2016年1月1日時点の土地の公示価格が、国土交通省により、3月22日に発表された。全国平均(全用途)で、公示地価は前年比0.1%上昇した。2008年以降、初めて地価はプラスに転じたといわれている。アベノミクスの発想に基づいて、日銀による過大な金融緩和マネーが、市街地の土地に流れているが、他方では人口減少の進んでいる地方圏の商業地や住宅地の地価は、下落が続いている。
表1 平成28年1月の公示地価の概要(前年比変動率 %)
(注)2016年1月1日時点、()内は2015年の公示地価の変動率である。項目 住宅地(昨年値) 商業地(昨年値) 全用途(昨年値) 全国平均(昨年値) -0.2%(−0.4%) 0.9%(−0.0%) 0.1%(−0.3%) 三大都市圏(昨年値) 0.5%(0.4%) 2.9%(1.8%) 1.1%(0.7%) 東京圏(昨年値) 0.6%(0.5%) 2.7%(2.0%) 1.1%(0.9%) 名古屋圏(昨年値) 0.8%(0.8%) 2.7%(1.4%) 1.3%(0.9%) 大阪圏(昨年値) 0.1%(0.0) 3.3%(1.5%) 0.8%(0.3%) 地方圏(昨年値) −0.7%(−1.1%) −0.5%(−1.4%) −0.7%(−1.2%) 札幌、仙台、広島、福岡の計(昨年値) 2.3%(1.5%) 5.7%(2.7%) 3.2%(1.8%)
地価上昇の起点となったのは、アベノミクスの過大な金融緩和で、大量の資金が不動産市場に向かった。日銀自身REITに投資しており、累計で約2,900億円の残高を保有するという。全国平均で、地価は、上昇に転じたとはいえ、全都道府県のうち商業地で31県、住宅地では37府県で地価が下落した。人口減少率が高い地方では、いまだに地価の反転は起こっていない。安倍内閣の重要看板になってしまった地方創生(地方水準の向上)は、いったいどの方向に向かって走り出しているのだろうか?地方創生とは反対の、人口増加の起きている都会や、都市に向かって資金は流れているようである。
1 金融緩和マネーの過大な影響力
日銀が、2016年1月29日にマイナス金利導入を決定した後、市場では金利が大幅に低下した。REIT(不動産投資信託)は、銀行借り入れや社債で、低利に資金を調達でき、土地投機に参加し、協力することが容易になった。
REITの関係者の見方では、ビルの年間賃料収入を取引価格で割った利回りは、約3%前後と考えているが、REITは、一般的に5%程度以上の物件を購入しているという。同時に、REITは、東京のみならず、最近京都の河原町道りや大阪の心斎橋筋商店街にも手を広げているという。地価の変動に乗じて、地価の収益を稼ぐという手法は、これまで、土地投機と批判されてきたが、デフレ不況の中の甘酸っぱい投機利潤の香りがまだ忘れられないようだ。
金融庁は、日銀のマイナス金利政策の下で、地方銀行等が不動産やREITへの傾斜を深めないか、真剣に注意している。金融緩和マネーの動きが、バブル経済時の模倣をし始めたのかどうか、世界経済土地研究所は真剣に検討し始めている。再び土地バブルを起こせば、日本経済の再生と財政再建は、不可能ととなる確率が高くなる。
2 国土交通省の動き
国土利用の官庁である国土交通省は、2020年までに、不動産投資の市場規模を、30兆円程度に倍増させる中期目標を作成すると報道されている。日本の不動産投資市場は、上場REITなどを柱に、構成されており、2015年末の時点では、総資産額が約16兆円である。これを倍増させて、インフラ整備を活発化させるという。
REITによる物件取得の多くには、不動産取得税の軽減措置があるが、ヘルスケア関連施設は、対象外となっている。この分野向けの税制の優遇措置を目指していると報道されている。
中央銀行が、不動産投機に過大な緩和マネーを注ぎ、官庁が税収不足の財政から減税措置を無理やりむしり取るようでは、日本という国家は、いつまでたっても健全な経済成長と財政規律を保つことはできない。日銀の政策、財務省の財政政策、国土交通省の国土政策はバラバラであり、安倍内閣による統一したキチンとした厳しい調整が行われていない。土地投機を厳禁し、税制の緩和を厳しく禁止しなければ、日本の経済と財政を同時に再建していくのは不可能である。政策調整による厳しい秩序が、必要なことは当然である。
3 今必要な構造改革-成長と財政健全化のための戦略
(1) 明治維新に立案された土地所有権制度は土地利用権制度に転換する。
140年にわたる土地所有権制度の役割は終了し、今や陳腐化している。これが日本に構造上の格差と閉塞感をもたらしている。世界の土地政策は、利用権中心の方向に向かいつつあるのが現代の流れである。純粋な私有財産、商品とされている土地の性格を、土地基本法の精神にのっとり、土地を公共財に転換しなければならない。
フランスの1945年以降の30年間に行われた各種の土地改革を参考にして、日本国内のすべての土地を私有財産ではなく、公共財となるよう大きく転換しなければならない。そのための方策、手段等を定め、土地所有権制度に替えて土地利用権制度を創設する。このまま、土地所有権制度を続けていけば、日本経済のガンともいうべき土地投機を根絶し、成長経済に転換することはできない。(備考)「土地投機」とは計画的に行われる行為のみならず、意図せざる土地による利得行為も含まれる。
(2) 土地の先買い権の創設
土地を公共財とすることによって、民間が土地を処分する際には、国及び地方公共団体に、すべての土地の優先先買い権を与える。これによって、公共事業、災害復興事業等に関する用地費のコストと手続きを大きく縮減することができる。
(3) 土地を公共財として確立するまでの間の公的介入
土地バブルの再発を防止し、土地投機を根絶するために、当分の間、土地市場に対する国の公的な監視と介入を認める。