プライド2 ACT=1ハリーの迷い ドビーに教えてもらった部屋は、大分辺鄙な所にあった。暗い廊下、暗いドアを見つめてハリーは考え こんでしまった。勢い込んで此処に来たのは良いのだが、どう話を切り出せば良いのか分からない。こ んな時に自分のコミュニケーションのまずさを痛感する。良く分からないが、ロンは誰にも会いたくな いからこそこんな所で閉じこもっている。それをずかずかと入っていって良いのだろうか?そう考える と気軽にドアが開けられない。其処まで考えて、ハリーはズクンと胸が痛んだ。 ----------誰にも会いたくないの? ----------僕にも・・・? ----------僕にさえ・・・? 喧嘩していた時に感じた憔悴感と、喪失感がどっと押し寄せる。 ----------僕は・・・・・・ロンに何もしてあげていない。 ----------あれだけ色々としてもらったのに。 ----------だから? ----------だからこそ・・・・? ハリーは虚ろな瞳で、目の前のドアを見つめた。ドアはまるでハリーからロンを守るかのように、ハリ ーの前に佇んでいる。 ドアノブに手を掛けて、離す。そんな動作を繰り返して。 躊躇う。 戸惑う。 そして佇む。 暗い廊下で、ハリーは迷う。きっと明日の朝になれば、ロンは部屋に戻ってくるだろう。ハリーの元に。 知らん顔をして、1言言えば良いのではないのだろうか? 「ドコ行ってたんだい、心配したよ?ロン?」 そう言えばロンは笑って、ゴメンとでも言ってくれるのではないだろうか?でも、とハリーは目を閉じ た。何故かは分からない。でもハリーはロンに無性に会いたかった。自分の背負う、重い宿命を一緒に 背負ってくれる、軽くしてくれるロン。ハリーの楽しい思い出は、常にロンと一緒の時だった。 ハリーは目を開けた。 ドアノブにゆっくりと手を掛けて、ドアを開いた。ドアには鍵が掛かっていなかったらしく、簡単に開 いた。 青白い月の光が注ぎ込む部屋の真ん中に、ロンが横たわっていた。どうやら、寝ているらしい。ハリー は起こさないように、そっと近づいて行った。しゃがみこみ、何気なしにロンの髪を指に絡ませた。青 白い指に絡む、赤い髪。流石にいつもより青白いが、ロンの体温を伝えてきてくれる。ふいにハリーは 泣きたくなった。このぬくもりは、初めて自分に与えられたもの。ロンは知らないんだろうな、と思う。 自分がこのぬくもりを失くしたくない為に、こんなに必死になっているのに。想いの大きさは違うのだ ろうか?自分がロンを想うのと同じか、それ以上ロンに自分を想って欲しいのに・・・・。そしてふと 先程の思考を思い出す。 ----------ロンは自分に多くのものをくれた。 ----------でも自分はロンに何も上げたことがない。 ハリーの緑の瞳に、複雑な感情の光が見え隠れする。 ----------でも、ロンに側にいて欲しい。 「贅沢なのかな・・・・僕は・・・。」 ポツンと呟く。眼下のロンは平和そのもの顔をして眠っている。あまりに気持ち良く眠っているのに、 苦笑が漏れる。そのままにして此処から戻ろうか、と思う。でもやっぱり、此処にいたい。ロンがいる 場所に。ハリーはロンから毛布を引っ張りだして、するりと隣に滑り込んだ。ロンの体温に温められた 毛布は、ハリーにとても心地よかった。途端にどっと疲労がでてくる。 ----------まあ、良いや。今度、目が覚めたら・・・・・・。 ハリーは目を閉じた。そのまま、眠りに入ってしまう。 ----------そう、全ては目が覚めてから。 ACT=2ロンの驚愕 暖かい・・・・・ロンは夢うつつでそう思った。ふと目を開けると、視界一杯に映るのは親友ハリーの 寝顔だった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 寝起きの頭は、良く動いてはくれない。ぼんやりとした頭で、ロンは違和感に気が付いた。 確かハリーと会いたくなくて、誰にも見付からないハズのこの部屋にやってきた・・・・。そして、寝 るまでは確かに1人だったはず。なのに・・・・何故? (な・なんでハリーが”此処”にいるんだよ!?) 頭がいきなりハッキリと鮮明になった。がばっと跳ね起きそうになったが、寸前でなんとか思い留まっ た。何故なら、そんな行動に出たらハリーを起こしてしまうからだ。心の整理もへったくれもなく、ハ リーに会ってしまったら、今のこのもやもやした気持ちがばれてしまう。ハリーはやたらとそういうと ころに敏感なのだ。飛び起きるのは避けたが、余りの驚愕にロンの心臓はドクドクと脈打った。しかも 顔が赤くなったのが分かった。 (落ち着け・・・落ち着けロン・ウィーズリー。なんとか此処からでなくっちゃ) 冷や汗をだらだらと垂らしながら、呪文のように唱える。何度か唱えると、心が落ち着いたような気が した。ロンはそろそろと起き上がった。窓を見ると、青い月が寝る前よりも確実に色を濃くして浮かん でいる。正確な時間はとんと分からないが、夜明けまでにはまだまだ時間があるようだ。月から振り注 ぐ青白い光のシャワーを浴びながら、ロンは眠っているハリーの顔を見つめた。よほど疲れていると見 えて、ハリーは良く寝ている。トレードマークの1つの眼鏡は、外されていない。そして前髪から覗く のは「例のあの人」によって付けられたという、稲妻型の傷跡。出会った頃よりも、精悍な顔つきにな ったと思う。特にセドリックが亡くなった後ぐらいから、ハリーの顔つきが変わった。それは「例のあ の人」の復活で、ハリーの中でなんらかの決意があった証。ハリーは今、誰よりも過酷な運命に必死で 立ち向かおうとしている。そんなハリーを大人達はもちろん、親友のハーマイオニーが最大限にバック アップするのだろう。彼等、それぞれの能力によって。そこまで考えて、もう数える気にもならなくな った溜息をついた。 ----------何も出来ない。 ---------なにも力になれない。 (惨めだ・・・・。) ロンはハリーと対等の位置にいたかった。一方的に庇われるとか、そういうのでなく。だが、現実はハ リーどころかハーマイオニーにすらフォローをしてもらっている。それが悔しい、それがもどかしい。 ロンは毛布の上の手をぎゅっと握り締めた。 ----------なにも出来ないなら、いっそ・・・? ロンは、そろそろとハリーを起こさないように注意して毛布から抜け出ようとした。ハリーの温もりが ある、毛布から。 「どこへ行くの?」 静かな声がした。驚愕して振り向くと、ロンを真っ直ぐに見つめているハリーがいた。ロンの視界の中 で、ハリーは静かに起き上がった。 「ハ、ハリー。君、起きてたのか・・・?」 「さっきまでは寝てたよ。」 そう言って、じっとロンを見つめる。ロンは居心地が悪くなった。ええと、となんの意味もない言葉が 口をついて出てくる。身体をずらそうとしたロンの手首を、ハリーが捕らえてくる。 「ハ、ハリー?」 「さっき訊いたよね、どこへ行くの?」 ハリーの眼鏡越しの緑色の瞳に、困惑しきったロンが映っている。 「ええと・・・・・・。」 「僕が此処に来るまで、どんなに心配したか知ってる?やっと此処を突き止めたと思ったら、ロンはま たどっかに行こうとしてるし・・・。」 ハリーの眉間に縦皺がはっきりと刻まれていた。どこか拗ねている表情をして、ロンを睨みつける。ロ ンはいたたまれなくなって、下を向いた。ところが、ハリーはその顔を覗き込んでくる。普段の彼から すれば、珍しいぐらいしつこい。 「なんで・・・此処にいるんだよ、ハリー?」 「そんなの、此処を突き止めたからに決まってるだろう?」 「いや、そうじゃなくて・・・。なんで此処が分かったんだよ?」 ハリーはニヤリと笑った。それはロンの兄である双子が、イタズラを思いついた時とそっくりだった。 「まあ、色々とね。」 ハリーはロンを探して、右往左往していた事は言いたくなかった。だって、格好悪いじゃないかと心の 中で呟く。ハリーは悪気はないが、ロンに対しては余裕を見せていたかった。別に見下していたいわけ じゃないけど・・・・・。ロンはがっくりと肩を落とした。その様子は大変しょぼくれていて、思わず よしよしと頭を撫でたい心境になる。が、それはやらない。そんなことを寄りによって”今”してしま ったら、話に収集がつかなくなると思ったからだ。また、こんな風にふらっといなくなったロンを探し 回っていたくない。だから、ここでなんとか説得(というか)をしようと思っているハリーだった。 ACT=3 ハリーとロン 「・・・・・やっぱり、僕は君に叶わないんだなあ・・。」 「ロン?」 ロンのポツリと零した台詞に、ハリーは驚いた。顔を覗き込もうとしたが、ロンは反対に顔を上げた。 ちょっと困ったような顔をして、微笑んでいる。 「だって、僕は此処なら絶対に見付からないって自信があったんだよ?それなのに、君ときたらあっさ りと此処を発見してさあ。」 あっさりじゃない、とハリーは心の中で呟いた。試合が終ったあと、就寝時間までハーマイオニーと共 にロンを探して走り回った。ドビーが、いいやダンブルドア校長先生が教えてくれなければ、きっと此 処には辿り着けなかっただろう。しかしハリーの中の感情が、ロンに素直に告げることを拒否してしま う。だって恥ずかしい・・・・と口を閉ざす。 「そんなもんかな?」 「そんなもんだよ。本当に・・・凄いよね、きっと僕なんか足元にも及ばないんだろうな。」 「そんなことないよ?だって成績だって、僕達似たようなモンじゃないか。成績でいえばハーマイオニ −には敵わないよ」 「成績はね。でもハリーは色んな才能を持ってるじゃないか。」 「そんなことないよ、才能なんて・・・・。」 「クィディッチのシーカーになれたじゃないか、しかも大活躍。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 「いつも冷静に判断を下せるし、魔法だって上手に使える。それが才能じゃなかったら、なんだってい うんだい?」 「ロン・・・・。」 「それに比べたら僕なんてさ・・・なーんにも誇れるモノがない。」 「でも僕は、ロンの家族は羨ましいよ?僕に”家族”はいないから・・・。」 ロンの言葉を聞いているうちに、段々不安になってハリーは口を挟んだ。そんなハリーにロンは普段の 彼からは想像もつかないような苦い笑いを浮かべた。 「いいや、君に家族は出来つつあるだろ?・・・・シリウスさ。一緒に暮らすんだろう?」 「う、うん・・・。でも・・・。」 「ああ、別にやっかみで言っているんじゃないよ。ただ・・・・・。」 「ただ?」 「自分が情けないんだ、これまでの事件では僕はハリーとハーマイオニーに助けてもらってただけだし ・・・良く言われるんだよ、お前なんかが良くハリー・ポッターの友達できるなって。」 「ドラコに?」 ロンは苦笑して、首を横に振った。ハリーの目が大きく見開かれる。 「誰に!?」 「・・・・まあ、色々ね。僕にも裏で色々あるんだよ。」 「ロン・・・・。」 ロンはごろりと横になった。隣を見ると、青白い月の光に照らされたハリーの顔が見れた。心なしか、 表情が少し強張っている。 「ずっと考えてた。僕はハリーの役にはたたない。返って足を引っ張っているだけだし。だから・・。」 ハリーはざわ、と背中に悪寒を感じた。ロンは、これから決定的なことを言おうとしている。それは恐 怖だった。恐ろしかった。それでも、おかしなプライドを振り絞ってハリーは尋ねた。 「だから・・・・・・・?」 ハリーの心中を知ることもなく、ロンは少し躊躇ったあと口を開いた。 「ハリーから離れた方が良いかって・・・・・・。」 ロンが散々悩んで出した結論。それを口に出すのは勇気がいった。だがロンは今、口にした。それはロ ンにとってのプライドだった。何だかハリーを置いて逃げるような気がして、後ろめたくて。でもこん な感情をもったまま、ハリーと共にいたって両方に良くないだろうと思ったのだ。・・・例え、それが 他人からみたらくだらないプライドであっても。 ふとハリーの方を見て、ロンは驚いた。ハリーはただ黙って・・・大粒の涙を流していたのだ。表情は 驚愕の形のまま。 「ハ、ハリー!?」 今度はロンの方が驚いて、飛び起きた。 「ど、どうしたんだ、ハリー?どこか痛いの?」 ハリーは目を伏せて、首を横に振った。ぽたぽたとその動きに沿ったように、涙が零れている。 「・・・・・・いで・・・。」 ハリーの声は、今まで聞いたことがないくらいか細かった。 「えっ!?なに?」 聞き返すロンに、ハリーは俯いたまま呟く。 「いなく・・・ならないで・・・・・・。」 「ハリー・・・・。」 「お願いだから、そんなこと言わないで・・・・・。」 「だ、だって・・・・僕は・・・・・・・。」 こんな頼りないハリーを見たのは、初めてだ。ロンは戸惑った。大体、何故こんなに泣かれるのかが分 からない。言い募ろうとしたロンの言葉を遮るように、ハリーは首を横に振る。 「僕は・・・ロンに色んなものを与えてもらった。でも僕はロンになにも返してない。それは、分かっ てるんだ。いつも面倒ごとに巻き込んで・・・・それを当たり前と考えるようになってた。」 ハリーは、今まで口にできなかったことを言葉にした。それはハリーが1種のプライドと呼ばれるもの を、離した瞬間だった。ロンに対してもっていた後ろめたさ等を、気付かれたくなくて覆った単なる意 地。手の甲で、涙を拭く。 「此処だって、あっさり見つけたわけじゃない。ロンが消えてから、ハーマイオニーにも手伝ってもら って散々探したんだ。ドラコと喧嘩もしたよ。ドビーなら何か知っているかもしれない、と思ってあ そこに行ったらやっとのことで、教えてもらったんだ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 ハリーは俯いたまま、毛布を硬く握り締めていた。 「やっとの思いで此処でロンを見つけた時は、凄く嬉しかったよ・・・・。」 「僕・・・・・・・。」 「役に立たないって1人で勝手に結論出して、いなくならないで。置いていかないで、いて欲しいんだ ロンに側にいて欲しいんだ。」 1度溢れ出た言葉は、止まらずにどんどん零れていく。トラウマになってしまった、ロンとの喧嘩。や っとまた側にいてくれるようになったのに、再び自分から離れようとしている。ハリーはロンの両腕を 掴んだ。びくっとロンが身体を強張らせたのが分かる。思わず掴む手に力が篭もった。 「ねえ、ロンは僕の隣にはいられないくらい僕のことが嫌いなの?」 「そ、そんなことないよ。でも・・・・。」 「ロンが役にたたない、なんて思ったことない。そもそも役にたつたたないなんて、どうして必要なの? ロンがここにいるということが僕にとっての”大切なこと”なのに。」 ACT=4 各々の想い ロンは驚きと共に、ハリーの言葉を聞いていた。普段の頼もしいハリーからは想像もできないような、 弱々しい姿。何を言っても虚しく消えていきそうで、ロンは言葉を発することができなかった。それで も何か言わなければならない、ハリーが言葉を紡ぐのを止める前に。 「なんだか、君らしくないよハリー?いつものハリーはどこに行っちゃったわけ?」 月並みだ、と思いつつロンは言った。こう言ってしまえば、ハリーに反発を覚えられることを覚悟して。 というか、正直口下手な自分には気のきいた言葉が出てこないのだ。正直イライラする、自分の不甲斐 なさに。 「これが、本当の僕だよロン・・・・・。いつもは虚勢を張っているだけだ。本当は1人になるのが怖 いんだ。ヴォルデモールだって、本当は怖くて怖くて堪らない。」 「ハリー・・・・・。」 ハリーの反応は、静かだった。ロンの両腕を掴んだまま、下を向いてぼそぼそと呟く姿。その姿にロン は思った。ハリーは”覚悟”を決めて「例のあの人」と戦おうとしている。普段は平然としているが、 怖いのは当たり前だろう。・・・・もちろんハーマイオニーも。 なら・・・・なら自分も”覚悟”を決めて、歩いていかなければならない地点に来ているのかもしれな い。逃げる、という道もあるけれど。ハリーの姿に同情したわけじゃない、そんなお高い位置に自分が いるわけじゃない。逃げるのは卑怯かもしれない、そう考える。自分に都合の良い時だけ、ハリーに寄 っているのは、やはり後ろめたい。ロンは目を閉じた。 ----------こんな非常時だからかもしれないが、必要としてくれている。 ----------なら、必要とされるなら・・・・・・。 ----------自分にはこの身を投げ出すくらいしかできないけど。 「ハリー。」 ロンの静かな声に、ハリーがびくりと震える。 「もし、君が本当に僕なんかを必要としてくれるなら・・・いるよ。ハリーの隣に。」 ハリーが驚いたように顔を上げた。 「だからこの手、離してくれないかな?痛いんだけど・・・。」 「あ、ごめん。つい・・・。」 ハリーは慌てて、手を離した。ロンの顔を見ると、困ったように笑っている。だが、その瞳にはまだ迷 いがある。ハリーの必死の言葉に、一応返事は返してもらった。が、まだまだロンは迷っている。 「きっとね、ロンが僕のことを想っている以上に、僕はロンのこと想ってるよ。それだけは忘れないで ね。」 「・・・・・・・・うん。」 迷う、戸惑う、躊躇する。 これまでも、これからも。 窓から注ぐ青白い月の光が、2人の少年を静かに照らしていた。
★はい、お疲れ様です。・・・・う〜ん、なかなか上手い言葉が見付からずに苦労しました。心の中で は感情として理解していることですが、言葉に出すとなるとこれまた・・・(苦笑) ハリーサイドからとしては、自分から離れようとしるロンに対して自分のプライドをさらけ出してロ ンを説得しようとしているわけなんですよ。ハリーは弱い姿を、他人に見せたがりません。それは彼 なりのプライドだと思っています。 対してのロンですが、一応ハリーのためを思って離れようとするわけですが、これ実は自分を守る行 動でもあるわけなんですよ。結局、ここの時点ではロンは自分のプライドをさらけ出したわけではあ りません。但し、ハリーと同じく”覚悟”はしてますけど。 ロンの立場は私と似ているんですよねえ。自分は大したことないんですけど、周りには秀才が集まっ てるんですってとこ。私は呑気さんだったので「わ〜凄いな、皆」と思っていただけなんですけど。戻る