【レーサー】
製作年 1969年、米
監督  ジェームズ・ゴールドストーン
出演  ポール・ニューマン ジョアン・ウッドワード ロバート・ワグナー
【あらすじ】
 レーサーのフランク・キャプア(ポール・ニューマン)は、出場したレースで優勝しその夜行われた祝賀パーティにも出席したが、早々と喧噪の中を抜け出した。車を借りに行った事務所で働くエローラ(ジョアン・ウッドワード)と出会う。エローラには息子もいたが、2人は引かれ合い結婚する。フランクはストックカーレースに出場するが横転したりしてスランプに陥ってしまう。友人のレーサーでライバルでもあるルー(ロバート・ワグナー)は順調に勝利を重ねていた。その2人の基にインディ500マイル・レース出場の話が舞い込む。フランクは挽回を図るべく寝食を忘れてマシンの整備に明け暮れ、エローラのもとにも帰らぬ日々が続いた。久しぶりにエローラの泊まっているモーテルに帰るとエローラとルーがベッドを共にしているのに出くわす。フランクは荷物をまとめると一言も言わず立ち去った。インディ500の予選が始まるがフランクのタイムは延びず、マシンを壊したルーのために自分のマシンを明け渡すようオーナーから命令される始末だった。そんな時、エローラの息子のチャーリーが家出同然にフランクに会いに来くる。チャーリーは2人の仲が壊れかけていることに心を痛めていた。フランクは奮起してどうにか予選を突破し大会への出場権を得た。
 インディ500の開始直後、多重クラッシュが発生するが、幸いフランクもルーも巻き込まれずに済み再びスタートが切られた。ルーがトップとなって快走していたがマシンが火を噴きリタイアとなった。優勝したのはフランクで、エローラを許しやり直す決意を抱くのだった。
【解説】
 ポール・ニューマンもスティーヴ・マックィーンと同じニューヨーク・アクターズ・スタジオの出身で、共にレーサーとして知られるのでよく比較されたが、デビュー当時は”第二のマーロン・ブランド”として映画会社が売り込みをかけていた。彼自身はそれに反発し別会社に移り「傷だらけの栄光」(56年)のボクサー役で高い評価を受けた。以後、「ハスラー」(61年)「ハッド」(66年)などでオスカー候補になるが果たせず、7回目の候補となった「ハスラー2」(86年)で念願のアカデミー主演男優賞を受賞した。エローラ役のジョアン・ウッドワードはニューマンの妻で、本作品では夫婦間に亀裂が入る筋だったが、実生活ではハリウッドでも珍しいおしどり夫婦でニューマンとの共演作も数多い。ニューマンは79年のル・マンではポルシェ935で2位に入賞するなどレーサーとしても一流の腕を誇っていたが、寄る年波には勝てず97年デイトナ24時間レースを最後に引退している。作品中にはマリオ・アンドレッティ、ボビー・アンサー、A.J.フォイトなど実際のインディレースで活躍するレーサーが登場している。
 米モータースポーツ界最大のイベントであるインディ500マイル・レースは1911年に始まった。レースが開催されるインディアナポリスは毎年5月になるとお祭り騒ぎとなるが、大会のオープニングから決勝まで3週間にも渡って行事が繰り広げられるなど他のレースとの格の違いを際だたせている。実際、78年以来CART(チャンピオンシップ・オート・レーシング・チームズ)シリーズ中の1レースという扱いに不満を持っていたIMS(インディアナポリス・モーター・スピードウェイ)代表のトニー・ジョージが96年にIRL(インディ・レーシング・リーグ)を旗揚げして独立すると、インディ500を失ったCARTからは、名だたるレーサーやチームがIRLに移ってしまい、かなり寂しい状態に落ちいってしまった。特に決定的だったのは2003年からホンダとトヨタがIRLに移ったことで、CARTのエンジン・サプライヤー(供給会社)はフォード1社だけとなってしまった。2003年のインディ500では1位から10位までを日本製のエンジンが占め、5位に高木虎之介が入賞するなどIRLと日本との関わりは深まる一方である。ポール・ニューマンも83年からチーム監督として参戦し、3人のシリーズチャンピオンを生み出しているが、CARTの方に留まっている。
 インディ500が開かれるサーキットはオーバルと呼ばれる楕円形をしているが、IRLのシリーズが行われるサーキットもすべてが同様なレイアウトになっており、CART時代にあったF1サーキットのようなコースは存在せず、かなりなこだわりがあることが伺われる。このレイアウトだと全コースを見渡すことが出来るため、グランドスタンドの一番高いところに無線でドライバーに支持を与えるスポッターと呼ばれる担当者がいるのも大きな特徴である。インディ500の優勝者はミルクの一気飲みをするのが恒例の儀式になっており本作品中にも登場している。