エウマキア
南エトルリア最大の財閥、フェリクス家。 「ユリア殿」 「……はい」 そんな中でのルシウスの呼びかけにユリアは、恥辱に身を震わせながら消え入りそうな声で応える。 「礼儀作法の復習をしましょうか」 「こっ、ここで……ですか?」 「大丈夫ですよ。ここは控えの間ですから、少々失敗しても皆大目に見てくれますよ」 躊躇を曲解したルシウスによりユリアは引っ立てられるようにいかにも新進気鋭の商人といった風の若い男の前に立たされる。 「し、執政官たるルシウス……様に保護していただいているユリアと申します……。以後お見知りおきを……」 どもりながら挨拶の言葉を述べたユリアが一礼すると、形の良い乳房が呆然とする男の前に捧げ出される。 「まだ腰つきがおぼつかないですね」 皆がユリアの痴態に目を奪われる中、一人冷静でいるルシウスがぽつりと寸評する。 「ご、ご無礼……申し訳ございません」 恥辱に嬲られ熱っぽい息を苦しげに吐き出していたユリアは、決意するように一息のむとその顔を引き締め丁重な謝罪をする。 「もっと腰をすえなければなりませんよ」 「ひっ……、ふぁっ、はいっ……」 ルシウスの顔がユリアの股間と密着しユリアの頭がさらに下がる。 (はくっ、あっ……、だ、だめ、こえを……こえをだしては……、 あっ、そ、そこはっ、や、やめてください、お……おねがい、やめ、ふぁぁぁ―――!) だがユリアにはそのような痴態にもかまっている余裕は無い。 「れ、礼儀を存ぜぬ……、はぁ、ふ、ふつつかもの……で、もうしわけ、ひっ、ふぁ……、ございま……せん……」 そうやってユリアの喘ぎ混じりの苦悶の顔が控えの間にいる者達全員に紹介されたころ、次の間に進むようルシウスの名が呼ばれる。 「ユリア殿は少々控えておいてもらいます」 「……はい。あっ、な、何を……?」 とりあえずにせよ淫虐の責めが終わる事に安堵の表情を浮かべようとしたユリアは、 ルシウスに尖りきった胸の先端を摘まれ脅えの混じった疑問を発す。 「ですが合図があればすぐに入室するのですよ」 ルシウスはその疑問には答えずに、細い糸をいきり立った乳首に巻きつけ、その刺激を教えこむように糸を引く。 「ひっ、あくっ、わっ、わかりました」 桜色の突起全体に糸が食いこむだけでなく、それが引かれることで絞られるように擦れ鋭敏な刺激が縦横無尽に駆け回る。 「これは、エウマキア様ご機嫌麗しそうで何よりです。その眩いばかりの御尊顔を拝見でき誠に光栄……」 「世辞は結構です。お互い諸事に忙しい身ですから、用件を手短にお願いします」 貴婦人に対し最大級の礼をとろうとするルシウスを制し、エウマキアは完璧な礼儀作法で以って機械的に声を発する。 「断じて世辞などではございませんが、お望みとならば用件に入りましょう。 耳目に優れたるエウマキア様のこと、先日の戦役の事も当然聞き及んでいらっしゃるでしょう」 「私怨による第三軍団の一部の暴走。表向きは」 談笑などする気はない事を宣言するような散文的な台詞には、最後に付け加えた一言すら一片の感情も含まれていない。 「第三軍団第七部隊長は投獄。オプティムス公爵家の当主代行は貴殿の元に預けられる」 続く言葉にも憐憫の色はなく、正に淡々と事実のみを語っていた。 「その事で私の立場も微妙になりまして……率直に申しましてフェリクス家はユリウス殿の派閥に属すると解してもよろしいですかな?」 「我々は一介の商人であり、政争に介入するつもりなどございません。 正当な対価をいただければ品物を引き渡しますが、皇帝陛下のなさりように異議を唱えるなどという恐れ多い事は思いもよりません」 ルシウスの誘いの言葉にもエウマキアは全く言質を与えない。 「ですが先年のユリウス殿の蜂起の際の、フェリクス家の尽力は相当なものだったと思いますが」 「あの壮挙はすべからく彼自身の力によるものです。我々は契約通りの売買を行ったまでです」 おそらく最も幸せだった時代に言及する時もエウマキアの声には輝かしい過去を懐かしむ響きはない。 「契約通りですか。だとしたら随分と思い切った値を付けられましたね」 「その時の売買以外の損得を考えればそれでも安いものでしょう」 さらりと言う台詞には自身の才を誇る響きはなく、相変わらずただ真実のみを告げている。 「我々も是非そのような関係を構築したいものですな」 「ご一考しておきます。オプティムス家のように貴方と関わった結果を判断する良い材料も有りますから」 拒絶を表す言葉を口にしたわけではないが、言外に断ってるのは明白である。 「私個人の人格に対し少々誤解が有るようですな」 「人の見方は人それぞれですから、致し方有りませんね」 つまり断じて誤解などではないという事である。 「我が都市は戦乱の最中身寄りを無くした多くの者を保護しているのですが……」 「保護されたとして、どのように扱われるかが問題でしょうけどね」 人の力と言うものは掛け替えの無いものであり、兵力、労働力、いかなものでも政事を成すのに不可欠である。 「実例を見せなければ信頼されないようですな、ユリア殿」 (ユリア?……まさか) 聞き覚えの有る名にエウマキアが心の内で僅かに動揺する中で、応接室の扉が開かれユリアが引っ立てられるように静静と進み出る。 (これが彼の切り札というわけですか……ただどこまで知っているのか。ただ私の娘と言うだけなら) つがいになる事は叶わねど、確かに授かった愛しい人との愛の結晶を目の前にしてもエウマキアは冷静であった。 (あ、あの人が、エウマキア様……こ、こんな格好をみたら、きっと……きっと、あぁ、いやぁ) ルシウスの糸に操られながら進み出るユリアはエウマキアの注視を侮蔑と感じ、更にその身を悶えらす。 「この娘、名はユリアと申しまして、先日の戦乱の折……その酷い目にあいまして、 その上二親の顔も知らぬ孤児と言うことでしたから我が手元に保護したのですよ」 「だからどうしたというのです?」 エウマキアは動揺しないどころかルシウスの今までのそぶりが納得できむしろ安心し、 目の前の、自分の娘ではなく敵の切り札を空振りさせれば相手は引き下がるしかないと読む。 「娘の状況に同情なさりませんか」 「どこにでもある話です」 「だが奇遇な事に、この娘フェリクスを名乗っているのですよ。それで縁者かと思いましてここまで連れて来た次第です」 「申し訳ありませんが、私も一門の全てを存じてるわけでは有りません。 ですが何かの縁でしょうからその娘預からせては貰えないでしょうか?」 「いやそれには及びませんよ。これも不徳な身のわずかな罪滅ぼしですから。 ……それに戦乱の犠牲をなんとも思われないような方に預けるのは……」 「ならばお引き取り下さい」 あたかも取って置きの切り札を出したように言うルシウスに一応は提案してみるが、勿論引き渡してもらえるなどとは思ってない。 「これは手厳しい。しかしまだ退室するわけには行かないのですよ」 「ひっ、やっ、やめっ、い、いやっ」 ルシウスは胸板に持たれかかるユリアを四つん這いにさせ、 もはや会談は終わったとばかりに席を立とうとするエウマキアに見せ付けるように尻を突き出させる。 「それが貴方の本質ですか。ですが、たとえ一門の女性を眼前で辱められた所でなんらかの譲歩が得られるとお思いですか」 エウマキアは形の良い眉を潜め、吐き捨てるように言う。 「誤解なされてませんか?これは……」 ルシウスは可笑しそうに眉をひそめ、ユリアの股間で一際濡れ光る大きく膨らんだ肉芽を摘む。 「ひぃぃぃ、も、申し訳……ございません。ユリアは……ユリアは、ソ、ソファーを汚してしまいました。 ル、ルシウス様……どうか、栓を」 「ふふっ、しょうがありませんな」 ルシウスがいきりたつ剛直を眼前に示すと、ユリアは逡巡、羞恥、哀惜、無力、様々な表情を浮かべてそれを咥えこむ。 「それに面白い話もあるのですよ。この娘の身元を捜してる内に取り上げた医師の消息が掴めましてね。 その者によると母の名は……エウマキア。ご一門にこの名を持つ方はおられませんか?」 「心当たりは有りませんね」 白々しい問いにも母は動ずることなく、表情一つ変えない。 「エ、エウマキア様が……お……お母さん?」 だが娘のほうはそうもいかない。剛直から口を離したユリアが呆然と呟く。 「い、いや……見ないで、見ないで下さい。ユリアの、ユリアのこんな……こんな……うぅ」 「……このような真似見るに絶えません、あなたに少しでも関わりたくは有りませんが、 そのような真似をするならこちらも相応の手段をとらせて頂きます」 泣き叫ばんばかりの娘の顔にエウマキアの声に殺意が篭る。 「正直、我らは良き盟友になれると思ったのですが」 「我らは現体制に不満など有りません」 「ユリウス殿を討たれた事も?」 「過去の為に現在を犠牲にする事は出来ません」 「さて、それが本意ですかな?」 「貴方には関係ありません」 相変わらずユリアの秘所を弄びながらのルシウスの言葉に、感情を押し殺した断言が立て続けに襲いかかる。 「そうとも言えますまい、我々はユリウス殿の遺志を継ぎ事を成そうとしてるのですよ」 「その名を汚してるだけです」 娘を弄んでいる事、ユリウスの名を引き合いに出す事、どれ一つとっても容認できることではない。 「なるほどその娘がこんな痴態を晒していては確かにその名を汚しているかもしれませんね。 とするとユリウス殿の名を汚しているのは貴方では?礼儀を教える責任はあなたにあるのですから」 「えっ?」 おそらくこの会談の中で初めてのエウマキアの感情の動きが直に表情に現れる。 「……なぜその娘の責任が私にあるのですか」 「それはエウマキア様のほうがご存知なのでは?」 「……私は何も存じません」 (恐らくこの男はユリアを公衆の面前で辱めるに違いない。……しかもユリウスの娘として) 自分の娘と言うだけならどのような扱いを受け様とも耐えられる ……だがユリウスの、愛する人の娘と言われれば、正直拒絶しきる自信は無い。 「では会談はここまでですな。早々に退出させて頂きましょう。 ユリア殿、作法に通じてなくともユリウス閣下の娘として胸を張って皆の前にお出で下さい」 「いっ、いやっ、ひっ、あっ、うふぁ、ふあぁぁぁっ」 ルシウスはユリアの腰を抱えると愛液の滴る秘所に剛直を突き入れ、犬のように進ませ退出しようとする。 「待ちなさい……………分かりました、援助します」 哀しい決意の声に、長い沈黙、そして屈服の言葉。それを言いきるとエウマキアは思わず顔を伏せる。 「援助……ですか。正直そのような事はどうでも良いのですよ」 「では何が望みなのですか」 悲哀の混じったエウマキアの声にルシウスはとびっきり邪悪な笑みを浮かべる。 「知性と気品溢れるエウマキア様ご自身ですよ」 「……それでは思い通り辱めなさい。私は抵抗いたしません」 体が目当てなら安いもの、そう考えユリウスへの貞操をどこかに追いやる自分の理性がエウマキアはたまらなく哀しかった。 「思い違いを成されていませんか。 私は母と娘の間のわだかまりを無くしユリア殿が一人前の淑女となるのにエウマキア殿の助力が得たいだけですよ」 それはつまりただ犯すのみで無いと言うことに他ならなかった。 |