甘苦いバレンタインデー




 


















バレンタインデー

「ねえ、ルルーシュ。僕、君にお願いあるんだけど」
平和な放課後、生徒会室でスザクは椅子の背もたれに腕を乗せて、ルルーシュを見上げた。
「うるさい、お前の口車に踊らされるか」
ルルーシュはすっぱりと切り捨てた。スザクのお願いにうっかり乗ってしまって、後悔したことも多い
ので、ルルーシュの態度を責めるわけにはいかない。
「まあ、聞くだけ聞いてよ」
「・・・・・・聞くだけだぞ」
「うん!」
「で、なんだよ?」
ルルーシュの胡散臭そうな視線にもめげず、スザクはニッコリと笑った。
「会長に提案したいんだ。バレンタインデーに好きな男子にチョコ贈りましょうって!」
「チョコ・・・?ああ、日本ではバレンタインデーにチョコを贈る怪奇現象があったんだったな。あん
 なもん、菓子業界に踊らされているだけじゃないか。バカらしい」
ルルーシュははぁ、と溜息をつく。正直バカらしくて気が乗らない。そんなことは織り込み済みらしい
スザクはめげなかった。というかめげないからこそのスザクである。彼は魔法の呪文を唱えた。
「シャーリーから愛の篭もった手作りチョコが貰える、またとないチャンスだよ」
「よし、お前に協力しよう」
ルルーシュはあっさりと踊った。斜に構えていたとしても、彼もやはり恋するお年頃。好きな女の子か
ら貰う愛の篭もったものだったら、なんだって欲しいものだ。ここらへんはゼロとして黒の騎士団を率
い、散々ブリタニアを悩ませる存在であっても他のうかれた男子と変わらない。

で、会長の反応はと言うと・・・・・・
あっさり乗り気になってしまい、ルルーシュの援護射撃すら必要なかったのだった。そしてこういう時
に限って会長ミレイの行動は素早く、あっという間に「バレンタインデーには好きな子にチョコをあげ
てラブラブうっふん作戦」は広まったのだった。


さて当日。我らがルルーシュ君は昨晩にうっかり作戦行動を起こしてしまった為、かなりの寝不足であ
った。のてのてと眠気と戦いながら、歩いていると。
「ルル!受け取って!」
元気の良い声が響く。ぼんやりとした頭で振り向くルルーシュの紫の瞳に映ったのは、とんでもない速
度でこちらに飛んでくるラッピングされたなにか。そんな高速で飛んでくる物体に、運動神経がもとも
と悪く更には寝ぼけた頭でいるルルーシュに避けたり受け止めたりするなどという芸当が出来るはずが
ない。
「ぐふぅぉ!!!」
なすすべもなく、その物体はルルーシュの鳩尾に見事にめり込んだ。ルルーシュは息が詰まった異常事
態の中、ドラマとかで鳩尾に当身喰らわせて失神なんてシーンあるけどこの衝撃でも気が失えないとこ
ろをみると、どんだけ強烈な一発をお見舞いしているのだろうか?などど考えていた。余裕だな、ルル
ーシュ。
「ルル!ごめんなさい、大丈夫!?」
思わず倒れこんだルルーシュを白い柔らかな手が包んだ。うっすらと目を開けるとそこには亜麻色の髪
の少女、シャーリーが心配そうに覗き込んでいる。
「シャ・・・・シャーリー・・・」
格好悪いと思うものの、中々身体が上手く動かない。結果、人から見たら少女の腕の中で身じろぎする
羨ましい存在となっていることをルルーシュもシャーリーも気がつかなかった。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「ああ・・・・なんとかな。で、なにを俺に全力で投げたんだ?」
鳩尾にヒットした物体を睨みつける。
「ええと・・・今日、バレンタインデーでしょ?だから・・それ・・・チョコ」
「チョコ・・・・・?チョコ・・・・・・チョコ!?」
「え、う、うん」
ルルーシュは自分の頭の中で勝利の鐘が盛大に鳴ったのを自覚した。この為だけにスザクの計画に乗っ
たのだ。具体的なことは何もしていないが。
「そ、そうか。有難う。しかし何故投げたんだ?」
そう言うとシャーリーは困ったように笑っている。
「うん、スザク君にね。こうやって投げてあげるのが本格的なんだよって教えてもらったの」
ス〜〜〜ザ〜〜〜〜クゥ〜〜〜〜
ルルーシュは激怒した。なに俺に不利なように教えているんだよ、お前?俺が一体全体何をしたってい
うんだ、こんちくしょう。
と、そこへ何の前触れもなく再び高速でルルーシュに飛んでくる物体があった。
「!?」
シャーリーの腕の中、ルルーシュは額に衝撃を覚えて目を回す。ああ・・・アニメとかであった目から
星が出るって本当なんだ、と妙なところで感心する。これは余裕があるのか、死期が近いのか分からな
い思考だが。
「やっほ〜、ルルーシュv僕のチョコ受け取ってくれてありがとう!感激だよ!」
「つか貴様・・・・人の頭部にチョコを激突させておいて、その言い草か」
唸るルルーシュの呪詛は当然、スザクに届く事はない。とてとてと上機嫌でやってくる彼からは、昨日
の戦闘の疲れは見えない。ちゃっかりとシャーリーの隣に座り込み、はいと言いながらシャーリーに何
かを渡している。
「え?あ・・でも好きな男子に贈るんでしょこれ?」
「あーその辺は割合して?誰もシャーリーが男だなんて思わないよ。ちょっとした僕の日頃の感謝とか
 良からぬ妄想とか色々なものが入っているだけなんだ。気にせず食べてね」
にっこり
スザクはシャーリーに向かって笑い、シャーリーは思わず頬を染めて俯く。当然面白くないのはルルー
シュである。
「ちょっと待て。良からぬ妄想ってなにシャーリー宛てのチョコにしこんでいやがる・・?」
ルルーシュの不機嫌丸出しの声に、スザクはにっこりとまた笑った。
「安心してよ、よからぬ妄想をたっぷり詰めてあるのはルルーシュへのチョコだけだから」
「獲物にされている俺によくもいけしゃあしゃあと安心などと言えるものだな!」
シャーリーはきょとんとして両者の顔を見回す。
「おお、始業のチャイムが鳴ろうとしているなぁ。じゃ、それ食べてね2人共!」
「貴様、待てい!一体俺へのチョコに何を仕込んだかぐらい教えていけ!」
「じゃああねぇぇぇv」
スザクはそれこそ脱兎のごとく逃げていった。ここまできて、ようやくルルーシュは立ち上がる。
「おのれ・・・・・」
右手を握り締めて唸るルルーシュにチョコが2つ、差し出される。
「はい、これ食べてね」
今更照れも手伝ってか、シャーリーはルルーシュの手に自分とスザク作のチョコを強引に手渡して、さ
っさと走り出した。
あとには2つのチョコを手に持って困惑しているルルーシュだけが残され、そして彼は遅刻した。

後日
スザクから貰ったチョコは結局隙を見て、玉城の鞄にねじ込んでおいた。そしてなにやらそのチョコを
大喜びで食べた玉城がなんだか聞きたくもないような凄い状態になってしまったらしい。その時の心の
傷故に、しばらく部屋から出てこれなかったらしい。同情はしたものの、一安心するルルーシュであっ
た。





★久しぶりのルルシャリあんどスザク話。いつもとノリが変わらないなんて、本当のことを言ってはい  けません。いけませんとも! 戻る