顎関節症の症状

1、口を開ける時に顎関節部、咀嚼筋部が痛む

2、口が開きにくい、開いたり閉じたりする時顎がまっすぐ動かない

3、顎を開いたり閉じたりする時雑音がする(カクンという音(クリック音)、ギシギシする音(クレピテーション)

この3つが主な症状です。

その他、偏頭痛、めまい、肩こり、首の痛み、手足の痛み、目の奥の痛み、耳の奥の痛み、耳閉感、噛む位置が定まらない、等の症状が出ることもあります。

最近かなり増加しており、軽度のものも含めると10%前後の方が罹患していると言われています。関節組織が強く、抵抗力があれば問題は起きにくいですが、抵抗力の弱い女性に多い傾向があります。

顎の関節だけは、他の関節と違った特徴を備えています。顎の関節は、左右の関節が下顎骨でつながっている為、一対になって機能します。だから左右の関節の動きのバランスが崩れてしまうと、関節内部でコロの役割をしている関節円板(関節の補助とクッションの役割をしている軟骨組織。通常は口の開閉時に下顎頭と一緒に動きます。)や顎を動かす筋肉(主に咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4つこれらを咀嚼筋と言う)等様々な場所に疾患を起こしてしまうのです。

少し専門的になりますが、「日本顎関節学会」では病型を次の5つに分類しています。

1型 咀嚼筋障害(咀嚼筋に問題があったり筋肉に痛みがある)

2型 関節包・靭帯障害(関節円板後部組織・関節包・靭帯の慢性外傷性病変、関節円板などに軽度の損傷があり、口を開くと、ポキッという音がする。これは少しずれてしまった関節円板に下顎頭が接触して出る音です)

3型 関節円板障害(2型が更に進行して、関節円板が転位し、音がしたり口が開きにくくなる。)

4型 変形性顎関節症(退行性病変を主徴候としたもの、関節円板の後方に穴があき、ギシギシ音が聞こえるようになる。骨同士の摩擦が生じ関節の骨が削れて変形して行く)

5型 1〜4に該当せず、心身に原因があるもの。

 

顎関節症の原因

以前は噛み合わせが主な原因と考えられていましたが、その他様々な原因が複雑に重なりあって起こるようです。

歯ぎしり、食いしばり、偏咀嚼(片噛みの癖)、ストレス(精神的ストレスによる咀嚼筋の疲労、またストレスによる歯ぎしりや食いしばり)、ほおづえ、食事中の噛み違え、歯の治療中の長時間の開口、事故などによる顎への直接のダメージ、うつぶせや横向きでの就寝(できるだけ仰向けに寝るようにする)、カラオケでの歌いすぎ、バイオリンなどの楽器演奏、など顎に負担をかけ続けることが良くないようです。

特に歯ぎしりや食いしばりが原因となっていることが多いようです。

通常の食事中にかかる力は、20〜30キロ。それが、歯ぎしりになると60〜100キロ近くもかかっているのです。歯ぎしりは想像以上に大きな力が顎にかかっています。またスポーツをしている時、仕事に集中している時などは無意識に歯を食いしばっています。また一般的に、歯と歯が接触している時間は1日に2,30分といわれていますが、この時間が長い人は顎関節症になる可能性があります。

 

顎関節症の治療法

正常⇒最大開口域(上の前歯と下の前歯の先端の距離)が40mm以上で疼痛が無く、日常生活にも支障が無い。

軽度⇒最大開口域が35〜39mmで疼痛は軽く、日常生活への支障も軽度である。

中等度⇒最大開口域が30〜34mmで疼痛は中等度、日常生活への支障も中等度である。

重度⇒最大開口域が29mm以下で疼痛は重度、日常生活への支障も重度である。

当院で治療が可能なのは軽度あるいは中等度までです。それ以上は専門の医療機関へ紹介させて頂きます。ただ、開業して12年になり、治療を希望された方も数十名ですが、幸か不幸か、重度の患者さんは来院されておらず、また症状の良くならなかった患者さんは今の所経験していません。治療中に悪化した場合や3か月位治療を続けて改善の認められない場合も、当然ご紹介致します。ただ、クリックなども徐々に改善し、ほぼ完治するのに1〜2年かかった方もいらっしゃいます。

当院の治療手順

目標は当然正常レベルになるまでです。

まず診査をします。開口量、開閉口時の顎の動きの偏位状態、顎関節部の触診による疼痛や雑音、筋肉の触診による疼痛、開閉口時の誘発痛などを記録しておきます。

軽度の患者さん日常生活での注意点をお話しし、実行していただければ治ることが殆どです。すなわち、上述したような原因を取り除くことです。食いしばりは日中気が付いたら止めるようにし、意識的に「舌で上唇をなめる」ように習慣づけるようにします。一時的な痛みであれば、消炎鎮痛剤(インドメタシン等)を1〜2週間服用してもらいます。ただストレスの除去は非常に難しく、専門医によるカウンセリングや抗不安薬(マイナートランキライザー)、睡眠導入剤の服用が必要な場合もあります。

 

中等度の患者さん緊急に口が開かなくなった場合は、取りあえずチェアーサイドで前歯接触型バイトプレーン(上の前歯に小さいプラスチックの装着をできるだけ長時間付けてもらう。奥歯には当てない。)を製作し、長くて2〜3週間装着しておいてもらいます。また消炎鎮痛剤(インドメタシン等)を投薬します。一応緊急状態を脱し、状況が多少改善し筋肉の緊張が緩和したら、明らかな噛み合わせの障害を除去します(出っ張ってしまい顎を動かすと引っかかる親知らず等の抜歯、明らかに噛み合わせの障害と見られる不良補綴物の調整)。

その後、スタビリゼーションスプリントを作製します。これは一般的には上の歯列全部をプラスチックで覆い、下の全ての歯に0,51mmの範囲で平坦部分に接触させるマウスピースです。偏心運動時は犬歯に接触させるのが基本です。これを日中は無理なので就寝時のみ装着してもらいます。これを2〜3週間ごとに調整します。このようなスプリント療法はプラセーボ効果(心理的効果)が深く関係している可能性も高いという報告がありますが、経験的には効果があるのは明らかのように思います。日常生活での注意は上述した通りです。

 

専門医による治療(紹介)⇒難症例は専門医に依頼します。診査法には,顎関節や咀嚼筋,咬み合わせに関する一般的な診査のほか,画像検査(顎関節単純X線,MRI,顎関節造影X線,CT)や顎機能検査(筋電図検査,咬合接触圧測定,三次元顎運動測定)などがあります。スプリントもより高度の技術で作られた上記とは別のタイプのものを用いることもあります。

関節腔洗浄療法:顎関節に注射をうち,関節の中を洗う治療

関節鏡視下剥離授動術:細いファイバースコープを顎関節に刺し,関節内を視ながら,癒着部分を剥がす手術

徒手的円板整位術:人工滑液を注射して円板を動きやすくした状態で下顎を手で引っぱり円板を正常位置にかぶさるようにする。これは症状が出て初期の場合に行われます。