日本経済のデフレ症状 8(完)(現状維持は土地亡国への途)(2010.5.10)

1 地価と物価とのデフレの悪循環

2010年3月18日に、1月1日に行なわれた公示地価が国土交通省によって発表された。
それによると、地価は日本のほぼ全地点で下落し、都市部はオフィス需要の低迷が続き、デフレが影を落とし、地方では、百貨店や工場の撤退が地価下落に拍車をかけているという。これは、日本独特の土地デフレの上に、米国発の世界不況が重複してしまったからである。公示地価は、政府(国土交通省)が直接行なっている全国的な地価調査で、都市計画区域内の標準地について、いわゆる「正常な価格」を判定し、公示するものである。(地価公示法2条1項)

これまでこの論文で頻繁に活用してきた、日本不動産研究所の主要都市223を中心とする市街地の価格調査よりも、公示価格は、調査の範囲も広くより公的な色彩の強いものと言える。したがって、調査結果も大筋としては同様の傾向を示しているものの、若干の相違点もある。最も顕著な点は、公示価格では既に平成19年と20年には、過去15年間続いた全国平均地価の下落は上昇に転じてしまった。しかし、米国の金融危機で起こった世界不況のため、日本の地価は再び下落に転じた。今回発表された平成22年1月1日の調査では、その下落幅が更に拡大し始め、地価と物価によるデフレの悪循環が進んだのではないかと懸念されている。以下、平成元年以降の地価公示価格の推移を次に掲げた。

表 地価公示価格の推移(毎年1月1日現在、対前年比%)
時期三大都市圏地方平均全国平均
平成元年12.24.88.3
2年22.111.716.6
3年8.513.811.3
4年−11.61.9−4.6
5年−14.7−2.3−8.4
6年−8.8−2.0−5.6
7年−4.8−1.2−3.0
8年−6.4−1.8−4.0
9年−4.3−1.6−2.9
10年−3.2−1.7−2.4
11年-6.4-3.0−4.6
12年−6.6−3.4−4.9
13年−6.1−3.8−4.9
14年−6.9−5.0−5.9
15年−6.8−6.0−6.4
16年−5.9−6.5−6.2
17年−3.9−6.0−5.0
18年−0.9−4.6−2.8
19年3.8−2.80.4
20年5.3-1.81.7
21年−3.8−3.2−3.5
22年−5.0−4.2−4.6


上の表によれば、平成19年にやっとバブルの崩壊による地価下落がやみ、15年ぶりに地価上昇に転じたが、今の世界は、行過ぎた米国の資本主義による世界不況と、その中でブリックスを中心とする途上国大国の追い上げ競争が熾烈となっているため、先進国といえども、日本のように歪んだ経済構造や土地制度をもっている国は、1日も早くその構造的な歪みを是正しないと、グローバル経済の激しい国際競争の嵐の中でもまれて、脱落していく可能性がある。

このような時代には、土地制度や経済構造を、国際競争という視野で評価し,判断しなければならない。こうした視点から地価と物価とのデフレの悪循環を断ち切るためには、日本独特の旧来の制度や陋習を点検し、一新する事が求められている。しかし現実は、どうしても実行しなければならない土地改革は、まだ何の論議も始まっていないし、その必要性に気が付いてさえいない。

2 土地所有権制度は日本経済と財政を破壊している。

 日本人がこの狭い国土で一生懸命働いても、自由な市場経済のルールと放任された土地投機の下では、労働に対するパイの配分は、土地資本主義の勝者によって吸収されていくのみならず、国民の間に格差が拡大し、国と地方の財政が弱体化し、政府の役割が大きく低下していくことになる。したがって、競争の敗者に対する社会保障さえ、充分に給付できない国に落ちぶれつつある。
土地投機が拡大していけば、投機の巧みな欧米の資本によって、日本の全土は最終的には外国の巨大資本、巨大投機家によって支配されてしまう恐れが出てくる。現行の土地制度は、大して広くも無い日本の土地を、排他的な性格の強い土地所有権で、争いながら奪い合い、ますます国民の利用を妨げ、国土の有効な利用を狭めていくであろう。

 日本の国内は、土地投機によって荒廃してしまい、一般の若者は、国内で希望にあふれた豊かな生活が出来ず、犯罪の多い、治安の悪い国となるだろう。そして、人口減少が今より一層進み、優れた若者と国際競争力のある優良な日本企業の資金は、国内の高騰した地価と低い資本利潤率(利子率)を逃れて、海外へ流出し、海外に定着することになるだろう。

 日本の資本主義経済は、不健全な投機資本の性格がますます強くなり、国内のみならず、国際的にも投機的な役割を果たし、国際批判を浴びることになる恐れがある。日本国憲法は、『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して(中略)、国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。」とその前文で謳っているが、このまま現行の土地制度の存続を許せば、土地のみならず、其の他の商取引においても、投機的、賭博的な行為が蔓延し、日本はモラルの無い,貧富の差の激しい収奪された国に成り下がってしまうであろう。土地制度の現状をこのまま維持し放置すれば土地亡国となってしまう。

3 バブルとその反動であるデフレ不況を克服する土地改革

デフレと言うのは、インフレと異なり、経済学者も始末に終えない難しいものであるとされているが、これは供給力が有効需要の力を圧倒的に凌駕している状態であって、人々が将来に対して明るい希望を持つ事が出来ず、経済に対する見通しが悲観的になっている状態である。

デフレ症状が、1-2年の短期間ではなく、18年とか20年近くも長期的に長引いてきたと言うことは、その国の基本的な経済構造の中に、隠れた重大な欠陥があり、それを人々が察知する事が出来ないということからきていると考えざるを得ない。道路の交通標識やテレビ放送や経済指標のように、客観的に明確なシグナルが発表された場合には、人間が感知し、それに応じた行動をとることは比較的容易である。しかし、原因はわからないが、なんとなく不景気がいつまでたっても長引き、世の中に活気が出てこないということは、日本の経済と社会の基本的な奥深い仕組みの中に、人間の感覚や頭脳では認識の出来ない隠れた欠陥があって、それが原因となっているという可能性が高い。

世界経済土地研究所は、永年マクロ経済と土地制度との関連について、国際的な比較研究をしてきたが、日本のこの20年間の長期デフレの根本原因は,土地投機の反動による地価下落のデフレ圧力であり、それを支えてきた制度的な支柱が明治維新に確立された土地所有権制度では無いかと考えている。

この研究所は、統計的に出来るだけ客観的な資料でその理由を裏付ける努力を続けてきた。その結果、土地所有権制度がバブルやその後の長期不況の根本原因であることがほぼ論証されたと考えている。土地制度を根本的に改革し、土地投機を根絶しない限り、何党が政権をとっても誰が首相になっても、我が国の経済と財政の基本的な矛盾を解決することは出来ないと思う。時代に適合しなくなってしまった日本の土地制度を、根本的に改革しない限り、1億2千万人の国民は、将来に希望の持てる健全で安定した経済成長と豊かな国と地方の財政力の充実を期待することはできない。

4 改革により土地の有効利用が向上

  土地を私有財産から公共財に転換することが出来れば、日本の土地の有効利用は飛躍的に向上する。現在まだ、国民の地方の生活には、充分な社会資本が行きわたっていない。道路がその典型的な例である。
社会資本の充実には、必ず適切な用地と財源を必要とするが、土地所有権制度の下では、この二つとも非常に不足してしまっており、将来何のメドもたっていない。しかしながら、もし日本政府が土地改革に成功するならば、政府は日本の国土内における主要な地権者となるので,国土利用上次のような利点が生ずる。

ア 国が主たる地権者となるため、地方公共団体と協議し、国土の広域的かつ計画的な利用が可能となる。全国的に見て、合理的な計画(地方団体においては地域中心の都市計画)の策定が可能となる。

イ すでに行過ぎてしまった一点集中(東京)あるいは、三大都市圏集中の弊害を除去する事が出来る。地方への分散と地方への産業投資が積極的に推進できる。

ウ 公共事業の立案や企画が合理的となり、用地費や補償費等が低廉になるのみならず、地権者のわがまま、ゴネ得などの弊害を除くことが出来るようになり、公共事業が本当に地域的な公益に資することとなる。公共事業のコストを大幅に削減する事が出来、国や地方の財政にも大きく寄与する事となる。

5 土地改革なしに経済の安定成長と財政の再建は不可能

成長戦略の前に、世界中で最も異端な土地所有権制度を、まず標準的な土地制度へ戻す事が必要である。経済が安定成長路線に復帰するためには、勿論新分野での新技術による成長戦略が必要とされるだろう。
しかし、バブル以降の日本経済のマクロ・バランスは、大きく歪んでしまった。土地投機が良くなかったことは、大半の日本人は納得しているのではないだろうか。しかし、人々は『不況で大変だ』と繰りかえすだけで、土地投機のために日本がこんなひどい打撃を受けてしまったことを本当にわかっている人は非常に少ない。日本に安定成長をもたらすには、成長戦略という新しい政策を模索する前に、日本経済の中に100年以上も染み込んでしまった、土地投機体質をキレイ、サッパリと掃除しなければならない。そうしないと、どんな成長戦略をとろうとも成功しないだろう。土地投機によって、経済構造の基本が大きく歪められてしまっているからだ。

しかし、土地所有権制度の下で、土地投機という慢性病に侵されてしまった経済の体質を一新することは、現状の土地制度を従来どうり維持していたのでは、不可能である。土地投機によって高騰した地価のデフレ圧力という巨大な氷塊(有効需要に対する負の圧力)が,日本列島の上に張り詰めているからである.この巨大な氷塊が日本経済を冷やし続けている間は、何をやっても成功はおぼつかない。土地投機による地価の高騰とその後の地価の長期低落がどれだけ景気と資金の流れを変則的に圧迫し、日本経済の安定成長を阻害してきたかは、われわれの想像以上のものがある。早急に土地投機をなくして、地価を長期的に安定させる新しい土地制度に改革しなければならない。その事がどんな成長政策よりも急務であり、優先順位はNO1である。

6 起死回生策は、土地の公有化と土地利用権の創設

土地改革は一大事業である。しかし日本経済を起死回生させるには、この方法しか無いのではなかろうか。
日本の土地の時価総額は、国民経済計算ベースで1,228兆円(平成18年)となっている。この額は、バブルのピーク時(平成2年)においては、2,365兆円にまで、膨れ上がっていたのである。つまりバブル崩壊以降平成18年まで、1,137兆円という地価下落によるデフレ圧力が、16年間にわたり日本経済を氷のように冷やし続けてきた。そして、今でもそのデフレ圧力はまだのしかかっている。このデフレ圧力は年間平均では約71兆円となる。

この土地の処分権と収益権のみを、土地の所有者から国家が買い上げるのは、大して難しいことではない。600兆円もあれば出来るのではないだろうか?日本経済の存亡の時期に、永久土地国債(コンソル)を使って国民や企業等から一律に買い上げることは至難だという人もいるが、もし国民の理解を得ること出来れば、不可能なことではない。

明治維新の時期に、土地の私権を全く持たなかった日本国民に明治政府が無償で認めた土地所有権から、使用権を除き処分権と収益権を約600兆円で買い戻す事が、日本の経済と財政の再生のためには、どうしても必要な政策なのである。国(条件付で地方公共団体)が、全国土の地主になるということは不可能なことではない。明治維新までは、日本国の全領土が全て公地であったことは周知の事実である。新たに土地革命が起こるわけではない。土地の本来あるべき制度的な姿に戻るだけのことである。これによって日本経済全体が21世紀という新しい歴史的段階で、土地投機という慢性病から開放され、新しい健康体に生まれ変わる事が出来るのである。

(注)永久国債(土地国債)の性格

土地を公有化するための対価としては、永久国債を活用する事が必要である。その基本的性格は、元本償還の期間は無期限とし、永久国債の所有者に対して利子(例えば、固定金利、年1%)は支払うが、国の財政に余裕のあるとき随時に償還する国債を称している。永久公債である土地国債は、建設国債や、赤字国債とは全く性格の異なる国債であり、別途会計整理されるべきものである。民有地の処分権と収益権とを買い上げる支払手段として活用される。これは、日本経済全体の『構造改革国債」であり、日本の輝かしい将来を切り開くための領土投資国債である。国家から買い上げられずに民間の手に残る土地の使用権(土地所有権の一部)は、ほぼ従来どうりの権利を認め、これを『土地利用権」と呼ぶことが出来よう。

とにかく、国民には利用権を保証する代わりに、明治の地租改正の特別の経緯に照らし、処分権と収益権とは、国及び地方公共団体が保有、管理することによって、国が中心となり公共財としての土地の新しい役割と新しい日本経済を築き上げていくための礎石とする事が出来る。そのための大胆な発想の転換が、今国民や政治家に求められている。国民の新しい土地利用は、新しい土地利用権に基づいて行はれる。

(注)土地利用権の性格

土地利用権は、土地を利用する権利であるが、その権利を利用権者の間で、勝手に売買したり取り引きすることは禁じられ、利用権の取り引きは、処分権と収益権の取得者である国(場合によっては地方公共団体)を介して行なわなければならない。その趣旨は、土地の利用権の売買で、民間人同志が勝手に土地利用権に関する利潤を追求するることを不可能とするためである。利用権者が確定すれば、国の持つ公共財である土地を利用する権利が発生するが、土地利用権の価格と利用料の額は国及び地方公共団体によって公認され、公示される必要がある。

7 デフレ圧力の有効需要と財政に対する影響の試算

平成2年に日本の地価総額は、国民経済計算ベースで2,365兆円にまで高騰したが、以後下落に転じ、平成18年には1,228兆円にまで一貫して下げ続けてきた。現在まだ下げ続けている。平成18年までの16年間で1,137兆円の地価下落額が発生した。
この土地の所有者は、これだけの財産価値を16年間に失ったが、これは年間平均71兆円に相当する。この71兆円は,土地資産の 評価額の減少なので,持っている財産の価値が下がったので、当然、経済に対し影響を与える。これを、今までデフレ圧力と表現してきた。

自分の持っている資産の価値が、安定的でなく、今回の地価のように長期的に大きく減額した場合には、有効需要(現金の裏づけのある需要)がある程度の打撃(減額)を受けるだろう。然し、その程度はわからない。半分とすれば36兆円、1/4とすれば18兆円、1/8とすれば8.9兆円、1/16とすれば4.4兆円となる。
仮に、年間平均の地価下落額71兆円の1/10の7兆円の有効需要の減少が生じたとしよう。そうすると、前年までの有効需要水準を維持するだけ(ゼロ成長)で、7兆円の財政支出がなければならない。しかし、政府の財源は非常に窮屈なので、この7兆円の財政支出のためには、同額の国債を発行して財源を調達しなければならない。

この財源を使って有効需要を補えば、その乗数効果が発生する事になる。この乗数の値は、ケインズが言ったようにかなり高い値 (たとえば5)を仮定したとしても35兆円の有効需要の増大、ミルトン・フリードマンのように低い値(たとえば2)を仮定したとすれば、14兆円の有効需要の増大を生み出すことが出来る。
しかし、デフレ経済の下では、聡有効需要額を表すGDPに対する租税(国税)の割合は、価格下落のため相当に下がっているので、平成21-22年度の予算編成では、約10%に下がってしまっている。したがって、7兆円の国債発行による有効需要の増加に見合う税収入の 増加は、3.5兆円ないし1.4兆円に過ぎないと予想される。そうすると、国債発行7兆円から税の増収で穴埋めできるのは、1.4-3.5兆円に過ぎない。つまり、5.6兆円ないし3.5兆円もの国の借金が純増していくことになる。この試算は、7兆円のデフレ圧力(有効需要の減額)を解消するための補填措置であるから、その目的は単にゼロ成長を維持しているだけである。

ゼロ成長の経済を維持するだけで国債増発を余儀なくされ、その一部が借金として将来の世代に残っていくという事実は厳しすぎるという考え方もできるが、まさに土地所有権制度が土地投機を引き起こし、好況期には土地バブル、不況期にはデフレ圧力となって、日本の経済と財政の将来を破壊しつつあることを意味している。

現在、各政党は、口々に新成長政策の必要性を唱えているが、こんな財政状況の中で、そのための財源を捻出するのは至難の業である。平成19年以降も、地価下落の傾向は続いている。しかし、日本経済のデフレ状態を救済する役割を期待されている財政の状態は、財源不足でまさに火の車である。財源の捻出は、主としていわゆる「事業仕分け」に頼っている状況である。

10年、20年と長引く地価下落とそれに伴うデフレ圧力は、人々や企業の考え方をすっかり消極的にしてしまい、やる気を失わせ、ジリ貧状態に導いてしまった。日本経済を救うべき役割を担った財政は、土地制度の現状維持を続ける限り、経済の成長率が大幅に低下してきたため、慢性的な赤字状態となっている。財源を新たに必要とする新成長政策を採ることは、不可能となっている。これを脱却して明るい展望を切り開くためには、大胆に土地制度の基本構造を大転換し、日本経済の礎石ともいうべき土地制度の基本構造から改革していくしか方策は無いといってよい。

8 土地改革の速やかな実施を決断すべき時

土地改革は、下記のことに充分留意しつつ、可及的速やかに実施すべきである。

ア 故司馬遼太郎氏など,従来の土地に関する有識者のご意見では、政府の土地調査が非常に遅れており、特に、山林、原野等は、明治維新の時代に課税の対象から外されたため、何も調査をしなかったと伝えられている。来るべき土地改革では、我が国で初めての全国土調査となるので、間違いやゴマカシの無い、着実な調査を実施する必要がある。

イ 人間が重症に陥った場合、体力が充分に無いと大きな手術は出来ない。これと同様に、日本経済の体力が充分に残っているうちに、早急に土地改革に着手すべきである。現在、国際経済の潮流は激しい勢いで変化しつつあるが、これが完全に収まってからでは遅すぎるので、それ以前の早い段階で実行しなければならない。さもないと、土地亡国となってしまう。

ウ 地租改正には明治6年から明治14年までの8年を要した。戦後の農地改革には約5年を要した。今回の土地改革は、日本にとって始めての全種目の土地調査を全国的に実施する必要がある。拙速を避けようとすれば、かなりの歳月を要することになるのではないだろうか。

エ 現在地価はピーク時の半分程度にまで下がり(国民経済計算ベースで見た場合)、また長期金利も10年もの国債で1%台という非常に低い水準に落ちてしまっている。日本経済の戦後の推移の中で、こんなに地価と金利とが同時に下がってきたことは今までなかった。これはまさに異常事態であり、日本経済は重症を負ってしまっている。次年度の予算はどうしたら編成できるか、関係者は頭を痛めている。今の時点が、土地を私有財産から、公共財へと転換する絶好の機会を、神様が与えてくださっていると考えることが出来る。土地の公有化と土地利用権の創設は、日本経済の長期閉塞と長期デフレを突破し、新しい経済を築くための,日本の歴史上、画期的な改革となるであろう。

(備考) 現在、日本政府の累積債務は800兆円以上に達し、国債の利子負担も巨額のものとなっている。しかし、土地公有化の対価600兆円と言うのは、日本経済の土台を根本的に改革してしまう手術費用のようなものであり、永久国債である土地国債の1年間の利子支払額は、年利1%とすれば、6兆円に過ぎず、これは大手術後の日本経済の1年間の療養費のようなものである。積年の病弊を是正するためには高価ではあるが、必要なものである。これによって日本経済が安定成長の軌道に乗る事が出来れば、将来充分に償える費用である
日本経済の年間のGDP総額は、約500兆円であるから、土地改革によって1%だけ成長率が上がれば、5兆円だけGDPが増加することになり、2%の実質成長が可能であれば、土地国債の金利(1%)を国民に支払っても御釣りが帰ってくることになるであろう。

もし成功すれば、その効果は未来永劫広大なものであると予想される。現状であれば、永久国債の金利を非常に低く設定する事が出来、この政策は実行可能な状態となっている。長期的な視野で考えるならば、日本経済は130年続いた土地投機の慢性病を脱却し、大転換期を迎え新しい局面を開く事が出来る。そのような意味で、ここ1−2年は、神様が土地公有化と土地利用権創設のための、絶好のタイミングを今日本国民に与えて下さっているのではないだろうか?その千載一遇のチャンスを、われわれ日本国民は逃してはならない。日本は今まさに、土地制度の大転換によって積年の閉塞状態を脱却できるか、土地亡国になって衰退してしまうか、その重大な岐路に立たされているのである。

9 金融によるデフレ克服と経済・財政の構造改革を混同してはならない。

最近2010年に入ってからの景気観測が新聞に出始めた。2010年第一四半期について、鉱工業生産が0.3%上昇し、残業代が伸びたという反面、消費者物価の下落傾向は2009年度は1.6%と大きく下降してしまい、デフレ脱却の兆しは見えていない。また、5月に入ったら、日銀が成長促進のため、新貸付制度を創設する予定であるとの発表があった。技術革新のための研究開発、環境、エネルギー関連分野のための新制度を導入するという。(4月30日、5月1日日経新聞)

デフレ対策で苦しんでいる政府に対し、日銀として協力の姿勢を示す狙いがあると思はれる。しかし、このことは中央銀行として異例のことであり、政策金融担当の銀行に任せておけばよいことではないだろうか。?国債残高が異常に高い日本の経済と財政の変則状態を改善できるかどうか、極めて疑問である。日本経済の構造改革について、中期的あるいは長期的な展望を欠いたまま、こうした政策金融の分野に中央銀行が入り込むことは充分慎重でなければならない。

こんなことをやっているうちに、政府が主導し、政治の分野で実行すべき日本経済再生のための最も緊急かつ重要な土地公有化と土地改革は、又しても大きく遅れてしまうことを恐れる。金融までもが、財政のドロ沼にまみれてしまう恐れがある。余分なことをやる前に、どうしてもやらねばならぬ緊急かつ最重要の構造改革に、大きな決断力をもって即座に全力で取り組むべきである。

政治家は、自ら考え実践すべき役割を、中央銀行に押し付けて自らの力量不足を、他に転化してはならない。現在は、日本の経済と財政が、その歴史上最も重要で微妙な時期に差し掛かっているのである。この重大な時期に、時の内閣が、もし政策選択の判断とタイミングを誤るようなことがあれば,土地改革の絶好のチャンスを逃すことなり、悔いを永久に残すことになる。

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