新婚行進曲・・・・朝
       アルベルトの朝


       ピピピピピピ・・・・・
       朝に爽やかな目覚まし音が部屋に響く。アルベルトは、はっしと目覚まし時計を掴んで、音を止める。
       少しの沈黙。
       やがて、もそもそと布団から起き出した。とはいえ、目を開けただけなのだが。
       実はアルベルト、朝に弱い。少なくとも10分はボーとしてないと、頭が働かない。だから、少しだけ
       早く目覚まし時計を鳴らすのである。今日も、ボーとして天井を見つめていたが段々意識が浮上してくる。
       「・・・・・・朝・・・か・・・。」
       そう呟いて、むっくりと起きようとした。が、誰かの腕がしっかりとアルベルトの腰の辺りを固定している。
       うっかり、上半身だけ落っこちそうになる。額に怒りマークを貼り付けながら、振り返ると旦那の寝顔
       が飛び込んできた。寝てるハズなのだが、腕の力はなかなか抜けない。
       「・・・・・・・・・・・(怒)」
       バタバタと悶絶して、なんとか腕を外す。その腕をそっと布団の中に戻して、パタパタと風呂場へ直行
       する。風呂場といっても1人暮らし用のアパートだ。もちろん、ユニットバスになる。自分の住居に旦那
       が転がり込んできたわけだ。旦那といっても、相手はまだ未成年。大学にも受かったばっかりなので、
       働かそう、とは思わなかった。自分が就職して長いから、というのもある。何とか、2人が食べていける
       だけの給与はもらっているし・・・。
       シャワーを浴びて、スーツを着る。上着はまだ着ない。玄関に行って新聞を取ってくる。時計代わりの
       テレビをつける。いつもの通りのいつもの手順。独身時代と変わらない。
       それから、コーヒーを入れながら食パンを焼く。一応、相手がいるのでサラダもどきも作っておく。
       新聞を広げて、読み出す。会社で読もうとしたこともあったのだが、なんやかんやと外野が五月蝿くて
       集中して読めないので断念した。それに、旦那がテレビ欄に用があるというので、家に置いていくこと
       にしている。
       一通り新聞を読んでから、朝食をとる。テレビは昨日・今日のニュースから、芸能界のゴシップ等を流
       していた。アルベルトは芸能ニュースとかはあんまり興味がない。誰と誰がくっつこうが、離れようが
       関係ないからだ。旦那は反対に好きな方で、色々と良く知っている。
       今日のお天気を見てから、立ち上がり歯を磨いてネクタイ締めて、上着を着る。テレビはそろそろ会社
       に行く時間の目安にしている今日の占いをやりだした。
       寝室に戻って、ベットでまだ寝ている旦那・・・ジョーに声を掛ける。
       「おい、ジョー。俺はそろそろ出かけるからな。晩飯は食うのか?」
       ジョーは眠たそうに、目を開けた。
       「あ・・・・・アル、もう行くのか?」
       「当たり前だ。今日のお前の予定は?」
       大学生であり、親友と共にサークルに入ったジョーは1日1日スケジュールが違う。キチンと聞いてお
       かないと、晩御飯を多めに作ってしまったりと何かと不都合が起こる。まあ、晩御飯などは早く家に帰
       ってきた方が作ることになっているのだが。
       「んー、今日は合コンがあるから遅くなるよ。」
       「そっか、わかった。」
       「でも・・・・。」
       「ん?」
       ジョーはニッコリと笑った。
       「安心してよ、アル。浮気はしないから。」
       思わず顔が赤くなる。
       「馬鹿!何言ってんだお前は・・・。」
       ケラケラとジョーはおかしそうに笑う。アルベルトは、熱くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。
       「じゃ、俺も久しぶりに外で食べてくるか。」
       そう言って、アルベルトはベットから離れようとした。が、ジョーに上着の裾を掴まれる。
       「?」
       起きぬけとは思えない、真剣な目でジョーが自分を見ていた。
       「?何だよ?」
       「僕は絶対に浮気しないから・・・アルもしないでね。」
       「・・・・・・・・・・・・・恥ずかしい奴・・・。」
       「良いじゃん、約束だよ?」
       いつもの明るさもどこへやら、捨てられた子犬の様な目でジョーは懇願する。アルベルトはこういう目
       に弱い。
       「・・・・わかってる、約束する。」
       こう言われると1瞬、躊躇する自分がいる。だが、ジョーの望む言葉を口にする自分もいる。ジョーは
       ホッとしたような顔をして、手を離した。
       「いってらっしゃい、アル。」
       「行って来る。」
       寝室からアルベルトが出て行き、玄関が開閉する音がした。

       ジョーの朝


              誰かが傍にいてくれるって、本当に幸せなことなんだな・・・。ジョーは浅くなってきた意識の中で思う。
       無意識に、抱きしめている腕に力が入った。だが、相手は熟睡しているらしく、ピクリともしない。
       ピピピピピピ・・・・・
       遠くで目覚まし時計が鳴っている。隣がもそもそと動き出した。完全に起き上がろうとして、自分の腕
       に阻まれたらしく腕を外そうとしているらしい。別にワザとやっているわけではない。こちらとて、感覚
       が遠いままなのだ。やがて、自分の腕を外して隣の存在がスルリと抜け出した。そして、律儀に腕を布
       団の中に戻してくれる。やっぱり、まだ子ども扱いされていることを痛感した。無理矢理目を開けて、
       時計を見る。奥様・・・アルベルトがいつも起きる時間だった。
       今日の授業は2時限目からだ、そんなに急いで起きる必要も無い。ジョーは布団を頭までずり上げて、
       再び眠り始めた。
       「おい、ジョー。俺はそろそろ出かけるからな。晩飯は食うのか?」
       優しい声がした。ジョーはまだ閉じていたいと主張する目蓋を上げる。目に飛び込んできたのは、いつ
       もの服装に身を包んだアルベルト。
       「あ・・・・・アル、もう行くのか?」
       自分の声は起き抜けで少し掠れていた。アルベルトはしょうがないなという顔をして、答える。
       「当たり前だ。今日のお前の予定は?」
       そういえば・・・・今日はサークルの関係で合コンにいかなければならないんだっけ・・・。
       あんまり気乗りがしないけど。
       「んー、今日は合コンがあるから遅くなるよ。」
       そう言って、アルベルトの表情を見つめる。
       「そっか、わかった。」
       だが嫌な顔1つせず、動揺すらみせない答えに少し落胆した。自分はアルベルトから合コンに行くと言われ
       たら、嫌なのに。何だか、悲しくなった。
       「でも・・・・。」
       上目使いにアルベルトを見上げる。
       「ん?」
       ジョーはニッコリと笑ってやった。
       「安心してよ、アル。浮気はしないから。」
       バッと見事にアルベルトの顔が紅潮する。それだけで、何だか嬉しくなった。
       「馬鹿!何言ってんだお前は・・・。」
       そう言いながら、顔を背けるアルベルトが嬉しくってケラケラと笑った。
       「じゃ、俺も久しぶりに外で食べてくるか。」
       誰と・・・・・?とは聞けなかった、呆れられるかもしれないと思うから。その代り、アルベルトの裾
       を掴む。アルベルトはまだ少し赤い顔をしたまま振り返った。
       「?何だよ?」
       祈るような気持ちでジョーは言葉を紡いだ。
       「僕は絶対に浮気しないから・・・アルもしないでね。」
       「・・・・・・・・・・・・・恥ずかしい奴・・・。」
       「良いじゃん、約束だよ?」
       お願いだから・・・とそう願う。アルベルトはこう言うと1瞬、戸惑う顔をする。だが、必ずこう言って
       くれるのだ。
       「・・・・わかってる、約束する。」
       彼は嘘はつかない。だから、一応安心してアルベルトを送り出すのだ。

       彼が出て行ってから、ジョーはやおら起き上がった。もう少し寝ていたかったのだが、さっきの会話で
       目が完全に覚めてしまった。のそのそと起き上がって、風呂場に向かった。何も着ていないので、とっと
       と入ってシャワーを浴びる。適当にTシャツとズボンを穿いた。リビングに行って、アルベルトが用意
       してくれていたサラダもどきを冷蔵庫から出し、朝食の準備をする。洗濯をどうしようかと思ったが、
       今日は2人も帰りが遅いはずだから止める。
       コーヒーを啜りながら、ジョーは思う。アルベルトは、どういうわけか自分に対する好意に疎い。5歳
       からずーっと彼を見ているが、結構モテる。合コンがあったという時は、暫く女の子に付き纏われてい
       た。しかもその度ごとに違う女の子だったと記憶している。チャラチャラ系の娘から、真面目系の娘ま
       で範囲は広かった。しかし・・・どの娘も長持ちしなかった様だ、スグに付き纏われなくなる。理由を
       聞いてみたが、アルベルトは”さあ?”と言ったきり大して気にはしていなかった。だから”その人”
       が現れた時は驚いたものだ。アルベルトが振り返ったわけだから・・・。でも”その人”は突然いなく
       なった。本当に唐突に。自分とアルベルトの心に傷を残して。
       「アルのこと、絶対に守ってみせるからね・・・。」
       それは”その人”と自分の約束。そして、自分に課した誓約。
       其処まで考えてから、朝っぱらから思考が暗いことに気づく。苦笑しながら朝食を平らげて、立ち上がる。
       「合コンかあ・・・。誰がメンツになってんだろうな。」
       そんな事を考えながら、大学に行く支度をする。

       家を出かける時間になった。ガスなどの点検をして、ジョーは慌しく出て行った。

       ”昼”に続く

       ★こんな色物小説をまたしても読んで頂いて、まことに有難うございます。やっぱりここでも004に        は強気な009。でも、004とは違う意味で009は不安なんですよー。ということですな。00        4の迷いを知っているからこそ、密かに彼の1言に一喜一憂しているんです。さて、次の”昼”では0        02.003.007が出てきます。宜しかったら、どうぞまた読んでください。       戻る