さあ、始めよう




 








目覚め

          間違っていたのは、俺じゃない。
          世界の方だ!


          ルルーシュはバベルタワーの構図を見ながら、残存する黒の騎士団員に指示を与えていた。CCは既に
          重要な作業を任されて、ここにはいない。


          最初に確かめたのは、ナナリーの居場所だった。だがCCは首を横に振った。どこにいるか探してみた
          が、何も手がかりは掴めなかったと。
          「なら・・・・ライ・・・は?」
          彼も行方不明なのだろうか?記憶が改竄される直前まで、彼と一緒にいた。拘束着で全身の自由はおろ
          か、口も塞がれた状況で。スザクが自分を売った時に、ライからはくぐもった悲痛な呻き声が聞こえた。
          必死で動こうともがいていたのが、目の端に写ったことを覚えている。カレンに、スザクに裏切られて
          もライはまだ自分を裏切らなかったのだ。それが切羽詰ったあの状況下でも嬉しかった。反対にスザク
          からはライに向けて、殺気めいたものを感じたのではあるが。
          ルルーシュの問いかけに、CCはニヤリと人の悪い笑みを見せた。
          「気になるんなら、呼びかけてみれば良いだろう?」
          そう言って、彼女は踵を返した。彼女が明確にライの存在を否定しなかった事で、ルルーシュはライの
          無事を知る。多分、自分が必要と思ったポイントで活動しているんだと。ならライとの邂逅は後回しで
          良いだろう。今はそれどころではない。ライも忙しいはずだ。
          「ルルーシュ」
          呼びかけられて振り向けば、そこには未だにバニー姿のカレンが立っていた。


          悪夢の再現のようだった。
          「スザクではあるまいし!」
          一機のナイトメアに黒の騎士団が、撃破されていく。パイロット達は皆こう言った。
          「いきなり移動して!?」
          と。状況が良く分からない。パイロット達の言い方を聞く限り、ランスロットのような機動力に優れて
          いるわけでもなさそうだ。消える、とそう言ったパイロットもいる。機動力云々ではそのようなコメン
          トはでない。まずい状況に卜部が、カレンがルルーシュのサザーランドを守るように立ちはだかる。そ
          こに現れたのはヴィンセントの量産型ナイトメアだった。そして
          「なに!?」
          本当に消えた。文字通り瞬間移動したかのように、一気に間合いを詰められた。卜部もカレンもあまり
          の事に反応が追いつかない。ヴィンセントがサザーランドに迫った時、一機のナイトメアがヴィンセン
          トに横から体当たりをして庇った。そのナイトメアは青いカラーリングが施してある。
          「大丈夫か、ゼロ?」
          懐かしい声。
          「ライ・・・・か?」
          「そうだよ、僕以外に誰がいるんだ?この青い月下は僕以外乗れないと、君自身が言っていただろ?」
          どこかのんびりとした声に、ルルーシュは安堵する。同様に卜部とカレンも、ライが来た事で安心した
          ようだ。だが現実は厳しかった。再び立ち上がったヴィンセントからサザーランドを庇い、卜部が戦死
          したのである。
          (卜部・・・・・)
          日本解放戦線の四聖剣の一角は、ルルーシュにゼロに未来を託して逝ってしまった。ゼロ不在の圧倒的
          に不利な一年、皆の心の支えになったに違いない彼は感謝してもし足りない。それだけ黒の騎士団は大
          ダメージを受けていたのだ。その状況を支えるのは並大抵の事ではない。CCでは話にならず、カレン
          でも役不足。たとえライがいたとしても、卜部という存在がなければこの作戦自体が遂行できなかった
          だろう。卜部自身、せめて藤堂と会いたかっただろうに。


          無事に中華連邦の領地に着いたルルーシュは一息をつく間もなく、ライを呼び出した。呑気に再会を祝
          う為ではない。学園にいる監視者達から疑われないように、学園に戻らなければならない。それも一刻
          も早く、だ。ライもそれは承知しているらしい。
          「君が演説を録音しているという事は、僕がゼロとして舞台に立てば良いってことかい?」
          「その通りだ、相変らず理解力が優れていて俺は嬉しいよ」
          「う〜ん、でも」
          ライは珍しく困ったように、首をかしげた。
          「?どうした、何か問題でもあるのか?」
          「あーーー、言ったら君、怒るだろ」
          「良いから言え。早く」
          急かすとライは一瞬CCに助けを求めるように見るが、綺麗に無視されてしまったようだ。
          「僕にできるかな?ゼロの役」
          「なんだそんなことか。俺とお前は体型も似ているし、CCがゼロをした時も疑われなかったんだから
           大丈夫だと思うが?」
          「いやその・・・・・」
          「なんだ、珍しく歯切れが悪いな。時間がないんだがな」
          「うん、できるかな。ゼロのあの変態ポーズと無駄にオーバーアクション」
          「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
          沈黙が辺りを支配する。CCがこらえ切れなかったように、吹き出した。
          「ライ・・・・事態が安定したら、ちょっと話に付き合ってくれ」
          「あう〜、だから君が怒るっていったじゃないか」
          「演説には少し派手なパフォーマンスは必要なんだよ。お前も王様やってたんだからわかるだろ?」
          「そりゃそうだけど」
          「時間が無い、頼むぞ」
          ゼロの衣装を手にとってライに押し付ける。
          「此処の事は暫く、お前とCCに任せる。自由に動けるまで、頼んだぞ」
          そう言って、ルルーシュはライをゼロの衣装ごと抱きしめる。CCは空気が読めるので、顔を背けてい
          たのを良い事に、一瞬だけだがライの唇にキスをする。
          「分かった。だけどあまり期待しないで欲しいな」
          苦笑を返すライに手を振り、ルルーシュは学園に戻って行った。


          「なんだ、なんのかんの言った所で、ライの奴ノリノリじゃないか」
          無事にロロやヴィレッタの監視を誤魔化し一息ついた時に観たゼロに、ルルーシュは苦笑した。
          「さて、次の一手はどうするかな・・・・?」




          ★本編でもジェットコースター並の展開だったので、ルルーシュもライに惚気る暇もありません。意外            とそういう時は、2人共黙々と仕事してそうだ。 戻る