とらぶた
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 ずれずれ草 15年05月と06月

 今月の内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

         
 長谷川輝夫『聖なる王権 ブルボン家』【ざるあたま自習室78】
  映画

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2015年05月10日 ゴールデンウィークも終わってしまいました

  思いっきり読書三昧するぞ!
  ・・・・・・もうちょっと読めたような、
  もうちょっといい本を選んだ方が、よかっ
 たような・・・・・・。 
  ああ、季節は進む。
  ナントカしなくちゃ。
  もうちょっと、緊張して生きよう。
  不必要でやみくもな緊張からは、やっと脱
 したんだから。

  なかなか芽吹かなかった公園の森。
  みるみる緑ざかりに。

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 ざるあたま自習室(78

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・津野田リストNo.79

  
長谷川輝夫 『聖なる王権 ブルボン家』

   講談社選書メチエ、 第一刷発行:2002年3月



  フランス大革命が勃発し、“神から王権を
 授けられた”としていた、フランスの絶対王
 政が倒れたのはなぜか。
  そんな研究を進めていた著者は、倒され
 た方にも光を当てる必要があるのでは、と考
 えた。そして書かれたのが本書、倒された王
 の一族「ブルボン家」の2世紀にわたる列伝
 だ。

  旧教・新教の信仰の自由を認める「ナント
 の勅令」を出したアンリ4世、その子ルイ13
 世、孫のルイ14世。ひ孫ルイ15世。15世の
 孫、ルイ16世の華麗なる人間模様が活写さ
 れる。


  私は、社会の構造や、民衆の暮らしに光
 を当てた歴史の本が好きだけれど、その実、
 基本的なヨーロッパの出来事史を知らない
 ので、こういう本はありがたい。
  といっても知らない人ばかりいっぺんに出
 てくるので、最初は目を白黒させていたが、
 読み進むにつれ慣れてきた。
  人物を語る著者の視線が公平で、好まし
 からざる人物にも意地悪な言い方はせず、
 女性に対してもさりげなく優しいのが、とても
 よかった。

  たとえば、ルイ15世に嫁いで、ふ慣れな
 フランス王宮で、子どもばかり10人も生んだ
 スペイン王女(元ポーランド王でその時はた
 だの貧乏貴族だったスタニラス・レクザンス
 キの娘)マリ・レクザンスカヤと、「王妃」の“冷
 酷な役割”を、こんなふうに紹介する。
  (彼女の結婚は)《大変な玉の輿であり、
 おそらくいちばん驚いたのはマリ・レクザンス
 カヤ自身だろう。
  彼女は読書と音楽を愛し、信心深い教養
 豊かな女性で、決して美人ではなかったが、
 生き生きとした瞳が魅力的な女性だったと
 される。しかし、何といっても、すぐにでも子
 供が産めそうな年齢と健康体がいちばんの
 決め手である。王国にとって迎え入れる妃は
 世継ぎを生む道具である。》p172

  ルイ15世は愛人がいっぱいいて、マリは
 大変だったろうけど、10人もの母なら、そん
 なに立場は弱くなかったかな。と思うと、少し
 ほっとする。

  日本史だと、女性を無視して戦国武将だ
 とか幕末の志士だとかの話をすることはでき
 てしまうんだけど、フランス王家の歴史は、
 女性登場人物を無視したら語ること自体が
 不可能になってしまう、というのが面白かっ
 た。

  たとえば、ルイ15世の愛人(というよりは
 補佐官の一人)ポンパドゥール夫人というの
 が、器が大きくてすごい。王権神授説に反対
 する「啓蒙思想家」たち、ヴォルテールもモ
 ンテスキューも、ディドロとタランベールも、
 みんな、しっかりポンパドゥール夫人の世話
 になっている、と聞いて苦笑してしまった。

  そしてやっぱり、ルイ16世はかわいそうで
 仕方なかった。
  《手を縛られ、髪を切られると、告解師に
 支えられながら、断頭台の階段を登る。最上
 段に達すると、いきなり死刑執行人と告解師
 を押しのけて死刑台の手すりの前まで行き、
 何やら叫ぶ。歴史家エヴェリーヌ・ルヴェに
 よれば「余は無実のままに死ぬ。余を死に至
 らしめた者たちを赦す! 余の血がフランス
 の上に降り注がれないように神に祈る」と叫
 んだという。少し出来過ぎていると思えなくも
 ない。いずれにしても、国王ルイ十六世は最
 期まで毅然とした態度を貫いたのだった。》
 p259

  著者は、ルイ16世に愛着がわいてしまい、
 主観的な書き方をしてしまったかも知れない
 と、「あとがき」で書かれているが、なりたくも
 ない王様になり、そんなに無能でもないのに
 歴史の渦に巻き込まれて、国民の憎しみを
 背負わねばならなかった人を、ちゃんと尊重
 する目で書いてくれて、うれしかったし、安心
 して読めた。悲運の人をバカにするような人
 の文章は、洞察力の浅さを感じて寒くなって
 しまうから。

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 2015年06月27日  ざるあたま自習室(79

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・津野田リストNo.80

  ノエル・ペリン、川勝平太(訳)

   『鉄砲をすてた日本人
           日本史に学ぶ軍縮
 
  紀伊國屋書店、第1刷発行:1984年6月
   
 ((c)1979 by Noel Perrin.
    
  GIVING UP THE GUN Japan's
      Reversion to the Sword, 1543-1879)

   
  (1991年、中公文庫より刊行)


  題名を聞いただけで、じーんとしてうれしく
 なった。
  最近やたらと流行している「日本ほめちぎ
 り番組」はなんだか気持ち悪いと感じる私で
 も、「日本国憲法第9条」や、「江戸時代とい
 う人類史上まれな平和な230年を築いた」と
 かをほめられると、日本という歴史空間に生
 まれたことがうれしくなる(だからこそ、過去の
 東アジア・東南アジアへの傲慢な加害を、心
 情的に恥ずかしく思う)。
 
  著者は、この日本語版への序文を書いた
 とき、アメリカ、ダートマス大学の英文学の先
 生。日本人の知己から教えられた日本の文
 献と、あとは、英語の論文を渉猟してこの論
 考を書いた。1965年に『ニューヨーカー』誌
 に掲載されたものを下敷きに加筆し、1979
 年に発行。大きな反響を呼び、各紙にあい
 ついで書評が載ったという。
  つまり、「武器を持たない」という日本の戦
 争放棄思想に、たくさんのアメリカ人が大き
 な刺激を受け、感心したのだ(ヨーロッパで
 の反響はどうだっただろう)。

  著者は、まず、日本人がなぜ、戦国時代
 にあれだけ発展した鉄砲を捨て、「刀の文
 化」を選んだか、文化的な側面、心性から考
 察する。そして、幕府による鉄砲の取り締まり
 が徹底し、新兵器の技術開発が止まったの
 に、つづく平和な時代に、いかに、他の面で
 技術が(江戸の水道施設、各地の灌漑工
 事、鉱山技術など)すすみ、学問や文化が
 栄えたか、たくさんの例を挙げている。

  人間を、《近代技術を乱用しかねない、
 信頼できない存在》だとするアーノルド・トイ
 ンビーの、“社会道徳の遅れから人類の生
 存を守るために、「過去三百年の技術進
 歩」が後戻りできればいいのに”という考えを
 紹介し、だが、暮らしを便利にする技術の進
 歩すべてを停止しなくても、《どれか特定の
 技術だけを選択》して止めることはできるの
 だと、その実例を、著者は、徳川期日本の
 歴史的事実に見て、希望をみ出している。

 
  平和の中で生まれ育った幕末の日本人は
 とてもすてきな人たちだった。
  幕末の日本を訪れたヒュースケン(日本人
 に殺されちゃう・・・)、ハリス、オールコック、
 エドワード・バリントン・ド・フォンブランケ将
 軍、モース博士たちが、口をそろえて、日本
 人の幸福そうな様子、礼儀正しさ、頭の良さ、
 ロシア人やヨーロッパ人に比べて、自分の名
 前のちゃんと書ける人の多さに驚き、ほめて
 いる。列挙されたそれらの引用文に、なぜか
 おもわずてれてしまう。

  昨今、「従軍慰安婦のことを子供に教える
 と、自分の国に誇りが持てなくなる」などとお
 っしゃる方がおられるが、そういう方はまず、
 この本を子どもたちに勧めたらどうでしょう。
 「従軍慰安婦を教えない」努力をするより、
 ずっと日本に誇りを持てると思いますが。
 
   でも、喜ぶのは早い。
  あくまでも著者は、江戸時代(幕末)の日
 本人をほめているのだ。
  《当時、日本の国は人口三千万をかかえ、
 自給自足をしており、公害はなく、二百年間
 安定した国家の歴史をもつ、非常に美しい
 ところであった。もちろん現在の日本にこれ
 を探そうと思っても無理である。》p120

  この本が出た頃よりもさらに、今の日本の
 風景は、美しさを失っている。どこの町も同じ
 ような四角い高い建物で景色がふさがれて
 いる。
  そして、この本が、昔の日本を褒めちぎる
 ために書かれたのではなく、《日本の歴史に
 教訓を汲みとった反戦・反核の書である》
 (訳者あとがき、p143)ことを、忘れてはなら
 ないと思った。
  《人類はいま核兵器をコントロールしようと
 努力しているのですから、日本の示してくれ
 た歴史的実験は、これを励みとして全世界
 が見習うべき模範たるものです。》(日本語
 版への序文、p8)

  兵器だけでなく、核じたいにも、この提言
 は当てはまるでしょう。
  せっかく「原発が全部止まっても、大丈夫」
 ってわかったのに、また「再稼働」だなんて。


  ノエル・ペリン先生は、2004年、自宅農
 場で没、訳者の川勝氏は、現・静岡県知事