七夕
「さあ!皆元気良く、これに願い事を書くのよ!」
ドバターンという派手な音と共に、部屋に乱入してきたのはハーマイオニーだった。キャーという声が
何故か男性連中から漏れる。ネビル等は驚愕のあまり、ベッドから落っこちて白目を剥いてしまった。
「ち、ちょっとハーマイオニー。ここ僕らの部屋なんだよ?」
震える声でロンが言うと、ハーマイオニーは”なあにそんなこと”と言わんばかりに胸を張った。
「だから何よ?」
「いや何って言われると、適当な言葉が浮かばないなあ・・・。」
一気にハーマイオニーに攻め落とされているロンであった。ロンが撃沈されてしまえば、出てくるのは
素敵に無敵ついでに主役(ついで?)のハリーである。
「マクゴナガル先生に見付かったら怒られるよ、君。僕らの部屋に来ちゃだめなんだからさ。」
「まあ!ハリー・ポッター。貴方達に素敵なイベントを体験してもらおうと張り切ってやってきた私の
気持ちは無視するのね?」
「無視する前に、なにがどーなっているのか分かんないよ?」
「あ、そういうことね。分かったわ。」
ハリーの言葉にあっさりと納得したハーマイオニーは、手に持っていた札みたいなものをヒラヒラとさ
せた。
「なに、それ?」
ディーンが思わずといった感じで尋ねた。
「短冊というものよ。」
「タンザク?なにそれ?」
今度はロンが訊いてくる。ハーマイオニーは、得意げに頷いた。
「前にもバレンタインってあったでしょ?私が紹介した。」
「あーあれね。」
ロンの作ったチョコレートを、ちゃっかりはっきりゲットしたハリーは思わずニヤリと笑った。あれは
良い思い出である。
「あー・・・・・あれね。」
反対に暗い声を出したのは、そのチョコレート争奪戦のメインだったロン。ドラコに追い掛け回され・
・・・ハリーにも追いかけられたことは何故かきっぱり忘れているロンであった・・・森で蜘蛛に襲わ
れかけ、挙句の果てには夕食すら食いっぱぐれたのはあまり良い思い出とはいえない。
「その第二段!!七夕でお願い叶えよう!フェスティバルよ。」
「フェスティバル・・・・?」
シェーマスが、警戒心ありありの声で呟く。ついでにネビルはまだ白目を剥いていた。ハーマイオニー
はシェーマスの呟きをきっぱり無視して、皆に短冊を配り始める。それを貰ったハリーは、短冊をしげ
しげと眺めた。唯の長方形に切られた色紙の上に穴が開いており、そこからひもが括ってある。・・・
・・それだけだ。ハーマイオニーが唱えるようなお願い事が叶うモノとはとても思えない。ロンを見る
と、これまた眉間に皺を寄せて短冊を見つめている。ハリーの視線に気がついたのだろう、ロンがふと
ハリーの方を見た。その瞳が
「こんな切れッ端で本当に願い事が叶うの?」
と雄弁に物語っている。ハリーはハーマイオニーに分からないように、同感と目配せした。途端にロン
がほっとした表情になる。疑問を持っているのは自分だけかと心配していたらしい。これを配る為にい
きなり侵入してきたご本人は、丁度白目を剥いているネビルの手に無理矢理短冊を握らせていた。
「まったくもう、寝起きが悪すぎるわよネビル!」
本気か、とその場にいた全員が思ったがハーマイオニーに口で勝てる奴はいない。腹黒ハリーであって
も、彼女の知識には叶わないのだ。その他の連中が叶うわけは無い。そう思うのもちょっと悲しい事で
あったのだが・・・・。
「良いわね、今日の授業が済むまでにお願い事を書くのよ?」
「ねえ、ハーマイオニー・・・・。」
ロンが遠慮がちに声をかける。
「なに?」
「で、この前言ってたはじっこのすみっこの日本って国のイベントっていうのは分かったんだけど。」
「そこまで分かれば、上等よ。」
そう言ってハーマイオニーはクルリと踵を返した。慌ててロンが言葉を紡ぐ。
「そーじゃなくて!どういうイベントなのか教えて欲しいんだよ、良く分からないままやったって意味
ないだろう?」
ロンにしては珍しく、つじつまが合っている。ハーマイオニーが仕方ないわねえといわんばかりに、溜
息をついて部屋の住人を見回した。全員(除ネビル)がロンと同意見である、と分かったのかハーマイオ
ニーは更に溜息をついて彼らを見回した。
「分かったわ、そうね、ちゃんと事情を知っておいた方が良いものね。」
「うん。正にその通り!」」
「これはね、7月7日に日本で行われる行事でね。結構ポピュラーなものらしいわ。」
「へえー、一種のお祭りみたいなもの?」
ハリーの問いかけにハーマイオニーは、う〜んと微妙に悩んでいた。
「そうね、そうよね。日本では天の川っていう星の集う場所があって、その川にオリヒメとヒコボシっ
ていう人が住んでいるんですって。あんまり詳しい事、載ってなかったんだけどその両名は仕事をサ
ボってデートしてたの。」
「へええ、そりゃ大変だね。」
軽いロンの相槌は綺麗に流された。
「で、あんまり熱々でデートしていたから、天の川が干上がってしまって大変なことになってしまった
の。そしてあんまりイチャイチャするから、他の人が嫌になっちゃったのよね。」
「確かになあ。うん、分かる。当てられちゃやってられないよな。」
ディーンが、何故か実感を込めて言うものだからしばしディーンへのツッコミで、場は大いに盛り上が
ったのであった。
「だから、2人を引き離して天の川のあっちとこっちに移動させたの。で、まあそんなんじゃ余りに可
哀想ということになって、7月7日だけ会っても良いよっていうことになったのよ。」
「・・・・・・・・それと願い事とは、どーいう関係が?」
「そこよハリー!その2人は自分達が会えることを祝福して、片手間に他のお願い聞いてあげようかな
ということになったの。で、そこから短冊にお願い事を書いて笹っていうパンダの食べ物に付けて飾
るようになったんだって。」
・・・・・・・・・・日本人ならハーマイオニーが一体どこの本を読んでそういうことになったのか大
いに疑問を持つ所だが、生憎日本人はいなかった。ハリー達はイギリス人なので、分からないのは無理
はない。やり方としては、一応合ってはいるのだが・・・・。異文化コミュニケーションとは難しい。
「分かった?」
ハーマイオニーが睨みつけてくるように訊いてくる。いいえ、等と言えばどういう目に合わされるか分
かったものではないので、皆で良い子のお返事を返す。
「じゃあ、またね。」
「何処行くの、今度は?」
「ロンも来る?ハグリットのところよ。」
「いや、もうすぐ朝食だからまた後で。」
「ええ、また後でね。」
ハーマイオニーは来た時と同じように、唐突に帰って行った。
「ロン、お願い事書いた?」
「ううん、まだ・・・・・。ハリーは?」
「僕もまだなんだ。」
食堂で見回せば、グリフィンドール生は皆短冊を所持しており、がやがやと盛り上がりながらお願い事
を書いている。ハーマイオニーはその行動力により、グリフィンドール生全員を巻き込んだらしい。他
の寮生が異様な目付きで見ているが、お構いなし。意外とゴーイングマイウェイなグリフィンドール生
であった。
「あれ、2人共お願い事書いたの?」
元気になったネビルが声をかけてきた。
「ううん、まだだよ。君はもう書いたの?」
ハリーが訊くと、ネビルはあっさりとうんと答えた。
「へえーなんて?」
ロンが参考にでもしようというのか、興味津々で訊いてくる。ネビルは困ったように笑うと、そっと2
人に耳打ちした。
「うん、パパとママが元気になりますようにって・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
笑えない。事情を知っている人間には、笑えないお願いであった。しんみりした表情になった2人に、
ネビルが慌てて言った。
「いや、お願い事ってさ・・・・・・あの・・・・・。」
「・・・・・・叶うと良いね。」
ハリーがポツリと言う。途端ネビルは沈んだ顔をして、頷いた。そして、気にしないでじゃあねと言っ
て歩いて行った。
「もし・・・叶うなら・・・・か・・・・。」
「ハリー・・・。」
どんなお願いでも、と言われればハリーとてある。両親の復活だ。それは出来ないことだとは知ってい
る。でももし、万が一にでも可能性があれば・・・?自分と同じ腹黒だったという父ジェームスと、そ
の腹黒が愛したという母リリー。写真や鏡でしか会えない両親に、会えるとしたら・・・?
(止めた。そんなこと出来るわけないんだし。)
ロンが、心配そうに見ている。ハリーは大丈夫だよ、と笑って見せた。それを見て、ロンの表情が和ら
ぐ。ロンは大人数で育ってきたからだろう、意外と人のことを良く見ているのだ。
「やあ、ポッター君。」
「そして愛しの我らが弟よ。」
「「元気かい?」」
最後の言葉を見事にハモらせて、ロンの双子の兄貴ズが登場した。
「ロニー坊やは、な〜んて書いたのかな〜?」
「見せてみれ、この優しいおにーさまたちにv」
ノリから見れば、既にジニーはからかってきたらしい。ロンとハリーは素直に可哀想と思ったが、その
からかいも親愛の情からくるからこそ。ジニーに何かあれば、この一見軽そうな双子も全てを投げ打っ
てジニーを助けるだろう。それだけ、ウィーズリー家の結束は固い。それが羨ましいハリーであった。
「な〜んだ、まだ書いてないのか〜。」
「つまんないの〜。」
あけすけに本音を語って、双子はちょっと期待外れの顔をした。
「自分達はどーなんだよ、もう書いたわけ?」
ロンが口を尖らせて言えば、無意味にもババッとポーズを取る。
「書いたぞ!」
「そりゃもうバッチリと!」
「へえ、じゃあ見せてよ。」
「だあめ、これは僕らのひ・み・つ。」
「愛しい弟に隠さねばならぬことは、真に遺憾の意なのだがね。」
嘘ばっかり、とロンが言っている。ハリーもロンの意見に大賛成だった。その証拠に双子は笑っている。
遺憾の意など、どこにも感じられない。それどころか、2人してロンにベタベタとくっついてきた。ロ
ンがうっとおしそうにするのだが、邪険にはしない。ハリーの緑の瞳の奥に、怪しい光が点る。双子と
目が合う。双子はその様子から、これ以上ハリーを刺激しない方が良いと判断したようだ。名残惜しそ
うにロンから離れる。既にハリーはふっふっふ、と恐ろしい笑い声を小声でたてていた。
「じゃあな、ロニー坊や。」
「また放課後にな。」
双子は爽やかに帰って行った。それを見送ってロンはハリーに視線を戻す。そしてハリーの様子に気が
つく。ハリーは下を向いて、何やら危機感を煽る笑顔を浮かべている。
「は、ハリー・・・?」
「ん?なに?」
しかし、顔を上げたハリーはいつもの通りの顔をしていた。
ハーマイオニーが用意したものは、どう見ても笹というか竹には見えなかった。どう見てもモミの木で
ある。
「ハーマイオニー、これ僕にはモミの木に見えるんだけど・・・。」
ハリーの台詞に、ハーマイオニーがギロリと睨んでくる。どうやら図星だったらしい。
「竹のね・・・・注文方法が分からなかったのよ。」
むっつりとした顔で答えてくる。
「良いの、皆気にしてないみたいだし。」
確かに言われたとおり、グリフィンドール生は大喜びで飾りつけまでしている。
「・・・・どう見てもクリスマスツリーだよね・・。」
バゴオ!
ハーマイオニーのシリウスすら攻撃した華麗なる回し蹴りが、ロンの後頭部に炸裂した。前のめりに倒
れるロンをハリーが慌てて支える。
「あーーーー世界が滲んでる〜。」
「大丈夫かい、ロン?」
「うん、有難うハリー・・・・。」
端から見ればいちゃついているとしか思えない2人に、ハーマイオニーは溜息をつく。当てられる、と
いうものは本当にたまったもんじゃないわと思いつつ。
「皆、短冊は付け終わったわね?」
ハーマイオニーが尋ねると、はーいという元気なお返事が返ってくる。
「じゃあ、燃やしますね〜♪」
ハーマイオニーが読んだ本には、飾りつけをしてからの後が載っていなかったらしく、先生方にも相談
して燃やそうということになったらしい。
「これで、お願いごとが叶うわよ〜♪」
しかしハーマイオニー嬢の頭の中には、どこかの神社のどんど焼きなんぞの知識とごっちゃになってし
まったようだ。日本人が見たら卒倒するような、大雑把なホグワーツ内グリフィンドール寮七夕大会は
こうして幕を閉じたのである。
「ねえ、結局ハリーはなんて書いたわけ?」
「ロンが教えてくれたら、教えてあげるよ。」
「うーーー、秘密。」
「じゃ、僕も。」
ハリーは短冊に書いたお願い事を思い出した。
”皆が泣かないように、僕に力を”
★かーなーり阿呆っぽい話で、申し訳ないです。中途半端な本で、中途半端に彼らが七夕を実行にした
ら?というコンセプトで書いてみました。実はこれは本当に即興で書いたので、あちこちおかしいと
ころがあっても、見逃してやって下さい・・・。今回のハーマイオニーは賭けはしてません(笑)たま
には(え!?)落ち着いてイベントをロンに体験させてあげようと思い、ドラコさんは出しませんでし
た。故に、グリフィンドール限定イベントなのです。
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