日本経済のデフレ症状 2(拡張期が短く不況期の長い、世界最悪の景気循環)(20102.16)

1990年代以降の日本経済のメカニズムを解釈するには、土地投機のエネルギーの集積と、それがデフレ圧力に転化し、有効需要を激しく変動させた過程を考えないと説明できない。

1 日本における資産価格変動は景気の激動化要因となっている。

まず、バブル前後の20年(昭和56年から平成12年)間を取って、土地資産価格とGDP,その成長率を対比してみた。

表1
年号土地資産額左欄の増減GDP名目成長率実質成長率
昭和56年798兆円+57兆円257兆円7.4%3.2%
57855+332704.9%3.1
58888+392814.12.3
59927+763006.73.9
601,003+2543206.64.4
611,257+4143354.72.9
621,671+1693494.34.2
631,840+2963736.96.2
平成元年2,136+2293997.04.8
2,365−1924307.55.1
2,173−2294586.63.8
1,944−804712.81.0
1,864−414750.90.3
1,823−494790.80.6
1,774−664830.81.5
1,708−285003.55.1
1,680−645091.91.6
101,616−88498−2.2−2.5
不連続
111,611−77511−0.80.7
121,5345130.32.4
(注)資料 内閣府総合研究所の国民経済計算年報(平成14年版)および長期遡及系列(平成2年基準)      「新しい隆盛のための礎石」(上巻)175ページ参照。 (備考)株式については、土地ほどウェートが高く無いので,計数を省略した。

2 好況期に不必要な需要を追加し、不況期に必要な需要まで切り捨てる、激しい地価変動

表 1を見ると、土地資産価値の激しい変動は、景気上昇局面では、好調な有効需要を更に一層押し上げる効果があった反面、景気下降局面では、減少しつつある有効需要を更に一層押し下げる効果を与えた。つまり、好況期には地価が上がることによって、投資や消費の環境が良くなり、不況期には地価が下落することによって、投資や消費の環境が一層悪化したのである。
つまり、日本の地価変動は、景気を安定させる要因としてではなく、その反対に、景気上昇局面では有効需要を激しく過大に拡大し、景気下降局面では必要な支出まで切り詰めるという、デフレ要因をもたらした。これは、資産価格の変動が在った場合には、なかった場合に比べ、日本経済の自然な有効需要の変化を過度に激化させてしまったのである。

土地所有権制度の下では、地権者等に自由に土地取引を容認しているため、土地投機による資産価格変動が、景気変動を激化させている。 このことは非常に重要な点である.他の先進国に比べ、日本経済の景気循環の期間が短く、(先進国平均の6年に対し、日本は4.2年)かつ不況期が日本では相対的に長くなっているが、この地価の景気激動化要因のためである。

(備考)先進21カ国では、拡張期5年、後退期1年、計6年であるのに対し、日本の場合は、拡張期2.8年、後退期1.4年、計4.2年となっており、異常な景気循環のパターンを示している。-前掲『新しい隆盛のための礎石」≪下巻≫237ページ参照。

アメリカでは、景気循環の拡張期間が非常に長く(1975−80年の58ヵ月、82−90年の92ヵ月、91−2001年の120ヵ月、3期間平均で89ヶ月=7.4年)、日本の2.8年に比べ、7.4年と2.6倍の長さとなっている。(内閣府『日本経済2004」参照)このように、日本の景気循環は、世界最悪のものとなっている。その原因は、時代遅れの土地所有権制度がしっかりと支えている土地投機にあるといってよいだろう。

土地価格の変動というものが、いかに国民経済に重大な影響を与えているかは、読者もお気づきのことであると思う。だから、土地制度、不動産制度、株式制度といった経済を支える基本的な制度は、常時国際的に点検しておかなければならないものである。 (注)拡張期5年、後退期1年、計6年という先進21カ国の平均的な景気循環では、期間比率が、拡張期83%対後退期17%となっているのに対し、日本の場合は、拡張期67%対後退期33%という比率になる。日本経済の拡張期が非常に短く、後退期が非常に長いこと、そして全体としての循環期間が4.2年と非常に短い事が、日本経済の安定成長を大きく阻害している。この原因は企業や個人が土地や不動産の投機取り引きに手を出した場合、景気の拡大期には激しく地価が高騰するが、景気の後退期になると、高騰した地価は徐々に時間をかけて下落せざるを得ないからである。

3 なぜ名目成長率は実質成長率よりも低くなっているか

最近物価の下落が激しい。スーパーやデパートのみならず卸売りの場合でも、各業者が競争に負けないで生き残っていくためには、売り上げ金額を下落させないよう、各業者とも充分な注意を払っている。一番神経質になっているのは、同業種の他店との同一商品に対する価格のつけ方、端的にいうならば、安値競争である。長期的な地価下落のデフレ圧力と生き残りをかけた値下げ競争、失業の増加がデフレに拍車をかけている。

この値下げ競争が2-3年前からかなり厳しくなっている。値段だけでなく、自社ブランド製品を新たに発掘し、他の同業者ではマネの出来ないような低価格をつけている。しかも。こうしたブランド品の価格は、政府の経済統計上、充分に把握されていないと報道されている。 私の経験で言うと、家庭用の蛍光灯ランプ(二本入り)は800円台であるのに、自社ブランド製品だと500円台の価格がついているのにビックリした。現実の価格競争は、想像以上に厳しいものがある。

内閣府の経済社会総合研究所のホームページの資料によると、平成5年度から8年度までの4年間における日本経済の名目成長率と実質成長率は、次のように発表されている。

表2 最近のGDPの実質成長率と名目成長率
各年度2005200620072008単純合計年平均
実質成長率2.3%2.3%1.8%−3.7%+2.7%+0.67%
名目成長率0.91.50.9−4.2−0.9−0.23%


各年度の平均を見ると、実質成長率は年間+0.67%も伸びているが、名目成長率はー0.23%と収縮している。しかし、主として物価の下落だけで実質成長率が伸びても、名目売り上げや名目賃金が上昇しなければ、経済は好況感を人々に与えないとマスメディアは報道している。名目的なパイの大きさが、やはり増加しないと、価格下落だけでは人間が好況感を感ずるのは難しいのである。こうした有効需要の大きな減少は、バブル崩壊後長期間続いてきた地価下落のデフレ圧力から生じているものと思はれる。
日本経済を一日も速く安定成長の軌道に乗せるためには、まず日本経済の中で、土地価格の変動をなくさなければならない。日本では、国富のかなりの部分を土地が占めるので、土地価格を確実に安定させてしまわないと、経済政策の方針の定めようが無いという情け無い状態になってしまっている。

4 金融危機不況より国内の地価下落不況が深刻

日本経済は、欧米に比べ、2008年9月に起こった米国発の金融危機の影響は比較的軽微だったといわれている。日本の銀行業界や証券業界は、米国や欧州ほど米国の金融危機から深刻な影響を受けなかったといわれている。欧米では、現在、金融危機からの出口作戦が、論議されているが、世界不況の比較的軽かった日本が、景気が二番底に沈下する恐れがあるといわれているのは、一体どうしたことなのだろうか?
その理由は、欧米が米国の金融危機で世界不況という一発のパンチを受けたのに対し,日本は世界不況のパンチは比較的軽微であったが、実は日本経済にとっての致命的なパンチは日本独自のバブル崩壊で、世界不況は第二番目の軽いパンチにすぎなかったのである。

日本にとって、第一発目の極めて強力なパンチは、1992年のバブルの崩壊で受けたものである。それがまだ回復せず、構造改革が始まってもいないのに、日本にとって第二発めの世界金融危機のパンチが2008年に襲ってしまったのである。だから、日本は土地バブルと米国金融危機というダブルパンチを受けてしまったのである。この研究所の判断では、日本の土地バブルの影響によるデフレは,国内ではまだ継続中なのである。時の政府は、早々とデフレ終了宣言をしてしまったが、あれは終了したのではなく、一時的にデフレが和らいだ時点に過ぎない。底流としてはデフレは継続していた。だからこそ、国民やエコノミストやジャーナリズムは、「実感なき好況」という言葉で政府を揶揄したのである。

今、日本経済は二重苦を背負っている。ここを良くわきまえて発言しているエコノミストは、国内では世界経済土地研究所以外には無い。 他のエコノミストは、日本のバブル不況は完全に解決したと誤った判断をしている。世界経済土地研究所は、このことを、2008年以降主張しているが、説明努力が不十分なせいか、世間から広く認められ、支持されていないのは、はなはだ残念なことである。

5 世界不況からの出口戦略の前に、国内の土地構造改革を優先すべきである。

日本では、領土や有効面積の少ない小国の癖に、アメリカのマネをした土地制度(土地所有権制度)を採用し、しかも土地公有論に耳を貸さないという過ちを犯しているから、1992年に日本を大破壊してしまったバブルの崩壊の後始末がまだ終わっていない。土地不動産投機をなくすためには、古ぼけた時代遅れの土地所有権制度をゼロベースから討議するということが極めて必要であるにもかかわらず、経済に対する分析力が弱いため、日本ではまだ論議すら始まっていない。

経済の事がよくわかっていないリーダーやエコノミストが、ピント外れの部分的な改革(各種の行政改革や郵政改革等)を実行したからといって、もうバブルのための構造改革は終了したと誤った判断をしているのである。日本で本当に重要で緊急を要する構造改革のナンバーワンは、土地制度改革であるが、それはまだ、論議すら始まっていないのである。

だから、土地投機は依然として許容され、土地デフレもまだ続いている。1992年以降、都市地価の下落が続いており、伸び率が対前期比で、プラスの上昇を示したことはまだ無い。地価の減少によるデフレ圧力が続き、デフレ経済に陥るのは,極めて当たり前のことである。
世界経済土地研究所が今まで主張してきたことは、根本的な土地改革を実行した後、全国地価が長期間安定するという状態にならない限り、日本のマクロ経済や財政収入が健全に回復することは不可能であるということである。土地投機によって過度に上がりすぎた地価の反動下落によるデフレ圧力(地価下落の有効需要に対する減少圧力)が消失しない限り、今まで引きずってきた経済構造からいって、日本経済の安定成長と国、地方の財政の健全化は達成できないのである。しかし、これは『百年河清を待つ」にひとしい。

そして、我々は、この長期デフレの根本原因は、日本の持つ異端な土地所有権制度による土地投機が大半を占めていると考える。だから どんなに苦しくとも、これを改革しなければならないが、日本政府と国会は、長期デフレ対策として何をやったらよいのか、見当がつかないという情け無い状況になっている。

欧米や世界中が今騒いでいる米国発の世界不況などは、対岸の火事のようなものである。日本の国内で起こっている「長期デフレ」という火事は、「我が家の火事」であり、緊急に消さなければならない。これが、土地制度改革を急ぐ理由である。現在の世界不況は、欧米や国際社会の景気が持ち直せば、日本経済も自然に治癒される性格のもであろう。しかし、日本のデフレ不況をなくすための土地改革は、日本政府しか出来ないことである。着手の時期が遅れれば遅れるほど、日本経済が国際競争から脱落する可能性が高まるだろう。アットいう間に転落する可能性がある。グローバル経済の中で、開発途上国が驚くような力をつけてきたからである。
とにかく、1日も速く土地改革論議を始めるべき時である。

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