
ろう事が分かっているので、ルルーシュはリヴァルに同情的だ。ただ会長・・・ミレイは自分の意思で
は結婚相手は選べないような立場にある。アッシュフォード家の名声よもう一度、と願う両親に彼女は
抵抗してはいるものの、なかなか上手くはいかない。平民であるリヴァルが彼女の両親のお眼鏡に叶う
のはまず無理といっていい。ブリタニアでは強さと階級が全てだからだ。
「大丈夫、ボクも今日がお見合いだなんて知らなかったから。」
突然能天気な声が響く。
「やはり無傷か、スザク。」
派手にすっ飛ばされた割に、ケロリとした顔で戻ってきたスザクにルルーシュはうんざりした顔を向け
た。ニコニコと笑っている姿は大変可愛らしいかもしれないが、ちょっとだけ目が笑ってはいない。こ
れはマズイ、とルルーシュは思った。会長の見合い話に動揺しているリヴァルは、スザクを吹っ飛ばし
た事など気づいてはいない。
「さあリヴァル、今日はオレが珍しくトコトンお前の話を聞いてやろう。いくぞ!」
ルルーシュはリヴァルを引きずって歩き出した。タイミングよく、キンコンカ〜ンと予鈴が鳴る。遅刻
は流石にごめんこうむりたい3人は、慌てて走り出した。
オマケ
「一体、いつになったら妹の不在に気がつくんだルルーシュ!!」
なかなかゲームを始められないマオが、ギリギリしながら地団太を踏んでいた。
★こんなもの書く自分のセンスに乾杯。スザルル書こうとしても、どうしてもシャーリーを絡めてしま
う私は本当に馬鹿です。有難う、カレン(←?)
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