日本経済のデフレ症状 6(土地改革を実行すれば成長率はどうなるか)(2010.4.16)
1 高度成長から1%成長までの段階的低落
過去53年間の日本経済の成長率は,長期的に見てどのように変化してきたか、次に検証してみよう。
本稿,日本経済のデフレ症状5までに追跡してきたものをまとめたのが、次の表1である。
表1 過去53年間の(昭和31−平成20)名目成長率と実質成長率の推移(単位 %)
時期区分 | 平均名目成長率 | 平均実質成長率 | 名目と実質との差 | 地価変動の影響 |
1期 昭和31−40(10年) | 14.74% | 9.02% | 5.72% | インフレ圧力 |
2期 昭和41−50(10年) | 16.32 | 7.82 | 8.50 | インフレ圧力大 |
3期 昭和51−55(5年) | 10.12 | 4.40 | 5.72 | インフレ圧力 |
4期 昭和56−平成2(10年) | 6.01 | 4.01 | 2.00 | インフレ収束化 |
5期 平成3−12(10年) | 1.46 | 1.45 | 0.01 | デフレ圧力発生 |
6期 平成13−20(8年) | −0.25 | 0.89 | −1.14 | デフレ圧力大 |
≪注≫1 世界経済土地研究所が、平成12年度までは、国民経済計算年報≪平成14年≫と長期主要遡及系列≪平成2年基準≫を使って計算した。
2 平成13年以降は、内閣府総合研究所の発表した数字である。
3『新しい隆盛ための礎石」(上巻)の158ページを参照のこと(昭和31−45の実質成長率を修正したことをお断りする)
この表にあるように、53年間を六つの時期に区分した。
1期 昭和31−40年(高度成長期)
2期 昭和41−50年(成長期)
3期 昭和51−55年(安定成長期)
4期 昭和56−平成2年(バブル期)
5期 平成3−12年(バブル崩壊期,地価デフレ開始)
6期 平成13−20年(地価デフレ期)
この時期区分は、まずバブルの頂点前後の4期と5期のそれぞれ10年を定め、成長期の代表として1期と2期のそれぞれ10年をとり、
中間期として3期の5年、最近までのデフレに悩まされた時期として6期の8年をとった。合計53年となる。それぞれの欄の右端には、
土地投機によって地価が激動した結果、どのような影響を経済に与えたか(需要を増大させるインフレ圧力または、需要を減少させるデフレ圧力)を示している。
したがって、表の読み方としては、地価上昇が大きかった時期(1,2,3期)は、インフレ圧力があったので、有効需要がそのときの自然の実力以上に大きく伸び、反対に投機の反動として不況期に地価下落があった時期(5,6期)には、地価下落のデフレ圧力が生ずるので、不況期の低迷する有効需要をさらに一層厳しく削減する力が働いたことを意味している。
2 日本経済が1%成長という悲惨な結果となった根本原因は何か。
名目成長率は1期の14.74%から2期で16.32%と一旦は上昇したものの、4期のバブル期には6.01%、5期のバブル崩壊期には1.46%、そして6期の地価デフレ期にはー0.25%とついにマイナス成長に陥ってしまった。実質成長率で見ても、1期の9.02%が2期の7.82%、3期の4.40%と次第に下がって、4期のバブル期には4.01%となり、さらに地価デフレ期に相当する5期の1.45%、6期には0.89%と1%を割ってしまい、ゼロ成長に近づいている。これは悲惨という以外に表現の仕様が無い。デフレ圧力が如何に強かったかは、6期に名目成長率と実質成長率の差がー1.14%という負の値になってしまったことからもうかがわれる。(表1参照)
注目すべきことは、、国と地方の税収入は直接税でも間接税でも、名目所得や名目取引額に対して課税されるので、デフレ圧力が働いた5期と6期には、1%前後の実質成長はあったものの、物価下落による名目金額の減少のため、財政当局の租税収入は惨憺たる姿に落ち込んでしまい、国や自治体の財政運営を一層困難にしてきたことである。このことは、日本の財政と経済にとって致命的なことである。財政政策の自由度が極めて制約されてきたからである。
日本経済がこうなってしまった原因は何か、これにはいろいろな見方があると思う。ここで、あえてこの研究所の大胆な見解を言わせていただければ、次の通りである。
ア 日本の国土や経済社会の実情に照らし、我が国によって採用されている土地所有権制度が、その歴史的役割を終了し、今や日本経済の足を引っ張っているにもかかわらず、点検をすることもなく、見直しと改革がなされなかったことである。この研究所の判断では、土地所有権制度の役割は昭和40年代で、ほぼ終了してしまったのではないかと考えられる。
イ 土地投機、土地で儲けるという事が、道徳的にも経済的にも悪であるという観念(欧州には存在するが米国には存在しない)が、日本の各界の指導者や国民の間に全くなく、土地基本法も単なる宣言法に過ぎず、土地投機をどうしても阻止しなければならないという気運が、日本には全くなかったし、今でも無いといってよい。
ウ 1998年以降この研究所は、土地を公有化し公共財としなければ、将来日本経済が大変なことになるという警告を発してきたにもかかわらず、多くの人々から哄笑され、誰一人耳を貸すものもなく、世間からは全く受容されなかった。
エ 世間では、「世界中の国々が日本と同じような土地制度を採用している」と信じるものが多く、かなりの専門家ですらそう思っている節がある。経済が大きく国際化したにもかかわらず、言葉や文化の相違もあって、日本人自体が、自国の時代遅れとなってしまった土地制度に全く気が付いていない。国際的に見て国情に合わない異常な土地制度が、日本の大きな盲点となっている。土地について、日本人は極めて保守的で頑迷固陋であることを、私はいろいろな場面で経験させられた。
オ 世界標準から大きく乖離した異端な土地制度(日本の現在採用している絶対的土地所有権制度)の下で、日本経済の成長力はバブル崩壊を契機として、急速に失われてしまった。しかも土地制度によって歪められてしまった日本経済の構造を、早急に是正する必要があったにもかかわらず、問題の本質を正しく発見する事が出来なかったため、土地改革が、人々や政治家の話題となることもなく、大きく遅れすぎてしまったのである。
3 インフレの問題とデフレの怖さ
経済学では一般に、インフレとデフレの弊害について次のように説明されている。
インフレは物価上昇を通じて低所得の社会的弱者に対し、その所得の購買力が強制的に圧縮されてしまい、生活水準の低下と所得分配上の不利を大きな社会問題として提起する。然し、反面インフレは設備、労働力、資源等をフルに動員してGDPの名目総額という全体のパイの規模を大きく成長させ、同時に財政収入の面では、政策上の増税をしなくとも税収入を毎年自然増収という形でドンドンと増大させる事が出来る。こうしたことは、我が国の昭和30年代に、実際に起こったことであった。税収入には、毎年予想もしない何千億円という税の自然増収があったのである。したがって、国民の間にインフレーションによる所得分配上の不満があっても、GDP全体のパイが大きく増大し、税収入という財源も豊かになるので、政府は政策的にいくらでも打つ手はあったのである。
これに対して、デフレは物価下落を通じて企業や商店等に対し,売り上げや収入の水準を下方へ下落させるが、消費者や勤労者等の固定所得者には物価が下がるので打撃はなく、むしろ予期せざる生活水準の向上が出来たのであった。然し、企業や政府にとっては、物価下落のメリットよりも、デフレ圧力により有効需要が大きく落ち込むため、GDP全体のパイの規模が加速的に縮小するので、社会全体の生産要素、即ち設備、労働力、資源、資金等を充分に活用する事が出来ず、経済活動としては沈滞気味の縮小傾向となり、物価の下落と地価の下落の双方が有効需要に悪影響を及ぼすことになる。つまり、デフレの下ではインフレのように分配上の不公平をもたらさないが、成長とか経済規模の拡大という、将来に対する明るい期待を失うことになり、又同時に政府の財源も収縮してくる。結論的にいうと、デフレのほうがインフレよりも、消極的で深刻な閉塞状況をもたらすのである。
昨今の国際社会では、インフレ・ターゲットを政策として採用している国は21カ国もあるが(表2参照)、デフレ・ターゲットを採用している国は皆無である。それは、デフレが経済活動の全体のパイを大きく成長させないので、希望と成長感、安心感を人々にもたらさないからである。
さらに重要なことは、経済政策の要である財政の中の税収入が、所得や収入の実質額に対する課税方式ではなく、名目額に対する課税方式を大半の国が採用しているために、デフレ時代には税制改革がなくとも、税の自然減収が起こってしまうことである。
(注) 日本の国税で大きなウェートを占める所得税、法人税、消費税の三税とも、名目所得額や名目取引額に対して定められた税率で所得税、法人税、消費税が課税されており、物価が下がったからといって、増大した実質所得や実質取り引き金額に課税ができるわけではない。むしろ物価とか地価が下がるので、収縮した名目金額(名目所得額、名目消費金額)に対し課税せざるを得ないので、税収入は減少せざるをえない。そのことが、デフレ経済の下では税の自然減収が起こる原因となっており、インフレ経済の下における税の自然増収とは対照的な現象であると考える事が出来る。
デフレ期には、民間の経済活動が鈍く、国民生活が苦しいので、倒産対策、失業対策、社会保障の拡大等で財政面の歳出需要がインフレ期よりも増大するにもかかわらず、逆にその財源となる税収入が自然に減収になるということは、財政を一層窮屈なものとし、国民や関係者を悲観的なものにさせてしまう。
(備考)同一実質所得に対する税の自然増収(インフレ時)と自然減収(デフレ時)の発生
物価変動率 | 名目所得(金額) | 実質所得(金額) | 税率(例) | 税額 | 税収入の変化 |
平常時(0%) | 100 | 100 | 30% | 30 | 0 |
インフレ(+10%) | 110 | 100 | 30% | 33 | 自然増収3 |
デフレ(−10%) | 90 | 100 | 30% | 27 | 自然減収3 |
上の表で、実質所得は何の変化も無いが,名目金額課税の下では、インフレ時には租税の自然増収が、デフレ時には自然減収が生じ、インフレ時には財源の余裕が生ずる反面、デフレ時には財源不足を深刻化し、財政政策の資源配分機能を大きく損なうことになる。
4 インフレ・ターゲットについて
国際通貨基金の世界経済報告(2005.9月号)は、広くインフレ・ターゲットについて国際的な状況を報告している。
2,005年9月時点で、インフレ・ターゲットを採用している国は、世界中で21ヶ国に達し、1990年以降2000年にかけて採用に踏み切っているが、その狙いは、通貨の総量をコントロールする政策と為替政策によって金融上インフレを間接的にコントロールする方法をやめて、直接的にインフレ率を低目安定的に設定することによって、直接的にインフレを鎮めようとする政策である。
表2 インフレ・ターゲット採用国
国名 | 導入時期 | インフレ目標率(%) |
ニュージーランド | 1990 | 1−3% |
カナダ | 1991 | 1−3 |
英国 | 1992 | 2 |
豪州 | 1993 | 2−3 |
スエーデン | 1993 | 2+−1 |
スイス | 2000 | 2以下 |
アイスランド | 2001 | 2.5 |
ノルウェー | 2001 | 2.5 |
工業国平均 | | 2.06 |
イスラエル | 1997 | 1−3 |
チェコ共和国 | 1998 | 3+−1 |
韓国 | 1998 | 2.3−3.5 |
ポーランド | 1999 | 2.5+−1 |
ブラジル | 1999 | 4.5+−2.5 |
チリ | 1999 | 2−4 |
コロンビア | 1999 | 5+−0.5 |
南アフリカ | 2000 | 3−6 |
タイ | 2000 | 0−3.5 |
メキシコ | 2001 | 3+−1 |
ハンガリー | 2001 | 3.5+−1 |
ペルー | 2002 | 2.5+−1 |
フィリピン | 2002 | 5−6 |
途上国平均 | | 3.36 |
≪資料≫ IMF
(注)各国は、中間目標率を定めているが、ここでは省略した。
2+−1(スエーデンの例)のような表示は,2%を中心目標とするが、1%のプラスまたはマイナスの許容幅を認めるという趣旨である。
ターゲット値の平均は、工業国8カ国で2.06%、途上国13カ国で3.36%となっており、両者の間には1.3%の開きがある。
IMFの調査によれば、ターゲットを設定した国のほうが、設定しなかった国に比べて、より大幅にインフレが低下しているという。また、これまでにインフレ・ターゲットを採用した国で、2005年までこの政策を取りやめた国は一国も無いということであり、各国の政策当局は、従来の有効需要管理政策や、インフレ抑止策よりも有効な政策であると判断しているようである。
日本の18年間続いた大不況は、インフレの悩みではなく、資産価値の下落によるデフレ圧力が根本的な原因となっている。国際的に見て極めて異端な制度となってしまった土地所有権制度を、一刻も早く世界標準的なものに改革しなければ、日本経済は土地バブルとその反動である土地デフレの泥沼から永久に脱出することはできないだろう。
5 世界経済土地研究所の土地改革案は何を訴えているか。
この研究所の主張している土地改革の要点は、おおよそ次の通りである。
ア 平地面積が少なく、人口密度が高く、GDPの規模の大きい日本では、土地ほど貴重な財はない。日本が明治以来幾多の戦争に参加してきたのは、列強に刺激された面もあったが、時の政権が与えられた領土と資源に満足できなかったという面もあったのではないかと思はれる。
イ 第二次大戦後、平和な文化国家としての道を歩み始めたが、経済界を始め日本人全体が、土地が最も確実に値上がりする財産であることを、国内の過去の経験から身にしみて感じてきた。それが、土地神話と土地投機を生み、金融機関までもその流れに便乗するにいたった。その挙句、バブルの発生とその崩壊を許してしまった。しかも、国内と同様な手法で不動産投資を海外で実行した企業は、その大半が失敗に帰してしまった。
ウ しかし、日本人の悪い癖で、『のど元過ぎれば熱さを忘れ」てしまい、政治家や経済人、学者などは、行政機構改革や小さな部分的改革(郵政民営化等)によって、バブルの危機は、全て解決したと単純に錯覚している人が多い。これは、大きな間違いである。この研究所は、又景気が良くなれば、国内で又土地投機が起こり、バブルが起こり、そして再び崩壊すると予測している。つまり、日本経済のバブルの処理は、まだ一応の応急処置しか終わっていない。その根本的な原因を作った土地制度の改革が、論議もされておらず、未着手だからである。日本経済が健康で体力のあるうちに、どうしても土地投機を根絶するように土地制度を抜本的に改革しておかないと、日本経済が21世紀を無事に渡り切ることは難しいと判断している。グローバル経済の進展に伴い、途上国からの追い上げが厳しく、国際経済が激動するので、改革のタイミングは切迫している。
エ そのためには、約130年間続いてきた土地制度を抜本的に改革するしか方法はない。土地所有権は、処分権と収益権とを含んでいるが、このような権利は、国家と地方公共団体のみがもっていれば充分であり、国民や企業が必要とするのは、豊かで低廉な土地使用権のみである。したがって、私有財産である土地の処分権と収益権とを、政府が土地国債(永久国債)で国民や企業、団体等から一律に全て買い上げ、土地を私有財産から公共財へと大転換することによって、日本経済の中から、ガンのような存在となっている土地投機を撲滅しなければならない。このことが実行できたならば初めて、バブルの最終処理が終わったことになる。
そのあとでようやく、日本の経済成長が健やかな形で再生し、危機に瀕している国と地方の財政の税収入を増加させて財政再建を果たすことができるのである。日本人は、もともとせっかちなので、単なる応急処理が終わって、これからが本格的な解決策を策定し実行しなければならないのに、政治的な功を急ぐあまり、応急処理が終わっただけなのに、最終処理までもが終わってしまったと勘違いして国民にPRしてしまったのである。景気判断も根本的な解決策も全て上滑りだったのである。
オ だから、バブルが再発しないための根本改革は、まだ論議すら国内で始まっていない。この改革は、緊急かつ速やかに行なわなければならない。。なぜならば、この改革は本来ならば、21世紀に入る前に、終了すべきであったからだ。もう十二分に遅れてしまっている。その遅れが地価のデフレ不況となって現われている。米国発の金融不況による世界経済不況は、欧米で終わりに近づいているのに、日本のデフレが欧米より厳しく、出口が見えないのは、日本経済が、国内のバブル最終処理が始まる前に、米国発世界同時不況というダブルパンチを受けてしまったからなのである。日本は二重の障害を負っており、まず早急に土地投機を追放するため、土地改革を万難を排しても実行しなければならない。
カ 残念ながら、経済に対する分析力と判断力が、日本では欧米よりも遅れているようである。日本ではエコノミストは、自分の関係する組織に都合のいいことをPRするという悪い習慣が残っている。。国民がそれをまたハッキリと批判しない。しかし、今後の日本経済の将来や子孫のことを考えると、一番緊急でどうしても必要な土地改革をやらずに済ますわけにはいかない。随分と遅れてしまったが、この2−3年内に実行しなければ、日本経済は改革のタイミング(モメンタム)を失ってしまい、沈没してしまう可能性が高い。
6 老朽化した土地制度が土地投機と長期閉塞の根本原因
過去53年の間に、日本の成長率は名目14%台、実質9%台からみるみるうちに、1%以下の成長の段階に急降下してくるのを見た。このことは、我が国の基本的な土地制度が老朽化してしまい、新しい時代に全く適合しなくなったと考えざるを得ない。明治時代の人口5,000万人弱から1億2000万人以上となってしまい、日本のGDPは、20世紀に大成長を遂げたにもかかわらず、農地改革を除き、土地改革が全くなされなかったこと、そして高度成長期以降は、実質成長率が大きく低下してしまいGDPのパイの増大が停止寸前になっているにもかかわらず、浮利(投機利益)を求める地価の動きの異常さだけが、目立つことである。
土地改革を断行すれば、どのようなメリットとデメリットがあるかは、すでにこの研究所で検討済みであり、発表されている。『新しい隆盛のための礎石」(下巻)381ページの表「所有権制度と利用権制度とを対比した場合の比較表」をご覧いただければ、お分かりになると思うので、ここでは、省略する。
ア 53年間の全期間(1期ー6期)の平均となる成長率の試算
冒頭に掲げた表1を利用して,1期から6期までの期間全体についての平均成長率を試算してみた。その方法は、名目と実質の成長率に、各期の年数のウェートを乗じて計算してみた。計算結果は、次の通りとなった。
53年間の名目平均成長率は8.19%で、実質平均成長率は4.76%であった。その差は、3.43%となる。これは、過去の実績値である。土地投機と地価上昇、地価下落がすべて起こってしまったまま放任し、53年間にわたって広く分散してしまった毎年のそれぞれの成長率を、全体の期間にまたがる単一の年平均の形でまとめた成長率の実績といっても良いだろう。日本経済は過去の53年間平均4.76%の実質成長率で成長してきた。しかし、3.43%も名目成長率と実質成長率の乖離(価格上昇)があり、日本人はインフレ経済に慣れ親しみながら、成長を享受してきた。
正直に言うと、私はこの計算結果の水準の高さにビックリしたのであるが、もしかすると計算方法に何らかの間違いがあったかもしれない。私の試算は単純な算数であり,各産業の比重の変化や統計資料の変化などを全く考慮に入れなかったもので、この試算結果に自信があるわけではないが、物事の判断をする際のメドにはなりうると思う。
年平均成長率が名目8.2%とか、実質4.8%などということは、老齢化した現在の日本では考えられない高い水準である。しかし、この高い成長率が過去53年間の間、日本経済の中で維持されてきたことも事実なのである。以下この名目8.2%、実質4.8%が一応正しいと前提した上で、説明を続ける。
イ デフレ不況は、1%成長と巨大な財政赤字を生んだ。
この試算が正しいとすれば、日本経済の実力はなんら悲観する必要が無いように思える。しかし、問題は、実質成長率が9%台からジリジリと段階的に下落して、殆ど1%成長に近いところまで8%も落下してしまったという成長率の急激な低落の傾向と、その先が全く見えないことである。
昭和30年代から今日までの半世紀の間、日本経済は悪い方向に大きく歪んできた。1期から3期までは、うまく成長路線を歩んできたと思うが、4期の土地不動産バブルの崩壊で、一挙に危機に陥ってしまった。本来ならば、その直後に根本的な土地改革に着手すべきであったが、無為に時を過してしまい、我が国のリーダー達はケインズ理論という『経済神話」を盲信して経済と財政運営を行なってきてしまった。
その結果、巨大な財政赤字と共に、5期と6期の約18年間は、経済成長が惨憺たる姿になってしまった。
市街地価格の下落が平成4年から始まったが、丁度この18年間で、永年続いた土地神話が崩れて、まだ地価の低落は、終了してはいない。われわれが、長期大不況という貴重な代価を払って学んだことは、高騰した地価の下落による土地デフレ、土地不況というものであったが、その正体は、日本人が今まで体験したことの無い、想像もしなかった大怪物だったということである。この大怪物は、万難を排しても除去すべきである。さもなければ、日本経済は健康体に戻ることは出来ず、土地投機という慢性病を抱えたまま、混迷と衰退の途を辿るだろう。
7 当研究所が世に訴えている土地改革が実行されれば経済成長はどうなるか
土地改革を実行することは、農地改革を除き、明治維新以来130年来のことであるから、やってみなければどうなるかはわからない。しかし、仮に実行できたからといって、その後の成長率が実際にどうなるかなどということは、予想が非常に難しい。神様でなければわからない。
私は、名目8.2%、実質4.8%などという若い成長ざかりの水準に戻ることは,今後の日本経済においては極めて難しいと思う。土地投機を根絶するための土地改革が終了して、社会的経済的に新しい土地秩序に収まれば、その効果が徐々に出てくるだろうが、130年も続いてきた土地制度を大改革するためには、かなりの時間がかかるであろう。
ここで、読者の方々に思い出していただきたいのは、前回の『日本経済のデフレ症状5」の1に述べた日本経済の景気循環が平均4.2年で、しかも不況期の比率が33.3%となっており、国際的に極めて長くなっていたことである。
もしも、この研究所の主張している土地改革が、仮にそのまま国民の合意を得て、実行されたとすれば、日本経済の礎石となっている土地観が{商品}から{公共財}へと、大きく転換されることになるので、日本経済の構造が従来に比べ、格段に安定化し効率化することになる。それは、日本の従来の景気循環のパターンを、大きく変化させることになるだろう。
ア まず、先進国平均を標準として考えると、日本経済の平均の景気循環期間が、4.2年ではなく6年前後に延びるだろう。また、一循環の中に占める不況期の比率が、33%から16%へと半減してしまうので、不況期は現在の1.4年から1年程度に短縮され、好況期の長さは2.8年から5年になるだろう。
イ 日本経済は今までの小刻みな景気の変動から、息の長い安定した循環に転換するので、次のようなことが可能となる。
土地投機の後始末に必要とされる不良債権の処理や景気の激変による企業の倒産、各種の景気刺激策(公共事業等)、失業救済等の財政処理費が大幅に縮小し、予算の節約と国債発行の減額が可能となる。
ウ 日本経済の性格が、健全で長期安定的なものに改善され、国際競争力が充実するので、日本経済や日本円に対する信頼が大きく増大し、成長軌道に乗りやすくなる。従ってアジア経済や世界経済におけるリーダーシップにも接近する事が容易となる。
勿論、新しい土地秩序が定着するまでには、それなりの時間を要することになるが、土地改革が着実に日本経済の中に定着した暁には、日本経済の成長率は、おおよそのメドとして名目3.2%、実質2.1%程度を達成することは可能ではないかと、この研究所では予測している。
その理由としては、半世紀の間に、我が国は高齢化社会となり、ハングリー・スピリットが弱くなってしまったこと、途上国の発展には目を見張るものがあり、日本を取り巻く内外の環境が大きく変化してしまったことである。次に世界経済土地研究所の土地改革案は、主として土地投機の根絶による地価と景気の激動を停止させ、マクロ経済のバランスを回復させることによって経済の安定成長と財政力を充実させることを主眼としており、この事が、日本経済にとって、最も緊急かつ重要であるという前提で、企画されているからである。
土地改革とは別に、かなり有効な成長戦略が新たに開発されるとか、技術上の新機軸が発見された場合には、おのずから成長の条件が異なってくるであろう。
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