想いの力
策略
ふとルルーシュは目を覚ました。最初に見えたのは、いねむりをしているライの顔。相変らず綺麗な顔
しているな、などと目覚めのにぶい頭でぼんやり考える。
(ん?)
はた、とルルーシュは気がついた。自分は寝ていたらしい、確かにライの肩に頭を乗せてうとうとして
いたことは覚えている。その時にライが黙って髪をすいてくれたことが、とても嬉しかった。そういえ
ばライがいわゆる膝枕をしてくれたんだっけ。そこまで考えると急に意識がはっきりした。
叫んだり飛び起きたりしなかった事は奇跡に近い。意識的には飛び起きているのだが、疲れた身体はそ
んな心の叫びについていけなかったようだ。
(まさか・・・ずっとこのままで・・?)
時計を見ると、かなりの時間が経過しているのが分かる。ライの足は痺れて直ぐには動けないだろう。
ライは気配に聡い。しばらくルルーシュは迷ったが、ゆっくりと起き上がった。ライも目を覚まさない
ところを見ると、大分疲れているのだろう。そっと抱き上げてベットに移動する。服をくつろげさせる
と少しむずかったが、やはり目を覚まさなかった。
(有難う、ライ)
ルルーシュはソファに戻り、座り込む。頭の中に響くのはニーナの絶叫。あんな人見知りをする大人し
い彼女が、自分を殺そうとするなんて。それだけ大切だったのだろう。たとえギアスの暴走で虐殺を繰
り返すユフィを見ていられなくなり、万策尽きた状態で撃ったとしてもユフィを殺した事は事実だ。し
かもあれだけ優しい彼女に「虐殺皇女」というあだ名が付けられてしまった。ルルーシュもナナリーも
受け入れ、日本人でさえ受け入れようとしたユフィ。彼女の考えではそう深いものもないのだろうが、
それ故にその好意は本物だった。彼女を殺した自分が言うのもなんだが、死んでいい人ではなかった。
むしろ死ぬべき輩は未だに健在だ。
すまない、と言うのは簡単だ。だがどんなに心を込めて言ったところで、ユフィを殺した罪は消えない。
だからルルーシュは言わないのだ、その言葉を言う事でユフィを貶めているような気がするから。自然
に溜息が出て、ルルーシュは右手で顔を覆った。
「ルルーシュ」
声をかけられて振り向くと、ライが立っている。
「どうした、起こしてしまったのか?」
「ちょっと遅れたけど、ルルーシュのぬくもりが無くなって、なんだか寂しくて目が覚めた」
「そうか、それは悪かったな。足が痺れているだろう?大丈夫なのか」
「うん、多分」
ライはいつものように、近寄っては来なかった。ソファから少し離れた場所で、何かを探るような顔を
していた。
「君は本当に、中に溜め込むタイプなんだな」
「お前に言われたくないな。ギアスの能力とかで、散々一人で迷走していたのに」
少しちゃかして言うと、ライは肩を竦めた。
「まあね。だから分かるんだ。最終的に中に溜め込んで自分で消化しなければ、その苦悩がどうにもな
らないってことは」
「ライ」
「僕に出来るのは、君を見守る事しかない。君が吹っ切るか、結論を出すまで」
それはナナリーの総督就任の時に、思い知った。だが変に憐憫されなかったのは、自分のプライド的に
満足できるものだ。カレンのように怒りをぶつけるわけでもなく、ロロのように懐柔しようとするわけ
でもなく。ただルルーシュが再び立ち上がった時に、直ぐ動けるようにしていてくれた。ライが完璧に
準備をしていたおかげで、黒の騎士団は寸前で救えた。
「それは正解だと思うぞ、ライ。この前の時で、そう思った。他人にアドバイスされても、結局選ぶの
は自分だからな。他人ではない」
そう言うと、ライは微笑んだ。ルルーシュはその微笑に惹かれる様にライに近づき、顔を寄せたところ
で・・・・・・
「相変らず、仲の良い事で何よりだ」
いきなりCCが司令室に入ってきたのだ。2人からはぎゃっ、という声が上がった。
「シ、CC!又しても、邪魔をして!急に入ってくるなと、何度言えば!!」
「落ち着け、坊やが。もう少ししたら天子誘拐の打ち合わせがある。だから起こしにきてやったのだが
・・・・・」
ニヤリとCCは品の良くない笑みを浮かべ、ルルーシュとライを見回す。
「ま、この事をばらされたくなければ、ピザ3枚とタバスコを手に入れて来い」
「恐喝!?」
目を剥くルルーシュ。
「別に良いんだぞ、ゼロとライは蜜月であ〜〜んな事やそ〜〜んな事やこ〜〜んな事しているんだぞと
バラしてやっても」
「俺はバラされても良い」
やけにハッキリ言うルルーシュ。実はライは美形で穏やかである為、黒の騎士団の団員からはすさまじ
く人気がある。カリスマとなるとゼロが抜きん出ているが。しかし問題はライにそういう意味で近づこ
うとする輩なのだ。しかも男女共にである。ライ自身どこまで気がついているか分からないが、結構男
の襲撃にあっている。大体単独で挑んでくる為、ライにあっけなく敗れ去るのだがそれすらもある意味
ステータスになっているらしい。知らないのはライだけだ。女性はそういった事は起こさないが、手作
りのお菓子やらをライに渡している。律儀にライがお返しをするのだが、その度にお菓子を作っている
のはルルーシュだったりする。返って来たお菓子の方が出来が良いので、大体は凹むらしい。それこそ
がルルーシュの目論見だった。一応「大事な作戦参謀なので、無体な事はしないように」と御触れを
出して以来、そういうことはめっきり減ったは減った。バラされればライに手をだす者はいなくなる。
傲慢かもしれないが、黒の騎士団でゼロに刃向える者はいない。
「僕は嫌だ」
「なんでだ、お前の保身にもなるんだぞ?」
「僕に手を出してくる物好きは、ルルーシュくらいなもんだよ」
「そうか。だ、そうだぞ?ルルーシュ?」
CCが可笑しくてたまらない、といった風で話を振ってくる。CCとて分かっているくせに、いけしゃ
あしゃあと言ってのける。からかわれている、と自覚してもなお睨まずにはいられない。
「それはもう、どうでもいいから。会議だろ?そろそろ時間だよ」
何故か話の中心人物が、呆れたように声を掛けてくる。
「・・・・分かった。話はまた後でな、ライ」
「まあ、私の方も黙っておいてやろう。ピザとタバスコを忘れるなよ?」
「まだ言うかっ!」
「はいはい、ルルーシュ。さっさと仮面を被ってくれよ」
ルルーシュは呻いた。折角シリアスに良い雰囲気だったというのに、この話の転がり具合はどうだ?ち
らりとCCを睨むと、してやったりという笑顔を返された。
首尾良く天子を攫ったものの、自分の考えを理解できない事に軽い失望を覚える。彼女はただただ怯え
て神楽耶にしがみついているだけだ。それも仕方がないか、とルルーシュは思う。たとえ賢い少女だっ
たとしても、あの幼さと政治等については考えさせてはもらえない立場だったのだ。牛耳る下の者達に
してみれば、賢い王の方が扱いに困る。中華連邦が上辺だけは一応、こちらに天子奪還の攻撃を仕掛け
てくるのは想定済みだった。そう、ここまでは。
「あの星刻という男、ここまでとはな・・・」
歯軋りしたい気持ちでルルーシュは毒づいた。自分の十八番である地形を使った戦略に、まんまと嵌っ
てしまった悔しさが大きい。さらに悪いことにバッテリー不足に陥った黒の騎士団が誇るエースパイロ
ットであるカレンが捕縛されてしまった。ディートハルトの意見を蹴って、反撃を試みるがラウンズ達
に阻まれて上手くいかない。
「ゼロ、僕も月下で出よう」
作戦参謀という立場ゆえに戦場には出ていなかったライが、そう言って姿を消した。
「私も暁で出よう」
ルルーシュと共にライを黙って見送ったCCが、そう言ってライの後を追おうとする。ルルーシュはC
Cを呼び止めた。
「CC」
「なんだ」
「危なくなったら、脱出しろ。ライにもそう言っておいてくれ」
CCとライは帝国から追われているような立場だ。捕獲されれば公私共に、非常に困る。
「そうならないよう、策を練っておけ」
子供に宿題を出す母親のような表情で、CCは笑った。
ジノは星刻と、アーニャはCCと千葉、スザクは藤堂とライと戦っている。スザクの乗るランスロット
は、あからさまにライの月下を捕獲しようとしていた。ライは藤堂のサポートを受けて、上手くスザク
を翻弄している。
(わからない。何故お前はそんなにライに執着する?)
ルルーシュにも分からない。スザクが精神的な支えを失って、迷走している事など。その点ルルーシュ
は恵まれていたともいえる。少なくともCCという共犯者がいるのだから。CCはそっけなく見えて、
意外とルルーシュを助ける為に力を振り絞ってくれる。そしてライ。彼の言葉に気になるところはある
が、それでもライはルルーシュを一心に支えてくれる。スザクには彼の為に命をかけてくれるような者
はいない。よりかかれる人がいないのだ。ナナリーしかりユフィしかり、スザクは守る立場であってス
ザクを守る者ではないのだ。だからスザクは自分の心を預けられる、信頼できる者を求めている。それ
がライだ。ルルーシュのように恋愛感情を持っていないのは明白なのだが。
(まあライがそうやすやすとは捕縛されないだろう。藤堂もいるのだしな)
思い直す。今はスザクのライに対する執着を考えている場合ではない。
(仕掛けるか)
ルルーシュは立ち上がって、オペレータの少女に中華連邦への回路を繋ぐよう命令を出した。
策は上手くいった。
国民の支持を失った者達は滅びた。
カレンを取り戻せない事だけが、悔やまれた。
目の前では天子と星刻が、話をしている。ディートハルトの言う政略結婚は最初から考えていた事だ。
が、女性陣の激しい反対あってルルーシュは戸惑う。戸惑ってなんだか複雑そうな顔をしてこちらを見
ているライに、助けを求めてみたのだが。
「僕も賛成しかねるな。そういう事が有力で、政治的にも良いんだろうけど」
少し遠慮するように、だがきっぱりとライは言い切った。最後の頼りの綱を失って、ルルーシュは本当
にうろたえた。
窮地を救ったのは、意外にも玉城だった。じとーという効果音がつきそうな視線を背中にひしひしと感
じながら、階段を下りる。
「あ、逃げたな・・・・」
ライの言葉に、ルルーシュは仮面の中でぐっとつまった。
(あとで・・・・覚えてろよ・・・・ライ)
偶然かかってきたシャーリーにも、電話で大反対されルルーシュは更に混乱する。それから色々と騒ぎ
立てるシャーリーの言葉は良く理解できなかったが
「想いはパワーなの!」
という言葉がルルーシュの目を覚まさせた。そうだその想いを否定してはダメなんだ。ナナリーへの想
いがゼロを誕生させたのだ。その自分が否定してはダメだと。その事を大げさなアクションと共に伝え
れば、女性陣の後ろで優しく笑うライがいた。
「あのさ・・・・君、これから日本へ帰るんだろう?良いのか、こんな事してて」
ベットに押し倒されて、ライが目を白黒させている。
「俺は傷ついたんだ」
「え、なにを?」
「お前に逃げたって言われて」
「うっ」
あの時と違って、今度はライがつまった。慌てるライに、ルルーシュはうそ臭いまでにニーッコリと笑
う。
「や、あれは言葉のあやっていうか・・ええと・・・・」
「聞かないよ。まあお仕置きできるくらいの時間はあるさ」
「じゃあ、CCと共に饗団について調べておいてくれな」
「身体が動いたらね」
「あと悪いがCCのお守りも頼む」
「えぇ、それも!?」
「あいつ脱いだら脱ぎっぱなしだし、皺にするし洗濯物もなかなか所定の場所に入れないし・・・」
「ルルーシュ、君、CCのお母さんみたいだな」
「あの女がもう少しそこら辺を気をつけてくれればいいんだがな」
「そろそろ時間だろ、僕は見送りに行く予定だったけど無理だから」
「・・・・分かってるよ。じゃあ、行ってくるから」
ライにキスを贈り、ルルーシュはアッシュフォード学園に戻って行った。
大騒動と、悲劇が待ち受けているとも知らずに。
★ライが政略結婚に反対したのは、天子に妹を重ねたからです。なんだかギャグのパートになってしま
った。おかしい、シリアス一辺倒のつもりだったのに。しがないギャグしか書けない女にはこれが精
一杯だというのか・・・・
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