どこへ行くアメリカ
   詞
/曲 井上ともやす
2004.4

親父が俺をぶん殴る時は足を肩の幅に広げて
「歯をくいしばれ!」右へ左へはたかれて鼻の奥がつん!とした
「こんな風にやられないか?」とクラスのみんなに聞くと
「そんなことするのはおめえん家だけだろう」 「そもそもお父さんに殴られたことなど一度もない」とポカンとされたっけ
ある日テレビで戦争映画を見た
日本軍のなんか偉そうな奴が貴様!と怒鳴りつけ親父と全く同じやり方で殴っていた
なんだこれか!そうか!これなんだな!
これが親父の見本なんだな!
それは戦争さ

中学一年初めての英語の授業 “Hello!Hanako” “Hi!Taro”
外国の言葉を話す興奮でウキウキしながらアルファベットを追った
やがて3年が経ち高校受験の季節 英語はもはや楽しいものではなく
くそ難しい文章ばかり読まされてTaroもHanakoもすっかり消え失せた
だけど高校に入りある英語の先生がイーグルスの「ホテル・カルフォル二ア」の歌詞を訳した時
いつも寝ていたばかりの俺が衝撃を受けて鳥肌を立てていた
「このホテルをチェックアウトするのは自由だけど、出て行くことは絶対出来ません」
それがアメリカだ

アメリカが少しずつ 僕の心に現れた 背が高くてかっこいい英語を喋る人達
オリンピックではいつも金メダルだね

僕が好きになった吉田拓郎が好きだったのがMr.Bob Dylan
僕が好きになった佐野元春が好きだったのがMr.Bruce Springsteen
「風に吹かれて」「Like a Rollingstone」「Born to Run」「River」「Born In The U.S.A」
憧れの国 United State Of America
「ネブラスカ」のハープをコピーした17才の夏
だけど繰り返し叫ばれるベトナムという言葉
 あのアメリカが何をそんなにアジアに怯えてる?
「Born In The U.S.A!」と拳を上げるのは間違っていた
何か少し少しづつ見えてきた アメリカが隠そうとしているもの 例えば原爆さ

そういえば小学校の学級図書館 教室の後ろに本を並べて
担任の諸根ヒサ先生が置いた唯一の漫画は「はだしのゲン」
「非国民」「ピカドン」「在日朝鮮人」「ケロイド」「放射能」「原爆ドーム」
初めて聞いた言葉のナイフがえぐったものは人間の素顔
8月6日、9日 広島 長崎 何故だか総理大臣がいつも頭を下げている
「本当に頭を下げるのはアメリカじゃないのかい?」
昭和11年生まれの母親にそんなこと熱く語るとこう言われた
「おまえは過激派だ」

アメリカが少しづつ僕の心に曇ってきた ジョン・ウェインの映画では殺されていた
インディアンと踊るケビン・コスナーのように・・

時は流れて僕は沖縄を愛してやまない男になった
でも旅すればいいことばかりじゃなくて ナイチャー嫌いのおばーにののしられたりもした
「いくらナイチャーだからってよ、知ったような顔すんじゃないよ!」
「島唄もっと勉強してから来なさい!」「あんたとは話したくないさ!」
でも後から聞いた おばーの本当の家は基地のど真ん中 二度と帰れないって・・
伊江島米軍射撃場立ち入り禁止 興味津々近づいていくと門番がゆっくり立ち上がり
マッカーサーのような黒く冷たいサングラスで拳銃に手をかけた
「殺される!」と初めて感じた瞬間 腰が抜けるほど驚いて踵を返した
そこが沖縄だ

2001年9月11日 テレビの画面は戦争だった
「これは映画だろう!?」と何度も信じようとしたが 憎しみのエネルギーが全てを蝕んでいた
真っ二つに崩れ落ちる貿易センタービル 血まみれの泣き声が「私の神よ!」と叫ぶ
「絶対屈しない」「絶対負けない」ブッシュさん、その前にやられた理由は何ですか?
アメリカがきっと欲しがってる「石油」その国に自衛隊を送り
黄色いテープで別れを告げる家族の涙はまるでいつかの白黒フィルム
あれから地球は憎しみの星になり 黒い空気の固まりが誰もの胸に吸い込まれている
貧しい顔した政治家達が安っぽく命を語る
かつて親父が俺の頬を叩いた その痛みで色んな事を知った
人間は悲しいね・・

アメリカが少しずつ世界中で曇ってきた 「自由!自由!自由!」と声高に叫ぶ
片手に銃を握りしめながら・・

どこへ行くアメリカ どこへ行くアメリカ
どこへ行くアメリカ どこへ行くアメリカ
どこへ行くアメリカ どこへ行く!? どこへ行く!?
War Is Over  War Is Over
War Is Over  War Is Over



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