それは夢か現実か




 




















ああ・・・・まただ。
僕はそう思った。
真っ暗な周囲。
僕の目の前に立っている・・・・・ルルーシュ。
纏っているのは制服ではなく、ゼロの衣装だ。
右小脇にあの仮面を持っている。
ルルーシュは何も言わない。
ただ黙って、僕を見ている。
その紫色の瞳で、飽く事もなく。
僕が手を伸ばして触れようとすると、ふ・・・と消えてまた現れる。
ルルーシュ、君は僕に何故何も言ってくれないの・・・・?
恨んでいるの?
憎んでいるの?
「僕はっ、君を守りたかったんだ!」
叫んでも
ルルーシュはやはり何も言わない。


「スザクさん・・・・お願いがあって来たんです・・・。」
そう言って車椅子の少女は、僕の前に現れた。
「どうしたんだい、ナナリー?ああそうそう、なにか不自由してない?」
「いいえ、皆さん良くして下さいますから。」
「そう、良かった。」
「あのスザクさん・・・・?」
ナナリーは閉じた目のまま、僕を見つめた。
「お兄様に・・・会いたいんです。会わせて欲しいんです。」
やはりそれか・・・・。仕方がない、彼らの絆は強い。僕がその絆に嫉妬してしまうほどだ。でも
「ごめん、ナナリー。それは出来ないんだ。」
「!っどうしてですか?お兄様は私のたった一人の肉親なんです!どうして会えないんですか!?」
詰問されても、僕は引き下がるわけには行かない。
「前にも説明したよね・・・・。ルルーシュの病気はまだ良くなっていないんだ。」
「知ってます!でもガラス越しにでも良いんです!!」
ナナリーは跪いている僕の胸を掴んで、頭を寄せる。
「どうして・・・・・どうして会えないんですか・・・。会いたい・・・会いたいの、お兄様に。ただ
 それだけなんです・・・・。」
細い肩が震え、涙が頬を伝っているのが分かる。ゴメン、ナナリー。僕も彼と同じで、君の涙は見たく
なかったけど、これだけは譲れないんだ。
「ルルーシュもナナリーに会いたがっているよ。でも君にうつる可能性が高いから、会えないと言って
 いた。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「必ず、会えるその時が来たら真っ先にナナリーに連絡するよ。だから・・・辛いだろうけど、もう少
 しだけ我慢してくれないか・・・?」
ナナリーの手が、頭が僕からゆっくりと離れていく。
「分かりました・・・・ごめんなさい、我侭を言って。スザクさんの事も考えずに・・・。」
「いいや、君がルルーシュに会いたいのは当たり前だろう?ゴメンね、僕の方こそ。」
いいえ、と呟いて少女は僕の前から去って行った。
「ゴメン、本当にゴメン、ナナリー。君に嘘をついて。」
言葉にすると、心が痛んだ。


ゼロがルルーシュだと知った時、僕は相当焦った。周りに人がいないことを良い事に、僕はルルーシュ
を連れ去った。このままだとルルーシュが生きていると皇族に知られるのもマズイのに、ゼロの正体で
もあると知られたら処刑は免れない。そしてナナリーに被害が及ぶことも。
だから
だから閉じ込めた。
100%善意のつもりだった。
最初は怒り心頭でルルーシュは暴れた。それはそうだろういきなり窓一つ無い地下室に閉じ込められて
大人しくしてる方がおかしい。ドアを開けた途端、ベッドが崩れてきたのは驚いたけど。本当は僕が下
敷きになったスキに逃げるつもりだったんだろう。しかし残念ながらそんな方法では僕から逃げられな
い。あっさり捕まって、ルルーシュは喚き散らした。
「くそ、離せスザク!なんのつもりなんだ!」
「なんのつもりって、僕は君を助けたいだけなんだよ?」
「こうやって閉じ込めることが俺を助けるだと!?ふざけるな!!」
「ふざけてなんかいないよ?君の正体が二重の意味でバレたら大変だろう?ナナリーだって・・・。」
「くっ。」
ルルーシュが唇を噛む。ナナリーに危害が及ぶことを、ルルーシュは何よりも心配している。
「はっ、お優しい事だ。ユフィの死に関して、お前はもう何も感じないというのか?」
ユフィ。
守りたかったのに、結局彼女に護られたままだった僕。僕の前で微笑みながら逝った、悲しい人。
「確かに、その事で僕はゼロを憎んだ。でも・・・正体がルルーシュだった事で、なにか事情があった
 のかと思ったんだ。だって君は学園祭で・・・・ユフィと話したんだろう・・?」
ぴく、とルルーシュの肩が動いた。俯いたまま、床を睨みつける。
それっきり、ルルーシュは黙り込んでしまった。

黒の騎士団はゼロを失ったが、新たにリーダーとなった扇という青年や彼をサポートする藤堂さんやキ
ョウトの面々、そしてカレンというメンバーが団結していてその勢いはなかなか止まらなかった。僕も
出撃を余儀なくされて、カレンのナイトメアや藤堂さんのナイトメアと激しく何度も戦った。しかし勝
負はつかない。扇という青年はゼロの右腕の存在だったらしく、意外と優秀だった。

コツコツコツ
足音をさせて、僕はルルーシュのいる部屋に向かう。いや、ルルーシュを閉じ込めている部屋に・・か。
ドアを開けて中を覗くと、ルルーシュはベットで寝ていた。この頃ルルーシュは食欲が落ち始め、段々
痩せ細ってきていた。ハンストでもしているのかと思ったのだが、ルルーシュ本人も食べようと努力す
るが受付なくなってきているらしかった。この時点で正体がばれても良いから、何らかの手をうつべき
だったのに僕は迷って何もしなかった。いや取りあえずサプリメントを飲ましたり、点滴を打ってみた
り。一時期はそれでも顔色が良くなっては、きていたんだ。だから油断した。
「ルルーシュ・・・?」
戸惑いがちに声をかけて、ドアを閉める。そして近づいた時、僕は初めて異変に気がついた。
胸が上下していなかった。
それは呼吸をしていない、ということ。
「ルルーシュ!!!」
慌てて近づいて、僕は目を見張った。もう、魂はそこにはいなかった。恐る恐る頬に触れると、かなり
の冷たさが伝わってくる。蘇生も間に合わない。そこにあるのは17歳の幼馴染の少年だった体だけ。
結局僕はルルーシュを守るどころか、死へ誘ってしまったのだ。ルルーシュからみれば、じわじわと真
綿で首を絞められるような死に方だったに違いない。
あの日
あの時
戦場でルルーシュを見た時に、殺してあげた方が良かったのかもしれない。間違った過程で得られた結
果に意味は無いと繰り返してきた。ならこれは何だ?この方法が間違っていたとは思わない。でも結果
は・・・得られた結果はどうだ?正しい過程を経て、僕の手に残ったのはなんだ?
僕は暫く呆然として、そこにへたり込んでしまった。

ルルーシュの遺体は、極秘裏に葬られた。

そして僕に追い討ちをかける出来事が起こった。
「何故だ、ナナリー?何故君が黒の騎士団にいるんだ?」
「何故・・・?とアナタが訊くのですか、スザクさん。分かっているのではないですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ルルーシュは君が、黒の騎士団としていることを望んではいないよ?」
「ええ、そうでしょうね。」
「なら!」
「私はお兄様に守られてばかりでした。でも私はお兄様に何一つお返しできませんでした。だったら、
 せめてお兄様の遺志を願いを叶えたいんです。真実は全てカレンさん達に聞きました。」
「真実・・・・。」
「スザクさん・・・私はアナタがお兄様の次に好きでした。でも私はアナタとは違う道を進みます。さ
 ようなら。」
「ま、待ってくれナナリー!ナナリー!!」
ナナリーは今、ゼロの妹として黒の騎士団の象徴になっている。また一人、僕の前から去っていってし
まった。

どうしてこうなるんだろう。
ルルーシュ、ナナリー、ユフィ
どうして僕が守りたい人は、僕の手の中から去っていってしまうのだろう?
なぜ・・・・なぜいつも上手くいかない?
そんな中で、僕は夢でルルーシュに会うようになった。
何も言わず、ただ立って僕を見つめているルルーシュ。
最初はそれでも良かった。
夢でもなんでも、彼に会えることがただただ嬉しかった。
でも現実の状況が、僕に後ろめたさを与えるようになってしまった。
「お願いだよ、声を聞かせて・・。何か言ってよ・・・。」
僕の声は、暗闇に吸い込まれて消えていく。
(スザク)
「え?」
ルルーシュの声。
(俺はお前を許さない)
「ル、ルルーシュ?」
(いい加減、解放してくれ)
「・・・・・・・」
(死んだ俺を縛るな)
「僕の執着が、まだ君を解放していないのか・・・?」
(そうだ)
「でも・・・。」
(俺が死ぬことをお前が望んだ)
「ち、違う、違う!!」
(それなのに、何故解放しない)
「僕は、ただただ君を守りたかっただけなんだ!」
(信じない、もうお前の事は)
「・・・・・っ!!」
(お前の守るとは、俺を死なす事だった)
「あ・・・・・・・。」
(スザク・・・・・信じていたのに)
「ルルーシュ・・・・。」
(お前はいつも、俺を・・・俺達を裏切るんだな)
「裏切ってなんか・・っ!」
(スザク・・・・俺を解放してくれ)
「・・・・・・・。」
(スザク・・・・・・)
「・・・・・ふふふふ・・・。」
(スザク・・・・・・)
「ははっ、あはははははははは!!!」
(スザク・・・・・・)

夢がまた訪れる。
ルルーシュが僕の前に現れた。
彼が話したのは、あの時だけ。
ただただ今はもう、僕の前に佇むだけだ。
でもそれでも良いんだ。
君が・・・君に会えるなら。
僕の執着が君を解放しないというなら。
僕は絶対に君を解放なんてしない。
いつか
僕が君と同じ場所に行けるまで。
触れられもしないけど
僕は満足だよ。


心の完全崩壊は・・・・あと少しだ。

       

★おわぉ、暗いなあ。と自分で書いててなんですが。私の暗い話のルルーシュとスザクはほんと、報わ  れませんね。 戻る