思うようにはいかないな




 








邂逅


          ふとルルーシュが目を覚ますと、隣ではライが熟睡していた。自分と同じように目の下に隈を作ってい
          たが、この眠りで無くなれば良いと思う。
          事後、ライはいつも機嫌が悪かった。例えるならば猫がシッポをパタパタ動かして、不機嫌を伝えてい
          るような感じだ。そしていつも口をとがらせてこう言うのである。
          「なんで僕が『こっち』なんだよ?」
          と。どんなに最中、積極的であっても消極的であっても、この台詞はライから出される。ただ本当に不
          満というわけではなく(でなければルルーシュが彼を組み敷くことは不可能だ)、プライドが許せない
          ということであるらしい。一度
          「なら反対になってみるか?俺を好きにして良いぞ」
          と言った途端、顔を赤くして慌てふためいていた。普段、冷静な態度を崩さないが故に、そんなライが
          可笑しいやら可愛らしいやら。更に迫ってみると
          「分かった、僕が悪かったよ!」
          とベットの端に逃げてしまった。
          だがこれもライのルルーシュに対する、貴重な甘えの行動なのだ。ライは王であった時、甘える事はで
          きなかった。母と妹は守る存在であり、甘える存在ではなかったのだ。だから基本的に甘える、という
          行為が出来ない。自分を厳しく律しているからだ。だからこそ、ルルーシュにのみに吐かれる愚痴や文
          句は見逃してはいけない、ライの甘えなのだった。ルルーシュはそれが嬉しい。それに普段は自分がラ
          イに甘えているという自覚があるので、どっちもどっちではあるのだが。ふとその寝顔を見つめていて
          思い出すことがあった。それはライが言った言葉。
          「君が僕を必要としないと僕が判断しない限り、何があっても君に仕えるよ」
          ルルーシュはその言葉を頭の中で反芻させる。正直な話、ルルーシュにとってライは公私共に必要な人
          物だ。作戦もライの存在や戦闘能力を当てにして立てているものも多い。ライはそういう場合、困った
          顔をするのだが、結局は涼しい顔で難しい作戦を成功させる。そして大事な恋人でもある。そんなライ
          を必要としなくなる日が来るのだろうか?考えられない。
          (何を考えている、ライ?)
          そっとその髪をすくと、CCの瞳と目が合った。
          「・・・・・・・・・・・」
          目が、合った。
          「ほわあああああ!?」
          ルルーシュからの素っ頓狂な悲鳴に、ライが飛び起きた。その身体には生々しい行為の跡。
          「ど、どうした、ルルーシュ!?って、CC!?」
          ライも負けず劣らず驚愕している。そんな2人の少年に、CCは余裕の笑みを見せた。
          「そう騒ぐな、坊や達」
          「ロックしてあったはずなのに・・・・」
          「そ、そうだぞ。俺が確かに扉をロックしていたはずなのに、何故此処に居る?」
          「私は魔女だ。そのぐらい造作も無いさ」
          ぐっとルルーシュが呻いた。そう言われれば、妙に説得力があるCC。楽しそうに2人の顔を交互に見
          つめる。
          「どうやら夕べはお楽しみだったようだな。だがそろそろ起きて準備をしておけ」
          「え?」
          「あと少しで中華連邦内に入る」
          ルルーシュが渋々とベットから降りる。ライもその後に続こうとして・・・ぱたりとベットに倒れた。
          「どうした、ライ!?」
          「・・・・・・・・・」
          驚くルルーシュ、無言で意味深に笑うCC。そしてライは途方にくれた顔をして呟いた。
          「腰・・・・・・・痛い・・・・・」


          黒の騎士団の幹部登場にはちゃんと位置がある。最初か最後にゼロ、その右に作戦参謀のライ、左に副
          指令の扇、その前後にカレンが陣取る。ライが姿を見せなければ、不信に思う者も多いだろう。ルルー
          は止めたのだが、ライは「ガ〜〜〜〜〜ッツ!!」と気合を入れて、鎮痛剤でなんとか船を降りる時の
          面目を守った。その後、倒れてはいたが。その間にもルルーシュは甲斐甲斐しく働いた。
          足を滑らせ落ちてきたカレンを庇って、端から見たらカレンに押し倒されているような体勢になった。
          「ゼロ、入るぞ」
          シュン、と音がしてライが姿を現した。目を丸くして2人を見た後シュンと扉が閉まり、ライの姿は扉
          の向こうに消える。慌ててカレンがルルーシュの上から飛びのく。ルルーシュも慌てて立ち上がる。扉
          は再び開いて、ライが入ってきた。
          「ライ、違うのよ。誤解されると私が嫌よ!」
          あんまりなカレンの言い様に、ルルーシュの眉が寄る。
          「俺だって嫌だ」
          言い返すと、カレンの眉が跳ね上がった。
          「なんですって?」
          「なんだ?」
          顔をつき合わせて睨む2人をどう思ったのかは知らないが、ライは淡々としていた。
          「神楽耶さまがゼロを呼んでいる。カレン、CC、君達も来てくれ」
          「?どうした、なにがあった?」
          「僕も良くは知らない。ただ良い情報ではないらしい、神楽耶さまが慌てていたから」
          「そうか、すぐ行く」
          頷くルルーシュの横をカレンが走り過ぎる。さっさと扉の向こうに消えていく。同様にCCも立ち上が
          り、扉を開けて出て行った。
          「ライ、あのな」
          弁解しようとするルルーシュをチラリと一瞥して、ライは口を開いた。
          「早くしてくれ、じゃ、またあとで」
          そして先ほどの2人のように、とっとと部屋から出て行く。後には、ゼロの仮面を持ったルルーシュが
          呆然と立ち尽くしていた。

          確かにライの言うとおり、良い情報ではなかった。ブリタニア側が既に手をうっていて、中華連邦の象
          徴である天子と第一皇子との婚約が成立したというもの。ざわざわと騒ぐ幹部達を見ながら、ルルーシ
          ュは仮面の中で顔を歪めた。これではこちらの立場が危うい。いつもの通り、ルルーシュは自分の隣に
          立っているライに声を掛けた。
          「どう思う、ライ」
          打てば響くという感じで返ってくる答えが返ってこない。
          「ライ?」
          「・・・・・・・・・・・・・・」
          ライは答えない。ただ前を向いてぼんやりしている。
          「ライ、どうした?」
          重ねて訊ねても、やはり返事はない。異変に気がついた幹部達が困惑するように、ライを一斉に見つめ
          る。
          「ライッ!!」
          大声で呼ぶと、ライはビクッと身体を振るわせる。そして今気がついたように、見回す。
          「あ・・・・・どうしたんだい、ゼロ?」
          「それはこちらの台詞だ。どうした、ぼんやりして?」
          訊ねると、ライは居心地が悪そうにルルーシュを見つめる。心なしか、顔色が悪い。
          「まあ、いい。今回のブリタニアへの対策なんだが、神楽耶さまが招待されているのを使わせてもらお
           うと思っている。宜しいですか、神楽耶さま?」
          ルルーシュことゼロに話しかけられて、神楽耶は頷いた。
          「構いません、元からそのつもりでした」
          「そうなると護衛が必要ね。ゼロ、私が行きます」
          カレンが名乗りを上げる。ブリタニア側の軍人がいる可能性が高いので、姿を現せばゼロが狙われる危
          険は高い。その点カレンは武術にも通じており、申し分ないとも言える。だが
          「いや、ゼロと神楽耶さまの護衛には僕が行く」
          ライがその提案に待ったをかけた。カレンが不思議そうにライを見る。
          「その式典にはラウンズが来ている可能性が高い。なんと言っても皇族が2人もいるのだから、護衛に
           ラウンズを当てているだろう」
          言外にスザクが来ているだろう、ということを滲ませるライ。カレンは神根島でスザクに完敗している。
          スザクを相手にしたら、ひとたまりもないだろう。その意思を正しく理解して、カレンは項垂れた。ル
          ルーシュは困惑した。ライの言っている事は正しい。だが自分が記憶を無くしていた時に、ライはスザ
          クによって保護という名の監禁をされていたのだ。ライが現れれば、スザクはゼロそっちのけでライを
          取り戻そうとする可能性もある。
          「カレンはできれば紅蓮弐式で待機して欲しい。なにか異変があったら、ゼロと神楽耶さまが逃げる時
           の時間稼ぎに動けるナイトメアが欲しいから」
          そこまで言って、ライはルルーシュを見る。どうやらいつもの彼に戻ったようだ。
          「そうだな、それがベストのようだ」
          結論が出たところで、ルルーシュはライに向く。
          「ではライ、準備はしておく。お前は休んでいろ」
          思いもかけなかったのだろう、ライが目を丸くした。
          「え、大丈夫だけど」
          「いいから、今は休め。これは命令だ」
          瞬間ライの顔が不機嫌に歪む。だが自分も身体の調子が悪いと判断したのだろう。他の幹部達からも口
          々に休めと言われ、ライは渋々とブリッジから去って行った。


          準備などの段取りが決まったところで、ルルーシュは幹部達に後を任せてブリッジを後にする。向かう
          はライの個室だ。司令室に入り浸っている事も多いライだが、きちんと個室も与えられている。ルルー
          シュは先ほどのライの様子が気になった。あんな場所でぼんやりとしているライは珍しい。カレンとの
          仲を疑われているのかと思いもしたが、どうもそれらしいわけでもないようだ。
          「ライ、いるか。私だ、ゼロだ」
          本来はリーダーであるゼロが、右腕とはいえ部下の部屋を訪れることはない。呼び出せば済む話ではあ
          る。シュッと音をたてて扉が開く。そこにいるのはライではなく、CCだった。
          「!CC・・・・何故此処にいる?」
          CCの表情が心なしか固い。
          「ライは今寝ている。邪魔をするな」
          「お前が看護をしていたというのか?」
          「妬くな、馬鹿が。私は子供に興味はない」
          CCにかかればブリタニアを恐怖させるゼロもライも子供扱いだ。ルルーシュは埒が明かない、とばか
          りに部屋の中に入ろうとする。だがCCがそれを邪魔をした。
          「どけ、CC」
          「何度も言わせるな。ライは寝ている。邪魔をするな」
          その言葉に、ルルーシュは黙り込んだ。ライの眠りはかなり浅い。確かに無理に入れば、ライのせっか
          くの眠りを覚ましてしまうかもしれない。
          「分かった。後で出直すことにしよう」
          「そうしろ」
          ルルーシュは司令室に帰ろうと、踵を返した。その背中を複雑そうな顔をしてCCが見送っていた。





          ★長くなりました、ホント。ルルーシュは本当にライが好きだなあ(そういう話だろうが)ここで大体            の折り返し地点になります。長いですが、お付き合いいただけると有難いです。 戻る