バレンタインな日〜ハリロン編〜


2月14日は、バレンタインの日である。ホグワーツではチョコを贈る風習はないが、カードを好きな
人に贈る風習はあるらしい(2巻参照)。そして女の子達がそわそわと落ち着きを失くす日々が続いた。
先生方はあまり良い顔をしなかったが、校長の
「よいでわないか。青春、青春vわしも若い頃わ・・・・(以下略)。」
の一言(?)で、黙認をせざるを得なかった。


しかし、今回は少し勝手が違った。ハリー・ポッターを擁する学年の栄えある首席であるハーマイオニ
ーがこう言ったのだ。
「東洋のすみっこの端っこの国である日本(悪気なし)では、この日には好きな人に”愛”をこめてチョ
 コレートを贈るんですって!だから私今回、チョコレートを作って配ろうと思うの。」
余談だが、ロンが驚いて
「ええっ!?カカオから?」
と尋ねてしまい、ハーマイオニーの裏拳を受けて地に沈んだのだが。それからハーマイオニーは勉強と
チョコレート作りの二束わらじを履いて、常に忙しそうだった。但し、屋敷しもべ妖怪・・じゃなくて
妖精の手を借りているので、あまり大変でもないらしいのだが。


バレンタインが近づいたある日、ロンはハーマイオニーにとっ捕まってキッチンへ引きずり込まれた。
「なんなんだよ!?いきなり!僕、これからハリーの練習を見に行こうと思ってたのに?」
ロンの喚きをハーマイオニーは颯爽と聞き流した。流石、首席。それどころか、作りかけのチョコレー
トを指す。
「なんだよ?僕に手伝えっていうのか?そーいうのはジニーにでも頼めよ!」
「違うわよ、ロン。」
ハーマイオニーは爽やかに笑った。うふふ、というどこか低音の笑いを響かせて。思わずロンが腰を引
いた。
「ここで、貴方の本命に渡すチョコレートを作るのよ。」
「はあ!?ナンだって!?」
「もう、何回も言わせないで。ここで・貴方の・本命に・渡す・チョコレートを作るのよ!」
「・・・・・・・・・何の本命?」
「まあ大雑把に言って、好きな人よ。」
「・・・細かく言っても、好きな人じゃないのか?」
「そうとも言うわね。」
ロンの半眼の視線を受けても、ハーマイオニーは揺るがなかった。こんな事で揺るがるようでは、かの
ハリー・ポッターの友達はやってられない。周囲が思っている以上に、ハリー・ポッターの友人をやる
というのは大変で、度胸がいることなのだ。
「でも、女の子がするもんだろ?」
「まあロン!貴方それは差別というものよ!好きな人に記念日に何か上げたいと思うのは、当然の事な
 のよ!」
「いやまあ・・・それは・・・そうだけど・・・・。」
「大丈夫よ、ちゃんと私も手伝うし、ほらドビー達も張り切って手伝ってくれるわ。」
あっという間にロンは周りを囲まれて、やらざるをえない雰囲気になっていた。
「あの・・・・ハーマイオニー・・・さん?」
助けを求める子羊の訴えを、ハーマイオニーはやたらきっぱりと切り捨てた。
「作んなきゃ、もう宿題を手伝ってあげないわよ?」
「ええ!?そ、それは困るよ・・・。」
「でしょう?」
「・・・・・・わかったよ、作るよ。」
「そうこなくっちゃ!」
ロンは渋々承諾した。対するハーマイオニーは、満足そうだった。
「その代り、お願いがあるんだけど。」
「宿題ならちゃんと手伝ってあげるわよ?」
「違うよ!僕がチョコレートを作ってるっていうのは、内緒にしてくれ!」
「なんだ、そんなこと。」
ハーマイオニーはニッコリと会心の笑みを見せた。
「お安い御用よv」


ハリーは、最近気になることがあった。他ならぬロンのことである。最近、姿が消えることが多い。部
屋に帰ってきても、何だかとても疲れていてぐったりと自分のベットに倒れ込んでしまう。さり気なく
聞こうとしても、ハーマイオニーがさっと入ってきてしまい失敗に終ってしまう。
(なんだよ、僕を除け者にして。)
ハリーがこう思うのも当然の事。しかし・・・・
(はっ!?ひょっとして僕の下心が2人にばれた!?)
そう思って、ハリーがあわあわしてしまう。ハリーの下心、それはロンとあーんなことやこーんなこと
やそーんなことをしてみたい!というなんとも分かりやすいものであった。しかしハリーのロンへの好
意など、ホグワーツの公然の秘密である。知らんのはロンぐらいなものである。ハリーのロンへの態度
と、その他大勢(除ハーマイオニー)への態度は、あからさまに違うのであった。特にドラコ・マルフォ
イへの態度は究極に凄まじく、いつか殺し合いに発展するのではなかろうか、と周囲が思う程だ。そん
な態度を取られても、ちょっかいをかけにくるドラコの度胸も凄まじいとしか言いようがない。但し、
目当てはロンらしいが。だから余計にハリーが氷点下になるのである。ハリーから喧嘩を吹っかけるこ
とはなかった・・・今迄は。しかし、ロンが自分に内緒で何かしている。しかもハーマイオニーはそれが何
か知っているらしい、というこの状況でハリーの機嫌はすこぶる悪かった。そんな時、バッタリとドラコ
に会ってしまった。
「やあ、マルフォイ。」
ハリーから先に声を掛けてきたので、ドラコは少なからず驚いたようだ。だがすぐ気を取り直したらし
い。
「やあ、ポッター。最近、君の取り巻きがいないようだね。とうとう捨てたのかい?」
ハッ、とハリーは嫌みったらしく笑った。
「お蔭様で、今はちょっと君に対して、出し惜しみをしてるだけさ。」
ピクッとドラコの顔が引きつった。
「ほお〜あの出がらしと、穢れた血なんかに価値なんかないのにねえ〜。」
パキッとハリーの口元が歪んだ。
「少なくとも、君の取り巻きよりは価値は214倍はあるよ。なんたって、可愛いしねえ〜。」
ムキッとドラコの額に青筋が立つ。
「可愛いだけじゃ、価値はないぞ?」
だんだんドラコの分が悪くなっていくのを感じて、ハリーはニヤリと笑った。
「へえ〜ロンに執着してる君に言われたくないねえ。」
うっ、とドラコが遂に詰った。ドラコが、どうやらロンにさる想いを抱えているというのも実はホグワ
ーツでは公然の秘密であった。知らんのはロンぐらいである。まあこれに関しては、ハリーが予防線を
幾重にも張り巡らせているので、知らなくても不思議はない。知られて、変に気にされたりしたら困る
のはハリーなのだから。黙ったまま、恨めしそうに睨みつけてくるドラコに思いっきり余裕ぶった笑顔
を見せてから、ハリーは踵を返した。ドラコに八つ当たりしたので、大分気分がすっきりした。


そんなこんなで2/14はやってきた。


「ハーマイオニー、それ全部好きな人に愛を込めて贈るのかい?」
両方の手に、ハーマイオニーの力作チョコレートがいっぱい入った紙袋を見て、ハリーは絶句した。話
では自分の好きな人・・・つまり恋愛感情を持っている人にあげる、という感じだったのだが。
「そうよ。」
案の定、ハーマイオニーは重そうに紙袋を抱えてあっさりと答えてきた。
「あ、そうそう。これハリーの分ね。」
ぽーんとムードもへったくれもない状況で、ハーマイオニーはハリーにチョコレートをくれる。
「え?ぼ、僕?」
「まあ良いから、開けてみてよ。力作なんだから!」
「う、うん。」
ハリーはがさごそと包みを開ける。そこにはハート型のチョコが入っていた。そしてチョコレートには
でっかく”他国語”でなにか書いてあった。
「?ハーマイオニー?これなんて書いてあるの?」
「ああそれね・・・。日本では好きな人の他に、お世話になった人とか友達にチョコレートをあげる風
 習があってね。」
「うん。」
「そのチョコレートに、こう書くのが正しいんですって。」
「へえ〜、流石ハーマイオニー。物知りだね。」
心からハリーはハーマイオニーが凄いと思った。対してハーマイオニーは嬉しそうに笑って、少し赤く
なった。
「ありがと。じゃあ私、配ってくるから。」
「一緒に行こうか?」
「ううん、いいわ。1人で大丈夫よ。」
「有難う、ハーマイオニー。」
「どういたしまして!」
ハーマイオニーは、ハリーに手を振って出て行った。

----------ちなみにそのチョコレートには日本語で”義理”と書いてあったのをハリーは知らない。

「そういえば、ロンはまだ起きてこないのかな〜?」
ハリーは談話室から、自分達の部屋を見上げた。


「どーすりゃ良いんだよ・・・?」
その頃、ロンは唯一プライベートな空間のベットの上で頭を抱えていた。ハーマイオニーに本命チョコ
レートとやらを作らされた後、ハーマイオニーのチョコレート作りに結局付き合わされてしまった。し
かもハーマイオニーは
「ロンは誰に渡したら良いか、もう分かってるんでしょ?」
とだけ言って、ロンがどんなに分かんないと騒いでも知らん顔をしてしまったのだ。どうしよう、誰に
渡したら良いんだろう?とロンは悩みに悩みまくった。こんな情けない相談は、ハリーにもできない。
悩んでも、溜息ついても容赦なくその日は訪れた。しかし時計を見ると、もう朝食の時間がきている。
ロンは乱暴に、チョコレートをローブの下に入れて遂にベットから降りた。こうなりゃ破れかぶれだ、
と何についてだか本人にも分からない覚悟を決めて。


「ロン、貴方もう渡したの?」
最後の授業が終った時、ハーマイオニーがでっかい声で訊いてきた。
「え?な、なにを・・・?」
白々しいと思いつつ、ロンはとぼけてみせた。ちなみにチョコレートは誰にも渡されず、ロンの体温に
温められているだけである。
「も〜う、チョコレートに決まってるでしょ?愛の告白付で!」
「わ〜〜〜〜!!!!ハーマイオニーーーーー!!!!」
大声でハーマイオニーの台詞を遮ったのだが、そのハーマイオニーの言葉にピクンと反応したのは・・
・・・ハリーとドラコである。次の瞬間
ドゴオ
鈍い音がしてロンの隣に立っていたハリーが、万歳の格好で机に頭を叩きつけられていた。
「ハ、ハリィィィィーーーー!?」
慌てるロンの目の前に、手が伸ばされた。・・・・いつの間にかドラコが目の前に立っている。ハリー
は床に沈んだ。
「わっいつの間に!?」
「さあ、出せウィーズリー。」
「な、何を?」
「決まっている、君の家の味とやらを、高貴なこの僕が賞味してやろうというんだ。有り難いと思え。」
「・・・・・・・えっと・・・・・・・・・・。」
「どうした?早くチョコレートを出せ。早くしないと奴が復活してしまう。」
その言葉が終るか終らないかの瞬間
バキィ
突然ドラコの顔面に裏拳が多段ヒットした。当たり前だが手を出したままの格好で、ドラコが直立不動
に倒れる。
「わあっ!!」
「大丈夫かい?ロン?」
そう言ってニッコリ笑うハリーは眉間からダラダラと血を流していて、なんだか反対にその笑顔が下手
なホラー映画より恐ろしかった。ハーマイオニーの方に、助けを求めて視線をむけたのだが・・・ハー
マイオニーはいつの間にか安全圏に逃げ込んでおり、優雅に手を振ってみせた。
「あ、あのぅ・・大丈夫かい、ハリー?」
そう声を掛けると、ハリーは笑顔(流血付)でドラコを踏んずけてロンに近づいた。
「うん、でも知らなかったなあロンがチョコレート作りをしてたなんて。」
「いやあの、ハーマイオニーに無理に作らせられてさ・・・・。」
「僕、寂しかったよ?ロンがすぐ姿を消すものだから。」
「ごめんね、ハリー。」
ハリーとてロンのチョコレートが喉どころか、足の裏からでも手が出るほど欲しいのだがそんなことを
口に出してしまえば、逆効果になってしまうのを良く知っていた。伊達に独占していたわけではない。
ロンには”情”で攻めるのが、1番効果的なのだ。しょんぼりするロンに見えないように、ハリーはニ
ヤリとイカ墨のような笑みを浮かべた。・・・後1息!と・・・
「何をする、ポッタアアアアアア!!!」
ガバア!と鼻血を出しながら、ゾンビのごとくドラコが立ち上がった。
「ぎゃあああああ!!!」
驚くロンをハリーはさり気なく、抱き締めた。ロンは本能的に、ハリーにしがみ付く。
「せっかくこの高貴なる純血の僕が、貧乏ったらしいウィーズリーのチョコレートを食べてやると言っ
 たんだぞ!!!邪魔をするな、この腹黒!!!!」
顔を真っ赤にして(鼻血のせいもあるが)怒鳴るドラコとは対照的に、ハリーはすまし顔で答えた。
「あのさあ、いっつも意地悪を言ってる君に、ロンがチョコレートを上げるわけないだろ?ずうずうし
 いんだよ、鼻血君?」
「そーいう貴様は、額血君だろーが!!すましているが、お前だってチョコレートが欲しいんだろう?」
「まーね、でもロンが自主的にくれないと意味ないもん。ねえ、ロン?」
「ええ・・・・・っ・・・・と・・・。」
ロンはハリーの腕の中で、困惑していた。何故に自分の作ったチョコレートの所有権を巡って、こんな
諍いが起こっているのだろう?どちらも顔面を血によって真っ赤に染めたまま、激しく言い合っている。
ぐるぐると思考が回り、ロンはパニック状態に陥った。突然ハリーの腕を振り解くと、出入口に向かっ
て走り出した。
「たああああすけてえええええええ〜〜〜〜〜〜!!!!」
という悲鳴を残して。
「ロン!?」
「ウィーズリー!?」
慌てた2人も、ロンの後を追って走り出した。
「・・・・・うふふ、面白くなってきたわね。」
主役3人がいなくなった教室で、ハーマイオニーは呟いた。


突然だがスネイプ先生は、廊下に響く音に気が付いて廊下に出た。すると有名な赤毛のウィーズリー家
の6男坊が、激走して来るではないか。
「ウィーズリー!廊下を激走するとは・・・グリフィンドール減点・・・ぐぇえええ!!!」
うきうきと減点を宣言したスネイプ先生は、前を見ていないらしいロンに跳ね飛ばされた。ロンはスネ
イプ先生を跳ね飛ばしたことなど気が付かないらしく、そのまま走り去った。起き上がろうとしたスネ
イプ先生は、ドドドドドという嫌な響きと共にかのハリー・ポッターとドラコ・マルフォイが爆走して
来るのに気が付いた。
「ポッター!!廊下を爆走するとは・・・!!!」
その台詞も最後まで、言えなかった。哀れスネイプ先生は、2人に轢かれて地に沈んだ。
「お、お前ら・・・・我輩を玄関マットと同意義にしおって・・・・・・・・・・。」
そこでスネイプ先生は力尽きた。


人間が全力疾走できる時間は短い。しかし、パニックという事態はロンに驚異的な持続力を与えてくれ
たらしい。だが流石にその奇跡も力尽きつつあった。
(でも箒で逃げるわけにいかないし・・・)
自分のオンボロ箒は、ハリーのファイアボルトやドラコのニンバス2001に敵うわけがない。ロンは
賢明なことに、上には逃げなかった。上に逃げてしまうと、最後には逃げ場所がなくなってしまうから
だ。別にそれを計算していたわけではなさそうだ。ロンは校庭に飛び出し、ハグリットの小屋を通り過
ぎて森に飛び込んだ。ハグリットがロンに気が付いたが、後を追いかけてくる2人を見ると、巻き込ま
れたくないとばかりに、小屋に駆け込んでしまった。
「森は、危険なのに・・・・!」
「何でこんなに逃げ回られねばならんのだ?」
「そりゃ君から逃げたかっただけだろ?」
「よお言うたのお、ポッター。その言葉、そのままゴイル達を付けて返すぞ。」
「やだよ、あんなむさい奴ら。」
「・・・・ハッキリ言うな。」
「そんなことは良いから。」
「良いんかい。」
「うん、だって僕ロンが1番大切だもん。他はどーでも良い。」
「本音が出たな、ポッター。」
「じゃ、僕はこっちを探すよ。じゃあね。」
「しかも無視かい!!!」
怒鳴るドラコの声を背に、さっさとハリーは森に入って行った。


(勢いあまって森に来ちゃったけど・・・どうしよう?)
ロンは古い大木の幹の隠れながら、溜息をついた。
(原因はこれなんだよね・・・・)
この全力疾走にもついて来た、根性のあるチョコレートを胸元から出して見つめた。
(にしても、僕から貰ったって嬉しくもなんともないだろーに)
貰いたいからこそ2人共あんなに必死になって追い駆けてきたのだが、ロンには分かっていない。ハー
マイオニーが言っていた好きな人、というのもあんまり想像がつかない。そんなこんなを考えていると
急に眠気が襲ってきた。無理もない、実は昨晩からろくろく寝ていないからだ。誰に渡せば良いのか、
と真面目に考えてしまった結果だった。
(寝ちゃダメだ・・・・・。寝ちゃ・・・・・・・・・。)
そう自分を叱咤したが、かけっこで疲れ果ててしまった身体は疲労を訴えている。ロンは結局ズルズル
と眠りに入ってしまった。


はっ、と目を覚ますと・・・・そこは雪国・・・ではなくて相変わらず森の中だった。しかしさっきと
違うのは、とっぷりと陽が暮れてしまっていること。暮れてしまった森の中、ロンは思い出さなくても
良いことを突然思い出してしまった。
「そうだ・・・ここ蜘蛛の親分みたいなのがいるんだった。」
気が付けば、巣穴の近くかもしれない場所に座っている自分。ロンは慌てた。幹から出て、歩き始める。
と・・・・運が良いのか悪いのか目の前に、どでかい蜘蛛が立っていた。
「うわああああああああ!!!」
悲鳴を上げて、杖を出す・・・が蜘蛛がのそりと動くと本能的な恐怖で動けなくなる。
----------殺られる!!
ロンは目を閉じた。が次の瞬間、鋭い呪文を唱える声と共にバーンという音が響く。恐る恐る目を開け
ると目の前にはひっくり返った蜘蛛、そして・・・・・。
「ハリー!!」
荒い息をついて、杖を前に突き出して仁王立ちしているハリーがロンの後ろに立っていた。
「大丈夫、ロン?」
「うん、有難う。」
「お礼を言うのは、まだ早いよ?あいつ、死んだわけじゃないから今のうちに森を出ちゃおうよ。」
「う、うん。でもここまでの道が分かんないよ?」
「大丈夫、僕が分かっているから。おいで。」
ハリーはそう言って、ロンに手を差し出した。
「うん!」
すっかり元気になったロンが、その手を握り返した。


「あ〜あ、すっかり暗くなっちゃったね。」
「元はといえば、ハリーとドラコが追い駆けてくるから・・・。なんで追い駆けて来たのさ。」
ムッとしてロンはハリーに文句を言った。どうやらロンの頭の中からは、ハリーもチョコレートを欲し
がっていた事実は忘れられているらしい。ここぞとばかり、ハリーはにっこりと笑った。
「ん、だってドラコが君を追い駆けて行ったからさ。ロンに悪さをしないかと心配で、追い駆けて行っ
 たんだよ。」
飛び出したのはハリーの方が早かったのだが、逃げたロンがその事実を知っているわけはない。
「そ、そうだったんだ・・・。ゴメンねハリー。僕、君がそんなに心配しているなんて知らなかったよ。
 そうだよね、ドラコの奴なんだったんだ・・・・・。」
「さあねえ。」
ハリーはすまして答えた。ここで可哀想なのは1人悪者になってしまったドラコなのだが、ハリーにと
ってドラコの名誉などどーでも良かった。
「なんだかお腹すいたね、ロン。」
「あーでもこの時間じゃ夕食時間も終ってるよね・・・。ごめんハリー、僕のせいで。」
「いいや、気にしないで。」
「あ、そうだ!これハリーに上げるよ。」
そう言ってロンがチョコレートを出してきた。
「あ、でも良いの?」
「うん、僕のせいで夕食喰いっぱぐれてしまったから・・・・・。」
「そっか・・・。」
顔では神妙な表情で呟いたハリーだったが、心の中ではしてやったりとガッツポーズを取っていた。実
はこういう流れにしておけば律儀なロンのこと、チョコレートをハリーに渡してくれるのは間違いない。
そしてその企みが成功した今、あとは”愛の告白”を付けてもらうだけだ。
「はい!」
チョコレートを受け取る時、ハリーはロンにしか聞こえない声で囁いた。
「ねえロン、僕のこと好き?」
ロンはこの”好き”を友情と取った。・・・・それも計算のうち。
「僕、ハリーのこと大好きだよ!」
「有難う。」
ハリーはにっこりと笑って受け取り、包みを開けた。そこには大分いびつなハート型をしたチョコレー
トがあった。デコレーションは一切なかったが。ハリーは心の充実感と共に、チョコレートを割って食
べる。
「・・・・どう?」
「うん、おいしいよ。」
「良かった〜。」
「ロンも食べなよ。」
「えっ、良いの。」
「うん。一緒に食べようよ。」
「うん!」
チョコレートを食べながらハリーはちらりと隅に目を遣ると、隅っこでビデオらしきものを録っている
ハーマイオニーがぐっ、とOKサインを力強く出してニヤリと笑った。ハリーもロンに見えないように
笑った。・・・・・実は、ハリーの知らない間に、ハーマイオニーからこの場所でチョコレートの渡し
と”愛の告白”をするように、と書かれたメモが入っていたのだ。もちろん、気が付いたのは森でロン
を探し回っていた時なのだが。どうやらロンがハリーにチョコレートを渡せるかどうか、ハーマイオニ
ーは同級生の女の子達と賭けをしているらしい。その証拠として、今ビデオを回しているわけだ。だが
ハリーはそれをダビングしてもらうつもりだった。


バレンタインから数日後、ドラコにハリーからビデオテープが贈られた。そのテープに映っていたのは
”愛の告白”付でチョコレートをもらうハリーの姿。
「ポッタアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!!」
美しいホグワーツにドラコの罵声が響き渡った。


★はい、ハリポタでは初めての長編ギャグです。如何だったでしょうか?ハリポタはドコまで許される  のかまだまだわかんないですけど・・・・。ハリーが黒く、ハーマイオニーが灰色っぽくなってしま  って。あそうそう私、別にスネイプ先生嫌いじゃありませんよ?ただギャグにしやすいんですよね。  ドラコも報われないですねえ。私ハリロン←ドラコっていう構図、大好きなんです。ごめんなさい、  ドラコ好きな人・・・・・。書いてて思いました、ああやっぱり私ハリロンが1番好きなんだわ〜と。  ・・・・・・宜しければ、感想を聞かせて下さい。いや本当に(平身低頭) 戻る