行こう、君の為に




 








覚醒

          どのくらいそうしていたんだろう。

          (ライ)
          自分を呼ぶ、懐かしい声。
          (聞こえるか、ライ)
          (聞こえてるよ、久しぶり・・・かな?C.C)
          そう返すと、はあという溜息が聞こえた。
          (良いご身分だな、こちらは大変だったというのに)
          (僕はどのくらい眠っていたんだ?)
          (おおよそ、半年だ)
          半年・・・か。目の前でルルーシュが記憶を書き換えられてから。僕はその時自分を仮死状態にして、
          皇帝のギアスから・・・・スザクから逃れたんだっけ。
          (いい加減、目を覚ませ。これからルルーシュを奪還しなければならんのでな。お前の力が必要なんだ)
          (簡単には言うけれど、ここはブリタニア本国だよ?どうやって日本まで行けば良いんだ)
          (自分でなんとかしろ・・・と言いたいところだが、私がなんとかしてやった。だから早く起きろ)
          (分かったよ)


          目をゆっくりと開くと、白い天井があった。ただ白いだけではなく、なにかしらの装飾が施されている。
          どうやら刑務所に放り込まれていたわけではなさそうだ。ライは周囲の気配を探る。だが少なくともこ
          こには自分以外はいないようだった。それを確認してからライは起き上がり、立ち上がる。それだけで
          もなんだか新鮮な気分だった。裸足のまま自分が寝ていた部屋から出ると、誰もいない静かな部屋に出
          た。注意深くベットの周りを観察したり、机の上に置いてあった書類からどうやらスザクの部屋らしい
          と推測できた。
          スザク。
          暴走したギアスの犠牲になってしまったユーフェミア皇女の騎士。
          ルルーシュのゼロの幼馴染で親友だった者。
          自分にとっても、大切な友だった。
          だが・・・・・・
          スザクは売った。ルルーシュを、自分の出世の為に。あの出来事で傷ついたのは分かる。分かるが、ル
          ルーシュにとっても耐え難い事だったのに。暴走したギアスの結果を見てきた自分にとって、ルルーシ
          ュの悲しみや絶望は痛いほど良く分かる。たとえスザクには理解できなくても、自分には。

          ライはスザクの信念を甘い理想論だと思っていた。彼の意見は一度も上に立ち、人を動かした事のない
          人間の考え方だ。内側から変える。確かにそうできればいい。だがそれには膨大な時間が必要になる。
          その間に日本人は処刑され、差別され、絶望の中で生きて死ぬ。いわば餓死しかけている人間に
          「僕がいつかお金を稼いで、君を助けてあげるからね」
          と言っているも同然だ。稼いでいる間に、餓死しかけた人間は死んでしまう。たとえばその餓死しかけ
          た人間の為に盗みを働いて、助けたとしよう。確かに盗みは良くないことだ。だがその盗みによって助
          けられた命は、間違っているのだろうか?死ねば良い命だったのだろうか?
          それでもその甘い理想論を、好ましく思っていたのだ。所詮アマチュアの理論であるが、スザクはなん
          とかしようともがいていた。努力を完全に否定は出来ない。自分とは違う考え方だが、ライはスザクの
          その信念を認めた。認めた上で、自分の経験から来る信念を持って、自分の意思でゼロに仕えた。

          プシュ
          思考に引きずられている間に、ドアが開いた。スザクが戻ってきたのかと構えるが、入ってきたのはま
          だ幼さの残るピンク色の髪をした少女だった。
          「あなたがライね」
          「・・・・・・誰だ?」
          「そう警戒しなくても大丈夫よ。CCに頼まれたの、あなたを逃がしてくれって」
          「CCに・・・?」
          「そう。あ、スザクはEUに出張したから暫くは戻ってこないわ。さ、この服を着て」
          「え?」
          「そんなパジャマみたいな服で歩いていたら、間違いなく捕まるわ。そうそうセキュリティは誤魔化し
           てあるけど、あんまり時間は取れないわ。だから早く」
          急かされてライは慌てて自分の今まで着ていた服を脱ぎ捨てる・・・・とばっちりと少女と目が合った。
          「あの・・・・そんなに凝視しないで欲しいんだけど」
          「あら、興味あるのよ。気にしない気にしない」
          「う〜〜〜ん」
          唸っていても仕方が無い。ライは早々に無視を決め込んで、少女の用意してくれた服を着る。
          「・・・・・まさか私の息子とそういう関係になっちゃったなんて、流石に予測できなかったわね」
          「?何か言ったかい?」
          「いいえ、なんでもないわ」
          着替え終わったライに少女はテキパキと、色々渡してくる。
          「はい、これ偽造だけどIDカードね。それと荷物・・着替えとか、チケットはこれ」
          押し付け終わったと思ったら、こんどは引っ張られて外に出る。目を白黒させるライに対して少女は楽
          しそうだった。


          少女の正体も聞けぬまま、なんとか日本行きの便に乗った途端、今まで沈黙していたCCが語りかけて
          きた。
          (首尾よく乗ったようだな)
          (感謝するよ・・・・一応ね)
          (そうか、ならこれから資料を読むから頭に叩き込め)
          (え!?なんでだい?)
          (アジトに来てから説明するのも面倒くさい。それにエリア11に到着するまで暇だろう?だから必要
           事項を頭に入れて、作戦を練っておけ)
          (人使い荒いなあ・・・。僕はさっきまで寝ていた人間なのに)
          苦笑を交えて返すと、CCからも機嫌の良い笑い声が伝わる。
          (お前はゼロの右腕。そして優秀な作戦参謀だ。カレン等も待っているぞ)
          カレンはどうやらブリタニア軍には捕まらなかったらしい。ゼロの正体に動揺して逃げてしまった彼女
          だが、ライは責める気はなかった。
          (カレンと紅蓮弐式は健在か。助かるな)
          戦力に関しては有難い。CCの情報を聞きながら、ライはぼんやりと窓の外を見つめて作戦を練ってい
          た。


          日本の地を見た時、感じたのは純粋な喜びだった。
          (ルルーシュ)
          ルルーシュの笑顔が浮かぶ。
          (僕は本当に肝心な時に、君を守れないな)
          ルルーシュが皇帝のギアスに掛けられた時、ライは自分の不甲斐なさに涙が滲んだ。
          (でも確実に助けてみせる。そして始めよう、君の・・・いや僕らの反逆を)
          できるはずだ、ルルーシュと黒の騎士団があれば。イレギュラーがなければ。
          (君が僕を必要としないと僕が判断しない限り、何があっても君に仕えるよ)
          ライはうっすらと微笑んだ。



          ★ライを逃がしたのは、マリアンヌinアーニャです。一応ルルーシュとライはそういう関係を既に持っ            ているので、お母さんとしては複雑かもしれません。   戻る