新天地へ




 








脱出

          ゼロが告げた特区参加の意思を、スザクがあからさまに疑っているのが可笑しかった。思わずコクピッ
          トの中でライは苦笑する。何処吹く風でいつもの派手なパフォーマンスをしている、ルルーシュことゼ
          ロにも苦笑を漏らす。どっちもどっちだなあと呑気に思いながら。いつまでも平行線で埒が明かないの
          でライは思い切って外部スピーカーのスイッチを入れた。
          「ナイトオブセブン」
          呼びかけるとランスロットの機体が揺れた。まるで主の動揺に同調したかのように。
          「その声・・・・・やはり君なのか、ライ?」
          その問いかけには答えない。
          「ここで撃てば、君はナナリー総督の顔に泥を塗る事になるぞ」
          「・・・・・・・」
          「ナナリー総督は我々に、特区日本の参加を呼びかけた。そして黒の騎士団の総意であるゼロが、この
           呼びかけに応じようと言っている。その答えに君は・・・・誇り高きラウンズの君が撃つのか?それ
           は重大なルール違反だ」
          「ライ・・・・僕は・・・・・」
          「ルールは守って欲しい。それに今はゼロの真意を疑っている場合ではないだろう?今優先すべき事は
           下の部下達を一人でも多く助ける事じゃないのか」
          そう言うと、ランスロットとゼロが同時に下を向いたのが分かった。
          「ゼロ、君は別に見なくてもいいんだよ」
          そういうとゼロははっとしたようだ。慌てて下から視線をランスロットにうつす。ランスロットはまだ
          下を見ていた。そこには巨大な泡によって転覆した軍艦が多く横たわっている。迷うようなそぶりを見
          せるランスロットに、トリスタンが寄る。
          「その通りだスザク。今は救助が最優先だ」
          「わかった。だが一つだけ教えて欲しい」
          「ん?ゼロにか?それとも僕にか?」
          「月下に乗っている君だよ。君は・・・・ライなのか・・・?」
          「さあどうだろう、君の想像している結果で構わないよ」
          とぼけて答える。ゼロは黙って2人の会話を聞いていた。
          「話はこれで終わりだな。じゃ、頑張って救助してくれ」
          そういうとゼロに合図をする。心得たようにゼロは手の上で静かに座った。ランスロットに背を向け、
          月下は黒の騎士団の潜水艦に降りていった。スザクは撃たない、と分かっているから無防備に。


          ゼロを甲板に降ろし、月下を立ち上がらせると
          「一緒には来ないのか?」
          という文句が聞こえてきた。ゼロの仮面の中でルルーシュが口を尖らせているのが分かるような、口振
          りだった。スザクとの会話が彼には面白くなかったのだろう。
          「月下を収納してからすぐ行くよ。だから先に行って、皆に真意を伝えるべきだろう。驚いているだろ
           うから」
          「・・・・わかった」
          くるりと身を翻すが、振り向き
          「だが早く来い」
          と言った。
          「わかったよ、急いで行くから」
          どうも迷走していた時にライが来なかった事を、まだ拗ねているようだ。だがライにとってはルルーシ
          ュにそれだけ必要とされている証拠のような気がして、嬉しかった。
          「はは・・・・僕も末期だな」
          呟きながらスザクの事を思い出していた。きっといつかはスザクと戦う事になるのだろう。ゼロをルル
          ーシュを守る為に。ルルーシュとスザク、どちらかを取れと言われれば迷わずルルーシュを取るのだか
          ら。スザクの孤独を知りながらでも。



          月下を収納して急いでラウンジに行くと、皆鳩が豆鉄砲食らったように目を丸くしていた。
          「遅かったな」
          まだ少し拗ねているような声。
          「これでも急いで来たんだけどね。で、作戦は話したのかい?」
          「見ての通りだ」
          「・・・・・・うん、凄く分かりやすい」
          一人早めに正気になったらしいカレンが、ライの隣にやって来る。
          「凄い提案よね。ビックリだわ」
          「うん、僕も初めて聞いたときは驚いたよ」
          「ライはいつ聞いたの?」
          「さっき」
          「そうなの・・・・」
          次々と幹部達は驚愕から立ち直ってきたようだ。神楽耶や玉城が面白そうだと、目をキラキラさせてい
          る。反対に扇などは困っている表情だった。

          それからが大変だった。ゼロの衣装の製作だが自分でチクチク縫うわけにもいかず、神楽耶のツテを頼
          ってパーツごとに製作して組み立てていく。ゼロの衣装を作っていると感ずかれない為に。
          「はあ・・・・なんとか間に合いそうだよ」
          ライが納品書を見て溜息をついた。その横には仮面を脱いで違う書類を読んでいるルルーシュが座って
          いた。CCは面倒くさい事は嫌だ、と言ってどこかに行ってしまったので必然的に2人で仲良くソファ
          ーに座って書類のチェック。なかなかに目の疲れる作業ではあった。
          「お疲れ様、ライ」
          「君もね、あーでも流石に目が疲れたよ」
          「だがもう此処までくれば万全だろう」
          そう言われてふとライが横を見ると、少し離れて座っていたはずのルルーシュが間近に来ていて驚いた。
          「わ、なんだい。ルルーシュ」
          「んー、そうだなー。ちょっと休憩したいな」
          「休憩は分かったけど、なんでこんなに近くに」
          「分かっているんだろう、ライ」
          「・・・・・・あー、うん。そうだね。今までいっぱいいっぱいで、全然ルルーシュと触れ合っていな
           いよね」
          「そう、だから・・・・・」
          「時間、大丈夫かな?」
          ライが珍しくダメ出しをしないで、時間を気にしている事にルルーシュは満足した。触れたいのは自分
          だけではないと、分かるからだ。ルルーシュの救出劇から忙しくて、のんびり世間話も出来ないくらい
          だったのだ。ルルーシュが右手を伸ばしてライの左頬に触れると、ライが少し顔を赤くして微笑む。あ
          と少しで唇が触れ合う時
          「ゼロ、ちょっと良いか?」
          扉の外から扇の呑気な声がした。2人共弾かれたように離れて、ルルーシュは慌てて仮面を被る。ライ
          はこの時ほど、ゼロの仮面が羨ましいと思ったことはない。
          「・・・・?どうしたんだ、2人共?」
          扉を開けて入ってきた扇は、いつもと違う2人の様子に目を丸くした。分かっている、扇は悪意も無く
          此処に入ってきたんだと。だが少しぐらい恨んでもいいだろう、とライは思った。


          特区の会場に百万のゼロがひしめき合う。その光景に口をポカンと開けて硬直するスザクに、ライは思
          わず吹き出した。気持ちは分かる、自分だってスザクの立場だったら、同じような反応をするだろう。
          だがナナリーの側近らしき女性が銃を持ち、前のゼロを撃とうとした時ライは躊躇うことなくその前に
          立ちふさがった。
          「死になさい」
          冷たい声に、我知らずぞっとする。その細い指が引き金を引く前に、スザクがその銃に飛び掛る。
          「そうだ、ユフィは許そうとしていた。ナナリーだってっ!」
          ライはロロとルルーシュと共に、鎮魂のキャンドルを浮かべに行った時の事を思い出していた。「ユー
          フェミア」と書かれたそのキャンドルが、まさかルルーシュの手によるものだとは思ってもいないだろ
          う。スザクは知らない、知らなくても良い。ギアスの暴走が起こしたあの惨劇を。
          大勢のゼロ達が港に移動していくのを見守っていると、舞台の上から声を掛けられた。
          「ライ」
          スザクの声だ。だがライは振り向かなかった。今の自分は「ゼロ」なのだ。振り向く理由はない。
          「ライ・・・・・・」
          か細い声に、ライは思わず振り返った。こんなにか細いスザクの声を、ライは聞いた事が無かった。
          「・・・・・・・・・・」
          スザクの頼りなげに揺れる視線と、目が合う。自分達にあんな暴挙をしておきながら、スザクは辛そう
          にライを見る。
          「お願いだ、俺と一緒に来てくれ。一緒にこの国を守って欲しい」
          ライは心が痛んだ。ギアスの暴走が無ければ、スザクがこんなに不安定にもならなかっただろう。だが
          もう起こってしまった。そしてどう懇願されても、ライはスザクを選べない。既にルルーシュを選んで
          いるからだ。少し迷ったが、ライは口を開いた。
          「私はゼロだ。国外追放される者に、助けを求めても仕方がないだろう」
          「でもっ」
          「君にはナナリー総督がいる。ナイツオブラウンズの2人もいる。それ以上何を望む?君がそんな弱気
           では守れるものも守れなくなるぞ。先ほど言ったように、日本人を救ってみせろ」
          そう言ってライは歩き出した。
          「ライッ!!」
          悲痛な声に、再び振り返り心の中でスザクに詫びる。
          「私は・・・・・ゼロだ」
          背後からはまだスザクの呼ぶ声がしていたが、ライはまっすぐに群集の後についていった。


          やっと一息ついた時は、既に深夜だった。ライは司令室でぐったりとソファに座った。
          「アア・・・・キツかったな」
          いつ上を飛ぶナイトメアから攻撃が来るか、いつブリタニア軍に撃たれるか分からない状況でライは神
          経を尖らせていた。海上でも攻撃を憂いたが、どうやらスザクが事を納めたようだ。そんなことをぼん
          やり思っていると、ゼロが入ってきた。
          「お疲れさまです、ゼロ?」
          扉が閉まると同時に、仮面を脱ぐ。すたすたと歩いてきて、ライの隣に座った。
          「お前もな。やっと一息つけるな」
          「うん」
          「スザクに何か話しかけられていたのはお前か?」
          「良く見えたね。うん、話しかけられたよ」
          「何を話した?」
          「ん?別にライ、と呼ぶからゼロだよって返したけど」
          そう言うとルルーシュが吹き出した。
          「成る程な、しかしスザクの奴、良くライが分かったな」
          「あ、そう言えばそうだな。いやに自信たっぷりに呼びかけられたから、気がつかなかったよ」
          ルルーシュとライはお互いに顔を見合わせてクスクスと笑った。ルルーシュの右手が、あの時と同じよ
          うにライの左頬に伸びる。ライもまたあの時と同じように、赤くなって微笑む。
          「今度は大丈夫かな?」
          「ちゃんと人払いはしておいたさ。向こうに着いたらまたこうやって触れ合えないからな。忙しくて」
          「本当だ。でもここじゃ嫌だよ?」
          「ちゃんと分かっているさ」
          2人して立ち上がる。扉に向かおうとしたライは、ルルーシュに呼びかけられる。
          「おいおい、逃げる気かライ」
          「いいや、ロックかけておこうかと・・・・」
          扉さえ開かなければ、あの時みたいに扇達が来ても寝ていると思われるだろう。
          「もうかけた」
          しれっとルルーシュが言うのを、ぽかんとして聞いた後苦笑した。
          「流石だね、ルルーシュ」
          「お褒めに預かり光栄だね。ライ、こっちへ」
          寝室に促される。
          「CCは君の愛人ってことになってるけど、まさか僕たちがこんなことしてるなんて思わないだろうな」
          ベットに押し倒されて、ルルーシュの首に甘えるように腕を回しながらライが笑う。
          「まったくだな。さて始めようか」
          見も蓋もないことを言って、ルルーシュはライの上に覆いかぶさった。

          ライは目を閉じる。
          (いつか君が僕を必要としないと僕が判断するまで・・・それまでは・・・君の傍にいさせて?)



          ★駆け足で中華連邦へ脱出です。なんだか自分が思っている以上に、スザクがライスキーでびっくりし            ました。他人事かい。アダルトはやっぱし書けませんでした。ルルーシュはスザクがライを口説いて            やがる、と思ったとか思わないとか。ただこのライはルルーシュ一筋ですからねー。   戻る