君はそこにいるのか




 








疑念


          スザクは画面を睨みつけていた。その画面に映るのは「ゼロ」黒の騎士団のリーダー。大きなパフォー
          マンスをしながら、好き勝手に演説をしている。

          「言うねぇ、イレブンの王様はさ」
          同僚である「ナイトオブスリー」のジノがスザクの肩に手を回してきた。気がつけば「ナイトオブシッ
          クス」のアーニャも傍に来ていた。同じラウンズだとはいえ、ナンバーズ出身のスザクを他の者はあま
          り良い感情を持っていない。真相を知るものはさらに、だ。ジノ、アーニャ、そして特派時代に世話に
          なった(というよりもお相手をさせられた)「ナイトオブナイン」のノネットぐらいなものだ、スザク
          と交流を持とうとしてくれたのは。ノネットはスザクのラウンズ加入の真相を知らない。だから顔を会
          わせ時にニッと笑った。
          「良く来たな、枢木スザク。やはり私の目に狂いはなかったか」
          実力で此処に来たと信じているノネットに対して、罪悪感はあったが。ジノは歳が近いというのも手伝
          って仲良くしてくれるのは良いのだが、のしっと自分の体重をスザクにかけてくるのが困ったところだ。
          何回「重い」と抗議してもどこ吹く風。最近は諦めているが、それでも時々言わざるをえない。
          スザクは画面に再び目を移した。相変らず「ゼロ」が熱弁をふるっている。
          (あのゼロはルルーシュなのか・・・・?)
          記憶が戻ったのだろうか。だが顔が見えない状態では確かめようが無い。
          (カレンはやはりあそこにいるんだろうな)
          自分と死闘を繰り広げた赤い髪の少女を思い出す。神根島ではゼロであるルルーシュを見捨てたが、や
          はりブリタニアと戦う道を選んだのかとスザクは溜息をついた。そして・・・・・・
          (君もそこにいるのか・・・?)
          カレンとは対照的なイメージを持つ、銀髪の少年の姿を思う。
          (ライ・・・・・・)



          半年ほど前、EUとの小競り合いから帰ってきたスザクは、いつもの通りライのベットに向かった。今
          度こそ目覚めているかもしれない、という微かな希望を抱いて。
          だが彼を迎えたのは空のベットだった。まるで最初からそこには誰も寝ていなかったかのように、ライ
          は消えていた。スザクはハンマーで頭を殴られたようなショックを受けた。第一に考えたのは、ライの
          存在を知った誰かが連れ出してしまったという事だった。ライは黒の騎士団員として、本人が思ってい
          る以上に軍関係者には顔が知られている。当然だろう、ゼロの片腕だ。そんな彼がこの中枢にいるとな
          れば、暗殺等を考える輩が出てきても不思議は無い。その危険性がある為に、2重のセキュリティを施
          していたのだ。ひとえにライを守る為。そして目覚めた後に記憶の改竄という罰を受けさせる為に。
          スザクは直ちにセキュリティシステムの洗い出しをした。が、システムは正常に稼動しており問題はな
          かった。部屋のあちこちに設置してあった、隠しカメラにもなにも映ってはいなかった。
          黒の騎士団が連れ出したという線も考えたが、遠いエリア11のみに拠点を置く彼らがブリタニアの首
          都に手が出せるはずも無い。たとえ、喉から手が出るほどライを欲しくても壊滅状態に陥った騎士団に
          そこまでの力はない。ましてや作戦の切り札のゼロもライもいないのだから。
          なら可能性は1つ。ライが自分の意思で出て行った。しかしこれだとセキュリティシステムに引っかか
          らない方がおかしい。いくらライが気をつけていても、なんらかの痕跡は残るはず。
          (おかしいところが何も無い。だから、おかしい)
          そう思って出来うる限り手を尽くしたが、とうとうライは見つからなかった。皇帝に報告はしたのだ。
          だが
          「そうか・・・・・ならほおっておけ」
          「しかし陛下・・・・・」
          「命令が聞けぬか?」
          「いえ」
          という会話がなされたのみだった。


          そしてスザクは勅命を受けて、エリア11に戻って来た。アッシュフォード学園に戻って来た。確かめ
          る為に。記憶を改竄されたミレイやリヴァル、シャーリーに対して罪悪感はあるが、彼らはその事を覚
          えていない。そして、ルルーシュも。無意識に縋っていたライが消えたことで、スザクの感情は支えを
          失って、歪み始めていたのを本人は気がつかない。
          ルルーシュに何も違和感は無かった。だが彼は「ゼロ」としての知略に長けている。彼を監視している
          連中も、反対に監視されているのかもしれない。スザクは疑心暗鬼になっていた。
          政庁で中華連邦内の敷地に「紅蓮弐式」と青い「月下」を確認したという報告を受けた。実際に画面で
          も確認した。つまり自分の知り合い2人---カレンとライ---は確実に其処にいる。
          (ライ、君は間違っているんだ)
          学園祭で主賓のはずなのにまたしてもピザを焼く係になったので、ガニメデを整備しながらそう思う。
          ゼロではなく、自分が正しいのに、と。下でアーサーと遊ぶミレイは「難しいなあ」と呟いていた。留
          年してしまった彼女は、ロイドとの結婚もうやむやなままだ。それはルルーシュにかけた記憶の改竄の
          影響なのだが、ミレイが知るはずもない。スザクは申し訳ないやら、全くミレイに連絡すら入れていな
          いロイドのあんまりな態度に、力説をして・・・・・・・・アーサーに大切な羽根ペンを取られるハメ
          となった。


          仕掛ける。
          自分の1番大事なものを奪ったルルーシュに。
          彼の1番大事なものを使って。
          携帯電話を持って話し出すルルーシュの後姿を見つめる。
          脳裏にはライの悲しげな顔が浮かぶ。
          ライも、ナナリーを可愛がっていた。

          やはり記憶は戻っていないらしい。最愛のナナリーの声を聞いても、ルルーシュは?マークを出してい
          た。残念に思う気持ちと、どこか記憶が戻っていなくてほっとする。ただナナリーには悪い事をしたと
          は思う。戻っていてもいなくても、結局はナナリーを悲しませる事になるのだから。
 


          ★スザク視点なので、ナナリーとの電話で自分にロロギアスがかかっている事は認知できていません。            ユフィを失って、親友の幼馴染を失って、最後の心を許せるライがいなくなったので、この話のスザ            クは本編以上に歪んでるかもしれませんね。   戻る