希望と絶望は隣り合わせ
動揺
日本に戻ってからのルルーシュの最初の連絡に、ライは抱腹絶倒した。余りに笑うので、画面のルルー
シュの顔が不機嫌に歪む。それが更にライの笑いを加速させた。
「やるなぁ、サヨコさんは。流石ルルーシュのメイドさんやってただけあるよね」
「笑い事か。俺の面目丸潰れだぞ」
ぷく、とあからさまに頬を膨らませるルルーシュが可愛くて、ライはにやにや笑う。
「いいじゃないか。せいぜいデートで癒されておいでよ」
「24時間、ほぼノンストップでのデートで癒される奴の顔が見たいよ、俺は」
「う〜ん、そこまでの時間調整できるサヨコさんの手腕は見習わないとなー」
「・・・・・あのさ、ライ」
「うん?」
「お前、俺が他の女の子とデートするっていうのに、嫉妬の1つもしてくれないのか?」
思いがけない事を言われて、ライは目を丸くした。
「そのデートプラン、シャーリーは入っているわけ?」
「?いや・・・・入ってないが」
「ならしない」
「意味分からん。何でシャーリーが出てくるんだ」
「だって一種の本命だろう、シャーリーは。じゃないとルル、なんて呼ばせたりしないし。彼女は僕も
大好きだけど・・・モチロン友達って意味でね、良い子だよな」
「はっ!?俺の本命はお前だぞ」
目を白黒させるルルーシュの後ろで、ロロが剣呑とした目でこちらを見ていた。
「それは分かってる」
断言するライも凄い。
「でも生徒会メンバーの中でも特別だろ?」
当たっているのだろう、ルルーシュの目が泳ぐ。
「実は・・・それについて困った事になっているんだ」
「どうしたんだ」
「いや・・・俺に扮装したサヨコが色々あって、シャーリーにキスしたらしいんだよ・・・」
「なにそれ?シャーリーが可哀想だ」
「俺もそう思う。だからなんとかフォローをしたいんだが、良い案が浮かばなくてな。なにかないか、
ライ」
「う〜ん、そう言われてもなぁ。お詫びになにかプレゼントしてあげるとか・・・」
「水着をか」
「あのね、シャーリーがいくら水泳部だからってそれはないだろう?まったく君の普段の狡猾さはドコ
へ行っちゃうんだか」
「ほっとけよ、俺は女性へのプレゼントはナナリーにしかしたことないんだ」
「デート地獄の日、確かこっちへも来るんだよな?」
「ああ・・・・滞在できる時間は45分らしいが」
「ならシャーリーに似合いそうな服でも買っとくよ。騎士団の女性に訊いてみるから・・・。あーでも
シャーリーのサイズ知らないや」
「知ってるから、後でデータ送るよ」
「・・・・・・・何故に知っている?・・・・!まさかシャーリーに不埒な事を!!」
「しとらん!」
「そんな甲斐性ないもんね、心配してないよ。じゃ、その日は頑張って。通信終わり」
「おい、俺の話は・・・!!」
聞いていても、デートに関する愚痴を延々と聞かされるハメに陥るのだからとライはさっさと通信を終
了させてしまった。
「お前はあの女をルルーシュの本命に近いと思っているのか?」
CCがピザをぱくつきながら訊いてくる。
「まあね。どちらかといえばナナリーに近い感情なんだろうけど、あのルルーシュが好意を持たない相
手にルルって呼ばせたりしない」
「確かにな」
「それにCCだってカレン辺りだとからかうのに、シャーリーとルルーシュがキスした時の事をいやに
絡んでいたじゃないか」
CCは目を逸らし、口をもごもごさせて聞いてないフリをしている。それは彼女の核心を突いたという
何よりの証拠だった。
次の連絡は、奈落の底に落とされるような事が起こっていた。
「え・・・・・今、なんて・・?」
「饗団を潰す」
「一体どうしたんだい?利用するんじゃなかったのか?」
ルルーシュの顔が非常に生気を失っているのが気になる。
「・・・・・・・・」
「ルルーシュ?」
「シャーリーが・・・・死んだ」
「え・・・・」
目の前が真っ暗になる。訳が分からない。彼女は・・・シャーリーは戦いとは無縁の存在だ。これがカ
レンや千葉だったら、まだその死を受け入れられただろう。だがライにとっても、思いもかけない事だ
ったのだ。
「犯人は分かっている」
「!誰だ?」
「ロロだ」
「!」
そういえばイベントでシャーリーとルルーシュは、カップル扱いになったとは聞いた。ルルーシュに固
執するロロが、それを面白くないと考えても不思議ではない。だが殺すほどだろうか?
「シャーリーの記憶は戻っていた。だから・・・・多分。俺のせいで、ギアスのせいでシャーリーは死
んでしまったんだ。だから決心した。ギアスを失くすと」
そう言われてしまうと、ライも反論できない。シャーリーがなにをした?父親を殺してしまった相手が
自分の好きな人で。ルルーシュを守る為に、銃の引き金を引いて絶望して。ルルーシュもそうだったら
しいが、自分も彼女の屈託のない笑顔に救われていた。
「また連絡する」
そう言って、ルルーシュは通信を切った。呆然としたライが気を取り戻したのは、CCがいつの間にか
自分の隣に座って顔を覗き込んだ瞬間だった。
「わあ!?」
ソファから転がり落ちる寸前で、なんとか持ち直す。そんなライの頭に手を回し、CCは自分の胸に引
き寄せた。
「泣け」
「え?」
「あの少女が死んで、お前も悲しいのだろう?ならここで泣いておけ」
CCは淡々と言葉を紡ぐ。
「前にも言ったな?お前はゼロの右腕。これから失意の中で帰ってくるアイツを、支えてもらわなけれ
ばならん。お前まで一緒にメソメソ泣いていては話にならん」
CCの細い腕が身体に回る。人肌の温かさに、ライは涙腺が緩んだ。
「良い子だったんだ・・・・・。死んで良い子じゃなかった・・・・・。ルルーシュも僕も、彼女が好
きで、大切で。屈託のない、あの笑顔が好きだった」
頬を涙が流れる。この前にこんなに泣いたのは、いつだったろう?母と妹が死んだ時は、ショックが強
すぎて涙も出なかった。CCの腕に力が篭もる。ライは我を忘れて、CCにしがみつき大泣きした。
色んな事がありすぎて、ルルーシュが日本へ帰ったのは随分前のような気がしていたが、実際はそんな
に日が経っていない。ルルーシュは何故か記憶を失ったCCと、ロロを従えて帰ってきた。ライは饗団
殲滅の任は受けていなかった。それはただでさえ親衛隊が極秘で出撃した事を危ぶむ者もいるのに、ゼ
ロの切り札的な存在であるライまで駆り出せなかったからだ。疑う者もいるようだが、ライが拠点から
動かなかった事でなんとか事が収まっていた。
憔悴しきったルルーシュを見て、ライは心を痛めた。シャーリーの死はここまでルルーシュにダメージ
を与えている。だが殺した本人は何処吹く風だ。それどころか、以前にも増して自分を見る目が危険性
を帯びてきている。下手をすれば、ライもロロに殺されかねない。穏やかに微笑みながら、ライは背中
に悪寒が走った。
ルルーシュは静かな声で、CCとロロに退室を命じた。CCは不安そうに、ロロは不満そうにして部屋
を出て行く。おそらくロロはこの後のことも分かっているのだろう。
「ライ」
か細い声で、ルルーシュはライを呼ぶ。ライはルルーシュに近寄って、そっと抱きしめた。CCの判断
は正しかったと思う。今、必要なのは一緒に泣く事ではなく、ルルーシュが再び立ち上がる為にぬくも
りを与える事。それはCCがライにしてくれたのと、同じ事。
「泣いて、ルルーシュ」
「っ・・・俺は・・・・」
「今だけしか泣けないよ?悲しい時、泣けないのは辛い。だから・・・・泣いて?」
ルルーシュの腕がライの身体に回り、痛いほどに抱きしめられる。その細い肩が、震えていた。
そしてライは知る。Cの世界でルルーシュが皇帝に会った事。CCの望み。そして記憶を退化させてし
まった事。
時は動く。
日常の象徴を失ったが故に。
★CCが本当に、ライの母状態になって参りました。CCはマオの時に心を近づけ過ぎたゆえに、彼を
暴走させてしまったみたいなので、ルルーシュの時は一歩常に引いているイメージがあります。ライ
に優しいのは、ギアス編のCCを引きずっているのかも。あ、ライのシャーリーへの好意はあくまで
も「友達」であり「平和な日常の象徴」です。ルルーシュはもうちょっと懐に入れているイメージ。
ルルシャリですいません・・・・。
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