トレー

       8月の夏休みまっしぐらなこの時期、有名人ハリー・ポッターは”大親友”であるロナウド・ウィーズ
       リーの家に当たり前のように居候していた。本当は夏休みはずっとここにいたいのだが、流石の主人公
       も魔法界のスーパースター、ダンブルドア校長先生には逆らえなかった。一応、あの一家のところに戻
       ってくれと言われれば、従わないわけにはいかないからだ。しかし、ある一定の日にちが過ぎればロン
       と双子が迎えに来てくれたりするようにはなったのだが。従兄弟とはいえ、お世辞にも顔がいいとはい
       えないダドリーの顔を眺めつくした後のロンの表情は、ハリーには眩しかった。思わず勢いに乗って、
       あーんなこととかこーんなこととかしたいハリーはお年頃である。

       さてはともあれ、ロンの家に居候してから暫く経った日。眠っていたハリーは突然人の気配を感じた。
       同室であるロンかと思ったが、彼の気配ではなかった。
       (まさか・・・・・。ヴォルデモートの刺客!?)
       だとしたら、のんびり寝ているわけにはいかない。ハリーは飛び起きた。
       「あら、おはよう。ハリー。」
       慌てて見ると、ロンと自分のベットの間で椅子に座っているハーマイオニーがいた。
       「は、は・・・・・ハーマイオニー!?」
       ひっくり返った声で叫んだハリーの声に、ロンがきゃんと言って飛び起きた。
       「なんだよハリー。こんな朝っぱらから・・・・ってハーマイオニー!?」
       「おはよう、ロン。相変わらずおねぼうさんね。」
       ハーマイオニーが今日来るなんて知らなかった、とロンを見るとロンは目を白黒させてぶんぶんと首を
       横に勢い良く振った。つまり、ロンも知らなかった。大体今日、ウィーズリー家の人々は自分とロン以
       外出かけている。しかも今日は帰ってこない。間が悪い・・・と思うと同時に嫌な予感がするハリーで
       あった。
       「どうしたの、ハーマイオニー?会えるとは思ってなかったから、ビックリしたよ。」
       取り合えず柔らかくそう言うと、すました顔でハーマイオニーは答えた。
       「そうね、私も今日会おうとは思ってなかったから。少なくとも2日前にはね。」
       「じゃあなんで今日、来たわけ?」
       これはロン。するとハーマイオニーは嬉しそうに笑った。・・・本当に、嬉しそうに。嫌な予感が強ま
       る2人に、爽やかに言って来た。
       「そんなの、ニホンのイベントを一緒にやろうと思ったからよ!!」
       (あ〜〜〜〜〜〜〜やあっぱりぃぃぃ〜〜〜)
       頭を抱えたい2人であったが、ご本人はいたって嬉しそうである。
       「なによ、もっと嬉しそうな顔をしなさいよ。」
       「わあい(棒読み)」←ハリー
       「うーれしい・・・・・・・・なあ・・・・・(フェードアウト)」←ロン
       強要されて、弱々しい歓声を上げる男2人組みであった。しかしハーマイオニーは満足したらしい。う
       んうんと頷いて、そーこなくっちゃ!などと言っている。
       「んで・・・・今日は何のイベントなの?」
       「お盆っていうのよ。」
       「オボン?なにするのそれ?」
       ロンの問いかけに、ハーマイオニーはもっともらしく頷いてみせた。
       「なんでも日本ではこの日、死者が現世に帰ってくるらしいの。それをお迎えしたり、お見送りしたり
        する行事らしいわ。」
       「つまり、幽霊がやってくるってこと?」
       ハリーが言うと、まあそんな感じねと返ってくる。
       「幽霊なら、ホグワーツにいっぱいいるじゃないか。別にそんなことする必要ないじゃん。」
       ロンが面倒くさげに言って来る。
       「幽霊っていったって、普通の幽霊を迎えるわけじゃないのよ。」
       「じゃあどの幽霊?」
       「ご先祖さまなんですって。素敵よね、そうやって”今”を築いてくれたご先祖様をお迎えするなんて。」
       ハーマイオニーはうっとりとした表情になって、両手を右頬の辺りで合わせた。なんだかマグルの世界
       ではオカルトマニアが言いそうだ、とハリーは思ったが面倒くさいのでコメントは避けた。どうせ、ど
       うやったってハーマイオニーに付き合わされるに決まっている。なら諍いを作らなくてもいいだろう。
       流石に、ハリーは悟るのが上手かった。
       「それにしても、オボンってどういう意味なんだろうね。」
       「あ、ちゃーんと調べてきたわよ!お盆ってね、英訳すると・・・・。」
       「ふんふん。」
       「トレーって意味らしいわ。」
       いや、それは違うぞハーマイオニー!直訳すれば良いってわけではないんだ、ハーマイオニー!何気に
       日本を勘違いしてないか、ハーマイオニー!!!(号泣)
       「あら、なにかしら?なにか聞こえたわ・・・・?」
       「?そう?僕には聞こえなかったけど・・・?ロンは?」
       「僕も、聞こえなかったけど・・・・?」
       「そう、気のせいね。まあ良いわ。」
       良くないー!!!
       「具体的には、何するの?」
       ハリーがちょっとうんざりしながら、尋ねてきた。
       「それがねえ・・・・良く分からなかったの。」
       (良く分からないんだったら、どうして中止しようという選択肢は出てこないんだ?)
       ハリーの心の呟きは心の中であった為、肝心の本人に届かなかった。まあ、口で勝てるわけがないのは
       分かっていること。ふーんと適当に相槌をうつ。
       「じゃあ、やりようがないじゃんか?」
       ロンが墓穴を掘るのも、いつものこと。あっさりとそれはもう、見事に掘ってしまうのであった。する
       と、ハーマイオニーがくるうりとロンの方に向いてニッコリと笑った。そりゃあもう、背筋が寒くなる
       ほどの笑顔だった。思わず後ずさって、ベットから転がり落ちるロンであった。
       「わあ、ロン!?」
       駆け寄って覗くと、あいたたとか言いながらロンはのそりと立ち上がった。
       「大丈夫、ロン?」
       「うん、有難うハリー。なんとか大丈夫だよ。」
       「そっか、良かった。」
       ほんわあ、と笑う2人に対してハーマイオニーは咳払いをする。
       「先に進んで良いかしら?お2人共?」
       「・・・・・・はい。」
       2人して項垂れる。今日は厄日に違いない、と目で話しながら。


       「でね、分かったのはお迎えとお見送りの時に火を焚くことだけだったんだけど・・・。」
       「なにに、焚くの?」
       「トレーによ。」
       だから違うってば、ハーマイオニー!お盆はトレーの意味ではないんだ、ハーマイオニー!やっぱり、
       結構日本を勘違いしてるぞ、ハーマイオニー!(さらに号泣)
       「その煙に乗って、ご先祖様が来たりするみたいなの。」
       「キャンプファイアーみたいなもんじゃんか。わざわざする必要ないじゃんか。」
       ロンがよせば良いのに、更に墓穴を掘る。ピキン、と部屋が凍った。
       「あーえーと、それで?」
       ハリーは人生において、究極の悟りを啓いた気がした。人間とは、本当の危機において悪魔に魂を売っ
       てしまえるもんなのだと。
       「それでね・・・・。実はイケニエが必要なんですって。」
       ハーマイオニーの言葉に、ハリーもロンも飛び上がった。物騒な話だ、いつの時代の黒魔術なのだろう。
       「イ・イ・イケニエ〜!?」
       ロンの声がひっくり返る。ハリーも目をパチクリさせたまま、ハーマイオニーを見つめた。しかし、ハ
       リーの学年が誇るトップはすましたものだった。
       「なによ、オーバーね。イケニエっていったって、本当に動物とかを捧げることじゃないのよ。ほら。」
       彼女が出してきたのは、ナスだった。りっぱな大きいナス。実家から持ってきたと、彼女は言った。そ
       して、木の枝をパキパキと4つに折りナスに突き刺す。丁度、動物の足のように。
       「これがイケニエなのよ。結構可愛いと思わない?」
       確かに愛嬌のある姿ではある。あるのだが・・・・・・・。
       「うん。」
       ハリーは迷いも無く答えた。彼は悪魔に魂を売ってしまったのかもしれない(笑)ロンはひきつった笑い
       を浮かべている。キチンと笑おうとしたが失敗した、そんな笑顔。
       「そして、呪文を唱えるのよ。」
       「なんて?」
       「なんまいだぶ。」
       それはお経だ、ハーマイオニー!しかも呪文じゃないってば、ハーマイオニー!!っていうか、本当に
       日本に親しみを持っているのか、ハーマイオニーィィィ!!!(大号泣)
       「なにそれ、どういう意味?」
       「愚問ね、ロン。呪文に意味はないわ。」
       「え・・・・・そうだっけか?」
       「じゃあ、ルーモスの意味って?答えてみなさいよ。」
       ロンがうっと唸る。勝ち誇ったように、ハーマイオニーが笑う。
       「で?納得したの、お2人さん?」
       ハーマイオニーの言葉に、納得はしていなかったが反撃する気も無くなった2人は虚ろな目で頷いたの
       であった・・・・・・。


       「じゃあ、火をつけるわよ?」
       普通のトレーの上にイケニエらしいナスを立たせ、ハーマイオニーは杖を取り出した。本来、迎え火や
       送り火はこんな朝っぱらからやることはないのだが、善(?)は急げとばかりに庭にくりだした彼等なの
       であった。
       「え、火をつけるの?」
       「馬鹿ね、ロン。送り”火”迎え”火”って説明したわよ?」
       「・・・・・・・・・いやでも・・・・なんか・・・・・・・・・・・・。」
       ロンの苦悩は良く分かる。普通の樹脂でできてそうなトレーに火をつけるという行為、危険行為だと思
       われた。これを書いている奴の近所では、陶器製の皿にやっていたのだが・・・・。しかし、ハーマイ
       オニーを止められるわけがない。案の定、ハリーが見つめる先でハーマイオニーが魔法で火をつけた。
       (やっぱり・・・・・・・)
       普通のライター等でつける火とは違い、魔法の火は強い。あっという間にトレーはグニャリと溶け出し
       イケニエのナスは炎の中に消える。そして、当たり前だがその火は庭の草に燃え広がり、見物に出てき
       ていた庭小人が逃げ回っている。ロンはパニックを起こし右往左往しているし、ハーマイオニーは呑気
       にも、あら?本で見たのとは違うわなどと言っている。早く火を消さなければ、ウィーズリー家が無く
       なってしまう。ハリーは杖を出した。先天的にハーマイオニーより、ハリーの方が魔力が強い。ハーマ
       イオニーの魔法で起こした火ならば、ハリーの魔力で消せるはずだ。
       ハリーは呪文を叫んだ!!
       すると、今まで暴れまわっていた火はハリーの恫喝に近い声に萎縮したように消えた。それこそ魔法に
       かかったかのように。視線の先に、複雑そうな顔をしたハーマイオニーが立っている。ハリーはそれに
       気が付かないようにして、2人に近づいた。
       「大丈夫だった、ロン?ハーマイオニー?」
       「うん!有難うハリー!やっぱり君って凄いよね!」
       「そんなことないさ、たまたま上手くいっただけさ。」
       ハリーにしてみれば、好きな相手から無条件に誉められて嬉しくないハズがない。思わずニンマリと笑
       ってしまった。
       「ありがと、ハリー。感謝するわ。」
       ハーマイオニーの少しむっとした声が、耳に届く。ハリーは今度は慌てた。別に自分の魔力がハーマイオ
       ニーより勝っているのを誇示したかったわけじゃない。
       「い、いやあ・・・・・。本当に上手くいっただけだよ・・・・ホントだって。」
       「?なにをそんなに慌ててるのさ、ハリー?」
       よせば良いのに、ロンが突っ込んでくる。
       「慌ててなんかいないよ・・・・。」
       「別に、気にする必要はないわ。ハリーのおかげで助かったんだもの。でも・・・・。」
       苦い表情を崩さずに、ハーマイオニーは呟いた。そしてクルリと後ろを向いた。
       「どうしたの、ハーマイオニー?」
       「帰るわ、私。もうちょっとお盆を勉強して、来年リベンジするわ。」
       「へ!?」
       間抜けな声を出すハリーとロンに振り向いて、ハーマイオニーはニコリと笑った。
       「じゃあね”後始末”お願いね!」
       来た時と同じように、ハーマイオニーは突然帰ってしまった。
       「後始末?」
       ハリーはロンを見た。
       「家の庭が焼けたことかなあ?」
       ロンは首を捻った。
       「・・・・いいや、なんか嫌な予感がする。その程度で”あの”ハーマイオニーが退散するとも思えな
        いしね・・・・。」


       確かに後始末はあった。何の因果か分からないが、いきなりデーモンが召還されていたのであった。デ
       ーモン自体も何故に召還されてしまったか、分からないらしい。幸い大人しいデーモンだったので良か
       ったのだが、夏休み中ひきつった顔のウィーズリー一家+1人と過ごしたのであった。
       「ハーマイオニーが、すぐに帰った意味が分かったよ。帰ったんじゃない、逃げたんだ!」
       「「ハーマイオニーのバカーーーーーッ!!!!」」
       夏の終わりに、少年2人の心の叫びが空高く舞い上がったのであった。



       ★勘違いのお盆でございました。おかしいなあ、ハリー腹黒説を有力に押している私なのに、黒いのは         ハリーじゃなくてハーマイオニーとは・・・?意外とハリーよりも彼女の方が動かしやすいのもある         んでしょうね、私の場合。基本的に女の子は粗末にしないもんで・・・・。つーか強すぎですね、ハ         ーマイオニー。日本については、勉強する本を変えた方が良いと思います。意外と「ム○」だったり         すると、とても嫌。一時期ペンパル募集欄を面白がって見てましたなあ。変なの多くて。「"ハルマゲ         ドン"の戦士の方を探しています」とか(笑)「○○星人の方、お手紙を」とか(どっちも実話)○○星         人の方は、どうぞご自分の星にお帰り下さいとか思ってました。懐かしい・・・・・。         ハリーの魔力がハーマイオニーより強いかどうかは、原作にも書いてなかったと思います。いわゆる         マイ設定というやつですので、本気にしないで下さいね。        戻る