コラム<魚を捕る船>
 船には商船や貨物船などの交通機関として使われるものとは別に、魚の採取をおこなうものもある。もったいぶらずに言えば漁船であるが、以下に漁船が登場する映画について解説したい。
【白鯨】(56年、米)         監督/ジョン・ヒューストン 
                      出演/グレゴリー・ペック
 ハーマン・メルヴィルの同名小説は、英米文学三大悲劇の一つに上げられ文学史的にも重要な作品である。監督は「アフリカの女王」のロケで撮影そっちのけで象ハンティングに夢中になっていた御仁だが、グレゴリー・ペック扮するエイハブ船長が船員の忠告も聞かず<モビー・ディック>という白鯨を異常なしつこさで追う様は重なり合うようで興味深い。白鯨という言葉からシロナガス鯨を連想しがちだが、当時のアメリカの捕鯨は鯨油の採取が目的だったため、良質な油が採れるマッコウ鯨が主な獲物で、白鯨も巨大な白いマッコウ鯨である。またモビー・ディックは、1810年頃チリ沖のモカ島で発見され、1859年に仕留められるまで数多くの鯨捕りの命を奪ったモカ・ディックと呼ばれる白鯨がモデルになっている。19世紀になるとアメリカ東海岸を母港とする捕鯨船は、遠く日本近海にまで出漁するようになり、捕鯨船への燃料や食料の補給が必要になったため、1853年(嘉永6年)、鎖国している日本に開国を要求すべくペリー提督が黒船で来航した。
【老人と海】(58年、米)       監督/ジョン・スタージェス 
                      出演/スペンサー・トレイシー
 ノーベル文学賞を受賞したアーネスト・ヘミングウェイ原作の短編小説を映画化した本作品でスペンサー・トレイシーは、年老いた漁師を熱演しているが、初のアカデミー主演男優賞を受賞したのも「我は海の子」(37年)での漁師役だった。決して美男子ではないが不屈の闘志と頑固さを全身に秘めた自然な演技は、今でもアメリカ屈指の名優として記憶されている。トレイシー演ずる漁師は巨大なカジキマグロを3日間の死闘の末やっと釣り上げたが、港に帰る間に襲ってきた鮫のため骨だけになってしまう。この映画は最初「真昼の決闘」(52年)や「地球より永遠に」(53年)の名匠フレッド・ジンネマンがメガホンをとっていたが意見の違いから降板し、後に「荒野の7人」(60年)、「大脱走」(63年)などのアクション映画を撮るジョン・スタージェスが抜擢された。キューバでおこなわれたロケでは、原作者のヘミングウェイやモデルとなった漁師も加わってトレイシーの役作りを手伝っている。
【JAWS ジョーズ】(75年、米)  監督/スティーブン・スピルバーグ
                      出演/ロイ・シャイダー ロバート・ショー
 70年代前半のパニック映画ブームの掉尾を飾り、また最大のヒットとなった本作品で弱冠28歳のスピルバーグの名は広く世界に知られることとなった。全米興行収益で初めて1億ドルを突破した作品であり、次作の「未知との遭遇」(77年)も大ヒットさせたスピルバーグは自由に作品を作れる地位を獲得した。巨大なホオジロザメが海水浴客を襲う話のため、日本で公開された年の海水浴客は減少したという逸話まである。撮影には機械仕掛けのサメが3体使われているが、沈んだり塗装がはがれたりと海洋撮影ならではのトラブルが頻発し、撮影日数や予算も大幅にオーバーしたためスピルバーグは辟易し、何本も作られた続編には関わろうとしなかったし、海を舞台にした映画は「アミスタッド」(97年)まで撮ろうとしなかった。サスペンスを盛り上げるジョン・ウィリアムズの音楽が効果的で、ヒッチコックの「サイコ」(60年)で使われたかん高い弦楽器の音楽とよく対比される。原作者で脚本も手掛けたピーター・ベンチュリーもTVレポーター役で出演している。
【パーフェクト・ストーム】(2000年、米)監督/ウォルガング・ペーターゼン
                      出演/ジョージ・クルーニー マーク・ウォールバーグ
 1991年10月のある日、マサチューセッツ州の港町グロスターから一隻のトロール船アンドレア・ゲイル号が出港した。不漁を挽回するための出港だったが、彼らを待ち受けていたのは100年に1度の大嵐”パーフェクト・ストーム”で、波の高さは10階建てのビルに相当する30メートルにも達した。グロスターは「白鯨」に登場する捕鯨の町ニューベッドフォードの近くにある港町で主に北大西洋のオヒョウ、タラ、メカジキのはえ縄漁が盛んな町である。日本のトロール船は1本の幹縄で操業するものが多いが、アメリカの場合は両舷側のアームから2本の幹縄を使って操業するものが多い。巨大な波を創出したのは「スター・ウォーズ」「ジュラシック・パーク」のシリーズで知られるSFX工房のILMである。「U・ボート」でリアルな海を表現したウォルガング・ペーターゼンが実績を買われて監督に起用されている。