アントロポセン(Anthoropocene;人新世)

 

今、地質学会では、アントロポセン(人新世)という時代が議論されています。これまで地球の四十億年の歴史は、すべて自然現象によって形作られてきましたが、人類の登場以来、とくにこの200年前からは、人類の活動によって地学上の一時代が明確に区別できるようになってきているというのです。

人類は、発生以来、数万年間、地上の木材などを燃焼させてエネルギーを得てきました。そしてまた植物が光合成によって成長し、それを動物が食べて育つのを待って、人間の食料とする、全くの地上の自然エネルギーに頼ってきました。

しかし、200年前の産業革命以来、人類は自然界が数十億年かけて地中に固定して、大気を清浄化してきた化石燃料を地下から掘り出し、それを燃焼させて再び大気圏に放出するという活動を行い、その結果生活が向上して爆発的に人口が増加し、それに伴って加速度的に化石燃料を使うという循環を繰り返してきています。

この爆発的人口増加とそれに伴う化石燃料の使用は、地球の大気圏に大量の炭酸ガスを放出し、それが地球の気象に大きな影響を与えていることは、IPCC等の国際会議で明らかになっています。

この炭酸ガスの放出は、各種の気象変動を巻き起こし、地球全体の生態系に大きな影響を与えています。 

すなわち、このアントロポセン(人新世)という時代は、人類(Homo sapiens sapiens)というたった1種類の生物が、この地球環境を変化させてしまい、地球の未来を左右することができる時代であるということです。

「地球最後の世代」 フレッド・ピアス:NHK出版

地球温暖化と私たちの生活、私たちが放出している炭酸ガスがどのように地球温暖化を加速しているかなど、あまりに大きな課題と私たち自身を結びつけることは、とてもかけ離れたものを結びつけることで、考えられないという意識が一般的と思います。

しかし、いま日本でニュースになっている、あるいは私たちの生活や仕事上の課題が地球温暖化の影響そのものを受けていると知ったら、本当に自分の問題として考えられるのではないでしょうか。

例えば農業の面でみると、(社)全国農業改良普及支援協会では、農業温暖化対策情報サイト

https://www.ondanka-net.jp/index.php

において、身近な温暖化の情報を集め、その対策を検討し

漁業においては、水産総合研究センター地球温暖化対策研究戦略

http://www.fra.affrc.go.jp/pressrelease/pr20/200805/sankou.pdf

が作成され、実際の漁港においてもたとえば氷見の港で、従来は太平洋でしか取れなかったサワラが大量に捕獲されるようになったことも報告されています。

 

 

私たちの生活においても、239月の台風による長雨で紀伊半島に大水害が発生したことも、文部省、気象庁、環境省が温暖化の観測・予測及び影響評価統合レポート  「日本の気候変動とその影響」 の中に記述している、気象の大規模で急激な変動にそのままあてはまります。

台風の進路や大雨は自然現象であり、どうしようもないというのは、江戸時代以前の話であり、現代の私たちは、その自然現象に責任を持たなければならないのです。

具体的にはどのようなことでしょうか。

世界銀行の世界開発指標(2389日)による世界の人口増加は、1960年から2010年までに2.3倍にまで膨れ上がっています。

 

これに対して、一人あたりの炭酸ガスの排出量は、全世界的に30%近く増加しています。この中で、日本は特に1960年から1975年までに大幅に増加し、現在もまだ増加しています。

一人あたりのCO2排出量(トン)

これに対して、フランス、ドイツは、次第に削減の方向に進んでおり、ドイツは自然エネルギー、フランスは、原子力発電による炭酸ガス削減が顕著です。

ちなみに、日仏独の一人あたりのエネルギー消費量

二次エネルギーに転換される前の一人あたりの一次エネルギー消費量

(石油換算Kg)

 

及び電力消費量は、ほとんど変わりません。

一人あたりの電力消費量(キロワット時)

 

このデータから、フランスの原子力発電による炭酸ガス排出量削減効果が顕著で、世界の平均の2倍のエネルギー、3倍の電力を使用しながら、世界平均の30%増程度の炭酸ガス排出量であることは、如何に原子力発電が炭酸ガス抑制に効果があることか、明確になります。これに対しドイツは自然エネルギーを増やしているのですが、フランスと比較すると、実効的な炭酸ガスの減少を達成しているとは言えません。このように原子力は、地球温暖化、炭酸ガス放出削減に不可欠な技術です。

これまで、50年近く原子力開発に従事してきましたが、単に化石エネルギーとの比較で、コスト、効率のみを議論してきて、地球温暖化は単にお題目にしていたようです。今回福島の原子力発電所の事故を前にして、改めて原子力のあり方を考える中で、我々人類がどのような活動をして、地球の自然に影響を与えてきたか、またその影響を防止する為に原子力がどのような位置づけであるべきかを再検討しています。

地球に生存する全生物に対して、人類はその活動の大きさと、細菌のような増殖速度から、害獣になってしまっているのではないかと思われ、その責任を果たすためには、かんきょうに影響を与えない原子力の開発をさらに推進すべきであるという思いを強く持ちました。