この本、面白い?!

 記憶している過去読んだ本、最近読んだ本を独断と偏見で評価してみました。面白いと思った度数を星で表してみました。読書選択のご参考に。また読書意欲を刺激していただければ幸いです。


「刺青(しせい)」 谷崎潤一郎 ★★★
 
 日本語って美しい。と久々に思わせてくれた作品でした。先日、谷崎全集を安価で入手しました。驚きの安さで手に入ったのですが、素晴らしい装丁で、しかも読まれた形跡はなし。谷崎は、意外と(わたしのイメージより)古い人で、大正時代後半から活躍した人で、長生きしたので、たくさんの作品があります。段落ちしないで書くのは、谷崎だけかもしれません。
 読めない旧字体が多く、広辞苑にも載ってない造語もあり、辞書を片手に読んでますが、全部読破するまで、早くて10年はかかりそうです。
 天才的刺青職人が、芸妓の使いの少女に、男を食い物にする魔性を見出し、若くて美しい肌の背中に、女郎蜘蛛を彫るという、短い作品です。

 シュリーマンの日本滞在記のなかに、舟漕ぎ男の背中にある刺青の美しさ、ちょんまげの粋な様子が書いてありましたが、ほんの百十数年くらい前の日本人の庶民の姿です。

『其れはまだ、「愚」と云う貴い徳を持って居て、この世が今のように激しく軋み合はない時分であった。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・当時の芝居でも草双紙でもすべてが美しいものは強者で、醜いものは弱者であった。誰も彼も挙(こぞ)って美しからむと努めた挙句は、天稟の体へ絵の具を注ぎ込む迄になった。芳列な、或いは絢爛な、線と色とが其の頃の人々の肌に躍っていた。・・・・・・』

 ちょっと、出だしを書き写してみました。PCで漢字がでない旧字は勘弁してください。
 
 現在は、外人の真似をした茶髪若者が、汚い色の素彫りをしているのをよく見かけますが、情けないなぁ、と個人的には思います。かっこよくするのも、むかしは命がけだったようですが、今は、かっこよさも、簡略化したということでしょうか。


「永遠の都」 加賀乙彦著 ★★★★

 全7巻。MY VALUE を4つ星と高い評価にしてしまったのは、自分でもよく読みきったなぁ―。と思っているからです。加賀乙彦氏は「宣告」という作品で有名な大御所作家ですが、たまたま、ブックオフで、「岐路」という上下2巻本・立派な装丁のハードカバーが、100円で投げ売りされているのを見つけ、ラッキー!という感じで手にしました。

 時代は昭和10年から始まる。裕福な家庭の女性たち、その父が主人公に設定され、ちょっとメロドラマ風(?!)の感を抱きながらも、不義の恋、ままならない恋の行方をわくわくしながら読み進めていった。そして、何よりも心引かれたのは、大正時代の1次大戦、関東大震災などを経て、平穏をを取り戻した平和でのどかな東京の風景。今の東京、とくに私の馴染み深かった三田の風景、新大久保の風景が多く描写されていた。そして、下巻を読了した後、なんとなく判然としないものが・・・。もしかして、これって続きもの?調べてみると「永遠の都」という大長編の一部であることが発覚!!んんー。もう読むしかないでしょう。。。

 加賀氏のライフワークとして書かれたというこの作品は、約10年にわたって「新潮」で連載された作品のようだ。しかし、10年も連載されていた作品も、本の形になれば、読者は数ヶ月(読むのが早い人は数十日)で読むことができるのだから、こんな贅沢はない。
 作者の自伝的・昭和史的作品と謳われており、時代背景は、昭和10年〜22年。平和な日本が、第二次世界大戦で、狂乱していくさまが、じつになまなましかった。第一人称(主人公)が、10名ぐらいいて、入れ替わり立ち代り変わっていく。その間に時間が微妙に前後して、重ねられる。その面白みを感じたこともあったが、正直、まとまりに欠ける感はある。しかし、最後まで読ませてしまう魅力があった。

 この作品には実にたくさんの本が登場する。ダンテ「神曲」から、ゲーテ、ドストエフスキー、ユーゴ、デュマ、スタンダール、フローベル、カーライル、中国文学、仏教書などなど。その当時、本はいまよりもずっと高価だったと思うが、そのころの知識階級の読書量は、凄かったんだろうなとつくづく思った。たくさんの主人公なかで、私のお気に入りだったのは、加賀氏本人の要素がつよいと思われる「悠太」だ。

 つらい幼年学校の生活の末、敗戦という結末を迎えたことに深く傷つきながら帰路につこうとする悠太は、自然と二重橋のほうに足がむかう。陛下に挨拶をしようとする人で、二重橋前は人だかりだ。そのなかで、若い男が切腹をしていた。腹から腸(はらわた)がはみ出し、唸り声をあげながら短刀で掻き回す様子を、まわりは黙って見ていた。そして男がばったりとすると、周りのみんなが「死んだ、死んだ」といい、誰かが拍手した。というシーンがある。とくに印象深いところだ。(こんなことがあったのか!と私は衝撃をうけたが、後に全くのフィクションだったことが発覚。またしても小説家にだまされた!!)


「賭博者」 ドストエフスキー著 ★★★★

 面白かったです。賭博の種類は、ルーレットです。賭け事に入れ込む破滅的な青年が主人公です。ケチで金持ちの老婆が一夜にして財産をすってしまうところが圧巻でした。


「新訳 チャタレー婦人の恋人」 D.H.ロレンス著 ★★★

 チャタレー裁判で一躍有名になったという作品だそうですが、問題になった猥褻部分も含めた完全訳のものがあると聞いて、興味を持ったので読んでみました。全然猥褻じゃないのでびっくりしました。完全訳じゃないものと照らし合わせてみましたが、どうしてこんなところが削除される?といった感じです。
 この作品は、前半部分が非常にテンションが高く、伊藤整の訳もいいのか、登場人物の精神描写、人物描写が特に素晴らしいものでした。物語は、下半身付随になってしまった夫・クリフォードへの主人公コニーの愛憎を中心に展開していきます。男女の関係で肉体的要素が如何に関係しているが、地位と金を取り巻く人間の虚栄心と深層心理のようなものが客観的に書かれている部分が気に入りました。後半部分になるとちょっとだらけた印象をもちましたが、芸術性の高い名作の1つに数えられると思います。


「誰も教えてくれない聖書の読み方」 ケン・スミス著 山形浩生訳(晶文社) ★★

 聖書という書物をいろいろな訳で読み込んだ筆者がシビアに解説した本です。信者には一種の禁書的な意味合いを持つと思います。非常に奇抜な内容ですが、事実、聖書に書かれているのですから、仕様がありません。

このなかでいいなーと思った「伝道の書」の一節を紹介したいと思います。「オマル・ハイヤーム」と似てます。これは、誰が書いたかもちろんさだかではありませんが、立派な詩、芸術作品だと思いました。

「行け、よろこびに満ちて食事し、楽しい心で酒を飲め・・・妻や愛する人と人生を楽しむがよい、神の与えたもうた無意味な日々のすべてを・・・無意味な日々のすべてを」  ― 伝道の書9:7-9 ―


「龍之介地獄変」 小沢章友(新潮社)

 ブックオフで何気なく見つけて、表紙に惹かれたので読んでみました。芥川の自殺前夜3日間を文献と作品から、龍之介自身を主人公にしてミステリータッチの小説に仕上がっていました。精神病だった実母の血筋をとても恐れていたようです。幼い頃の友人の死、兄の鉄道自殺は、龍之介に死へ親近感を持たせるきっかけになった。というような内容です。常に歯車の幻想をみるところは狂気的な印象を受けましたが、全体的に漠然と描かれていて自死を選んだ理由は、残念ながらつかめなかったという印象です。モテてたということはわかりました。


「泥の河」 宮本輝著 ★★★★
 
 最初は映画「泥の河」でこの作品を知りました。戦後、家がなく船で生活しながら、いろいろな土地を転々としていく漂流者の子ども、キーちゃんと主人公の男の子(名前は忘れました。。)との淡い幼い日の友情を描いた作品です。キーちゃんは、船で売春をしてる母ひとり、子二人という境遇。時代の波に翻弄される先行きあやしい少年と、貧しいながらも幸せな家庭を営む家の子である主人公の、純粋な魂だけの友情関係。しずかで、きれいな文体だったという印象が残っています。


「四一番目の少年」 井上ひさし著 ★★★

 
 「ひっこりひょうたん島」などで有名な井上ひさし氏の処女作です。
仙台の孤児院で育った筆者の幼少時代が書かれています。井上ひさしといえば、大衆文学作家という印象が一般的なようですが、この作品で井上ひさしという作家に初めて触れた私は、どうしても大衆作家というイメージが持てません。孤独で寂しく、純粋な幼少時代がとても美しく描かれた作品で、このうえなく素晴らしいものです。これは、川田氏おすすめの一冊でもあり、胸をはって推薦できる本です。


「グリムの童話のなかの怖い話」金成陽一 (大和書房) ★

 ちょっと前に、「本当は怖いグリム童話」という本が流行りましたが、それより面白かったです。グリム童話は残酷な話が多く、当時の実話に基づいて書かれたもの、性的な話もあったようです。また、教訓的で謎解きのような話もあり、この本で紹介している話の中でとても興味深い話がありました。
 金成さんという筆者は、「何度読み返しても、なぜ物語の登場人物が全員死んでしまわなければならなっかたのか、全く納得がいかない」と書かれていましたが、答えは明快です。でも、非常に深〜い教訓でした。。背筋がぞぞっときました。さあ、みなさんも一緒に考えてみましょう!!

「しらみとのみ」<KHM30>


「先生、なまらコワイべさァ ―田舎医者の峠道―」 小川克也 (ごま書房) ★★

 北海道・釧路の診療所の裏事情を東大卒のエリート現役内科医の視点で、率直に書いたエッセイです。いま、孤島の町医者を扱ったドラマが放映されていますが、現実はだいぶ違うようです。こんなこと書いちゃって大丈夫?と読者が思ってしまうほど、実にシビアに医療の問題がしたためられています。いま、奇しくも医療現場の杜撰さがマスコミなどで問題視されているなか、この作品は、現役の医者という立場から、果敢にも田舎の医療設備の不備、患者の医療に対するな認識不足などの問題点を克明に訴えかけています。筆者の小川氏は、川田先生と東大時代の友人でもあり、小田桐聖のペンネームで「鉄路の果て」という小説を書かれている小説家でもあります。


「文壇」 野坂昭如 


 野坂昭如は、「蛍の墓」で有名な人です。昭和30-40年代だと思いますが、テレビの世界から文壇の世界へ飛び込んだようすが、超・前衛的文体で書かれています。細かいことは、まったく解読できませんでした。当時の文壇の人脈が細かく描かれているようです。読破するのは大変でした。何かの賞を獲ったそうですが、ちょっとおすすめできません。


「エロ事師たち」同著 ★★★


 戦後の日本でエッチなブロマイドを売る人の話です。面白かったです。「文壇」のなかにあったのですが、アメリカで、映画にもなったそうです。また、「エロ事師たち」という題名も非常にセンスがあって気に入っていたのですが、野坂さん自身が考えたのではなく、当時の編集者から、この題名でなにか書いてくれと頼まれたそうで、ちょっとショックでした。そのわりに、内容は非常によかったです。自分の子どもの骨を永谷園のノリの缶に入れて、川に流す場面は泣きました。蛍の墓にも、同じような話がありましたが、やはり強烈に覚えています。


「白夜」 渡辺淳一 ★★

 新潮文庫、全5巻。渡辺淳一が北大時代から医大へ再受験、医師から小説家へ転向していく過程を追った自伝的小説です。渡辺淳一って「失楽園」とかちょっとエロエロ(笑)なイメージだったのですが、非常に読ませます。書店で在庫がなかったため、取り寄せたところ、「全5巻ですがいいですか?」と店員に言われ内心ぎょっとしましたが、そんな心配も空しく、あっという間に読了できました。約30年から40年まえを舞台にしていますが、医療現場に関する一種、暴露本的要素もあり、非常に興味深く読めました。私小説ってとかく叩かれやすい傾向があるようですが、やっぱり筆者自身(らしい)のことを書いた作品は迫力があるし、いいですね。


「遠き落日」 同著 ★★★

 同じく渡辺作品ですが、この作品は10年ぐらい前に映画にもなった作品なので有名ですね。吉川英治文学賞を獲った作品のようです。野口英世のことを書いたものです。子供の時、必ず読まされるのが野口英世の伝記ですが、医者になるまではなんとなく知っていたものの、結局何をした人?という疑問がありました。子供ものの、おきれいな伝記とは違って、野口英世がいかに変人であったかが随所に描かれています。金銭感覚がめちゃくちゃだったみたいですね。金銭感覚がめちゃくちゃ、悪く言えば金にだらしない文人といえば、そう、石川啄木もそうでしたね。友達に借金しまくり、踏み倒したそうです。その額、うん千万というから驚きです。
 「遠き落日」は全2巻でしたが、これもほとんどいっき読みできちゃう勢いです。


「女優」 同著 ★★★

 大正時代の舞台女優、松井須磨子と早稲田大学の教授だった島村抱月の実話に基づいた話です。まだ、芸能人ということばがなかった時代、芸人は河原乞食と言われていた時代です。坪内逍遥が、日本の文芸演劇の発展をめざして早大に「文芸協会」を建ち上げたのは日本史などで知られていると思います。
 ずっと前に、田中絹代主演の「松井須磨子の生涯」という映画を見たことがあって、もっと詳しく知りたいと思い読んでみました。この本を読んでいくうちにフランス映画の古典「嘆きの天使」が彷彿としてきました。
 わがままで教養もなく、さほど美しくもない芸人とインテリ教授との恋愛。結局、抱月亡き後、須磨子の自殺という形で結末を迎えるわけですが、愛情関係というのはやはり理屈じゃないんだなあとつくづく考えさせられました。面白かったです。とりわけ、抱月のラブレターは圧巻です。新潮文庫上下刊本です。


「永遠のジャック&ベティー」 清水義範 ★★★★

 中学にはいって初期に習う英語の文体で一貫して書かれたもので、笑えます。20ページ足らずのものですが、中学のときにこういう表現あった、あったという文ばかり・・・。最初は何書いてるんだ?と不思議な思いで読み進めていったのですが、その意図に気付いた瞬間この作品の虜になってしまいました。



「インパクトの瞬間」  同上著 ★★★★★
 
 なぜ、ゴルフのインパクトの瞬間、ぶれてしまうのか・・・。から・・・だからインパクトの瞬間ずれるのだ。で終わり、一見、首尾一貫しているようでしていない。うまく説明できませんが、面白すぎる作品です。これも20ページ足らずのものです。

清水義範作品はたくさーんあって、この2作の面白さを求めていろいろ読みましたが、これに優るものはまだ見つかっていません。もうひとつあげれるとすれば、「国語入試問題必勝法」です。国語の問題集の名前ではありませんのであしからず・・・。


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