機械と泉質
「オンセン?」
「温泉。」
ジョーは大きく頷いた。ハインリヒは不思議そうな顔でジョーを見る。
その様子から仕方ないな、とばかりにジョーは肩をすくめると事細かに説明を始めた。
「えーと、ほら、火山の近くなんかでお湯がでたりするんだよね、地面から。そのお湯って色々効能
があったりして身体に良いから商業用でそれ中心に町が出来たりして、慰安旅行なんかに人気なん
だよ。」
一気に喋るとジョーはにっこり笑った。ハインリヒは捲し立てられてちょっと呆然としている。
それからため息をついた。
「・・・・・ドイツにも温泉くらいある。ただ俺は通りすがりに人を呼び止めて、温泉のヒトコトで
全てを理解して貰おうとするお前の存在が不思議なだけだ。」
要点のみを簡潔に話すのは問題ない。が、ジョーの場合は本当に暗号のようで、簡潔すぎる。しかも
わざとやっている。ハインリヒ限定で。
そういうところはやな奴だなと思う。ハインリヒが正確に理解できると踏んでのことなのだから始末
に負えない。やな奴。
それからジョーは一人納得したようにぽんと手を打つと、ハインの腕をひっぱった。
「邪魔だからね。」
部屋の入り口での立ち話は迷惑なので、部屋の中に移動。
「人の話を聞け。」
なすがままに引っ張られながらもヒトコト行っておく。
連れて行かれて、床張りの上、ジョーが持ってきたクッションの上に二人で座った。
「で、なんだ?温泉に行きたいのか?」
しかも俺たちだけで、か?。
ハインリヒが言うと、ジョーは満面の笑みで頷く。我が意を得たり。
「行こう?」
「イヤだ。」
即答。
「なんで。」
ジョーが一気にムクれる。笑ったり怒ったり、その姿は思い切り子供で、ハインリヒには結構面白い。
「身体に悪そうだから。」
更に即答。
ハインリヒは本当にそう思っている。
温泉の薬効、というのは湯に色々な成分が入ってるからであって、気分的にはサイボーグも気持ちい
いかもしれないが、自分はちょっと大丈夫かと思っている。
雨は機械の身体に良くないが、炭酸水素イオン、ナトリウムイオン、塩素イオン等々は更に良くない
に違いあるまい。
神経痛とかリウマチとか関節痛とは縁ないし。
「泉質までよく覚えてるね。さすがアル。」
「まあそのちょっとは。」
「まあいいや。その点は大丈夫だよ、ギルモア博士に聞いておいたから。僕だって中身は機械だよ?」
それはそうだが、やはり自分のような剥き出し部分がない分、安心感が違う。
「で、どうだって?」
「そんじょそこらの温泉に負けるような素材は使っとらん!、だって。」
「・・・・・・負けず嫌いなんだな。」
「温泉相手に勝ち負けもない気がするけど。」
そう言いながらジョーは近くのテーブルの上から色々な雑誌を取ってきた。
「ハイ。」
「?」
「行き先。何処がイイ?」
「って、行くのは決定なのかっっ」
慌てるハインリヒにジョーはこっくりと頷く。
「決定。何故ならばハインリヒが選ばなくても僕が勝手に選んで勝手に予約するから。」
そんな宣言されても。
「各部屋に温泉がついてるのがいいよね。気兼ねなくて。・・・色々楽しみのあるしね。」
「ちょっと待て!お前の言う楽しみは温泉以外も入ってる気がするぞ!いやそれよりそんなことされた
からって俺が行くわけないだろう!。」
「行くよ?だってお金無駄にしたくないでしょ。意外と貧乏性なんだよね、アルって。更に言うと気の
せいじゃないよ。」
「・・・・・・ってそんなに行きたいなら別の奴と行けばいいだろうが・・・」
なかなか鋭いところをついてくる(さすが、なんだろう)ジョーにハインリヒは最後の抵抗をしてみる。
「それを僕に言う?」
あっさり却下。
ハインリヒじゃないと意味がない、と言外に言われればやはり悪い気はしないので、なんだかんだ言い
つつジョーに甘いハインリヒには為す術がない。
ため息をつくと仕方なく降参。その意を込めてジョーの頭を軽く叩いた。
そのままハインリヒは前髪を掻き上げる。
それからジョーの顔を見ると、とても嬉しそうなので。
まあいいかと思う事にして、行き先を決めるべくパラパラと雑誌から面白そうなところを探すことにす
る。
実はちょっと興味があって行ってみたかったなんてジョーには絶対言えない。
★こんなに可愛らしい島村さんを、有難うございました!本当に、嬉しいです。やっぱり島村さんは、
押しに対して強くないと!と再確認致しました。私の真っ黒な島村に比べて、なんて可愛らしいのか
・・・・。それに島村さんに甘えられて悪い気がしない、というハインリヒさんも可愛らしいです。
そして実は温泉に興味があった、というオチもお気に入りですvvvこれを頂いた発端は、私のお馬
鹿なミスだったんですが。こういうのを「災い転じて福となす」っていうんでしょうか?とはいって
も災いに巻き込まれたのは、鳥塚さまだったんですが・・・。
本当に有難うございました!!!
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