これで良かったんだよ
結末
遠ざかる足音を聞きながら、ルルーシュはライを見つめた。穏やかに眠っているような彼は、文字通り
数奇な運命を辿り、そして今その戦いに彩られた生涯を閉じたのだ。
ライはルルーシュに「君が死ぬ所を見ろというのか?」と説得の度に言っていたが、ある時から全くそ
の言葉を発しなくなった。自覚したのだろう、自分の寿命がゼロレクイエムまでもたないのを。結局ラ
イはルルーシュに、自分の死を看取らせる事になったのだから皮肉なものだ。自分がルルーシュが死ぬ
のを見るのが嫌なのに、ルルーシュには自分が死ぬのを見せてしまうのだから。
神根島より連れ帰ってからライは我を通す事が多くなり、ルルーシュの手を散々と焼かせた。我侭放題
と言っても良い。しかし問題は周囲から見れば、我侭にみえないところなのだ。例えばスザクは嘘が嫌
いだがつくのも下手。反対にライは嘘も時々は必要だと知っている。だから嘘も上手くつく。その最も
たる例が、対ラウンズ戦だ。澄ました顔をしてランスロット・アルビオンの隣に陣取る、ロイドが趣味
で作ったと言っても良いライ専用のランスロット・クラブを見た時は、腰を抜かすほど驚いた。確かに
ライからは出撃許可申請が出されてはいた。だが医者とCCの意見、そしてルルーシュの心情故に却下
していたのだ。確かにライ程の腕を持つパイロットがスザクと連携して戦えば、その功績は計り知れな
い。だが身体も命も弱っているライを戦場に引っ張り出さなければならないほどでもない。そう言うと
ライはあっさりと引き下がったのだが・・・・。確認してみるとルルーシュから出撃許可は貰ったとラ
イは言っていたらしい。その書類も後で見ると正式なものと区別できないほど、良くできていた。4人
いたラウンズの強敵であるワン・スリーは流石にスザクが相手をしていたが、ライはフォーとトゥエル
ブを落としてみせた。一緒に戦いたいと恋焦がれていたスザクはランスロットから降りてきたライに、
興奮を隠さず抱きついて大喜びしていたらしい。気持ちは分かるが、ルルーシュとしては面白くない話
だ。
勝手に出撃したライを叱る為に、忙しい合間を縫ってルルーシュはその日の夜にこっそりライの個室を
訪れた。勝手知ったる扉のパスワードを押してドアを開けたルルーシュの目に飛び込んできたのは、暗
闇の中で倒れているライだった。叱るどころではない。ルルーシュは大慌てでライを抱き上げ、医務室
に飛び込んだ。光にさらされるライの顔はひどく青く、呼吸も油断すると止まるかと危惧するぐらい弱
いものだった。あの出撃で身体にさらに負荷がかかったらしい。やっと目を開けたライにルルーシュは
怒鳴りつけて怒ったのだが
「なんで怒られるんだ。ちゃんと協力してるだろ?」
と言って頬を膨らませ、ツンとそっぽを向いてしまった。確かに傍目から見ればルルーシュに協力して
いるとしか思えない。ライも意識して周囲にそう思わせているのだから始末が悪い。
その後もライは勝手にスザクと共に出撃したり、作戦行動を取るのでルルーシュはライから個室を取り
上げ自分の部屋に移してしまった。個室や病室だといくら言っても重要な戦いなどでベットから抜け出
してしまう為、皇宮の中で最もセキュリティシステムが充実している自分の部屋に移動させた。スザク
はライが眠っていた時に自分が同じ事をしていたという自覚がある為、あまり良い顔はしなかった。も
ちろん張本人のライも移動の際に抵抗し、ルルーシュが部屋に戻ってくると文句を言ったかと思えば、
ツーンとそっぽをむいて、取り付く島もなかったこともある。だが抱き締めたりすると、途端に甘えた
仕草でルルーシュに腕を回したりしていた。我侭だけでなくライは甘えるという感情も素直に出すよう
になっていた。それがどれだけ愛しく思ったかなど、ライには分からないだろう。自制を取っ払った、
「ライ」という人間そのものをみることが出来るのは、ルルーシュだけだった。スザクにはもちろんC
Cにも、悪い言い方をすれば猫を被っていたのだ。まあ、CCにはバレていたが。
正直な話、ルルーシュはライがスザクを羨ましいと思っていたと言われて困惑した。確かに最初は戦力
としてスザクが欲しかった。戦力だけではない。自分の信用におけるスザクがいてくれたら、どんなに
救われるだろうと。だがライは黒の騎士団に来てからというもの、正体をバラしても微動だにせずゼロ
を支え続けてくれた。だから段々スザクを求める事から、離れていったはずだ。ルルーシュはスザクと
ライを天秤に乗せた事は一度もない。比べた事もない。もしスザクとライをどちらかを選べと言われれ
ば、躊躇なくライを取る。それだけ大事だった。そう言ってきたし、態度にも出してきたはずなのに。
ライを抱きたいと思っても、スザクにはそんな事を思ったこともない。自分に大切にされている存在で
ライのライバルになれるのは、ナナリーぐらいだ。CCですら、ライへの思いには敵わないというのに。
アッシュフォード学園へライを連れて行ったのは、本当に偶然だった。行きたいか?と訊けば行きたい
と答えたので、自分の乗る機体にベットごと乗せてアッシュフォード学園に行った。降りる際にライの
ベットへ行き、少し話をした。
「懐かしいか、ライ?」
「うん。一年ぐらい前は此処で、皆で平和に笑いあっていたなんて嘘みたいだ・・」
「ライ・・・・」
「降りて学園内を歩きたいんだけど・・・」
「ダメだ。お前に何かあったら俺が大変だからな」
「良いよーだ。ここから学園内が見えるから、見てるよ。・・・ルルーシュ」
「ん?」
「有難う、連れて来てくれて。それから気をつけて行って来てくれ。だけどカレンや神楽耶さまに粗相
をするなよ?」
「するかっ!」
思わず叫ぶと、ライがくすくす笑う。ルルーシュも苦笑を湛えて、ライに軽くキスをした。
「良い子で待ってろよ?」
「子供じゃないぞ」
そう言って口を尖らせながら、ライは手を振っていた。
それからダモクレスとの戦い。あれもライに関して想定外の事が起こっていた。自分やスザクの計画で
は、ライはロイド達と一緒に黒の騎士団に保護される予定だった。それが後になってセシルに訊いてみ
ると、ライのベットは既に空っぽになっていたらしい。時間も無いし慌てて探したのだが、ライはどこ
にもいなかった。それはそうだろう。ライはこっそりと搬入していたランスロット・クラブで、出撃し
ていたのだから。そしてCCを落としたカレンの紅蓮と、一戦交えたらしい。カレンはライを黒の騎士
団に戻るよう薦めたらしいが、ライはきっぱりと断った。黒の騎士団のエースと、元エースの激突はカ
レンの勝利に終わった。ライが勝っていたのは操縦技術だけで、機体も体力もカレンに圧倒的に劣った
状態だったからだ。ライにしてみれば余りにあっけなく負けたので、カレンはライの罠だと警戒してい
たようだ。が、ランスロット・クラブが浮いているだけでも精一杯だと分かると、カレンはそのまま立
ち去ったらしい。止めを刺さなかったのは、彼女のライに対する礼儀だった。それでもライは紅蓮を追
いかけていった。相手にもされず、他機に落とされそうになった時はなんとカレンがさり気なく庇って
くれたそうだ。カレンは性格的に激しいところがあるものの、基本的には優しい少女だ。自分と生死を
共にしたライを落とすのも、他機に落とされるのも許せなかったのだろう。だがこの出撃と戦闘がライ
の全てを決定的に弱らせた。もはやベットからも起き上がることも出来ず、長く眠っては短く覚醒する
生活になってしまった。覚醒する時間も徐々に短くなっていく。ルルーシュはそんな死に逝くライをた
だ見ている事しか出来ない自分にイラついていた。
そして運命の時。ライは最期にこう言った。
「ルルーシュの・・・・ばーか」
終りの言葉にしては、随分な事を言う。ライは常にルルーシュの予想を裏切ってきたが、最期の言葉さ
え度肝を抜かしたのは流石かもしれない。
ライはルルーシュを一度も裏切らなかった、そして裏心なく支えてくれた唯一の存在だ。そう言っても
ライは「嘘をつかなくて良い」なんて言っていた。人の気持ちも知らずに。スザクと談笑している所を
見て、どれだけ嫉妬に苛まれたか分からないというのに、この男は。
「お前、Cの世界で会ったら覚えてろよ?」
とん、と人差し指をでライの額をつつく。だがライの瞳は開かない。その事実は今更にルルーシュを落
ち込ませた。
スザクの扮する自分が作り上げた偶像であるゼロに貫かれ、ルルーシュは最愛の妹の傍でその生涯を終
えた。
「愛しています、お兄様!」
という叫びを聞きながら。怖くは無かった、Cの世界にはシャーリーが、ロロが、ユフィが、そしても
う1人の最愛のライがいるのだから。
★とうとうルルもライも逝ってしまいました。あとはエピローグになります。
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