じゃあな




 


















騎士

ユーフェミアによって思いもよらない騎士に宣言されたスザク。周りは浮かれていたが、藤堂の事もあ
りスザクは素直に喜べなかった。

「よ〜〜う、おめでとうスザク!」
振り返ればニコニコと笑いながら手を振るリヴァルがいた。
「あ、おはようリヴァル。」
リヴァルは数少ないブリタニア人の友人である。生徒会のメンバーではあるが、チョコチョコ抜け出し
てバイトをしてたりする、ちょっと変わったところもある。
「やるじゃん、スザク。ユーフェミア副総督の騎士になんて、そうそうなれるもんじゃないよ。」
素直に頷く。
「うん、驚いたよ僕も。」
まるで自分の事のように喜んでくれるリヴァルが嬉しくて、ついついこちらも笑顔になる。まずい、周
りからはあからさまに不満そうな視線が飛んでくるのに。しかしリヴァルは案外聡いのである。スザク
の首に腕を回して、ずりずりと引きずっていく。でもこの行動もわかっている。スザクが変な輩に絡ま
れないように、気を使っているのだ。その好意は有難かった。まさか生徒会メンバーの前で、スザクに
絡むバカはいない。そのあとはルルーシュを除く生徒会メンバーに、歓迎されてしまった。


「ルルーシュ!」
スザクがクラブハウスの廊下で呼び止めると、かの人はゆっくりとこちらを振り向いた。
「この前はごめん。話の途中で・・・・。」
「おめでとうスザク。」
スザクの言葉を切るかのように、ルルーシュが口を開いた。
「え?」
「これでお前の”ブリタニアを中から変えていく”という目標に一歩確実に近づいたわけだ。」
「あのさ・・・・この前の大事な話って・・?」
「ああ。」
なんだそんなことか、ルルーシュはそんな表情を浮かべた。
「あれはもう終わった。気にしなくて良い。」
「え・・?あの・・でも・・?」
「聞こえなかったのか?もう終わったんだよ、だから気にするな。悪かったな。」
そのままスタスタと歩いていく。スザクは思わず後を追った。スザクの足音が聞こえたのか、ルルーシ
ュはピタリと足を止めた。
「頑張れよ。お前の言う”価値のある国”というものは良く分からないが、正統な手段を手に入れたん
 だからな。中から変えていく為には発言力が必要だ。もちろん、彼女の騎士になったからといって直
 ぐに発言権が発生するもんじゃない。だが変えていく為には地位というものは必要不可欠だからな。」
こちらを振り返らずに、ルルーシュは淡々と言葉を連ねていく。
「ルルーシュ。」
「ああ、できれば彼女達には俺とナナリーの存在は伏して欲しいな。」
「・・・・・・君もブリタニアを変えたいんじゃないのか?」
「表舞台に出れば俺もナナリーも政治の餌食だ。それに俺にはそんな力がない。俺はただの学生だ。」
彼らの複雑な事情を知っているからこそ、スザクはなにも言えない。ルルーシュ一人だったら、なんら
かの行動に出ていたのかもしれない。が、ナナリーを不幸にする可能性がある以上動くことはないのだ。
「話はそれだけだよ。」
そこまで言ってルルーシュはスザクを振り返った。その瞳に映ったのは拒絶に近い色だった。どこか冷
たいその紫色。それは初めて出会った時のような、瞳。ルルーシュは祖国であるブリタニアを憎んでい
る。だから軍人になったスザクに関しても、複雑な感情を持っていることを知っている。今度は騎士と
して立ち、ランスロットを駆るのであれば心穏やかではないのは分かる。だがここまで拒絶を示される
とは思ってもみなかった。スザクとて別にルルーシュやナナリーの為に軍に入ったわけではない。どち
らかといえば父の行動に反抗し殺めてしまったことで、父とは違うやり方で日本という国を存続させた
い。そんなどこかで父親に対する複雑な感情によって、軍に入った。そしてまたとないチャンスがユー
フェミア第三皇女によって、もたらされたのだ。
「ユフィは。」
はっとしてルルーシュを見る。
「良い子だ。だがコーネリアに守られすぎて、身動きが取れない。コーネリアから騎士候補の情報は沢
 山寄せられているはずだ。だがお前を選んだ。その選択はお前が思っているより彼女を危機に追い込
 む可能性もある。」
「僕が・・・・・イレブンだから?」
「そうだ。ブリタニアの差別の徹底さは、お前の方が良く知っているだろう?守ってやれ、ユフィを。」
「それ、本当に心から言ってるの?」
伺うように尋ねると、あっさりと肩をすくめた。
「さあな。俺はナナリーが待っているから、早く行かないと。」
「そうか・・・・。じゃあルルーシュ、またね。」
微笑みかけると、ルルーシュはどこか皮肉そうに笑った。
「じゃあな・・・・・さよなら。」
それきり彼は一度も振り返らずに、自分の居住区のある扉へと消えて行った。
スザクは気がつかない。
思いもよらない。
それが、本当の別れだったということを。
気がつかず、ポソと呟いた。
「ルルーシュの大事な話って・・・・なんだったのかな・・・?」



「お前、ユフィの騎士を辞退したんだってな。呆れた奴だ。」
「彼女は僕を認めてくれた。それは感謝しているよ。だけど僕は父親殺しで、イレブンだ。いつか彼女
 に迷惑がかかってしまう。だから・・・」
「言い訳は立派だな。それは違うだろう?お前は恐れているんだ。真実を知ったユフィが自分を拒絶す
 ることを。そうやって人の為と言いながら、お前は自分が傷つかないようにしているんだ。」
「違う!」
「違わない。騎士を辞退される事がどれほど彼女を傷つけているかも、想像できない。本質的には変わ
 っていないんだよ、お前は。自分主義は治っていない。」
「ルルーシュ、君に僕の何が分かる!」
「さあな、俺は客観的に物を言っているだけだよ。お前こそ、俺の何が分かる?ん?なんだ?・・・・
 ・・そうか分かった、今行く。」
「待って、ルルーシュ。」
「言ったはずだ、さよならってな。お前は俺の、俺達の敵なんだよ。今度会った時は、殺させてもらう。」
「ルルーシュ!!」
「俺はお前にだけは殺されない。殺されたりされるものか。」

紫の瞳が、ランスロットのパイロットを冷たく捕らえ、皮肉気に笑った。

       

★殺伐としたシリアスバージョン。ルルーシュとスザクは相手を切り捨てなければならない時、躊躇う  のがルルーシュ、きっぱりと切り捨てるのがスザクだと思います。今回はその反対で、ルルーシュが  スザクをばっさり切り捨てておりますが。こんな2人が私の書くシリアス話のイメージです。 戻る